◇あかね行方不明事件? 後編
みのりんさま作

4.さても、あかねの探索は続く……

「次は緑の家ね。」
 先導する裕美ちゃんに続く貴裕くん、そして乱馬。
 何度も乱馬は逃げようと思ったが、肝心の“あかねの手紙”をしっかりと握りしめている、裕美ちゃんからそれを取り上げるのことができなかったのである。
 相手が屈強な大男なら格闘家として喜んで立ち向かうが、ニコニコ笑うお子様の二人連れとなると、どうも調子が狂うのだ。
「この場所だと……」
「ミシュ・マーブル。三角屋敷じゃないでしゅか。」
「そうね。」
 真っ直ぐ歩くと、交差点が見えてきた。
「三角屋敷って何だ?」
 そう乱馬がきくと、貴裕くんが答えた。
「えっとでしゅね。おうちの屋根が、どっから見ても三角なんでしゅ。」
「はぁ……」
 交差点につくと、ちょうど信号が青になったので、右手を上げて、お子様二人は歩いて行く。
 ちらっと、裕美ちゃんが乱馬の方を振りかえった。
「こりゃっ!ワトソンくん。信号を渡るときは、手を上げるの!!」
「……手を?」
「学校で教えてもらわなかったの!横断歩道を渡るときの常識よ!!」
 ふと気がついて周りを見ると、好奇な目が乱馬に向かっている。
 ――何で、こうなるんだよ……
 顔が赤くなっている自分に、乱馬は気づいた。
 けれど、メッとこちらを見る裕美ちゃんに言われるまま、小さく右手を上げて、横断歩道を渡る乱馬であった。
 しばらく歩いて行くと、他の家々から一線を画する、エメラルドグリーンの色をした屋根が見えて来た。 裕美ちゃんがその建物を指差した。
「あれが三角屋敷よ。」
「ほぉ……」
 確かに屋根が三角形だ。
 周りが最近に建てられたらしい、一軒の建物に敷地に二軒の建物がというタイプが多いので、きわだっている。ゆっくりと近づいて行くと、よりはっきりとその大きさが分かる。
 広い道から細い道に入って、それらの建物を通り越して行くと、色あせたエメラルドグリーンの屋根の家の手前に、大きな空き地があった。
「あれ、テントでしゅね。」
「何かしら。」
 二人はいそいそと、そのテントに向かう。
 乱馬は思った。
 ――どっかで、見覚えがある光景だな……
 焚き火をしたらしい跡の上に、木で飯盒が吊られている。
 ――まさか……
「きゃーっ!人が死んでる!!」
 テントの中を覗きこんだ裕美ちゃんが悲鳴を上げた!
 乱馬は慌ててそこへ向かった。
 テントの入り口をめくると、「グ〜ガ〜」と、大きないびきを立てながら、ぐっすりと眠っている良牙がいた。
「安心しろ。これは死んでるんじゃなくって、ただ寝てるだけだ。」
「ホントでしゅか?」
 聞いてきた貴裕くんに、乱馬は大きく頷いた。
 すると、裕美ちゃんは良牙の鼻と口を押さえる。
「おい……そんなことしたら……」
 良牙の顔が赤くなり……そして青くなる……
 ガバッ!
 良牙が身体を起こすと、裕美ちゃんは手をどけた。
「ホントだ!生きてる。」
「ゴホっ……てめ〜何すんだ!」
 良牙は咳き込みながら、裕美ちゃんに怒鳴った。
 そして、目の前にいる乱馬に向かって言った。
「てめえの仕業か!」
 良牙はテントから飛び出すと、乱馬から間合いをとる。
「喧嘩はダメよ!行きなさい、山口少年っ!!」
「え〜いっでしゅ!」
 おもちゃんの剣を構え、良牙に向かって突進する貴裕くん。
「な、何だ……」
 一生懸命「てぃでしゅ!」「とぉでしゅ!」と、良牙に向かってくる貴裕くんに、思わず良牙は呆然と立ち尽くした。
 打たれ強い良牙のことだ、貴裕くんの攻撃は、アリが攻撃をしかけてくるのに等しい。
「…………おい、良牙。」
 呼びかける乱馬を、良牙は困惑の表情で見る。
「適当に、やられてやれ。」
「はぁ……?」
 何かを考えてこんでから、良牙は胸を押さえた。
「こう……か?ぐふっ……やられたーっ!」
 ゆっくり、バタっと良牙は地面に倒れこんだ。みえみえの演技である。
 おもちゃの剣を天に向けて、貴裕くんは叫んだ。
「やったー!悪の将軍をやっつけたでしゅ!」
「…………誰が悪の将軍だ。」
 ボソッと良牙が呟くが、おかまいなしに、貴裕くんはドカッと左足で良牙の腹を踏みつけた。
「山口少年、記念写真撮りましょ。」
「記念写真でしゅか。」
 貴裕くんは嬉しそうな顔をする。
 そして裕美ちゃんはポシェットから、カメラを取り出した。
「はい、ワトソンくん。頼むわね。」
 そう言って乱馬にカメラを手渡すと、貴裕くんの横に裕美ちゃんは立った。
 ――こ、これをどうしろと……
 どう見ても、おもちゃのカメラである。これで何かが写せるとは、到底考えられない。
「ワトソンく〜ん。早くー!」
 裕美ちゃんの声に、仕方なくおもちゃのカメラを乱馬は向けた。
 すると二人して、何かのポーズを取る。
 察するに、『電光戦隊サンダーファイブ』のレッドとピンクの決めポーズらしい。
 ボタンを押しながら、ヤケクソで言った。
「はい、チーズ!」
 撮影が終わると、いそいそと“あかねの手紙”に裕美ちゃんは目を向ける。
「じゃあ、次行きましょう!」
 そう言って、空き地から貴裕くんを伴って出る。
「良牙。」
 乱馬は、立ちあがった良牙の肩に手をやった。
「みじめだよな……」
 シミジミとした口調で、乱馬は言った。
「ワトソンくん!早く、早くぅ!」
「お、おお……」
 軽く乱馬は手を上げた。
「お前もな……」
 そして、二人は深い溜息を吐いた。 



