◇TRICK    出題編
みのりんさま作


「ここに一組のプレイング・カードがあります。」
「ただのトランプじゃない。」
 なびきのツッコミに動じず、拓也は続ける。
「“トランプ”というのは日本だけの名前。本当は、“プレイング・カード”って言うんだ。はい、よ〜く見て!」
 適当に四つのグループに分け、それぞれの一番上をめくる。
「おおっ!」
 思わず、早雲は感嘆の声を漏らした。
「この通り、見事四種類、全てのエースが揃いました。」
 そう、四つのグループに分けられたのトランプ一番上に、ダイア、ハート、クローバ、スペードのそれぞれのエースが表になっている。
「続きましては…………」
「こらっ!」
 拓也の頭を蘭子が叩く。
「勉強はしたの?ちゃんと宿題やらなきゃ、ダメじゃない。」
「うわ〜ん!今日は天気がいいから、遊びに行こうって言ったじゃないか!」
 トランプを投げ散らかしながら、拓也は言う。
「天気は関係無い。勉強!宿題っ!!」
「もう勉強、嫌だ!宿題、嫌だ!僕は遊ぶんだいっ!!」
 呆れた顔で、蘭子は拓也を見下ろした。
「たく、そう言うことを言い出さないために、わざわざ天道さん宅まで来たってのに……」
 勉強とは、研究論文の作成。宿題とは、学生に出す課題のことである。
 “某N大の助教授”を父に持つ蘭子は、その父を連れ、ここ天道家に訪れたのだが、この有り様である。
「こんな姿、誰かに見られたくは無いわね。」
「見られてるじゃない。」
 再びツッコミを入れるなびき。蘭子は吐息を漏らした。
「ただいまー。」
 ガラッと戸を開けて入ってきたのは、乱馬とあかね。
 机に突っ伏し、ジタバタと暴れる拓也を指差しながら、乱馬は聞いた。
「コレって何だ?」
 乱馬の問いに、キッパリ、はっきり蘭子は言い切る。
「勉強と宿題の締め切りに追われ、ダダをこねている子供よ。」
「やめる〜!」
「馬鹿!」
 バコッと蘭子は拓也の頭を殴った。
 ふと、そんな二人の様子を見て、あかねは思い立ったことがあった。
 家人には相談できなくても、この二人なら黙っていてくれるかもしれない。
「ねえ、お願いがあるんだけど……」
 そんなあかねを不思議に見上げながら、拓也と蘭子は着いて行った。
 バタンと部屋の扉を閉め、あかねは言う。
「これから言う話、絶対誰にも話さないで。」
「いいけど、どうかしたの?」
 蘭子はあかねのベッドに腰かける。
「別に、話したりしないけど。どうしたんだい?」
 やはり疑問符を語尾につけながら、拓也はカーペットの上に座る。
「実は…………」


 どこの学校にも、語り継がれる噂というものがあるだろう。
 その例を挙げるなら、“トイレの花子さん”とか“暗闇に光る音楽室の肖像画”など。
 ここ風林館高校にも、そういういわくつきのスポットがある。
 夜になると現れる、“幻の二年Z組”の教室。
 二階から三階に上がる東階段の踊り場に設置されている、大きな鏡。
 この鏡に、午前零時を告げる鐘の音が鳴り響く時、決して“自分の姿を写してはならない”という。
 何故なら――その姿を写せば、悪魔によって魂を奪われる。

 当階段の掃除当番である、あかねは、同じ掃除当番であるさゆりから、その話を聞かされた。
「毎日この前を通るけど、何も起こらないよ。」
 顔を引きつらせながら、あかねは言った。」
 恐いもの見たさというものは、大概の人が持っているだろう。
 だがしかし、実際にそれを見たいかといえば、あかねは決して見たくないという部類に入る。
「つまんねえの。」
 半分掃除をさぼりながら、ひろしが言った。
「あんたには関係無い。ねえあかね、見てこれ。」
 一枚の紙をさゆりはポケットから出す。
「何?」
 さゆりから受け取り、あかねはその紙を見る。
『風林館高校ミステリィツアー!参加者募集。十三日決行!!』
 それを上から見た ひろしは、ほうきの先に顎を当てながら言った。
「うさんくせぇ〜」
「ねえ、私達誘って参加しない?」
「え、でもゆかは?」
 すると、さゆりは首を横に振った。
「ダメだって。用事があるから、ね。」
 そう言って頼まれると、あかねはどうしても断れない性分だ。
 即OKを出した。


