◆インベーション 前編
原作 芽生さま
文章 一之瀬けいこ


一、溜め息の朝


 天空から太陽が燦々と照りつける真夏の朝。
 ふうっとあかねは大きな溜め息を吐き出した。特大級の溜め息だ。

「どうしたの?溜め息なんか吐いちゃって…。」
「また、乱馬君と喧嘩でもしたの?」
 一緒に歩いていたゆかとさゆりがあかねへと話しかけた。
「べ…別に、何でもないわ…。何かちょっと、溜め息を吐くのがクセになっちゃってるだけよ。」
 と、あかねは答えた。

「あんまり溜め息ばかり吐いてると、幸運が逃げちゃうんだってさー。」
 ゆかが笑いながら、そう指摘する。
「え―本当?」
「うん…この前、どっかの占い師がそんなことを言ってたわ。溜め息ばかり吐いちゃダメってことね。」

 そんな会話を交わすゆかとさゆりの間で、また、ふうっと大きな溜め息が聞こえてきた。
 溜め息の主は、勿論、あかねだ。どうやら、本当にクセになってしまっているようだ。

 ゆかとさゆりは、顔を見合せて、あかねを見返した。あかねは二人の視線を受けて、思わずバツが悪そうな苦笑いを浮かべる。
 
「ほらまた無意識に溜め息なんか吐いちゃって…悩み事でもあるの?」
「わかった、また、乱馬君と喧嘩してるな?」
「乱馬君ってば、相変わらず優柔不断だしねえ…。」

 気の毒そうに、少女たちはあかねを覗きこむ。


 高校二年生の夏休み。
 相変わらず、乱馬とあかねの仲は、大きな進展を見せることもなく、つかず離れずの関係を続けていた。


「乱馬のことは良いわよ…。あいつの優柔不断は今に始まった訳じゃないから…。」
 青い空を恨めしそうに眺めながら、あかねは言葉を吐き出す。
「あかね…あんただって相当優柔不断だと思うけど…ねえ、ゆか。」
「だよねー。乱馬君のことばかり責められないんじゃないの?」
 さゆりもゆかも笑った。
「それよりも…早く行かなきゃ。売れ筋からなくなっちゃうよ。」
 あかねは話題を払拭するように、言葉を挟んだ。
 これ以上、乱馬とのことを突っ込まれるのも、こりごりだと思ったのだ。
 地元、練馬のショッピングモール。サマーバーゲンがあるからと、ゆかとさゆりに誘われて、あかねも出てきたのだった。



「ふう…。」


 そんな、女子高生たちの一行を横目に、もう一人、溜め息を吐きながら通り過ぎる少年が一人。
 Tシャツに長ズボン、そして岡持ちを片手に真夏の太陽に焦がされながら、とぼとぼと歩いていた。
「今日もシャンプーに冷たくされただ…。」
 肩を落としてとぼとぼと歩いている。ぐるぐる眼鏡の長髪の少年。そう、ムースだった。出前の帰り、空の岡持ちを下げて、猫飯店へと帰る道すがら、考え込みながら歩いていた。
 岡持ちを持たない左手をぎゅっと握りしめる。掌の中に、小さなブローチを握りしめていた。
「この反転宝珠をシャンプーに付けて振り向かせたいだ…。」
 そんなことをぶつぶつと口にしていた。

 反転宝珠。

 皆さんは、この物騒な女傑族の宝物を覚えているだろうか?
 一見、何の変哲もないブローチだ。
 しかし、この人の顔をかたどった不思議な模様は、付ける位置によって人の心を操るのである。「にこちゃん顔」の正位置へつければ好きな人への愛情は倍増する。一転、「困ったちゃん」顔の逆位置へつければその愛情さは憎悪へと変化する。
 使い方を誤れば、迷惑至極、いや、地獄を見ることになるのだ。
 現にシャンプーが逆位置につけた時、ムースは普段の数倍邪険に扱われた。コロン婆さんが称したように、多少はシャンプーが自分を好いていてくれている証だったようにも思える。
 無論、乱馬に対しては、けんもほろろで、冷たくあしらっていたのだが。
 果たして、正位置へつけたシャンプーは己を振り返ってくれるのだろうか…。
 ブローチを見る度に、考えてしまう。

