◆Rainy Day is……
Kobayashiさま作


 −きょう土曜日の、東京地方の天気は雨で昼過ぎからは晴れの見込みです。降水確率は午前中40%、午後は10%でしょう。日中の予想最高気温は19度の予想です。
では週間天気です。期間の前半、後半とも雨のマークは見られません。秋晴れの良い天気が続くでしょう。現在、警報や注意報はでておりません。明日の日曜日は行楽日和となりそうですね。以上、お天気でした−
と、テレビのウェザーキャスターは最後に愛嬌のある笑顔とともに結んだ。
 「雨、やまないね。憂鬱だなあ」と、あかねがお茶をすすりながらつぶやいた。
「でも午後からは晴れるからいいじゃない」と隣にすわっていたなびきが声をかけた。
なびきの隣にすわっているかすみも「天気って案外あてにならないものよ。秋の天気は変わりやすいって言うし。もうすぐ晴れるかもしれないわよ」とお茶を湯のみに注ぎながら言った。
2人の姉の言葉を聞いていたあかねは「そうかなあ」とつぶやきながら、外に目をやった。
 雨はきのうの昼過ぎから降り続いている。しとしと降る雨。夜に一回はやんだのだがすぐにまた降り出した。きょうは、せっかくの週末だというのに。
そう思ったら、またため息をひとつでてきた。
 玄馬・乱馬親子はというと、朝食を終えてから自室に戻っていた。朝食が済んだのは40分くらい前のことで、もう後片付けもとっくに終わって、今は食後の一服といったところだろうか。時刻は8時10分をまわっていた。
 ウィークデイならば、朝食が済めばかばんをひっかけて学校へいくのだが、きょうは第2土曜なので休みなのだから行く必要はない。お茶を飲み終わったなびきとあかねは、それぞれ自室に戻って思い思いの時間を過ごすことにした。
 あかねは部屋に戻っても、あいもかわらず窓の外を見つめていた。
雨がやむのはいったいいつなのだろう。そんなことをぼんやりと考えているうちに、小さなころの記憶が脳裏によみがえってきた。休日が雨になると、友達と遊べないから家でじっとしていた。退屈な気持ちをやり過ごそうとしても、なかなか消えはしなかった。
 次に、きのうの昼休みのクラスメートとの会話を思い出した。
「ねえねえ。ゆか、さゆり、あかね、聞いてよ聞いてよ。あたしね、日曜日デートするのよ!」と話かけてきたのは、髪が長くて目がくりくりっとした、かわいい女の子。
「えー、本当!!で、どこへ行くのよ」とゆかが驚いた顔で聞いた。
その少女は「映画。彼がチケットあるから見に行かないって誘ってくれたの!」
笑顔で彼女のかわいさはひとしおだ。
「じゃあ初デートなんだね。いいなー、あたしもボーイフレンド欲しいなあ」とはさゆり。
その髪の長い少女はニコニコと嬉しげだった。「何を着ていこうかなあ。ミニスカートにしようかな。あ、それだったら……」と満面の笑顔で席に戻っていった。
 あかねは、少女とのやりとりを思い出しながら「あたしも日曜日どっか行きたいな」と
つぶやいた。そういえばウェザーキャスターが日曜日は行楽日和と言っていた。
この前は乱馬と映画を見にいった。楽しかったのをはっきりと憶えている。
 そんなことを考えていたら、偶然ひとりの少年の顔が思い浮かんできた。
映画を見に行く前に逢った、姉のなびきとクラスが一緒でシャツとブルージーンズが似合い、乱馬より背丈が10センチ以上はあるだろう「コバ」というニックネームを持つ少年だった。彼の大人びた物腰と屈託のない微笑みが非常に印象的だった。
彼は今ごろどうしているだろう。
そういえばあの人と話しているときの乱馬ってすんごく楽しそうだったな、ということも思い出されて、彼女はひとり微笑んだ。
ふと、ベットの脇の目覚し時計を見ると9時5分前をさしていた。
雨はまだやんではいなかった。
 彼女はCDラジカセのスイッチをいれて、カセットテープの再生ボタンを押した。
流れだした曲はカーペンターズの「RAINY DAY AND MONDAYS」(雨の日と月曜日は)だった。
1971年に発表された楽曲で、彼らの名曲のひとつにあげられる楽曲である。
彼女のカーペンターズにおけるお気に入りは「YESTERDAY ONCE MORE」
きのう、カーペンターズのベストアルバムを友人にたのんでカセットテープに録音させてもらったのだった。
 それから、ベットの脇にある一冊の文庫本をとった。
フランソワーズ・サガンの「悲しみよ こんにちは」である。
サガンはフランス生まれの作家で、19歳のときにこの作品で衝撃的なデビューを
飾っている。他にも「やさしい関係」など小説や戯曲の著書は数多い。
