◆エールを君に
みのりんさま作


――チリン。
 風に揺られて、風鈴が音を鳴らす。
 その軒下で、乱馬は一人昼寝をしていた。
 グーグー
 スヤスヤ……
 寝息を立てながら、寝返りを打つ。
 ガチャ――
 冷たい物が頬に当てられた。
「ん――」
 鬱陶しげに目を開けると、麦茶に氷が入っているグラスを自分の頬に当てている、あかねがいた。
「――何だよ。」
「冷たい麦茶。お茶しない?」
「お茶?」
「そ。」
 目を擦りながら、乱馬は身体を起こす。
「お父さん達もお姉ちゃん達も皆出て行っててつまんないの。」
 あかねはすねたような顔しながら言う。
「だからって、わざわざ起こすなよ。」
「いーじゃない。こんなにいい天気なのに、グースカ寝ているより、お天道様見上げてさ……」
「で、どーしようと?」
「…………」
 乱馬は呆れたような顔で、あかねを見る。
「何も考えとらんな。」
「悪い?!」
 開き直りかよ――乱馬は溜め息をついて、あかねからグラスを受け取った。
 ゴクゴク…… 
 冷たい液体が眠気を振り払う。
「今度ね、水泳大会あるでしょ。」
 俯きながら言うあかねに、麦茶を飲むのを止めて、乱馬は頷く。
「ああ。」
「あたし、エントリィしたいなって……」
「できるわけねーだろ。超ミラクル・ハイパー・カナヅチなお前にゃ、一億年経っても無理、無理。」
 あかねはむっつりして、
「そんな……言い方ないでしょ。」
「他にどういやいいってんだ。」
 そして一気にグラスを傾け、麦茶を飲み干す。
「サンキュ。じゃあ、おれもどっかへ行って来よっかな……」
 立ち上がり、身体をえいと伸ばして、乱馬は言う。
 と、あかねは両手を後ろにして、立ち上がった。
「どーしたんだ?」乱馬はあかねに問いかける。
 何か言いたげな顔である。
「後ろ、何隠してるんだ?」
 するとあかねは、プイと横に目をそらした。
「……何でもないわよ。何でも……」
 顔が赤い。
 ――ははん。
 ニヤリと乱馬はあかねを見た。
「おっ、アレな〜んだ!」と、右手で明後日の方角を指す。
「え、何。」
 思わずあかねは指先を見つめてしまった。
「ほいっと、何だこの袋?」
「あっ!」
 あかねは声を上げた。
「返してよっ!」
 べーっと乱馬は舌を出す。
 取り返そうと必死にあかねが手を上げるが、ひょいひょいとそれを乱馬はかわしていく。
 そして袋を下に向け、中身を下に落とす。
「何だ。水着とバスタオルじゃねえか。」
 あかねは顔を真っ赤にして、それを拾い上げる。
「なあ。ひょっとして、おれを誘いたのか?」
 あかねはパッと水着とバスタオルを後ろにやって、何度も首を振る。
「…………」
 そして、あかねが立ち去ろうとする後姿に、乱馬は声をかけた。
「ま、おれも暇してるし。ついて行ってやってもいいぞ。」
「別について来て欲しいわけじゃ……」
 そう言いながらあかねは立ち止まる。
「ま、お前の溺れる姿は見飽きたからな。この夏こそ頑張ってみれば。」
 あかねはゆっくりと、乱馬の方を見る。
 そんなあかねを微笑んで、乱馬は見つめていた。







作者さまより

 短編が書きたい。
 その一心で作ってみました。拙作はとにかく長いので(^_^;)
 出来上がった時には、思わず万歳してしまいました。


 
 みのりんさんのお言葉、それわかります(笑
 私も気がついたら、作品が長くなっていまして。短編は苦手かも(苦笑
 あかねちゃん・・・泳げるようになったのでしょうか?
 でも、乱馬も水際では男の子じゃなくて女の子なのですよね。と変なところに気持ちが集中してしまいました(笑
(一之瀬けいこ)



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