 が、もし振り返って貰えなければ、藪蛇だ。更に追い打ちをかけられることになる。

「やっぱり、この反転宝珠は、不用意に使う代物ではないだな…。」
 ふううっとためらいの溜め息を吐き出すと、持っていた反転宝珠をズボンのポケットへと仕舞い込んだ。

 だが…次の瞬間、反転宝珠はムースのポケットに入らず、ポトリと道端へと落ちてしまった。ムースは、反転宝珠が落ちたことに、気がつかずに通り過ぎてしまった。
 気が付いたとしても、ど近眼のムースが拾い上げられたかどうかは不明であるが…。
 ともあれ、ブローチは商店街の道端に、投げ出されてしまったのだった。
 しかも、悪いことに歩道からは死角になっていて、誰も反転宝珠に気付くことなく通り過ぎる。



 何十人かの人々が通り過ぎた後、たまたま、久遠寺右京がそこを通りかかった。しかも彼女は歩道を外れて手押し車を引いて歩いていた。
 背中には大きなコテを背負い、手押し車を引きながら、よいしょよいしょと商店街を歩いていた。手押し車にはキャベツがいっぱい積み上がっている。
 そう、仕入れの帰りだった。 
 右京の店は、学校が長期休みに入ると、夕方だけではなく、昼間も暖簾をあげていた。
 近所の主婦や子供たちが、手軽な昼ごはんやおやつとして、食べに来るのだ。
 本格的な関西風お好み焼きが、手頃な値段で食べられると、結構評判の店になっていた。
 ちょっと油断していたすきに、保冷庫のキャベツが底をついていた。
 いや、正確には、保存に失敗し、腐らせてしまったのだった。
 大慌てで八百屋へと買い出しに出てきたのである。早く帰らねば、ランチのお客さんを取り逃がすことになる。それはそれで右京は焦っていた。
 
「ホンマ、暑いな、かなわんなー…。」
 右京はカンカンと照らしつけて来る朝の太陽を、恨めしげに見上げた。
 立ち止まると、背中から汗がどっと噴き出してくる。身体中の毛穴から汗がにじみ出してくるように思えた。
 おもむろに、ペットボトルをリュックから取り出し、ゴクゴクと水を喉へと流し込む。定期的に水を補給しなければ、熱中症になりそうだった。
 生ぬるい湯のような水。それでも、喉を潤すには事足りた。一気に半分ほど飲み干すと、タオルで汗をぬぐう。ぬぐってもぬぐっても、次から次へと溢れ出す汗。また水が欲しくなるのをグッと我慢した。
「あかん…はよ帰ろ…。ぐずぐずしとったら、干物になるわ!」
 そう吐き出して、再び足を運び出す。

 キラリ…。

 と、ふと陽炎で揺れるアスファルトの道端にきらりと光る物を見つけた。

「なんやこれ?」
 ふと目を止めた右京は、そいつを拾い上げた。 
 しげしげと眺めると、それは丸い七宝焼きのようなブローチだった。目、鼻、口のようなものがかたどられて、顔のようにも見えた。
 
 捨てる神あれば拾う神有り。よく言ったもので、それをひょいっと拾い上げてしまったのだ。
 そう、右京は手にしたのは、ムースが落とした、反転宝珠だった。

「きれいなブローチやな。誰かが落として行ったんやな…。いや、捨てていったのかもしれんなあ…。ゴミの集積所も近いし…。」
 ふと視線を上げると、ビニール袋が積み上がる、ゴミの集積所が目に入った。たまたま、ごみ収集の場所の眼と鼻の先に、反転宝珠は落ちていたのだ。

「見たところ、警察に届けるような高価なものでもなさそうやな…このまま道に埋もれさせるのは勿体ないわ。ウチがもっらとこ。」
 材料が入った手押し車の中にすっぽりと入れると、また、ふうっとひとつ溜め息を吐き出す。
 道端の時計が目に入った。
 針は午前十一時をさしていた。

