◇BOUNTY HUNTER  序章編
   青の章  3つの顔を持つ男

武蔵さま作



ここは、人間と亜人が共存する世界。ある年をきっかけに、犯罪者が急増した。原因はわからない。政府は対犯罪者用に特殊訓練を受け、なお武術に秀でた才能をもつ者達を集めて結成された『聖騎士団』を創り上げた。それと同時にその年を『聖暦』と名称を変えた。聖騎士団の働きは実に見事であり、確実に犯罪者を捕まえていった。
その黒い服装、黒い鎧から人々は『黒騎士』と彼らを呼んだ。

しかし犯罪者の増加と犯罪件数は一向に減ることなく、常に増え続けていた。手に負えなくなった政府は、犯罪者に賞金を懸けることにし、腕に自身のある者、つまり一般の人間に対処させることにした。そのもの達をバウンティーハンター(賞金首狩り、賞金稼ぎ)という。


―――聖暦18年―――

「親父!何とか言いやがれ!」
「・・・あの女のことはもう忘れろ、乱馬。母さんはもう帰ってはこない。」
「そんなんで・・・納得できるかよ!」
「乱馬!」


「・・・・!!」
青年はハッと目を覚ました。額にはたくさんの汗を掻いていた。
「また・・・あの夢か・・・」

青年の名前は乱馬。アルサレアというこの町に住んでいるという点では他の人間となんら変わりはなかったが、彼には大きな秘密があった。

「乱馬〜。朝御飯だよ、早く降りといで。」
下の階から女性の声がする。乱馬は布団を直すと、着替えながら返答した。
「わかった、今行く。」
乱馬はふと机の上に目をやった。
「こいつのせいかもな・・・」
机の上にはペンダントが置いてあった。金属の輪の中に、青く透き通った直径3cmほどの石が埋め込まれたものだ。本来は彼の父の物であったペンダントだった。昨夜遅くまでこの石を見ながら考え事をしていたのであんな夢を見たのかもしれない。乱馬はそう思った。

簡単に身支度を終えると、乱馬は一階に降りた。周りを見渡すが誰もいない。乱馬は思いついたように地下への階段を降りていった。
「今日はこっちか。」
階段を降りながら乱馬は目の前で朝食の準備をしている女性に声をかけた。
「まずは『おはよう』だろ?」
女性は振り向いて乱馬の姿を見ると笑いかけて言った。
「ああ、おはよう。」
「おはよう。昨日は客が多かったからね。一階の食堂まで人で埋まってるからさ、今日はこっちで支度してもらうよ。」

彼女の名前はおケイ。馴染みの人からは『女将』と呼ばれている。1、2階は宿屋、地下はBARという複合の店『ジュ・センドー』を一人で経営している働き者の女性である。乱馬との血の繋がりはないが、とある事情から乱馬は女将に世話になっている。

