◆不器用の向こう側
瑞穂さま作


 だいぶ暖かくなった穏やかな春の夕暮れ時。
 各家庭では、主婦がそろそろ夕食の準備に取り掛かろうと各々の台所に立つ頃。

「でぇりゃーーーっっ!!」

 ドカァン!

 夕刻を告げるカラスも逃げ出す少女の奇声と轟音が、とある一角から響いた。
 大音響の発信源は、東京練馬区の住宅街に広大な敷地を持つ天道道場。
 道場なのだから稽古でブロックでも割っているのなら納得がいくが、彼女が陣取っているのは台所だった。

「でででででーーーいっ!」

 その可憐な容姿からは想像もつかないような鬼気と迫る気合いを立ち上らせて、物凄い形相で包丁を振り上げている。

 ダンダンダンダンッ!!

 気合いと共に勢い良く振り下ろされた包丁に思いっきり叩かれたまな板がもの凄い音を立てている。
 飛び散る野菜と、まな板の残骸らしき木屑が宙を舞っては、シンクや床に落ちていった。

「………(汗)」

 その様子を台所の入り口から冷や汗を垂らし、複雑な表情でこっそりと眺めるおさげ髪の少年がいた。
 彼の名前は早乙女乱馬。天道道場の居候にして、台所で惨劇…いや、夕食の準備に奮闘している(と思われる)少女、天道あかねの許婚である。

(あーもう、なんだってんだよ!かすみさんもお袋も用事で出掛けちゃうし、他の連中もとっとと逃げちまいやがって…)

 心の中で空しく悪態をつく。
 普通ならば、ひとつ屋根の下で二人きり、しかも愛しい彼女の手料理を独り占めできるおいしいシチュエーションなのだから嬉しい事この上ないはずだ。
 乱馬だって例に漏れず、心の底では嬉しく思っている。そう、普通ならば。だが、彼女の作る手料理は想像を絶するものが出来上がる。
 普通にまずいだけならともかく、鋼鉄の胃袋を誇る乱馬でさえ食べればしばらく起き上がれないのだから、普通の人ならば三途の川を拝めるかもしれない。

(危ねーな、包丁振り回すなよ…あ、ばかっ!何を入れてんだ何を!ったく、あんなおっかねぇもん食えっかよ。あかねには悪ぃが、俺も逃げちまおっと…)

 こっそり踵を返して、忍び足で玄関に向かおうとした矢先だった。

「いたっ!」

 台所から小さな悲鳴が上がった。

「あかね!?」

 その瞬間、乱馬は電光石火の速さで台所に飛び込んだ。手を抱え込んでうずくまるあかねに近寄ると素早く傷の具合を診る。

「ったくこのバカ、何やってんだよ!勢い良く包丁振り回しやがって、万が一指をちょん切ったりなんかしたら洒落になんねーだろ!」

 細くしなやかな左手の人差し指から真っ赤な血が流れ落ちていた。乱馬は顔をしかめ、手近に合ったティッシュを数枚取ると傷口に当てた。

「しばらくじっとしてろよ、今救急箱を取ってくるから。」
「うん…。」

 小さくうなずいたあかねを見てから、乱馬は駆け足で救急箱を取りに行った。



「…これでよし。大丈夫か?痛くねぇか?縫うほどの傷じゃねえけど、何なら後で東風先生にでも診てもらえよ。」
「うん、大丈夫。ありがとう…。」

 丁寧に包帯を巻かれた左手を見て、あかねが小さく呟いた。そして、台所に目をやるとはぁ、とひとつため息を漏らす。

「あ〜あ、折角美味しい夜ご飯作ろうと思ってたのになぁ。」
「……(うそつけ)」
「何か言った?」
「別に。」

 凄まじい惨状の台所を横目で見て、乱馬はあかねを心配しつつも内心少しほっとしていた。

「とにかく、お前は居間で休んでろ。後は俺がやっとくから。」
「でも…。」
「いいから行けって。怪我人は大人しくしてろ、いいな!」

 横柄な口ぶりだが、自分を心配して気を使ってくれる乱馬の言葉に、あかねはしぶしぶ従った。
 あかねが居間に行くのを見届けてから、乱馬は手際よく台所を片付け始めた。
 使えそうな具材を端によけて、散乱したゴミを一纏めにしてポリバケツに放り込む。
 一通り片付けを済ませると、冷蔵庫の中を覗き込んだ。

