◇Back to the … 前編
武蔵さま作


−−−天道家−−−

「はい、乱馬。」
 道場で稽古をしていた乱馬にあかねは一枚の写真を手渡した。
「ん?何だ、写真か。」
 手渡された物を見た乱馬は呟いた。
「そう。この間みんなで撮った写真、現像してきたの。せっかくだからみんなに持っててもらおうと思って・・・」
 あかねはそう言うと近くにいた玄馬にも同じように写真を渡した。その写真は天道家に住む人々の姿が写し出された物であった。
 乱馬は今までなびきに利用されて写真を撮られた事はあったが、純粋な家族での写真という物はなかった。幼い頃はあったかもしれないが修行続きの乱馬には縁遠い物であった。
「そうそう、これも。」
 あかねが戻ってきてもう一枚の写真を乱馬に渡した。その写真は天道家の集合写真ではなく、早乙女家の家族写真であった。父の玄馬、母ののどか、そして中心に乱馬の姿が写し出された写真である。その写真の乱馬の顔は照れくさかったのか、どこか仏頂面をしていた。平静を装っていたが、こうした形で残る思いでは乱馬にとっては嬉しい物であった。
「ありがとよ。」
 珍しく素直に礼を言う乱馬にあかねは少し驚いたが、乱馬の気持ちを察して笑って言った。
「どういたしまして。」
丁度稽古を終えた乱馬は写真をそのままポケットにしまった。


「はい、おばさま!」
 乱馬に渡したのと同じように、あかねは台所で料理を作っていたのどかに写真を渡した。それと同時にふと気になった事を尋ねた。
「おばさまとおじさまってどうやって出会ったんですか?」
 あかねの問いに対して、のどかは写真を見つめながら脳裏に当時の風景を思い浮かべていた。
「あの頃が懐かしいわ。」
 のどかは一言呟くと、懐かしむように目に涙を浮かべた。
「おばさま、どうしたんですか?」
 突然目に涙を浮かべたのどかに、あかねは驚いて訊いた。するとのどかは人指し指で涙を拭い、笑って答えた。
「なんでもないわ。ただ目にゴミが入っただけよ。心配しないで。」
 のどかは何事もなかったように言ったが、あかねは直感的に昔の事を思い出したのだろうと理解した。
「よかったら昔の事聞かせてもらえませんか?」
「そうね、じゃあ折角だから居間にいってゆっくり話しましょう。」
 のどかは鍋に蓋をすると、そのままあかねと一緒に台所を出た。
 しかし、先程のどかが拭った涙が後々事件を起こすことなど、この時は誰も知る由もなかった。


 居間に行くと、その場には天道家の人々が全て揃っており、皆興味津々でのどかの話に聞き入った。
「あれはもう今から20年以上前の事だわ。私が道を散歩していたら行き倒れている人がいてね・・・」
「それが親父だったってわけだ。」
 乱馬が言った事にのどかは頷いた。玄馬が恥ずかしそうに笑うのを見た乱馬は玄馬に訊ねた。
「どうして倒れたんだ?」
 乱馬がそう言うと玄馬は腕組みをして答えた。
「うむ。あれはわしが強敵と闘い、傷付いた体で力尽きてしまったのじゃ。そこを偶然のどかに発見されてな。」
「その後、倒れていたこの人を家まで運んで介抱したのよ。その時思ったわ。私の運命の人はこの人だと・・・」
 目を輝かせながら昔を思い出すのどかを見て天道家の人々は唖然とした。昔の玄馬がどうであれ、今の玄馬を見る限り、その狡猾さと卑怯を持ち合わせた玄馬に誰が行為をよせるのであろうかと疑ったからだ。
「は、はは。それで結婚しちまったのか?」
 引き攣った笑いを浮かべながら乱馬が言った。
「そうよ。結婚するまで色々苦労はあったけど、この人の良さもわかっていたし、後悔はしていないわ。」
 暫くのどかが話していると、ひょっこり八宝斉が出てきて乱馬を呼び寄せた。
「乱馬、わしの南蛮ミラー知らんか?夕べ台所で酒を飲んでおったから台所にあるかもしれん。ちと見てきてはくれんか?」
「ちっ、しょうがねーな。」
 乱馬は話の続きが気になったのだが、ここで断れば八宝斉に何をされるかわからないのでここはのどかの手前、おとなしく言う事を聞く事にしたのだ。
「なんだよ、ここにあるんじゃねーか。」
 床に落ちていた南蛮ミラーを拾い上げようとし、乱馬は独り言を呟いた。すると鏡の中心に水滴が落ちた。
「ん?水か?」
 乱馬は上を見上げたがどこにも水の出所など見当たらなかった。すると突然鏡が光り出した。
「ま、まさか!」
 乱馬が気付いた時には既に遅く、空間が歪みだし、天道家の台所から乱馬の姿は消え去った。