「そういや、新しい賞金首リストが届いたよ。」
おケイはそう言うと、分厚い冊子を乱馬に渡した。
「何か情報は?」
「今のところ何にも。もう開店時刻だから情報屋が来るだろうよ。乱馬も早く朝食済ませて手伝っとくれよ。」
おケイはグラスを並べると、そのまま磨きながら乱馬に言った。
「わかったよ。」
乱馬は苦笑すると、そのまま朝食を食べ始めた。
カランカラン
「客だな。」
乱馬が食べるのを中断して呟いた。
「おはようございやす、女将!」
甲高い声が聞こえたと思うと、蛇みたいな顔をした猫背の男が地下に降りてきた。その緑色の体は明らかに人間ではないことを示していた。
「あいよ、今日はどんな情報が入ったんだい?」
おケイが尋ねると、情報屋は両手を交差させて呟いた。
「今回はダメですわ。Dランクのやつらだけしか情報がなかったもんでね。」
「そうかい。」
ガッカリするおケイ。乱馬は興味なさそうに朝食をまた食べ始めた。
「だけど安心してくだせぇ。確かにDランクしか情報はねぇが、なんと、このリストに載ってるDランクの奴等の2割が集まってる場所を見つけたって情報を仕入れたんでさぁ。」
情報屋は気味の悪い笑みを浮かべながら賞金首リストを叩いた。
「へぇ、そいつはいいね。いくらだい?」
おケイは懐から小袋を取り出すと、値段を尋ねた。
「うぇへへへ。10万でどうです?」
ニタニタ笑いながら情報屋は値段を言う。すると食事を終えた乱馬が口を出した。
「おいおい、Dランクの情報にしては高すぎねーか?」
「乱馬の旦那、よく考えてみなせぇ。Dランクの2割ってーとざっと200人はいるんですぜ?1人あたり3000ガルドと考えても十分元は取れますぜ。」
情報屋は口では偉そうな事を言ってはいるものの、冷や汗を掻いていた。
「だが、俺一人で捕まえられる人数はたかが知れてる。かと言って騎士団に通報すれば当然賞金はない。更に同業者に頼んでも、分け前は減る。そう考えると10万は高いと思うけどな。」
「そうだね〜。それに、そんな情報がまだ生きてるってことはさすがに数が多すぎて手が付けられないってことだね。」
乱馬とおケイの鋭い指摘に、情報屋は両手を挙げて諦めたように言った。
「わかったよ、女将や乱馬の旦那には敵わねぇな。じゃあ大負けに負けて2万でどうだい?」
「よし、買った!」
おケイが素早く2万ガルドを情報屋に手渡す。そして乱馬の方を見て言った。
「今日はどっちの方で行くんだい?」
「このままの姿でいい。」
「銃は持ってくかい?」
「いや、今日は剣だけで十分だ。」
短い会話を終えると、乱馬は剣を背負い、階段を上っていった。
「そういや、そいつらの人種は?」
人間以外の亜人にも様々な人種がある。その人種によって特性がわかるのだ。
「グリード人という情報が入ってますぜ。これがそいつらのアジトでさぁ。」
情報屋から地図を受け取ると、乱馬は町を出た。



―――スラム街―――

「ここに間違いねぇな。しっかし、薄気味悪い所だぜ。」
寂れた町外れ。まだ朝だというのにその場はどこか暗く感じられた。
「人はいないな・・・ガセネタか?」
建物の中を幾度か巡回してみたが、人の気配はなかった。
カタン
物音がして乱馬はすぐに物陰に隠れた。
「こら、そっちにいったら危ないわよ。」
大人の女性の声がして、亜人の子供の姿が乱馬の目に映った。
(子供?・・・変だな、さっきはいなかったのに・・・)
乱馬は身を潜めながら考えた。そして気配を消しながら子供の後を尾行した。
ギイッ
子供を連れてきた女性が、壁と思われる場所に手を置いた。するとその壁が窪み、中へと繋がる道ができた。
(なるほど、隠し通路ってわけか。)
乱馬は暫くすると、女性が行ったことと同じ事をやった。


カツーン、カツーン
ブーツの音が通路に響く。薄暗く、狭い通路を歩いていると、扉が現れた。
「ここだな。」
ゆっくりと扉を開く。と同時に扉の向こうからたくさんの小さな光が乱馬に向けられた。正確には光ではなく、亜人たちの目であった。
「人間だ。」「人間が何故ここに?」
ざわめく亜人達の中、一人の男が乱馬に尋ねた。
「あんた、どうしてここへ?一体何者だ?」
乱馬はその男に見覚えがあった。リストに載っていた男だ。
「な〜に、ただの賞金稼ぎさ。」
余裕の笑みで答える乱馬。しかしすぐさま周りの空気は一変し、武器を持った男達が一斉に襲い掛かってきた。


