◆生きる
芽生さま作



 季節は初冬、12月、街はクリスマスの飾りであふれ、街行く人々もどことなくうれしそうであった。昨日ちょっとせっかちな大寒波がやってきて、風がとても冷たい。
 あかねは一人、商店街から流れるクリスマスソングに合わせながらハミングしてウィンドウショッピング。
「あ、あんなところに新しいカフェができてる!ケーキセット500円だって、安ーい!今度乱馬誘ってみようかな。」
 いつも一緒に帰る乱馬は今日は居残り勉強、留年の影がちらほら見え隠れしてるので必死である。
 必死に頑張ってるとあかねは思っていた。留年になれば同じクラスには絶対になれない。
 なのに、あかねが目にしたものは乱馬がシャンプー、右京、小太刀と仲良く?追いかけごっこをしている光景であった。

「乱馬!何やってるの!補習はどうしたのよ?」逃げる乱馬にあかねは叫んだ。

「そんな、かったるいのやってられっか。」と、乱馬は通り過ぎて行った。三人娘と共に。



 あかねが家に帰ると乱馬もちょうど玄関に滑り込む。

「はー、疲れた。」

「乱馬、あんた、留年したいの?補習よりもシャンプーたちとの時間が大切なのね!毎日、毎日、飽きもせずに!!」

「好きでやってんじゃないって、わかっているだろ!ほんと、おめーは毎日、毎日、かわいくないよな。ついでに寸胴だし、料理はまずいし。はー、腹減った。なんか食うもんさがしてこよっと。」

「じゃあ、かわいくて、料理の上手な許婚のところに行けばいいじゃない!たくさんいるでしょ!乱馬の馬鹿!!」
 あかねの平手打ちが乱馬の左頬にきまった。

 あかねは必死で勉強していると思ってた乱馬が遊んでいて、裏切られたようでいらいらしていた。
 乱馬は走りすぎておなかがすいていらいらしていた。

「痛えーな・・・・・。そうだな、うっちゃんにおいしいお好み焼きを食べさせてもらうかな。じゃあな。」

「ふんだ!勝手にすれば。」 

「ちぇっ!」乱馬は左頬を押さえながら出て行ってしまった。

「乱馬の馬鹿、馬鹿、馬鹿!」部屋に戻ってもあかねの怒りは収まらなかった。
 先生だって、乱馬のためにせっかく時間を割いてくれてるのに、どうしてサボれるんだろう?留年してもいいのかな。私と離れてもなんともないのかしら・・・・?右京のお店にいったのかな・・・・。ま、たまに一人でも寄ってるみたいだけどね。でも、もしかしてやっぱり許婚は右京がいいって思っているのかも・・・・・。右京のほうがかわいいし、お料理上手だもんね。はー・・・・。なんで私だけこんなに悩んでるんだろう。乱馬は私のことどう思っているんだろう・・・・。
「はー。」


 乱馬は夕食には帰ってきて、右京の店に行ったのか、行かなかったのか、いつも通りの食欲で食べていた。ただあかねとは一言も話さず、見ようともしなかった。
 あかねは食欲はそれほどなかったが、乱馬と同じく、一言も話さず、乱馬を見ようともしなかった。
 こんなことはよくあることだったので、食卓についていた者はさほど気にはせず、箸を動かしていた。



 次の朝、あまり眠れなかったあかねは、食欲もなかったので朝食抜きで、そのまま乱馬を待たずに学校に行ってしまった。
 乱馬はぎりぎり遅刻にはならなかったが、右京は3時間目の終わりに教室に入ってきた。なんとなく元気がなかった。
 4時間目が終わった後、右京は乱馬のところにきて、ちょっと話があるから裏庭にきてと言っているのをあかねは聞いてしまった。二人は裏庭へと向かった。あかねも乱馬たちより少し遅れて、こっそり裏庭に行ってみた。校舎の影に隠れてあかねの見たものは乱馬が右京の抱きしめていた光景だった。実際は乱馬は右京の肩に手を軽く置いていただけだったが、あかねには抱き合っているように見えたのだ。右京は泣いているのか肩を震わせていた。
 あかねは心臓を誰かにえぐられたようなショックを受けた。そして、そこに座り込んでしまった。すごくショックで悲しいのに不思議と涙は出てこなかった。何も考えられなかった。乱馬たちの姿はいつのまにか消えていた。。
 どの位そこに座っていたのだろうか、午後の授業の始まりの予鈴がなり、あかねはなんとか立ち上がり、教室に向かった。よろめきながらもなんとか教室の入り口までいったところで、友人たちが駆け寄ってきた。