「一体ここはどこなんだーー!?」
 某友人のように乱馬は叫んだ。周りを見回しても見覚えのない風景であった。どこか田舎のような感じで車などほとんど通っていなかった。
「誰かに訊いてみるしかねーな。」
 乱馬は少し離れた所に白い服を着た人を見つけ、その人の所へ駆け寄った。
「すいませーん、ちょっと聞きたい事があるんですが・・・」
 その人の所へ近付くにつれ、乱馬は驚いた。白い服に見えたのは武道着であり、なによりも頭に手拭いをしたその男に乱馬は見覚えがあった。
「お、親父!」
 そこにいたのは紛れもない玄馬の姿であった。しかしその顔はどこか若々しく、頭に巻いた手拭いからは髪の毛が見えた。
「なにヅラなんかしてんだよ。ふざけてねーで早くもとの世界に戻ろうぜ!」
 玄馬の肩をポンポンと叩きながら乱馬は言った。しかし玄馬はその手を振り払うと、怒ったような口調で乱馬に言った。
「失敬だな、君は!大体僕は君の父親という年じゃない!この髪だってカツラなんかじゃないぞ!」
 いつもとは違う玄馬の口調に乱馬は戸惑いを見せた。
「な、何言ってんだよ。頭でも打ったか?」
 混乱する乱馬だが、玄馬は落ち着きを取り戻しながら言った。
「まあ君も疲れているんだろう。それよりも何か食べ物はないかい?ここ二日間何も食べていないんだ。」
 見ているだけで今にも倒れそうな玄馬に、乱馬は首を横に振った。
「そうか、ならば仕方がない・・・・・あっ!何だあれは!?」
 乱馬の後方を指差した玄馬につられ、乱馬は玄馬に背を向けて振り向いた。
「なんもねーじゃ・・・」
 乱馬は最後まで言う事はできなかった。それというのも玄馬が乱馬の後頭部に打撃をくわえていたからだ。
 乱馬が倒れて気を失うのを確認すると、玄馬は乱馬の持ち物を漁り、南蛮ミラーを取り出した。
「ふむ。売れば結構な値が張りそうだ。すまないな。生きていく為にも仕方がない事だ。」
 玄馬はその場をふらついた足で去っていった。