「えーっと・・・罪状は窃盗か。確かにDランクなだけあって大したことやっちゃいねーな。」
乱馬は攻撃を避けながらリストを見る。相手の攻撃の軌道など見なくても楽々躱している。
「なるほどな、窃盗団ってわけか。だけどこれじゃ埒が明かねぇな。」
乱馬はリストを懐に仕舞うと、目の前にいた数人を一瞬で気絶させた。
パコン、パコン
剣の鞘で次々と気絶させていきながら、乱馬はグリード人のリーダーと思われる男の目の前にやってきた。
「一番厳重に守られてるとこ見るとあんたがリーダーだな。」
目の前には年老いた老人が椅子に座っていた。彼は諦めたように立ち上がり、乱馬に言った。
「いかにも、お若いの。じゃが頼みといってはなんじゃが、ここはわしだけが捕まるという訳にはいかんかのう?」
周りの男も戦意を失くしたのか、次々と武器を置いていった。
「何か訳ありのようだな。」
乱馬は老人からここまでに至った理由を聞いた。ここ一帯を仕切っている金持ちの人間によってグリード人が町に住めなくなったこと。家族を守るために止むを得ず盗みを働いたこと。一通り話を聞くと、乱馬は周りを見渡した。賞金が懸かっているのは200人ぐらいだが、その他のグリード人を入れると1000人以上その場にいる。切なさを訴えるように乱馬を見ている女性やら、何もわからずに黙っている子供達。
「やれやれ。」
乱馬は一息つくと、扉の方へ向かって歩いていった。
「俺は何にも見てねぇよ。ここには賞金首はいなかった。それでいいか?」
扉の奥へ乱馬が歩き出すと、背後からすすり泣くような声、そして感謝の声が聞こえてきた。



―――ジュ・センドー―――

「お帰り〜、どうだった?」
地下の酒場でおケイが乱馬を出迎えた。酒場には既にたくさんの客が来ていて、それなりに賑わっていた。
「ダメダメ、ガセネタだった。誰もいなかったよ。」
両手を挙げて何も持っていないというゼスチャーをすると、乱馬は近くの椅子に腰を下ろした。
「ふ〜ん。」
おケイはマジマジと乱馬を見ると、納得したように相槌を打った。
「ナルホド。アジトを見つけてみたものの、何か訳ありだったので見逃してきたと。」
ギクッとして乱馬は顔を顰めた。そして自分の胸元に手をやると、呆れたように溜め息を吐いた。
「うっかりしてたぜ。でも何でそこまでわかるんだよ。」
「ふふ、私の13の特技の一つさ。」

誇らしげに笑うおケイ。おケイの13の特技の一つ『鎖骨読み』。相手の鎖骨を見ただけでその人の性格はおろか、大体の心情までわかってしまうのだ。故におケイの能力を知る人は『閻魔の使い』として恐れ、やましい事があるときには決して鎖骨を見せてはならないという掟があるのだ。

「ところであの情報屋、まだいるか?」
「ああ、いるけどどうしたんだい?」
「いや、ちょっとな・・・」
乱馬はおケイの指す方向にいた情報屋の隣に座ると、真剣な顔で話しかけた。
「情報を買いたいんだが。」
「おお、乱馬の旦那。どうでしたか、エモノの方は?」
「別に。それより、今度はちょっと聞きたい事がある。あのスラム一帯を仕切ってる奴等、誰だかわかるか?」
乱馬の言葉にピタリとあのニタニタ笑いを止める情報屋。それだけで何か裏があると判断した乱馬は、目の前に札束を置いて尋ねた。
「30万ガルドここにある。これで情報を売ってくれ。」
情報屋は目を丸くしたが、すぐにいつもの仕事の顔になって乱馬に耳打ちした。
「万が一何かあっても、あっしは一切関係ありませんぜ。」
「ああ、わかってる。」
内心怯えたようにも見える情報屋。乱馬は条件を呑んだ上で尋ねた。
「あそこを仕切ってるのはマフィア、王坦麺(ワン・タンメン)という男でしてね。亜人を毛嫌いしてるんでさぁ。賞金首じゃあないが、裏では麻薬の密輸やら奴隷商をやってるらしいですぜ。なんでも警察も手を出せない状況らしくて・・・」
「わかった、もう十分だ。おケイさん、ちょっともう一仕事してくるぜ。」
「わかってるよ。ほらっ!」
おケイは乱馬の方に銃を投げた。
「使うんだろ?調整はしておいたから。」
「サンキュー!」
乱馬は再びスラム街へと足を運んでいった。