「わわわ…もうこんな時間やん。早く帰って店あけな…。」



二、豹変

 ふうっ。

 空を見上げて、乱馬は息を一つ、大きく吐き出した。
 じりじりと照りつけてくる太陽を、恨めしげに見上げる。

「ちぇっ!まだ、梅雨が明けたばっかなのに、もうこんなに暑いのかよ…。」
 
 今年の夏は、いつもの年よりも数段暑さに過激さが増したように思う。憎たらしいほど晴れ上がった空は、涼風を微塵も寄せ付けなかった。
 実際には、真夏の気温など、毎年似たり寄ったりなのであろうが、こう暑いとブツクサと文句を吐きつけてみたくなるのが人情だ。
 天気予報は暫く真夏日が続くと言っていた。雨が降ったら降ったで、ずぶ濡れになって女体化する身の上。女になる必要はないから、晴天の方が良いに決まっているが、こう、カラカラ日和が続くと、雨が降って欲しくなる。
 カラカラなのが天気と喉だけならまだしも、財布の中もすっからかんだった。これでは、飲料水も買えはしない。

「はああ…。たく…これみよがしに、補習授業なんてやりやがって…。校長の野郎…。」
 背中に鞄を背負ったまま、汗だくになって太陽の下、家路に就く。寝坊して朝ご飯は食べられなかった。つまり、喉が渇いている以上に、空腹だった。
「あかねの奴…。あれほど朝、起こしてくれって頼んでたのに…無視しやがって…。おかげで朝飯、食い損ねちまったじゃねーかっ!」
 汗と共に、だらだらと、文句ばかりが口を吐いて出て来る。

 そう、夕べ、痴話喧嘩が勃発した結果、あかねとは険悪ムードになっている。
 原因は些細なことだったが、一晩明けても一向に修復できる気配は無かった。当然、乱馬が補習に出掛けることを知りながら、あかねは、朝、起こしてくれなかった。
 自分で起き上がって登校するのが当然でしょ…という、あかねらしいしっぺ返しだと恨めしく思った。
 無論、あかねに補習授業のお呼び出しはかからなかった。優等生の彼女は、欠点を一つも取っていなかったからだ。
 単に、自分に関係無いと、起こすのを忘れていただけかもしれなかったが、喧嘩中の乱馬には、嫌みにしか感じられなかった。
 乱馬は案の定、欠点だらけの成績表を貰っていた。故に、強制的に補習授業に召喚された。もし、サボれば、留年させるし、遅刻をすれば宿題を倍出すと脅されて、渋々、定刻に登校したのである。
 補習授業は三時間きっちり。十一時過ぎに帰宅となった。
 まだ、正午までには時間があるものの、頭上で太陽は容赦なく照らしつけてくる。アスファルトの道は照り返しで、空気が重い。

「あづーい…。喉渇いた…。腹減った…。」

 格闘馬鹿の乱馬といえども、灼熱の暑さと空腹には勝てなかった。

「これじゃあ、家まで持たねえぜ…。」
 ふと顔を上げると、右京の店が見えた。店先には打ち水が打ってある。しかも、暖簾が上がっている。

『乱ちゃんやったら、いつでもタダでお好み焼き食べさせたる。遠慮せんといつでも来てやー。』
 日頃から右京は乱馬へとそう声をかけてくれていた。
 あかねの手前、そう、しょっちゅう出掛けるのも気が引けたから、本当に空腹で困った時だけ頼る右京の店。
 ゴクンとカラカラの喉が鳴った。

「ダメだ…もう限界だ…。」

 暖簾をたくし上げ、ガラガラと引き戸を右手で開くと、
「うっちゃん、お好み焼き食わしてくれ…。」
 と言いながら、ずかずかと店の奥へと入っていった。

 店に入ると涼しいエアコンの風が乱馬に当たった。

「涼しいー。ウっちゃん、豚玉一枚!」
 と、カウンター席に腰掛けながら乱馬が言った瞬間、頭の真上からコテが強襲してきた。右京が巨大ゴテで乱馬をハエ叩きのように責め立てたのだ。

 バシン!