買ってきたばかりの本で、早速きのうから読みはじめていた。
雨の日は部屋で音楽を聴きながら本を読むに限るわね、と彼女は思っていた。
きりの良いところまで読み、音楽をとめて、再び目覚し時計を見た。10時5分前だった。
 彼女は部屋をでて、居間へ行った。
乱馬がちゃぶ台に頬杖をついて、テレビを眺めていた。その目は退屈そうだった。
彼もやることがなくて暇なのであろう。
「雨やまないね」「ああ」と乱馬はいかにもつまらなさそうな返事を返した。
暇そうな彼を見たあかねは「ねえ乱馬。今暇ならどっかいかない?ちょっと付き合って欲しいんだけど」と頼んだ。
彼は「え、雨ん中をか?」と聞き返した。
が、すぐに「まあいいや。テレビ見ててもつまんねえし。で、どこへ行くんだよ?」と
彼はたずねた。
「うん。あたしと一緒に来てくれればいいの。お昼までには帰るつもり。あ、ちょっと待って。髪をとかしてくるから」と洗面所の方へ駆け出していった。
戻ってきたのは、5分くらいたってからだった。
かすみは、風呂の掃除をしていて居間にはいない。なびきは、たぶん自室でパソコンに向かっているだろう。あかねはメモ帳に書置きをして、ちゃぶ台の上におき、乱馬と連れだって靴をはき、玄関を出た。
 外は雨が降っていた。きのうから降り続いている雨は一向にやむ様子はない。
彼らは傘をさし、雨の中を歩き出した。まだ午前中ということもあって肌寒かった。
まずは本屋へと向かった。土曜日の午前中だが、雨降りということもあるためかどうか客の入りは少なかった。開店直後だからかもしれない。
 入り口から左に折れたところの左側に週刊誌のコーナーがある。見ればセンセーショナルなまでにつけられた題が表紙に印刷されている。それは芸能人のことがほとんどだ。
彼らは、それはあまり目に留めずにスポーツ関係の雑誌の方へと足をむけた。
 あかねは一冊のサッカー雑誌を手にとってパラパラとめくってから、それを買うことに決めて、それを手に持った。そのとき後ろからポンポンと肩をたたかれて振り返った。
 そこには茶色のタートルネックのトレーナーに、デニム地のシャツをはおり、ブルージーンズに身を包んだ、見覚えのある背の高い少年が立っていた。
その少年は「よっ、乱馬君。あかねちゃん。」と言った。
前、映画を見に行く途中にあった「コバ少年」である。
乱馬は「あれ、コバか。久しぶりだな」
「そうだね。ところで2人ともここで何しているの?」とはコバ少年。
「ちょっとあたしの買い物に付き合ってもらおうと思って」と、あかね。
「僕はパソコンの雑誌を買いに来たんだよ」と言いながら、視線をあかねの持っているサッカー雑誌の方へと向けた。
「んっ、それ買うの。僕はもう持ってるけどね。といっても、親父が買ってきたんだけど」と彼は言った。
「親父さん、サッカー好きなのか?」と乱馬がたずねた。
「うん、僕も大好きだけどね。外国のサッカーとかが。」と少し熱っぽく言った。
 不意にコバ少年が「うーん、ここで話すのもなんだな。どっかいいとこはないかな……」とつぶやくように言った。3人ともその場で「うーん」と考えた。
 すると乱馬が言い出した。「そうだ、お茶でも飲もう。いい店を知っているから。俺、おごるからさ」
「おっ!いいね」と少年が嬉しそうに言った。
「じゃ、早速案内してもらおうかな。その店にね」「ああ、わかったよ」と乱馬は出口へと歩きかけた。
 「あ。ちょっと待った」と少年が呼びとめた。「えっ、何だよ?」と乱馬は振り返った。
「僕はこれを買いたいんだけど、まだお金を払ってないんだ」と携えていたパソコン雑誌を見せた。
あかねも「あたしだってまだお金払ってないわよ」とこれまた携えていた雑誌を見せた。「あっ、そうだった」の乱馬の一言で3人とも爆笑になった。
少年とあかねは会計を済ませて、乱馬とともに店を出た。
 雨はまだやむ様子はない。灰色の雲から、しとしとと雨は降り注いでいる。
傘をさし、銀色の舗道を歩く。道行く人はまばらである。やはり、雨降りだからなのか。
雨がやんで晴れれば、街へと繰り出す人も今より増えるであろう。
 乱馬は時間が気になったので、少年に「時計持ってる?」とたずねたら「持ってるよ」
とのことで、時間をたずねた。
彼は左手首の使い古したスポーツタイプの腕時計を見て「10時30分46秒」といった。
乱馬は「たしか昼飯は12時くらいだから、あと1時間半か。そんな腹も減ってないし、別にちょっとくらい遅れたってかまわねえだろう」と考えていた。
 そうこうしているうちに、乱馬の言っていた店についた。