―――スラム街―――

「ここだな。」
先程の場所から更に離れたところに、厳重な警備の建物が目に入った。乱馬は口元を覆ったマスクを付け、相手から顔が見えないようにして建物の中に忍び込んだ。
「警備は厳重だな。さ〜て、どこから攻めようか。」
乱馬は周囲の状況を素早く分析すると、屋根に狙いをつけた。
ガシャッ
銃の先端を取り外すと、すぐにワイヤーを銃に取り付けた。『アタッチメントガン』と呼ばれる武器であり、乱馬の作った改造銃でもある。世界に一つだけのカスタマイズ銃だが、先端を取り替えることにより、様々な機能を持つ。
「奇襲といきますか。」
狙いを窓に定め、乱馬はトリガーを引いた。
バシュッ
ワイヤーの先端が窓枠に引っかかった。軽く引っ張って見るが、うまく食い込んだようで外れそうになかった。
「よし。」
すかさず銃の側面に付いているボタンを押すと、ワイヤーが巻き取られ、乱馬の体が建物の方に吸い寄せられていった。
ガシャーン!
勢いよく窓を蹴破ると、乱馬は建物内に飛び込んだ。
「何だ!?何が起こった!?」
突然の出来事にパニックを起こす建物内。乱馬は瞬時に周りの敵数を把握した。
(1階に6人、壁の後ろに3人、窓に4人、3階に8人か。)
ゆっくりしていれば敵数は更に増す。乱馬は親玉を捜すことにし、ザコは放っておいて3階に駆け上がった。
「3階へ行ったぞ!なんとしても食い止めろ!」
下の階から黒服の男達が叫びながら銃を撃ってくる。しかし乱馬は韋駄天の如くスピードですぐさま上の階に到達した。
(バカだな。こんなに厳重にしてりゃここにボスがいるって教えてるようなもんじゃねぇか。)

既に3階にいる警備の者は剣の鞘で気絶させた。しかし目の前には強固な扉があり、一筋縄ではいかなかった。
「さ〜て、今度はバーストショット(炸裂弾)でもいくか。」
ワイヤー部を取り外すと、今度は歪な形のアタッチメントを取り出した。
「発射!」
弾が発射され、扉に着弾するや否や、物凄い爆音と共に扉は跡形もなく砕け散った。
「へへっ、一丁上がりっと。」
煙が漂う中、乱馬は部屋の中へと足を踏み入れていった。
「げほっ、げほっ、だ、誰かおらんのか〜!」
部屋の奥では肥えた一人の男が地面に這い蹲りながら助けを求めていた。
「王坦麺だな?」
「き、貴様何者だ!?私にこんな真似してただで済むと思ったら大間違いだ。貴様の行為はA級犯罪だぞ。」
「だからどうした?」
乱馬は冷たい目線で王を見下すと、銃を突きつけて言った。
眼前に銃を突きつけられ、王は焦った。
「貴様、賞金首か!?金ならいくらでもやる。だから命だけは・・・」
乱馬はその言葉を聞くと、銃を下ろして言った。
「じゃあ、おめーの全財産出してもらおうか。」
「へっ?」
「ざっと見積もっても総資産10億はあるだろ。建物を除いて金に出来るだけ全ての財産を頂く。」
冷静を取り戻してきた王は慌てて懇願した。
「ま、待ってくれ!それはあまりにも酷すぎる。せめて3割・・・いやいや、2割にしてくれ!」
すると乱馬は再び銃口を王に向けて言った。
「おいおい、汚ぇことして稼いだ金だろ?どうせろくでもねー考えだから俺がまとめて処分してやるってんだ。文句あんのか?」
口元を覆ったマスクで表情は読めないが目は笑っていた。
「安心しろよ。命までは取らねぇからよ。」
乱馬は王を逃げられないようにロープで縛ると、そのまま部屋の奥へ行った。
セキュリティーはしっかりしてあるので今度は武装した扉が据え付けられていた。
「やれやれ、結構なこった。」
「ふははは!その扉は突破できまい。先程全てをロックした。開けることは不可能だ!・・・聞いておるのか!?」
王は叫んでいるが、乱馬は耳を貸さず、懐から小さな透き通った玉を取り出した。そしてその玉を右手の上に乗せ、意識を集中させた。
一見ただの玉だが、玉の周りから霧のような靄がかかり、やがてその靄は刀の柄を形成していった。そして少しすると、その柄に細身の刀身が現れた。しかしまだ変化は続き、その刀身に吸い付くようにどんどん具現化されていった。
「なっ!?」
たちまち普通の玉から身の丈ほどもある大剣に変わったのを見て王は驚きのあまり言葉がでなかった。背中に背負った剣の何倍もある巨大な剣に圧倒されたのもある。
「俺の『斬竜刀』にかかればこんな扉なんか・・・」
ドカーン!
言い終えるや否や、振り下ろした刀の一振りで扉は粉々に粉砕された。
「あったあった。大事そうに金庫なんかに入れやがって。」
金庫を破壊して中を覗くと、大量の宝石類が入っていた。
「おのれー!こうなったら貴様をAランクリストに載せるよう警察に届け出てやる!」
殺されないとわかった王は脅しをかけた。しかし乱馬は平然としていた。
「へぇ。悪いが間に合ってる。あいにく俺はSランク犯罪者なんでね。」
Sランクという言葉にさすがの王も黙ってしまった。Sランクは賞金首の中でも最高クラスであり、今のところ一人しかいない。
「そう言えばその巨大な剣。ま、ましゃか!貴様、いや、おまえはBloody Dragon!?」
「大当たり。正解者には心地よい眠りをプレゼント。」
乱馬は腕を振り上げ、手刀を王の首筋に打ち込み、気を失わせるとそのまま窓から去っていった。