 鈍い音がして、熱くなった鉄板の上に顔から思い切り手を付いた。

「熱っ!あつつつつっ!」
 溜まらず、乱馬は顔を上げる。と、右京が物凄い形相で乱馬を睨みつけていた。
 傍では、小夏がおろおろとその様子を見ていた。

 
「何や、乱馬ッ!あんたっ!何しに来たんやっ!」
 右京が声を荒げて乱馬へと言葉を投げつけて来た。いきなりの呼び捨てだった。

「何って、お好み焼きを食べさせて貰いに来たんだけど…。」
 キョトンと乱馬が右京を見上げると、間髪入れず右京はまくしたててきた。

「なら、先にお金払ってんかー。あんたうちにつけがいくらあるのか、わかっとるんか?このままやったら、うちの店、潰れてまうわ。豚玉食べたいんやったら、今までの家の店のツケ、一万円。きっちり払ってもらおうかー。」

「はん?ツケ?一万円?」
 思わず、問い返してしまった。
 勿論、今まで右京にお金など正面から請求されたことなどない乱馬。右京の豹変ぶりに驚いた。

「またまたまた、冗談きついぜ…。ウっちゃん。」
 と愛想笑いを浮かべた瞬間、また、コテが脳天から降って来た。

 ボカン!

 乱馬の脳天にコテがまともに入り、鉄板に打ちつけられた。

「冗談なんかやないでっ!はよ、ツケ、払ったらんかいっ!」

「へ?」

「あんたに食べさすものはうちの店にはなんもあらへん。さっさと出て行きー。顔も見とうないわ。ほな、さいなら。」

「うっちゃん、どうした?俺、なんかしたか?」
 訳もわからない乱馬は、顔中を「?(クレッションマーク)」だらけにして、問いかける。

「とにかく、ウチはもう、あんたの顔、見たくないんや、さっさと出て行ってー!」
 右京から繰り出された、大小あまたのコテが乱馬を強襲する。もちろん、一切手加減などするつもりはないらしい。
 コテの乱打だった。

「わっ!わたっ!ウっちゃん、やめろっ!やめろってー!」
 叫びながら、乱馬は右京の店を飛び出した。






「困っただ…。落としちまっただ…。」
 ムースは岡持ちを片手に、元来た道を辿っていた。
 反転宝珠のブローチを落してしまったことに気が付いたのだ。勝手に持ち出して来たものだから、このままでは、コロンおばばに怒られる。
 焦りながら、探していた。
「いい加減に出前から帰らねば…やばいだ…。」
 太陽が燦々と照らしつけていることも、気にならなくなったムースは、眼を凝らしながら、眼鏡越しに探し回る。

「ん?何か騒がしいだな…。右京の店か?」

 ガラガラっと勢いよく引き戸が開くと、大慌てで飛び出して来た人影が視界に入った。ど近眼のムースにはにわかに乱馬とは判別できなかったが、何やらひと騒動があったことだけは、伺えた。
 目を凝らして、右京の店先に焦点を合わせる。

「むむむ…あれは乱馬だか?真昼間から、何やってるだ?」

 飛び出して来た乱馬をまだ追いすがるように、もう一人、店から飛び出して来た。右京だ。
 乱馬を追いだしただけでは満足いかなかったらしく、肩で息をしながら、巨大コテを乱馬へと差し向ける姿が、ムースの視界に入って来た。
 
「様子がおかしいだ…。」
 ムースはじっと二人の様子を伺った。

「ええな!あんたっ!ツケが払えんのなら、もう来んなっ!」
 そう言いながら怒鳴りつけている右京へ目を転じ、ハッとした。
 乱暴に乱馬を足蹴にしている右京の襟元には、怒った顔のブローチが輝いているではないか。

「あー…あれは…。」

 そう、それは紛れもなく、反転宝珠。さっきからムースが探していた代物だった。

「何故、右京が持ってるだ?」
 そう考え込みながら、電信柱の影に隠れて、乱馬と右京の様子を観察し始めた。

「ええな、二度とウチの店には来るなっ!ほな、さいならー。」
 右京は乱馬へ散々放言を放つと、ガラガラピシャンと引き戸を乱暴に閉め、店の奥へと消えた。
 近眼のムースの目にも、右京が乱馬を邪険に扱っているのがわかった。