「あかね!どこに行ってたのよー?なんか顔色悪いけど大丈夫?」

「うん、昨日あまり眠れなかったから、ちょっと調子がいまいちかも。」

「もう!無理しないで。乱馬君に保健室連れて行ってもらったら?」ゆかは振り返って乱馬を探すが見当たらない。

「あれ?乱馬君は?」  「乱馬ならなんか右京と早退したみたいだぞ。」男子が答えた。

右京と早退。それを聞いたあかねは意識を失ってしまった。

「あかね!あかね!誰かきて!もう!こんなときに乱馬君がいないなんて。」



 気が付くとあかねは薄暗い自分の部屋にいた。学校から電話があり、早雲が迎えに来てくれたのだ。
 一瞬すべて夢だったのかと思ったが、制服のままベッドに入っていることに気付き、涙があとからあとからあふれてきた。

 夢だったらよかったのに・・・・。もう一度昨日をやり直せたらいいのに・・・・・。悪いのは私。私がかわいい許婚の方に行けばって言っちゃから。私が素直じゃなかったから。悪いのは私。かわいくないし、不器用だし、素直じゃないし、暴力的だし、こんなんじゃ乱馬が右京選ぶの当然だよね・・・・・・。でも、乱馬がいなくて、私、どうやって生きていけるのかしら・・・・?
 涙は止まらなかった。


 その日の天道家の食卓は、乱馬もあかねもいないのでとても静かだった。

「乱馬の奴はどこに行ったんだ。あかね君が倒れたときもいなかったそうじゃないか。」玄馬が口を切った瞬間に

「あかねが倒れたって?!!」乱馬が居間の扉を勢いよく開けて入ってきた。すごい形相で玄馬に襲い掛かりそうな勢いだ。

「乱馬君、大丈夫よ。ただの寝不足と空腹で倒れただけだから。今、部屋で寝てるの。」かすみがあわててとりなす。

「乱馬、おまえどこに行ってたんだ。連絡もくれんで。」再び玄馬が乱馬をにらむ。

 乱馬はそれには答えず、あかねの部屋に直行した。それを見たなびき、早雲、玄馬も後を追おうとしたが、のどかが一言ぴしゃりといった。
「食事中に席を立つのはお行儀が悪いですよ。」
「そうだよ。なびき。ちゃんと食べてからにしなさい。」と、早雲。
「お父さんだって行こうとしてたくせに。」
 3人はその後一言も話さずに箸を動かしていた。

「あかね、入るぞ!」乱馬は返事を待たず、薄暗いあかねの部屋のドアを開けて入った。

「な、何、勝手に入ってくるのよ!!」 
 あかねは涙を見られないように毛布を頭から被った。月の明るい夜でカーテンは閉めてはなく、泣いてるのが知られそうで怖かったのである。

「よかった・・・・・。生きていて・・・・・。」乱馬はささやくように言うと、あかねのベッドに腰を下ろした。二言目はあかねには聞き取れない位小さな声だった。

「健康だけが取り柄のおめーがなんで倒れたんだよう?」

「ただの寝不足よ!あんたこそ右京となんで早退したのよ?!」

「・・・・・・。」

「そう、私には言えないのね。」

「・・・・・うっちゃんの・・・おやっさんに会ってきた。」

「え?」右京のお父さん?それって、結婚の挨拶?もうそこまで話が進んでいるの?
「そう・・・・、じゃあもう、うちを出て行くのね。」

「な、何言ってんだよう!?」

「だって、右京と結婚するんでしょ!おめでとう!」あかねはの声はうわずって、涙がまたいっぱい出てきて、毛布をつかむ手も震えだし、もう絶対乱馬に泣いてるのはばれたと思った。

