◇monologue and dialogue scene.3
マルボロシガーさま作


それから少し長い間、乱馬とお話をする機会がありませんでした。
仕事の邪魔をするといけないので、私から彼に話しかけることはありません。
乱馬のほうから、彼の都合に合わせて前触れなく喋りかけてきます。
だから、それを聞き逃すことがないように私はずっと目を開け、耳を澄まし、意識をはっきりさせておく必要があります。
そのおかげでもう半年くらい眠っていません。
寝る間も惜しんでただ起きていた、というとおかしな表現かもしれませんがそんな状態でした。
でも、それももう限界。
眠ってる間に乱馬が呼んでも気づかないかもしれません。
それで乱馬が怒ったとしたら、目が覚めて最初に話すとき、真っ先に
「ごめんね、好きだよ」
と言ってあげるんです。
そしたら彼も時々私に見せる怒ったような、照れたような顔をして許してくれると思います。
ああ、もう目の前は真っ暗です。私の目はすでにシャッターを下ろしてしまいました。
おやすみなさい、乱馬・・・・・




















「あかねっ!!」





ん・・・・・・?





「おい、起きろっ!!」





乱馬・・・?





夢うつつの暗闇を彷徨っていた私に声が聞こえてきました。
ということは、まだ眠り始めてそんなに時間が経ってないのでしょう。
私は重い目をこすりながら辺りを見渡しました。
「目、覚めたか?」
幻聴かとも思ったその声が今度ははっきりと聞けて安心しました。
「こんにちは、乱馬」
「まったく、せっかくたまの楽しみなのに寝てんじゃねーよ!」
「え・・・楽しみ・・・?」
「あっ・・・・・」
その何気ない一言に嬉しさを隠せない私ですが、乱馬は、ばつが悪そうにしています。
「ごめんね。さっきまで起きて乱馬のこと待ってたんだけど、眠っちゃったみたい」
「あ、ああ・・・いや、こっちこそ無理に起こして悪かったな」
「ううん。私も乱馬と話したかったの」
「そ、そう・・・」
とは言ったものの、何を話題にしようかと私は考えこんでしまいました。
きっと乱馬から話しかけてくれるだろうと思ったのですが、彼は一向に黙ったままです。
私が訝しげにしていると、ようやく乱馬が口を開きました。
「調子はどうだ?」
はあ?そんなことが言いたかったの?と、思ったのですが、口には出さず、
「うん。まあまあ、元気よ」
と、バカ真面目に答えました。
「そうか・・・メシはちゃんと食ってるか?」
乱馬が興味なさそうに言うので
「あんたほどじゃないけどね」
と、皮肉っぽく言ってやりました。
「睡眠は足りてんのか?」
もう乱馬は自分の喋ってることの矛盾に気づかないくらい上の空で話しています。
だから、業を煮やして私は言いました。
「ちょっと、乱馬。そんなこと言いにきたの?何か他に話したいことがあるんでしょ?」
すると、乱馬が観念したような口ぶりで言葉を漏らしました。

「本当は、もっと楽しい話がしたかったんだけどな・・・・・」

どういうことだろう・・・
「なあ、どうして俺とお前がいいなずけになったか知ってるか?」
え・・・・・?
確かにおじさんたちからもその理由は聞いていません。言ってみれば寝耳に水の話だったのです。
「乱馬は知ってるの?」
「ああ・・・それを今から話す」
そして、乱馬は静かに話し始めました。



つづく



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