「おーっし、片付け終わり!えーっと、なんか使えそうなものはっと…おっ、焼きそばがあるじゃん。」

 乱馬は冷蔵庫から2食入りの焼きそばを取り出し、よけていた具材と新たに切り足した野菜を手早く炒めて二人分の焼きそばを作った。
 ウーロン茶を注いだコップと皿に盛った焼きそばをお盆に乗せて、居間へと向かう。

 台所から漂ってくる香ばしいソースの匂いに、あかねは顔を上げて居間の入り口に目をやると、程なくして乱馬がお盆を片手に入ってきた。

「よっ、調子はどうだ?怪我したのは左手だから箸は持てるだろ?」
「…その焼きそば、乱馬が作ったの?」
「おう、ちゃんと味見したから食えるぞ。んじゃ、いただきまーす!」
「いただきます…。」

 がつがつと食べ始めた乱馬とは対照的に、あかねの箸は進まない。どこか沈んだ様子のあかねに怪訝な表情を見せながら乱馬が尋ねた。

「…なんだよ、食ってねーじゃん。美味くねーか?それとも食欲ねーのか?」
「ううん、違うの。焼きそば美味しいよ。ただ…」
「ただ…なんだよ?」
「なんで乱馬は美味しく出来るのに、私には出来ないのかなって…。」

 あかねは乱馬の作った焼きそばを見た。具材は綺麗に均等に切られ、味付けもしっかりしていて美味しかった。
 乱馬は大抵の事は器用にこなす。格闘であれ何であれ、コツさえ掴めば飲み込みはとても早かった。
 あかねは自分の不器用さを嫌というほど分っている。いつも一生懸命がんばっているのに、どうしても上手くいかない。
 今日だって、かすみとのどかの不在に、乱馬以外の家族の面々が自分の料理を恐れて逃げたのは分っていた。
 それでも、残ってくれた乱馬のために美味しい料理を作りたいと思ったのだ。
 結局失敗に終わり、自分の代わりに乱馬が作った料理のほうが数段美味しかったとなれば、あかねショックは大きい。
 それに乱馬はもてる。彼を慕う少女達は料理や裁縫が上手く、しかも美人で女らしい。かなり強引な所を除けば、相手として不足は無い。
 そして、その事があかねにとって、さらなる引け目となっているのは言うまでも無かった。

「なんで乱馬はそんなに器用なの?なんであたしは、こんなに不器用なのかな…。」
「そりゃー俺の方が優れてるからに決まってんだろ。」

 どげん!!

 言ったが早いか、お盆が乱馬の頭部を直撃した。

「…っいってーなっ!いきなり何しやがんだ、この凶暴女っ!」
「あんたがふざけてるからでしょ!?まじめに聞いてるのにっ!」
「だからって有無を言わさず手を出す奴があるかよ!しかも角で殴りやがって、かわいくねーな!」
「うるさいわね!なによ、自分がちょっとくらい器用だからって…」

 そこまで言ってあかねは口をつぐんだ。目に涙を浮かべ、ひざの上で手をきゅっと握り締めている。
 涙目で頭部をさすりながらあかねを睨み付けていた乱馬だったが、そんなあかねの様子を見てバツが悪そうに口を開いた。

「…その、悪かったよ。まぁなんだ、親父もお袋もあれで結構器用だから、生まれつきってのもあるだろうけど、やっぱ育った環境じゃねぇかな。」
「育った環境?」
「ああ。此処に来るまでは親父と二人修行の旅で全国を転々としてたし、物心ついた頃から山で生活したりしてたからな。
 いつ何時でも三食の飯を食えたわけじゃなかったし、なにせ小せぇガキだった俺の飯まで食っちまうような親父だぜ?そりゃ必死だったさ。
 大抵は野宿生活だったし、泣いた所で誰かが助けてくれる訳でもねえ。だったら、自分自身で生き抜く術を身に付けていくしかねえからな。」
「……うん。」
「修行場所を選ばず自由奔放である代わりに、あらゆる状況に対応出来る臨機応変さも必要となるわけだ。
 格闘以外はあんまり意識した事はなかったけど、手先の器用さなんかも、自給自足のサバイバル生活の中で、自然と身に付いたんだろうな。
 ま、これも修行の成果ってヤツかもな。人間、必要に迫られれば意外と何だって出来るもんだぜ。」