ギイッ
乱馬は宿へ帰るのではなく、またしてもグリード人の隠れ家に入っていった。
「おまえさん、やはりわし等を捕まえにきたのか?」
リーダーが口を開いた。しかし乱馬は担いでいた金庫をドンとその場において言った。
「これで暫くは金に困んねぇだろ?さっさと町に戻ってまともな生活しろよ。」
乱馬は王坦麺を倒したことを告げ、その場を去ろうとした。
「じゃが、この中にはDランクとはいえ罪を犯した者もおる。今更まともな生活など・・・」
「俺に考えがある。任せときな。」
そういうと、乱馬はその場から去ろうとしていた。
「ま、待ってくれ。あなた様はひょっとしたらB・Dでは・・・」

Sランク賞金首と知られるB・D(Bloody Dragon)。姿を見たものは誰一人としていないが、ただ一つわかっているのは身の丈ほどの大剣、『斬竜刀』を持つということだけがわかっている。人々が恐怖の象徴としてつけた名前である。最近では義賊としての行動が目立ち、ターゲットはいつも悪い奴等ばかりなので、一部では彼のことを善人と呼ぶものもいる。

「他言無用に頼むぜ。」
笑みを浮かべて乱馬は瞬時に姿を消した。
「ありがとうございます。」
グリード人達は皆手をあわせて乱馬に礼を言った。



―――ジュ・センドー―――

「ただいま〜!」
「おかえり。遅かったね。」
おケイが出迎える。酒場では既に多くの酒飲みが酔っ払っていた。
「よ〜、乱馬。人助けしてきたんだってな。正確には亜人助けか?わはははは。」
酔っ払った男が乱馬に話しかける。どうやらおケイには全てわかっていたようだ。
「それにしてもよ。王坦麺ってやつはどんな顔だったんだ?やっぱり噂通りの悪いやつらしい顔つきだったのか?」
「はは、そいつは違ぇねぇ。ぎゃははは。」
何が面白いのかはわからないが、テンションの上がった酔っ払いを無視して乱馬は引きずってきた巨大な麻袋を開いた。
「ま、正確にはこんな顔かな。」
「!!」「!!」「!!」
その場にいた誰もが言葉を失った。酔いも一気に醒めてしまったらしく唖然として口を開いていた。
「お、おめぇ、そいつはまさか・・・・」
「ん?王坦麺御本人だけど・・・」
麻袋からゴロリとでてきたのは気絶した王坦麺の姿であった。
「ば、バカ野郎!何考えてんだ!?そいつは確かに悪人だが、マフィアの親玉なんだぞ!」
慌てふためく男達。しかしおケイだけは納得して頷いた。
「なるほど。こいつを引き渡して今回の仕事のモトを取るつもりだね。いやぁ、かなりの収入が期待できそうだね。」
「女将さん、何のんきなこと言ってんすか。証拠がなきゃただの重度犯罪っすよ!?」
パニック寸前の酒場で、乱馬は笑って数枚の紙を懐から出した。
「これがその証拠。麻薬リストからいろんな物までバッチシ書いてある。ご丁寧に金庫の中に保管されてたぜ。」
今度は驚愕の事実に再び静まる酒場。しかし瞬間、いつもの調子が戻ったように活気付いた。