「ははーん、右京は逆位置へ宝珠をつけただな…。」
 ムースは心の中でクスクスと笑った。

 店の外には、訳も分からず、目をぱちくりさせる乱馬。完全に呆けていた。

 プライド高き、乱馬には、右京の豹変が俄かに信じられなかった。
 店の前に座り込んだまま、考え込んでいる。
「俺、うっちゃんになんかしたっけ?…最後に会ったのは、確か一昨日の帰りにシャンプーたちに追いかけられたときだ…。あん時はいつもと変わらなかったよな?」
 黙りこくって、考え込んでいた。

 とその時だった。
 チリンチリンと自転車の呼び鈴が聞こえた。
 キキーッ!とブレーキの音がして、自転車が乱馬の傍らに止まった。
「乱馬っ!昼日中、こんなところで何してるある?」
 自転車にまたがったまま、声をかけてきたのはシャンプーだった。
 乱馬はじっとシャンプーの顔を見上げながら言った。
「シャンプーは別に俺のこと、嫌いじゃねーよな?」
 右京の嫌悪に戸惑った乱馬が投げた言葉だったが、シャンプーはそのまま、乱馬へと抱きついた。
「嫌いなわけないあるー。大好きあるっ!」
 そう言いながら、自転車を傍らに倒すと、乱馬の首根っこへと抱きついた。
「…そっか…。そうだよな…。あは…。あはは。」
 乱馬は力なく笑った。

 グーッ!

 乱馬のお腹が大きく音をたてて、鳴った。空腹であることがみるみる甦って来る。

「乱馬、お腹すいてるあるか?」 
 すかさずシャンプーが問いかけた。
「あ…ああ。ペコペコだ。」
 乱馬は苦笑いしながら頭を掻いて見せる。
「なら、猫飯店(うちの店)に来るよろし。ごちそうするある。」
 背に腹は代えられない。空腹を満たすには悪くない話だ。この無神経男は、促されるままに自転車の荷台にまたがると、そのまま猫飯店の方向へと立ち去って行った。


 その様を見送るムース。
「フッ…。」
 と自嘲気味に笑う口元はひくついている。ギュッと拳を握りながら、自転車を見送る。
「乱馬…。よ、よくも、オラの目の前でシャンプーを誘惑しただな…。そっちがそう出るなら見て居るだ…。復讐してやるだ…。ふふ…フフフフフ。」
 

 バシャッ!

 水音がして、ムースはみるみるアヒルへと変身した。

「何や…ムースやったんか。」
 ふと振り返ると、右京がバケツを抱えて立っていた。
「人の気配がなかなか去らへんから、うちはてっきり乱馬が未練たらしくそこに居るかと思っとったわ…。ごめんな…。」
 と、わびをいれてきた。

 キラリ…。

 ムースの瞳が妖しく光ると、電光石火。右京から反転宝珠を奪い取った。元々ムースが持っていたものだから、奪い返したと言った方が適切なのかもしれないが。
 とにかく、ムースは右京から反転宝珠を引き剥がすと、グワーグワーと声をたてながら、どこかへと行ってしまった。


「あ…あれ?う…うち…。」
 
 我に返った右京は、一人店の前に取り残されて立っていた。
 無論、反転宝珠のことは忘れ去っていた。乱馬が来たことも忘れている。
 手にはバケツを持っている。
「ま…ええわ。そろそろ昼ごはん時の客が来る頃やから、店の準備せな。」
 そう呟くと、右京はそそくさと店の中へと引っ込んで行った。
 


つづく



 一之瀬的戯言
 芽生さまにいただいた初投稿の作品を添削するうちに、なんだかどんどん悪乗りし始めて…夢中で勝手に物語を膨らませてしまいました。
 人様のプロットを、自分で膨らませて本格的に書きたくなって…許可をいただいて、自由奔放に展開させていただきました。




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