「う、う〜ん。」
 乱馬が目を覚ますと自分が布団で寝ていた事に気が付いた。部屋の中は暗くてよく見えなかったが、すぐに乱馬は人の気配を感じた。
「よかった、気が付いたのね。大分魘(うな)されていたけど大丈夫?」
 聞き覚えのある声に乱馬は安心した。
「おふくろか。何だか変な夢みてたみてーだ。親父が若返って髪が生えてるんだ。口調まで変わっちまってさ・・・」
 乱馬は夢だった事を心底安心した。
「そう。でも夢でよかったじゃない。もう暫く休むといいわ。」
 のどかの声の直後、その場に明かりがつけられた。乱馬は眩しそうに眼前を手で隠し、目が徐々に光に慣れるのを待った。すぐに目は慣れて、周りの状況が把握できるようになったのも束の間、乱馬は自分が眠っている場所がいつもと違う事に気が付いた。
「あれ、ここどこだ?いつ天道家を出たんだ?」
 キョロキョロと周りを見回す乱馬の目の前にのどかの顔が現れた。しかしその顔ですら乱馬にとっては驚くべき事であった。
「お、おふくろ・・・・じゃ・・・ない!?」
 目の前にいる女性はのどかに似ていたが、髪は下ろしていて肩まで伸びた状態で、 どこか違う感じを漂わせていた。
「あなた、道で行き倒れていたのよ。ちょうど私が散歩していてあなたを見つけたのよ。」
「ってことはあんたが俺を介抱してくれたってわけか。ありがとな。」
 乱馬は感謝の気持ちと同時に、自分が元の世界に戻っていないという事を知り、落胆した。
「よっぽど遠い所から来たのね。」
「ま、まあな。でもそろそろ帰るとするよ。」
 乱馬はそう言うとポケットに手を入れて南蛮ミラーを取り出そうとした。
「・・・あれ?」
 反対側の方にも手を入れて捜すが見当たらない。遂には体中を叩くようにして捜したがそれでも南蛮ミラーは見つからなかった。
「ない!!」
 それもそのはず、玄馬によって盗まれたのだからこの場にあるはずがない。しかしそんなことも知らない乱馬は血の気が引いていくのを感じた。
(どこかに落としちまったのか?あれがないと元の世界に帰れねー!)
 そんな乱馬を見て、若い女性は訊ねた。
「何か落としたの?私が運んでくる間では何も落ちたような様子はなかったけど・・・」
 乱馬は女性の言葉を聞いて、自分の記憶を振り返った。そして何故自分が気を失ったのかという結論に到達した。
「あの野郎!自分だけ元の世界に戻るつもりか!」
 怒りを顕にして立ち上がる乱馬だが、後頭部に痛みを感じ、すぐにその場に座り込んでしまった。
「あっ、無理をしてはいけないわ。もう少し休んでいきなさい。それにここは私の一人暮らしの住まいだから気兼ねする事なんかないわ。」
 女性に言われるままにまた横になる乱馬。
(なんかこの人に言われると逆らえないような・・・)
 乱馬がそんな事を考えていると女性は今思いついたように手をポンと叩いた。
「そうそう、自己紹介をしていなかったわね。私の名前はのどかっていいます。あなたは?」
 女性、もといのどかの言葉に乱馬はようやく落ち着きかけたのも忘れて取り乱した。
「の、のどか!?」
 上半身を勢いよく起こして目を見開く乱馬に驚きながらものどかは頷いた。
「今、平成何年だ!?」
「へいせい?それって何の事?」
 険しい顔で訊いてくる乱馬にのどかは冷静に答えた。
「何の事って・・・時代だよ。」
「時代って・・・今の昭和時代の事?」
 のどかの一言に、乱馬は全てを理解したような顔つきになった。
「そうか・・・そういう事か!」
 乱馬は立ち上がり、外へ向かって駆け出した。残されたのどかは要領を得ない顔をしていたが思い出したように乱馬の背中に向かって呼び掛けた。
「あっ、ねえ!あなたの名前は!?」
「乱馬!」
 急いでいるためか、乱馬は振り向きもしないでそのまま走りながら答えた。
「乱馬・・・か。変わった人ね。」
 小さくなっていく乱馬の姿をのどかはどこか嬉しそうに眺めていた。