5.山の裏手に

「次は山ね。」
 トテトテ歩くお子様を連れて、乱馬は歩く。
「“山”って言ったって、この町にはそれらしい場所がねえぞ。」
 と言う乱馬に対し、そんなこと聞く耳もたぬ二人組みは、「こっち、こっち。」と手招きして誘う。仕方なく、乱馬はそれに従う。
 すると、山……とは少し違う印象を受ける場所に着いた。
 木が生い茂っているとはいえ、どう見ても人工的な公園である。
「『大山公園』?」
 レンガに囲まれたコンクリートに刻まれた文字を、乱馬は読み上げる。
「ね、山でしょ。」
「はあ……確かに“山”が付くけどな。」
 ボンヤリと乱馬は呟いた。
「この山の裏っ側に、目的地はあるのよっ!」
 ビシッと公園の山を指差しながら、裕美ちゃんが言った。
「おい……そんなとこ行くより……」
 乱馬が言い終わる前に、二人は公園の中を走って行く。
「早く、早く!」
 ふぅ……
 何度目かの溜息を吐きながら、乱馬はその後を追いかけて行った。
 公園は奥行きの広い、木でできている階段が上までらせん状にのびていた。
「うんしょ、うんしょ。」
 大人のハイキングコース用に作られたらしい階段は、小さな二人にとっては難関で、中々上へ上がることができない。けれど、一生懸命なその様子を見て、声をかけるのはためらわれた。
 九段目を数えた所で、ドテッと大きな音を立てて、貴裕くんが転んだ。
「痛いでしゅ〜」
「あなた、男でしょ!それぐらいのことで、泣くんじゃない!」
 そう言いながら、裕美ちゃんは貴裕くんを立たせたが、彼は中々泣き止まない。
「え〜っと、どれどれ……」
 乱馬は貴裕くんの怪我を見て、その上に付いている土埃をはらってやった。
「あ……ミス・マーブルの言う通りだ。男なら我慢しろ、な。」
 ポンポンと軽く乱馬が貴裕くんの頭を叩いてやると、シャックリをあげながらも、貴裕くんは泣き止んだ。
「ほれ、おぶってやる。」
 乱馬は貴裕くんに背をむけて、かがんだ。
「わ〜い!」
 おんぶされた貴裕くんは、笑顔になった。
 すると、裕美ちゃんは何か言いたげな、今にも泣きそうな顔になった。
「おい……」
 乱馬が声をかけると、裕美ちゃんはそっぽ向いた。
「いいもん。」
 そして、階段に向かって一人歩いて行く。
「私は…………」
 この気丈さ。まるで、どこかの誰かを見ているようだ。
 いつのまにか、乱馬は笑みを浮かべていた。
 ――しょうがねえな……
 乱馬は再びかがみこんで、貴裕くんを地面に下ろした。
「わっ!」
 そして乱馬は裕美ちゃんの手を取り、貴裕くんと一緒に抱きあげた。
「これでいいだろ。」
「……何がいいのよ。」
 そう言いながらも、裕美ちゃんは笑っていた。
 乱馬は二人を抱いたまま、ゆっくりと頂上目指して歩いて行った。
 頂上に着くと、向こう側で見覚えのある服を着た少女が一人、ブランコをこいでいた。
「あっ!」
 思わず乱馬は声をあげた。
「どうしたの?」
 裕美ちゃんの問いかけに、乱馬は言った。
「あかねだ……」
「見つかったの?!」
