◆恋は水色
マルボロシガーさま作


乱馬とあかねは小春日和の中、少し離れて歩いていた。
前を歩くのがあかね。その後ろ、5メートルほどおいて乱馬が歩いている。
一見すると、知り合い同士、ましてや許婚には見えないかもしれない。
だが、本人たちにとって、この距離は意図的につくられたものだった。
「ついてこないでよ!」
「好きでやってんじゃねえ!」

なぜこういう終わりの見えない追いかけっこをやっているのかというと、原因はささいなことだった。
いつものように、売り言葉に買い言葉であかねに「かわいくねえ」と言っただけだ。
本当に、それだけのことだった。
乱馬にしてみればそう思ったに違いない。
だが、あかねの機嫌は天気とは裏腹に雨降りのようになってしまった。
(あいつ、もしかして俺のこと嫌いなのかな・・・?)
それは、乱馬がうすうす感じていることだった。
(そういや、シャンプーたちがくっついてきても前みたいにヤキモチ妬かなくなったし・・・)
そんなことを思っているうちにも、あかねは硬い足音を響かせて歩き続けている。
(いや、そういうのは全部、「好き」の裏返しなのかも・・・ああ〜わかんねえ!!)

「いてっ」
地面とにらめっこしながら歩いていた乱馬が何かにぶつかった。
あかねが、立ち止まって左手のほうを眺めていたのだった。
「海・・・・・か。」
と、乱馬が、見たままに言った。
そこには、夏と同じように一面に青の色を敷き詰めた海が広がっていた。
ずいぶん長いことあかねは海を見ていたが、乱馬からその表情は見えなかった。
そして、
「お、おい!」
あかねが浜辺に降りる階段を降ろうとしている。
乱馬は、再び「間隔」をとってその後をついていった。

太陽は最高点まで昇りつめ、潮の匂い、生命のふるさとの匂いがそこはかとなく漂っている。
時期外れの海、周りには誰もいない。
沖のほうには、長くつらなったブイが浮き袋につかまる子供のようにゆらゆらとさまよっている。
そんな中、裸足になった二人は砂浜を歩いていた。
そして、砂浜の真ん中辺りにさしかかって、あかねが腰を下ろした。
乱馬も例のごとくそれに続いた。
体育座りになったあかねは海を、寝転がった乱馬は空をそれぞれ眺める格好になった。
それからしばらくして乱馬が言った。

「なあ・・・何考えてんだ?」

「・・・・・乱馬のこと。」

「おれ?」

「うん。どうして乱馬はこんなに意地悪で、口が悪くて、ガサツなんだろう、ってこと。」

「・・・」

「乱馬は?」

「俺も、あかねのこと。」

「へえ。」

「なんで、あかねはどうしようもなくかわいげがなくて、信じられないくらい不器用で、並外れて凶暴なんだろう、って思ってた。」

「ちょっと、何よ。私はそこまで言ってないわよ。」

「ついでに、今から泳ぐなんて言い出さねーだろうな、ってこと。」



「・・・ふふっ・・・・・あははは」
あかねが声を上げて笑った。
久しぶりに笑顔がこぼれる。
乱馬も一緒になって笑った。
「一本取られちゃったね。」
と、あかねが楽しそうに言った。
「本当に心配してたんだからな。」
乱馬が冗談交じりに言うと、
「もういいから。」
と、あかねが乱馬をなだめた。
「ねえ・・・乱馬・・・」
「ん?」
「もうちょっとここにいない?」
乱馬がうなずくと、あかねは乱馬に近寄って、二人並んで砂の上に横になった。
気がつくと、小さな男の子と女の子が水に入ってじゃれあっていた。
「仲いいね、あの子たち。」
「そうだな・・・」
それからしばらく二人は小さな恋人たちを見守るように見つめていた。



「あーおーいそーらーはーわーたしのーこいのいーろー」

うとうとと眠りかけていた乱馬だったが、そのあかねの声に目を覚ました。

「何ていう歌だ?それ。」

「あーおーいうーみーはーあーなたのーあいのいーろー」

「おいっ、聞いてんのかよ。」

「んー・・・と何だったっけ。小さいころよく歌ってたんだけど・・・」

「ふーん。」

「こーいーはーみーずいーろー そーらーとーうみのいーろー」

そこまで歌って、あかねは空を眺めた。
そして、そのまま乱馬に訊ねた。
「乱馬はあたしのこと好き?」
突然の豪速球のような質問に、乱馬は体が飛び跳ねそうになる。
なんとか、ぐっとお腹に力をこめてそれをこらえてから言った。
「な、何でそんなこと聞くんだよ・・・・・」
「うーん、何となく聞いてみたかっただけ。」
「ふん、そんなんじゃ教えねえよ。」
「ケチ。」
そう言ったあかねの顔が愛らしくて、乱馬はこのまま抱きしめてしまいたかった。
だが、乱馬から逃げるように、あかねは立ち上がった。
「どこ行くんだよ?」
と、乱馬が言うと、
「どこって、帰るんじゃない。夜までいるつもりなの?」
と、あかねは言い返した。
(何だよ、自分からここにいようって言ったくせに・・・)
もう少し一緒に話していたかったのか、乱馬は不満顔だ。
「待てよ!」
と、叫んですでにだいぶ先を歩くあかねを追いかけていった。
その後は、いつものように肩を並べて帰り道を歩く乱馬とあかねだった。
二人を見下ろす空は、澱みなく青かった。



青い海と 水色の空が

愛し合って ひとつに結ばれる







「恋は水色」words by Pierre Cour

あとがき
なんか物憂げな歌ですね。
最近、けっこう衝撃を受けた曲です。
はるの声はいいなあ。


一之瀬けいこ的コメント
乱あの王道はやっぱり「つかず離れず、でも、互いが意識しあってる」。
それが如実に現れてるシリーズ・・・好きです♪


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