「親父ーーー!!どこだーーー!?」
 近所の迷惑も考えずに乱馬はありったけの声で叫びながら玄馬の姿を捜した。
「そうだ。親父の性格からしてこのまま捜したんじゃ隠れるに決まってる。だったら・・・」
 乱馬はどこからか水をかぶり、女の姿になった。
「よーし、これで安心して捜せるぜ!」
 とは言ったものの、玄馬の居所にまったく見当のつかないらんまは少し離れているが天道家へと向かった。
「多分この時代でもあると思うんだけどなーー。」
 元の世界とは違う風景に戸惑いを感じつつも、らんまはひたすら走って天道家に向かった。
「待てよ、親父が一人でいたって事は早雲おじさんとは別れているはずだ。となると八宝斉のじじいを封印した後と考えて・・・・多く見積もっても20年ぐらい前の時代だな。道場あるかな?」
 考えているうちに天道家に辿り着いたらんまはホッと胸を撫で下ろした。まだ新しい道場が目の前にあったからだ。
「ごめんくださ〜い!」
 元の時代で見慣れている玄関を開けて呼び掛けるらんま。すると奥の方から若い女性が出てきた。
「あら、お客さま?」
 その姿を見た時、らんまは思わず声を漏らした。
「あ、あかね!」
 自分が言った事に気が付いてらんまは思わず口を手で覆った。そう、この時代にあかねがいるはずないのだ。あかねに似た女性は微笑みながららんまに言った。
「あかねっていう人に似ていたかしら?」
「いや、その・・・・」
 思わず口籠ってしまったらんまだが、当初の目的を思い出し、用件を告げた。
「あの、早雲おじさんいますか?」
 女性は少し驚いたように目を丸くさせたが、すぐにまた穏やかな顔に戻りながららんまに入るように言った。
「早雲さんね。いらっしゃい、こっちよ。」
 居間の方に歩いて行くにつれ、早雲の声が聞こえてきた。
「いやぁ、しかし久し振りだね〜、早乙女君。」
「まったく君には驚かされたよ天道君。まさか無差別挌闘流の袂を分ってからまだそんなに経っていないというのにこんな立派な道場を建てていたとは・・・」
「ああ、先刻女の人がいただろ?あの人が支援してくれてね。それで・・・その、僕はあの人と将来を共に歩んで行こうと思うんだ。」
「そうか。あのじじいがいなくなってからようやく僕達も幸せを掴むチャンスができたんだ。よかったじゃないか、天道君!」
「君も早く良い人が見つかる事を願ってるよ。そうだ、もし僕達に子供ができたら許婚として無差別挌闘の名を継いでもらうっていうのはどうだい?」
 話が盛り上がっている中、早雲と玄馬はすぐ後ろにらんま達がいる事にすら気付いていなかった。武道家としては失格である。
「見つけたぜ親父!」
 突然発せられた声の方向を二人が振り向くと拳を握りしめてわなわなと震えるらんまの姿があった。
「早乙女君、君の知り合いかい?」
 早雲の問いに首を横に振る玄馬。そんな事も気にせずらんまは玄馬に近付いて手を差し出した。
「さあ、俺から盗った南蛮ミラー返してもらおうか!」
 玄馬は要領を得ない顔をしていたが、心当たりがあったことを思い出し、相槌を打った。
「おお、そういえば先程変わった格好をした少年から妙な鏡をもらったが・・・君のだったのか!?」
「『もらった』だと〜!卑怯な手で強奪したんだろうが!」
  玄馬はギクリと身を縮ませた。
「さあ、早く返しやがれ!」
「ふむ〜。実に言いにくいんだが・・・・」
勿体ぶったような言い方の玄馬に痺れを切らしたらんまはつい大声をあげて叫んだ。
「勿体ぶってねーでさっさと言いやがれ!」
 そんならんまの形相に恐れをなしたのか、玄馬は素直に白状した。
「質屋に売って食費にしてしまった。」
  その言葉を聞いた瞬間、らんまの堪忍袋の尾はブチッと音を立てて切れた。
「だったらさっさと・・・・取り戻してこーーーーい!」
玄馬を空高く蹴り飛ばした後、らんまは一息ついた。するとそこへようやく口を出すタイミングを見つけたのか早雲が話し掛けてきた。
「君、早乙女君とどんな関係なの?」
 その質問にらんまは困ってしまった。息子だと言ってもおそらく信じないだろうと思ったらんまは答えをはぐらかした。
「ま、まあ親戚みたいなもんかな。それはそうとおじさん、結婚すんのか?」
「おじさんって・・・僕はまだそんな年じゃないけどな。」
 確かにいつもと同じ格好ではあったが髭もなく、若かった。らんまは自分が過去に来た事を改めて思い、先程の女性が驚いた理由もわかった。
 その後も玄馬が南蛮ミラーを質屋から取り戻す、もとい盗み出すまでらんまは天道家の世話になっていた。
「これこれ!や〜っと元の世界に戻れるぜ!」
 喜んで小躍りしていると、ズボンに妙な違和感を覚えてらんまはポケットに手を入れた。
「何だ、写真か。」
 手に取った写真を再びズボンに入れようとしてらんまは青ざめた。そこにはいるべき玄馬とのどかの姿がなかったのだ。
「俺・・・だけ・・・?」
 今朝の稽古であかねから受け取った時は確かに早乙女家三人の姿が写されていたのである。それが今は自分の姿しか写されていないという事にらんまは戸惑いを見せた。天道家との集合写真も玄馬とのどかの姿だけなくなっていた。
「まさか!」
 いろいろ思考を廻らせていたらんまはなにか思いついた事があるのか、天道家を猛スピードで飛び出して行った。
「変わった人だったね、早乙女君。」
 嵐の後の静けさのように静まり返る天道家で、早雲は玄馬に言葉を投げかけた。しかし玄馬は呆然としていて早雲の言葉は耳に入っていなかった。
「早乙女君?」
 返事がないので早雲は玄馬の顔を覗き込んだ。その顔は仄かに顔を赤らめていた。