 ――十三日
 あかねはさゆりの家に泊まると、家人に申し出た。
 放課後、ミステリィツアーの参加者十名は、密かに美術室に集まった。主催者の一人が、美術部の部長だからだ。
 日が暮れて先生がいなくなるのを確認するまで、手元のヘッド・ライトの下で、密かにトランプに興じていた。
「あ、あかね。その時計いいなあ。」
 さゆりが言うと、あかねは腕時計を見た。
「そうかな。」
「うん。ねえ、ちょっとでいいから、貸してくんない?」
「え……でもこれ、そんなに良い時計じゃないわよ。」
 あかねが言うのに、さゆりは首を振りながら言う。
「すっごく素敵だよ。お願い、ね。」
 親友に頼まれては仕方がない。
 あかねはさゆりに時計を貸した。
「そういえば、おかしいよね。確かこの美術室にも時計なかった?」
 あかねの時計を手にはめながら、さゆりは言う。
「そうだっけ?覚えてないな。」
「次、天道さんの番だよ。」
 慌ててあかねは隣にいた女生徒が広げる、トランプから一枚取った。
「やった!上がりっ!」
 あかねの手に残されたトランプには、ジョーカがあった。
 先生や管理人達ががいなくなったのを確認すると、問題の十二時近くになるまで、様々なイヴェントが行なわれ、皆で騒いでいた。

「それでは、十二時近くになりましたんで、そろそろ行きましょうか。」
 男子生徒の言う言葉に、あかねは息を呑んだ。
 ライトが渡されるものだとばかり、あかねは思っていのだが、全員に下にアルミホイルが巻かれた、ロウソクが一本ずつ渡された。
「まるで、キャンドル・サーヴィスみたいだね。」
 ニコリと微笑みながら言うさゆりに、あかねはゆっくりと頷いた。
「雰囲気も盛り上がってきたところで!」
「出発します!」
 “ミステリィ・ツアー”と書かれた小旗を振りながら、主催者の一人が先導するのについて行く。
「天道さんって、可愛いね。」
 突然、知らない顔の男生徒から言われたあかねは、どうしたらいいものかと、さゆりを見た。
 さゆりは笑顔で言う。
「良かったね。可愛いって言われて。」
「え、でも……」
 あかねは下を向いた。
「乱馬くんには、私は黙ってるからさ。」
 そう言うさゆりは、ちっとも悪気なさそうである。
「あたし……そんな……」
 余計にあかねの頭は下に下がる。
「もう、照れちゃって。羨ましいぞ。」
 さゆりに背中を叩かれていた時、あかねは少し恐怖心を忘れていた。
 隣の館に移り、階段を上り始める。

 そしてその端にある場所で、“ミステリィ・ツアー”と書かれた小旗を振る男子生徒が止まった。
「まずは、有名な音楽室で〜す!さあ皆さん、耳を傾けてください。」
「きゃあ〜!」
 誰かが悲鳴を上げた。
 ゴクッ……
 唾を飲み込むあかねにも、しっかりとズンズンと低い音が聞こえてくる。
 ――嘘……
 あかねはゆっくりと、後ずさりを始める。
「はい、聞こえましたか?音楽室に宿る、邪気の蠢きが。」
「きゃ〜っ!」
 さゆりも声を上げて、あかねに抱きついた。
 すると、小旗を持つ男子生徒が、口元を歪める。
「この程度で驚いては、ダメですよ。次は三階の女子トイレにご案内しましょう。」
 そう言って、小旗をゆらりと揺らしながら彼は、ゆっくりと階段に向かう。
 ――怖い。
 恐怖が再びあかねの心を支配する。

「心霊写真でおなじみの、三階女子トイレです。では、ここではカメラを使って本当に幽霊がいるかどうか、撮影してみましょう。」
 そう言って、ミステリィ・ツアーの実行員の一人が、インスタント・カメラを取り出し、パチッと写真を撮る。
 待つことしばし、写真の画像がゆっくりと浮かび上がってくる。
 その写真を主催者の一人が、皆に回すようにと指示を出し、参加者の一人に渡す。
「うわ〜マジッ!」
 参加者の男子生徒が声を上げた。
 あかねもさゆりと一緒にその現物を見た。
 何と、トイレを背景に、半透明な髪の長い女生徒が写っていたのだ。
「きゃ――っ!」
 今度はあかねも悲鳴を上げた。
「どうですか。怖いでしょう。恐ろしいでしょう。」
 小旗を振る男子生徒の顔もロウソクに揺れ、その恐ろしげな形相が余計に恐く見える。
「次は四階の二年A組の教室に行きます。」
 正直、この時点であかねは家に帰りたくなった。
 しかし、親友のさゆりは、あかねに抱きつきながらも、小旗を振る男子生徒に続こうとしている。
 一人で帰るのも怖い。だから、仕方なくあかねはそれに続いた。