「早く行くでしゅ!!」
 貴裕くんの言葉に、乱馬はそっちの方へ下りて行く階段を駆けた。
 そして、あかねの側にたどり着いたとき、乱馬は二人を下に下ろした。
「見つけたよ!」
 あかねに向かって、裕美ちゃんは走る。
 瞬きして、あかねは不思議そうに裕美ちゃんを見た。
「あかね。」
 それで、始めて気がついたという顔で、あかねは乱馬を見る。
「宝物、見つかった?」
 裕美ちゃんが“あかねの手紙”を見せながらきく。
「ああ…………宝物はね、無くなっちゃった。」
「え?」
「昔、この辺りはね、山だったの。けどね、今は……」
 あかねは公園の山を見上げながら言う。
「公園になっちゃった時に、工事の人が持って行っちゃったのよ。」
「そんな……」
「……残念でしゅ。」
 二人はがっかりした顔で、あかねを見上げる。
「いいのよ。宝物はね、ここにあるから。」
 そう言って、あかねは自分の胸を指差した。
 ニコリと微笑むあかねに、二人は驚きながらも笑顔になった。
「さあ、探偵は事件を解決したら、すぐに去るものよ!行くわよ、山口少年!!」
 そう言って、走り始めた裕美ちゃんを、貴裕くんは慌てて追いかける。
「はいでしゅ!」
「おめえら、気をつけて帰れよ!」
 二人の背に向けて、乱馬は声をかけた。
 裕美ちゃんは立ち止まり、こちらを振り返る。
「ワトソンくんこそ、気をつけてね!」
 大きく笑顔で手を振って、裕美ちゃんは答える。
「さようならでしゅ!」
 貴裕くんもバイバイと手を振る。
 乱馬も手を振り返してやった。 
 曲がり角で二人の姿が見えなくなると、あかねは乱馬に向かってきいた。
「“ワトソンくん”って何?」
 乱馬は顔を赤くして、下を向いた。
「どうでもいーだろ。それより、帰ろ。」
「うん。」
 こうして、あかね行方不明事件は解決したのであった。








作者さまより

 “山口少年”の元ネタは、その名もズバリ“山口勝平さん”がネット・ラジオで演じられている役のことです。興味ある方は、検索エンジンで“山口少年”を検索してみて下さい。現在、月額500円で視聴可能です。

 なぜ、こんなお子様二人組を出したかというと、“あかね探しを乱馬一人でやってもつまらない”という、自分の考えからです。
 すると見事に乱馬は、このお子様達に振りまわされました(笑)。
 文章を書き書きしながら、乱馬の表情を想像して、ずっと一人で笑っていました。
 こういう、ほのぼのとしたのもいいですね(^_^)


 生駒山に邪魔されて殆どラジオが聴けない我が家(涙
 乱馬役の山口勝平さんがDJなさっているラジオ、山口少年かあ・・・「フリーダム探偵局」の文庫本なら持ってますが(笑・・・詳しくないのですいません。
 こういう微笑みがこぼれてくる作品もいいです。秋の夜長にどうぞ!紅茶でも入れてゆっくり味わいたいものです。
(一之瀬けいこ)



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