 そう言うと、乱馬は少し笑った。

「そっか…そうだよね。乱馬は今まで凄く頑張ってきたんだもんね…。」
「まーな。色々苦労はあったけど、ヘンな規則に縛られない分なにかと自由だったし、自然っていうのは常に同じ顔の時がねえから面白いぜ。
 格闘の修行にはもってこいだし、珍しい発見があったりするし。ある意味すげー教育環境だけど、俺の性にはあってたのかもな。」

 あかねは淡々と語る彼の奥に、大自然の中をめいっぱい駆け抜ける小さな乱馬の姿を見た。
 いつもちゃらんぽらんな早乙女親子を見ていたのですっかり忘れていたが、彼らは天道家に来るまでは諸国を巡る過酷な修行の旅をしてきたのだ。
 中にはあまり誉められた内容ではない修行もあったようだが、都会の中で暮らしてきた自分と、自然の中で修行してきた乱馬とでは、その経験値に大きな差があった。
 自分のほうが優れているから…さっきの乱馬の言葉を思い出した。悔しいけれど、あれはふざけているのではなく、今まで彼が積み重ねてきた経験が物語る事実。
 天性の素質と、多大な努力を積んできた結果だ。彼の底知れない自信と勝負に対する執着心は、16年もの長い年月を掛けて身に付けた実力があってこそ持てるものなのだ。
 
 自分だって、他の人に比べればかなり頑張ってきたほうだと思っている。我慢だっていっぱいした。でも、困っていれば家族や友人が必ず手を差し伸べてくれた。
 もし、自分が16年間乱馬と同じ生活をやれと言われたら、出来る自信があかねにはなかった。小さな事に突っかかってしまった自分が、なんだか凄く情けなかった。
 そして一抹の不安。先ほどの言葉通り、自由奔放で何かに縛られる事を嫌う乱馬。今でも時々、修行と称しては親子で山篭りに出掛けている。
 ある時ふいに道場を出ていって、どこか自分の手の届かない所に飛んで行ってしまうのではないかという不安が襲ってきた。

「ばぁ〜か」

 乱馬は突然、あかねの鼻面を指でピンと軽く弾いた。
 考え込んでいたあかねは、いきなり目の前にある乱馬の顔と、鼻面のじんとする感触に面食らって思わず声を上げた。

「い、いきなり何すんのよーっ!」
「どーせ、『自分は俺ほど修行してなかったから〜…』とかなんとか考えてたんだろ?」
「…何で分ったの?」
「おめぇの考えてる事くれーお見通しだっての、いちいちそんな事で悩むなよな。」
「そんなことって何よ!あんたになんかに私の気持ち…」
「―わかんないってか?まったく…考えても見ろよ、俺と同じ内容の修行を、お前がアッサリこなせちまったら俺の立場ねーじゃんかよ…。」
「あ…。」

 仏頂面でそう吐き出した乱馬を見て、あかねは思わず言葉を飲み込んだ。
 以前にも何度か不思議な薬や胴着であかねは乱馬より強くなった事がある。その時の執拗なまでに元に戻そうと悪戦苦闘していた乱馬を思い出した。
 とにかく乱馬は強さにこだわる。特にあかねの前ではその傾向が強かった。誰よりも強く、誰よりも先にあかねをを守れるように…。
 
「それに、その不器用さも短所だけじゃなく長所でもあるんだぜ。」
「不器用が長所ってどういうこと?」
「たとえ不器用で上手く出来なくても、おめぇは決して諦めないで努力してるじゃねーか。努力して手に入れたものは、考え方も物の重みも全然違うんじゃね―か?」

 あかねは驚きで目を見開いた。いつも人をばかにしている乱馬から、こんな台詞が飛び出すとは夢にも思わなかった。

「それにおめぇ、不器用以前にせっかちなんだよ。基本無視していきなりアレンジしようとするから失敗するんじゃねーか。
 大体よ、格闘の基本をマスターしてねぇヤツが、いきなり必殺技使えると思うか?そりゃ得意不得意は個人的にあるものだけど、
 基本さえしっかり身に付ければそれを応用できるってもんだろ。技の特性を見極めて、その応用が必殺技を生み出すんだ。
 むやみやたらに蹴りや突きを繰り出したって飛竜昇天破も火中天心甘栗拳も完成なんかしやしねぇよ。
 料理だって同じだ。素材の特性を理解して作り方の基本を覚えていてこそ、応用が利くんだろ?基本形が頭にあるから応用した時のイメージも湧くんだ。
 基本を無視して、アレンジとか言いながら何でも手当たり次第にドカドカ放り込むから、訳のわからないものが出来上がるんじゃね―か。」