「多分親父とおふくろが初めて会うのを俺の存在で過去が変わっちまったんだ。だから親父とおふくろを会わせればきっと写真も元に戻るはず!」
 独り言のように呟きながららんまはスピードを上げてのどかの家に向かった。
 しかしらんまはまだ気付いていなかった。玄馬、のどかは既に別々の異性に興味を示している事を。


−−−のどかの家−−−

「ごめんくださ〜い!」
 らんまは息を切らせながらのどかを捜した。すると奥からのどかが顔を出した。
「あら?どちらさま?」
「何言ってんだよ。ほら、さっき会った・・・」
 そこまで言いかけてらんまは自分が女の姿という事に気がついた。
「あ・・・・ごめんなさい。家を間違っちゃった。」
 そう言ってらんまは家を出ると、お湯をかぶって再びのどかの家に入った。
「あら、また来てくれたのね!」
 のどかが嬉しそうに笑うのも気にせず、乱馬はのどかの手を引いて言った。
「詳しい事は後で話す。だから俺についてきてくれ!」
 訳が判らないといった様子ののどかを背負うと、乱馬は再び天道家に向かって走っていった。
(今このまま元の世界に戻っても、そこは俺が存在しない世界だ。親父とおふくろを会わせればきっと元の世界に戻れるはず・・・)
「あの〜、ここは?」
 考え事をしているうちに天道家に着いてしまったらしく、のどかは初めてみる場所を乱馬に訊ねた。
「ああ、ちょっとこっちに来て待っててくれよ。」
 乱馬はのどかを天道家の玄関に待たせると、家の中へ勝手に入っていった。
「親父、いるか?」
 乱馬が入って行くと、案の定そこには玄馬がお茶を啜っていた。玄馬は乱馬の姿を見ると慌てたように隠れようとした。
「き、君はさっきの・・・・すまん!許してくれ!ああするしかなかったのだ!」
 南蛮ミラーの事を言っているのだとわかった乱馬は玄馬を引っぱりながら言った。
「もう戻ったから気にすんな。それよりおめーに会わせたい人がいるんだ。」
 乱馬の言葉を聞いた玄馬は警察関係の人を想像したが、乱馬に紹介されたのは若く、綺麗な女性であった。
「こちらのどかさん、んでもってこっちは玄馬っていうんだ。」
 玄馬とのどかは乱馬に紹介されながらお互いに顔を見合わせて目を丸くさせていた。
「あの、この方が何か?」
 のどかは乱馬に訊ねた。玄馬も同じように乱馬の方を不思議そうな顔をして見た。
「へっ?いや、だからなんとも思わねーのか二人とも?」
「別に・・・」
 二人を会わせれば問題解決だと信じていた乱馬はもしやと思って写真を見た。そこには相変わらず玄馬とのどかの姿は写し出されていなかった。
「ほら、見た瞬間運命の人って感じなかったか?」
 乱馬はのどかに訊いたが、のどかは首を横に振って答えた。
「私の運命の人は・・・あなたよ。初めて会った時からなんだか他人のように感じないの。」