 二年A組の前で、小旗を振る男子生徒が立ち止まった。
「ここは、一人ずつ入って行ってもらいましょう。」
 そう言って、参加者を順番に一人ずつ教室の出入り口に、小旗を振る男子生徒が誘導する。
 一人が入るとすぐに扉を閉め、少し時間をおいて、次の一人を教室の中に入れるのである。
 そして一番最後まで残ったのは、あかねだった。
「では、どうぞ。」
 扉を開けられ、男子生徒にそう言われて、あかねは躊躇した。
 ――一体、何が待ち受けているのだろう?
 ゆっくりと、歩みを進め扉へと向かった。
 ガタッ!
 後ろの扉が閉められる。
 慌ててあかねは後ろを見た。
「おいで……おいで……」
 そして前を向き、あかねは顔を引きつらせた。
 前髪が口元まである少女が床に座り、右手で下に青白い輝きを放つ円を描きながら、左手で自分を手招きしているのだ。
「みんな…………」
 静まり返った部屋の中、誰の姿も見えない。
「うぎゃ―――――――――っ!」
 声を上げながら、必死でドアを開け、あかねは部屋から逃げ出した。
 扉の外にいたはずの、小旗を持った男子生徒もいなかった。
 ――嫌だ……みんなドコに行っちゃったのよ。
 泣きべそをかきながら、あかねは二年生の教室の最後の部屋の前にいた。
 ――幻の“二年Z組”が現れる…………
 あかねの脳裏に、さゆりの言葉が蘇った。
 ふと、ロウソクを上に上げ、教室の表記を見る。
 そこには、あるはずのない“二年Z組”の文字が……
「嫌――――――――――――――っ!」
 あかねは走った。とにかく逃げるために。

 そして、東階段を降りていることに気がついた。
 三階から二階へ降りる踊場に、鏡が設置されている。
 怯えながら、あかねが降りて行くと、どこからか鐘の音が鳴り始めた。
 ゴーン……ゴーン……
 鏡に映るはずの自分の姿が、全くの別の生物に変わっていた。
「きゃ――――――――――――――――っ!」
 もうあかねの頭の中は、グチャグチャだった。
 ――とにかく、逃げなきゃ!家に帰りたい!!
 校舎を出た後で、“パン”という破裂音がニ、三回した。

 あかねは猛ダッシュで天道家に戻り、泣きながら玄関の扉を開けてもらい、かけ布団にくるまって、怯えつつ夜が明けるのを待っていたという。 


 翌朝、何とか学校に行ったが、昨日あったはずの“二年Z組”はなかった。勇気を出して、東階段の踊り場の鏡も調べてみたが、普段通り自分を写すだけだった。
 逃げてしまった負い目もあり、さゆりともギクシャクしてしまっている。
 家人に話すにしても、こっそり学校で夜を過ごしたなど言えず、困っていた、とあかねは最後に告げた。

 話を最後まで聞いた拓也は、あかねを見上げながら言った。
「明日、そのイヴェント参加者を全員集めて、こう言ってやりな。」

『お前ら○やったことは、ツル○と丸めて、全○お見通しだ!』
 皆を見まわしながら、あかねは指を差す。
「ごめん……あかね。」
「すまなかった、天道。」
 そして、全員から頭を下げられた。




 つづく




 読者への挑戦状!
 祝!ドラマ“TRICK”パート3!←ファンです(^_^)。
 さあ、ここでクエスチョン!
 あかねの身に、一体何が起こったのでしょう。
 これは“ただのホラーではありません”。全て“論理的に解決”されます。
 正解者には、“富士山頂のおいしい空気”をプレゼント←できるか!
 
 冒頭の助教授の話は、多少脚色を加えましたが、引用、転載可のメルマガ“まぐまぐVOW”の投稿にあった話です。
 ちなみに最初の手品は、“タネは明かすべからず”というマジックの基本にのっとり、秘密です。まあ、検索かければ出ますけどね(←私もコレで知りました。そう言えば昔こんなCMありましたね(笑)。)



 さあ、回答編へ!


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