 腕組みをして乱馬が力説した。格闘を例にした乱馬の意見は正確に的を射抜いていて、あかねは言い返せなかった。
 冷静になって考えてみると、自分が料理する時、基本がどうとかなんて全然考えていなかったような気がする。
 かすみやのどかの話もまともに聞かず、作りたいと言う事だけで頭が一杯になり、何も考えずに手当たり次第に材料をぶち込んでいた。

「おめぇ何にしても力み過ぎだ。もっと肩の力を抜けよ。落ち着いてやれば出来るはずなんだ。自信持てよ、そうすればあいつらにだって絶対負けてねぇんだから…。」

 乱馬がぼそりと付け加えた。最後のほうは語尾がややトーンダウンしている。少々赤い顔をあさっての方向に向けている。
 あかねはきょとんと乱馬を見ていた。あいつらとはきっと乱馬を慕う三人娘の事だろう。いつも引け目に感じていた自分のライバル達。
 もっと自信を持てば、自分も絶対に負けてはいない―。いつもは自分に悪口雑言を浴びせ掛けてる乱馬からの、信じられないくらい極上のエールに聞こえた。
 今日はいったいどうしたんだろう?今の言葉は本音なのだろうか?口は相変わらず悪いが、今日の乱馬はやけに優しい。

「ねえ、乱馬。」
「……なんだよ。」
「それ、本気で言った?」
「………」
「ちょっと乱馬ってば。」
「あーもう、うっせーな!んなもん、どうだっていいだろ?」
「どうでも良くないわよ。で、どうなのよ?」
「だぁーかーらっ!俺が冗談でこんなこと言えるわけねぇだろ、バカっっ!!」

 乱馬は真っ赤な顔してそれだけ怒鳴ると、そのままの膨れっ面で黙り込んだ。それを見ていたあかねは、なんだか嬉しくなった。

「ねえ、落ち着いてやれば絶対に上手くいくと思う?上手く出来たら、ちゃんと食べてくれる?」

 真っ赤な膨れっ面の乱馬を嬉しそうに見上げながら、あかねは可愛い笑顔で乱馬に聞いた。乱馬の顔がますます赤くなる。
 口には決して出さないが、彼の顔があかねを「かわいい」と想っている事を雄弁に語っていた。

「ねえってばー。」
「お…おう、しょーがねぇから、ちゃんと上手くいったら食ってやるよ。」
「もう、素直じゃないんだから!」

 あかねは乱馬の天邪鬼な返答に、少しだけぷぅっと頬を膨らませた。でも、その瞳には先ほどまでの怒りも悲しみもなく、嬉しそうに輝いている。
 そしてテーブルの上の食べかけの焼きそばを手に取ると、「いただきます♪」と言って美味しそうに食べ始めた。
 少しさめていたけど、先ほどとは全く違った温もりを感じてあかねは嬉しかった。

「ごちそうさま、美味しかったー。」
 
 あかねは、全部食べ終えた自分の皿を、乱馬の空いた皿と並べて置いた。ウーロン茶をひとくち口に含んで、ほっと一息つく。
 何気なく二つの空の皿を見ていたら、ふと先ほど不意にこみ上げてきた不安のかけらが、突然胸の奥にくすぶり出した。
 
「あの…さ、その…」
 
 言いよどんでいるあかねに、まだ赤みの残る顔に疑問符を浮かべた乱馬が怪訝そうに首をかしげた。

「今度は、なんだよ?」
「どこにも、行かないよ…ね?」

「………はぁ?」

 少し間を置いて、乱馬が気の抜けた返事を返した。

「だから。乱馬、どこにも行かないよね?修行に行っても、ちゃんと帰ってくるよね?いなくなったり、しないよね?」

「…ぶわぁーーーーかっ!」

 一息置いて、乱馬が思いっきり力を込めて言い放った。

「なっ…誰がばかよ、誰がっ!」
「ばかだからばかって言ってんだ、ばかっ!何かと思えば、いちいちくだらねー事で悩みやがって。」
「くだらないって何よっ!」
「くだらねーだろ。俺は今、此処にいるだろーが。何があってもちゃんと此処に帰って来てるだろ?おめぇ今まで何見てきたんだよ。」

 乱馬はぶすっとしたまま「嫌だったらとっくの昔に出てってら」…と、小さく付け加えた。
 しばしの間、二人の間に沈黙が流れる。最初に口を開いたのはあかねだった。

「あの…それって、やっぱり天道道場にって事?」
「そうだけど…ちょっと違う。」
「違うって何が?」
「………」
「………」
「…………」」
「…乱馬?」
「……………〜〜っっ!」