 乱馬は自分の耳を疑った。まさかのどかに好意を抱かれているとは思わなかったのだ。さらに他人のように感じないのも当たり前。親子なのだから仕方ないのだが、乱馬には自分が未来から来た事を言おうか迷っていた。そんな時、玄馬も乱馬を驚かせるような事を言った。
「折角の縁談話、誠に有り難いが私には既に心に決めた人がいる。先程会っただけだが活発なおさげの女の子だった。」
 乱馬が唖然としていると、早雲が驚きながら玄馬に話し掛けた。
「早乙女君!君、もしかしてさっきの子に・・・・」
「ああ。何故か他人という気がしなかった。恐らくは僕の運命の人だ。」
 乱馬は動揺しながら持っていた写真を見た。すると驚いた事に今度は自分の姿まで消えかけていた。つまりは玄馬とのどかが他の人(乱馬とらんま)に好意を寄せた為に、乱馬という存在が不安定になってしまったのだ。
(まずい!!このままじゃ俺まで消えちまう!こうなったら真実を話して・・・・)
 乱馬は決意したが一瞬思いとどまった。
(待てよ、今話してさらに歴史が変わったら取り返しのつかない事になっちまう。本当は今朝に戻って親父をぶっ倒して気絶した俺をおふくろに会わないようにすればいいけど、そんな細かい時間まで思い出して涙を流すなんて不可能だ!一体どうしたら・・・)
 考え込む乱馬のめに飛び込んだのは町内の祭りの知らせであった。
「祭り・・・これだ!」
 乱馬は振り返り、のどかを祭りに誘った。
「え〜っと、一緒に祭りに行かないか?」
 突然の事にのどかは驚いていたが、にっこりと微笑み頷いた。
 すぐさま乱馬は天道家の中に入り、池に飛び込んで女に変身すると、玄馬の前に姿を現した。
「あの〜、玄馬さん。よければ私と一緒にお祭りに行ってもらえません?」
 極力可愛らしく見せる演技にらんま自身吐き気を催したがなんとか我慢して玄馬を誘った。
「よ、喜んで!して、あなたのお名前は?」
「わ、私は『乱子』っていいます。じゃあお待ちしておりますわ。」
 そう言うとらんまは再び天道家内にてお湯をかぶり、男の姿でのどかを連れて天道家を後にした。
 のどかを家まで送ると、乱馬は祭りに備えて作戦を立て始めた。



つづく




作者さまより

若かりし頃の玄馬とのどか。こういうのってあまり見ないので、アニメ編であった『バック・トゥ・ザ・八宝斉』(よく考えると英語が変)であった南蛮ミラーを使ってタイムスリップものとして書いてみました。
早雲とその奥さんとの出合いもちょっと加えました。
後編は少し暗い話になります。
タイムパラドックスうんぬんは全くわからんので指摘されても困りますので深く追求せぬように。


 今度は乱馬が過去へ行ってしまったお話。己の両親を引き合わせる。これまた、わくわくの展開。
 さて、写真は無事に元に戻すことができるのか。
 のどかと玄馬は無事に結婚することができるのでしょうか?
(一之瀬けいこ)

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