「いよ〜し、今日はパーティーだ。女将、じゃんじゃん持ってきてくれ。」
「あいよ。」
「あっ、こいつ目を覚ましそうですぜ。」
騒がしくなったことにより王が目を覚ます気配があった。するとおケイが目の前に立った。
「んじゃ、もう少し眠ってな。」
カーン
おケイのフライパンの一撃で王は再び眠りに付いた。
「じゃあ早速行ってくる。ついでに引き渡し条件としてスラム街のグリード人の賞金首のやつらをリスト対象外にするってことにしたから、ちょっと遅くなるかもしれねぇ。」
麻袋に王を押し込んで階段を上る乱馬。しかしおケイが呼び止めていった。
「そのままじゃダメだろ。ほら、水。」
バケツに入った水を勢いよく乱馬にかけるおケイ。
「ぶわっ!」
水をかぶった乱馬の姿は、たちまち華奢な女の姿に変化していた。
「いけね、すっかり忘れてた。んじゃ行ってくる。」


「ふう、まったく困ったもんだね。あの子ときたら・・・」
乱馬が出て行った後、おケイは独り言のように呟いた。
「いやいや、しかし大したもんだよ。何しろあのマフィア一家をたった一人で全滅させちまうんだからな。さすがは元聖騎士団殲滅部隊の隊長だな。」
「おいおい、乱馬にそれ言ったら酷い目に遭うよ。」
「わかってるって、女将さん。だけどあいつも大変だよな。一人で三役もやってんだからさ。」


早乙女乱馬、18歳。名の知れた賞金稼ぎでありながら、最高クラスの賞金首でもある。元聖騎士団の部隊長でもあり、その格闘センスは類まれなる才能に恵まれている。
とある理由からジュ・センドーの店主、おケイに世話になっている。


今のところ彼の右に出るものはいないが、現在はおケイの雑用係である。



つづく




作者さまより

『ネリマールクエスト』のような感じのパラレルです。『ネリクエ2』を書こうと思ったのですが、先にこっちを書きました。ネリクエ2もストーリーは出来てるんですが、基本的に長続きしそうにないので迷ってます。
一之瀬様に許可を頂き、オリジナルキャラクターとして創作させていただきました。本来は関西弁を話す予定でしたが、私のエセ関西弁だとボロが出るのでやめました。おケイさんの特技、なんか他にも考え中です。


 実は、私、一之瀬は関東在住経験が五年ばかりありますので、関東のイントネーションへもスイッチできる関西人です。関西人は関東へ行っても関西弁が治らないといいますが、あれは嘘です。影響されまくり傾向が強い私は、家の中で旦那と会話する以外は関東のイントネーションで喋っていました。(自分でも気持ち悪かったですが…。)学校や幼稚園から旦那に電話をかけていると、関西弁丸出しになったので、怪訝な顔で先生方に見られたことも(笑
だから、関東言葉なおケイさん、OKです。
 自分がどのように料理されていくのか、楽しみにしながら続きをお待ちしています。
(一之瀬けいこ)


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