 再び顔の赤みが増したのを不思議そうにじっと見つめたあかねを前に、乱馬は勢い良く立ち上がると真っ赤な顔と共に爆発した。

「だからっ、俺が帰るところはおめぇんとこしかねぇに決まってんだろーが、この鈍感女っ!今更こんな事まで言わせんじゃねーよっっ!!」

半ばヤケクソ気味の勢いで拳を振り上げながら叫んだ乱馬を、あかねは呆気に取られながら見つめた。
聞き間違いでなければ、今のは…―。

「ねえ、今のってもしかして…。」
「もう絶対言わねーからな、よっく覚えとけっ!!」

あかねが問い返す前に、乱馬は自分で確信を裏付けるような言葉を口にした。
そのままくるりと背中を向けると、どっかと胡座をかいて座り込んだ。髪の毛の隙間から見える耳はかなり赤い。
あかねはその様子を見て、嬉しそうにくすくすと笑った。一体自分は何を心配していたのだろう。
意地っ張りで恥ずかしがり屋の彼がここまで言う事は滅多にない。それこそ、今は心臓が飛び出るほど恥ずかしいという事は手に取るように分った。
それでも居間から出て行かず、自分のそばにいてくれる事が嬉しくて堪らなかった。

「乱馬。」
「………」

もう絶対に口を開かないぞと背中で語っている乱馬に後ろからきゅっと抱き付いて、あかねは最高の笑顔を向けて言った。

「乱馬、ありがとう。凄く嬉しい―。」

 ぎしっと乱馬の体が硬直した。顔を見ずとも、乱馬が物凄く照れているのが全身から伝わってきて、あかねはもう一度笑った。
 好きという言葉は、まだ照れくさくてなかなか言えない自分達だけど、お互いの気持ちはこんなに通じ合っている。今はそれだけで十分だった。
 そんなあかねの気持ちが伝わったのか、乱馬が無言であかねの左手を取ると、自分の大きな手でいたわるように優しく包み込んだ。
 それに答えるように、あかねは乱馬を抱く腕に少しだけ力をこめた。今日は不器用な自分が少し好きになれた、ささやかでとても幸せな記念日。

 手の怪我が治ったらまた頑張ろう。今度は落ち着いてゆっくり作ろう。かすみお姉ちゃんとのどかおばさまの話をちゃんと聞いてしっかり教えてもらおう。
 そして、今度こそ美味しい料理を乱馬に作ってあげたい。乱馬が自分にしてくれたように。


 自分の料理を美味しそうに食べてくれる、乱馬の笑顔が見れるように―。


 おしまい。







まずは一之瀬様、お誕生日おめでとうございます。

初めての文章での投稿…と言うよりは、ほとんど初めて書いた文章です…。文法、これでいいのでしょうか?(滝汗)
自分なりに甘くしてみました。頑張って「らしさ」を出してみたつもりですが、後半は書いてて少し恥ずかしかったです(苦笑)
途中でなんだか脱線していったような感じもしますが、変に書き直すと混乱しそうだったので、修正だけに止めました。

あかねちゃんの包丁さばき、傍から見てるとかなり怖いです。乱馬くんの「洒落にならねー」発言は私の意見そのものだったりします。
どう考えても手元を見ていないし、間近で見ている乱馬くんはさぞ気が気ではないんじゃないかと思います。出来上がった料理と共に(笑)。
今回は乱馬くんに作ってもらいましたが、焼きそばならどこの家庭にもありそうですし、作り方も間違え様がないと思うのですが、
あかねちゃんはきっとここから独自の「アレンジ」が加わって、未知の料理(?)が出来上がってくるんでしょうね(笑)。
この二人、ちょっとした発言でも随分変わるんじゃないかと思います。ちょっとだけ素直になった乱馬くんを書いてみたつもりです。
というより、結構素直にポンポン言わせてしまいました(笑)。いかがだったでしょう?
一之瀬様をはじめ、皆様の素敵な作品を前に少々恥ずかしい気もしますが、気に入っていただければ幸いです。

ここまで読んでくださった皆様、有難うございました。

・:: 瑞穂 ::・


小説は初投稿の瑞穂さまです〜
瑞穂さまといえば、絵板画廊でおなじみですネ・・・そのイラストのセンスは、毎回楽しみにされている方が多いのでは?
今回挿絵までつけていただいて、うはうはの一之瀬です。
嬉しい!



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