「・・・・うっちゃんのおやっさん・・・昨日・・・死んだんだ・・・・・。」

「死んだ!!?」あかねは驚いて跳ね起きた。乱馬はあかねに背を向けていた。

「うっちゃんのおやっさん・・・・何年か前から行方不明だったらしいんだ。結局、新宿界隈で浮浪者やってたみたいで、酒が好きな人で、酒飲んでそのまま路上で寝ちまったらしいんだ。昨日の夜寒かっただろ?そのまま冷たくなっちまったそうだ・・・・。おやっさん、うっちゃんの写真を大事に懐に持ってて、それに店の電話番号もあって、今朝うっちゃんに警察から電話があったんだ。身元確認に来て欲しいと。うっちゃん一人じゃあ行けなくて、ほら、俺、幼馴染でおやっさんの顔知ってるから、一緒に行って欲しいと頼まれたんだ・・・・。俺、死んだ人初めて見たんだけど、全く動かなくて、冷たくなってって、もちろん息もしてねー・・・・・・。」
 あかねは静かに乱馬の話を聴いていた。

「そしたら、そしたら・・・。」乱馬の声が震えだした。あかねは乱馬を見た。乱馬が肩を震わせて泣いているのが薄暗い中でもわかった。
「乱馬?」

「そしたら、呪泉郷で息してねーあかねを思い出しちまって。帰ったら、あかねが倒れたって聞いて、俺、俺、あかねが死んじまったんじゃないかって・・・・。俺・・・・あかねがいねえと生きていく自信がない・・・・・。」

 一緒だ、と、あかねは思った。私たちはお互いが傍にいないと生きていけない。
 あかねは涙をこらえて震えている乱馬の右腕をそっとつかみ、おでこを押し付けて言った。

「乱馬の腕あたたかい・・・生きているから。私もこのぬくもりを感じられる。私も生きてる。でも私たちそれだけじゃあだめなのよね。お互いが傍にいないと・・・。私ね、昨日乱馬にかわいい方の許婚の方に行けばって言っちゃて・・・・・、今日学校で乱馬と右京が抱き合ってるのみて、私、体から力が抜けて、立てなかったの・・・・。私も乱馬が傍にいないとだめなの・・・・・。だから私、もう少し素直になってみる・・・・。」

 乱馬は左手をあかねの手に重ね振り返って、あかねを見つめた。

「あかね・・」「乱馬・・・」

 その瞬間、あかねの部屋のドアが勢いよく開いて、なびき、早雲、パンダが倒れこんできた。
「いたーい、おじさま押さないでよ。」
「なびき、盗み聞きはよくないよ。」
「お父さんだって!」
「ぱふぉ、ぱふぉ」

「おめーら、何やってんだよう!?」「お父さんたち!!!」

「もういいところだったのに!」となびきが嘆く。

「それはこっちのせりふでい!」と乱馬がこっそりぼやく。

「あー、なんかおなかすいちゃった。かすみお姉ちゃんにご飯あるかきいてこよっと。」
「ちぇっ、本当に色気ないな。」
「ふん、悪かったわね。生きるってことはおなかが空くことなのよ!」
「はい、はい、俺も夕飯まだっだな。かすみさーん、俺の分もお願いしまーす!」

 二人は居間へと階段を下りていった。

 途中、あかねは乱馬にたずねた。
「右京は・・・今大丈夫なの?」

「あー、うっちゃんには小夏がいるから。あいつが守ってくれてる。俺があかねを守るみてーに。」

 あかねは乱馬ににっこり微笑むと居間へと入っていった。




おわり


うっちゃんのお父さんごめんなさい。



一之瀬的戯言
 いかがでしたか?初登場の新たならんまワールド。
 私と同じく、遅れて来たらんまファン…芽生さまの作品です。
 今頃…何故故に?らんまにはまった?…当人しかわからない…いや、当人もわからない永遠のミステリー♪

 なお、芽生さまの初投稿作品は一之瀬が勝手に改作して展開させていただきました。(邪悪だ…。)




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