「ここなんだけどな」と乱馬は言った。
少年はその店を見たとたん、思わずふきだしそうになってしまった。
そこは、少年も頻繁に足を運んでいる店だったのである。
彼はここが自分の行きつけている店だということは乱馬には内緒にしておこう、と思った。
 この店はおいしくて安いのだが、セルフサービスであった。
注文は乱馬が「アメリカン」あかねは「ブレンド」少年は乱馬と同じ「アメリカン」に。そして、それぞれ注文したコーヒーが出されて、会計はそこですませた。
彼らはカウンターの席までコーヒーを運んで、そこで飲み始めた。
乱馬とあかねは砂糖とミルクを入れ、少年はブラックでだが。
一口すすって、ふうーとため息をはいたのはコバ少年だった。
そして「雨の日って退屈だな」と半分2人に言い、半分ぼやくように言った。
「まったくだぜ」と乱馬が同調した。「雨の日は2人とも何しているの?」とは少年。
「雨の日ねえ……。いつもと変わらんけど、たいていはテレビ見てるかな」と乱馬。
「あたしは、本を読んだり、音楽を聴いたりかなあ」とはあかね。
「そういうコバはどうなんだよ?」と今度は乱馬が少年に聞く番である。
「ん、僕?僕はパソコンに向かってネットやメールしたり、本とかマンガ読んだり、テレビとかビデオでサッカーを見たり。音楽も聴くね。たまに外へ出ることもあるけれど、特に用がない場合は自室でじっとしているかな」と言い、コーヒーを一口飲んだ。
「君らも雨降りの日は外へはあまり出ないだろ?」と聞くと、2人はうなずいた。
あかねは、何気なく少年の右手に視線を落とした。乱馬と同じくらいの大きさだろうか。
右手小指に金色の指輪をしているのを見ることができた。
その後は、3人で笑顔を交えながら他愛のない話をした。
コーヒーを飲み干してからも、話は続いた。
 あかねは不意に時間が気になったので、少年にたずねた。
彼はちらりと腕時計を見て「11時18分45秒」と言った。
あかねは立ちあがるのを見た彼は「どこか行くとこあるの?」と聞いた。
「ええ、まだ寄るところあるんで」と少し申し訳なさそうにいった。
少年は「んー、そっか。じゃあ僕も寄るとこがあったから、行くかな」と立ちあがった。
「さ、乱馬行くわよ」と促した。名残惜しそうな乱馬は渋々と立ちあがって、店を出た。
 外へ出ると、雨はやんでいた。雲の間から青空と太陽が顔をだしていた。
「雨やんだわね」とあかねは言った。「良かったなあ」と乱馬も言った。
少年は目を細めて、何も言わずに空を見上げていた。
天気の回復は存外速かったようだ。かすみの言っていたことは見事に的中したわけである。
3人はその場で別れた。少年は乱馬たちとは逆の方向へ、ジーンズのポケットに手を突っ込んで歩き出した。あとの2人も歩き出した。
 「さてと。次はどこへ行くんだ、あかね」「んー、ちょっとお菓子でも買っていこうかなと思って。スーパーにね」「了解」と乱馬はグッと親指を立てて見せた。
2人はスーパーで菓子とジュースを買い込んだ。両手に持ちきれないくらいに。
2つの紙袋に菓子とジュースをたくさん詰めこみ、互いにひとつずつ持った。
「しっかし、あかね。何でこんなに買ってしまったんだよ?」と乱馬は半分呆れた顔。
「だって安かったんだもん。安いとついつい買っちゃうのよね」えへへっ、という顔で笑って見せた。
 空は、先ほどまで雨が降っていたことが信じられないくらい青かった。
朝方の肌寒さもすっかりなくなって、今は暖かくなっていた。
乱馬はあかねに明日の日曜日の天気をたずねた。「晴れよ。行楽日和になるって!」
「ん、そうか……。あかね、明日おまえ何か予定はあったっけか?」と聞いてきた。
「ううん、ないけど」と声ははずんでいた。「もしかして……」とあかねは思った。
その予想は見事に的中した。
「明日さ、俺とどっか行くか?この前おまえに映画誘ってもらったからよ。そのお礼」
あかねは思わず飛び上がって「うん、行く行く。で、どこに?」と聞いた。
「それは明日になってからのお楽しみ」と乱馬は片目をつぶってみせた。
「んもー、教えてくれたっていいじゃない」と彼女は頬を膨らました。
「おっ、今の顔良かったぜ。怒った顔も…その…か、かわいいぜ」と照れくさそうに言った。
「ありがと」と彼女もまた照れた。
「家まで手、つなごうか」「うん」と2人は手を繋いで歩き出した。
 2人は時間どおり、昼前に家に着いた。玄関で出迎えたのは、あかねの2人の姉。
「あらあら。こんなにお菓子を買ってきちゃって」とはかすみ。
「あかね、乱馬くん。お菓子とジュースならね、かすみお姉ちゃんがきのういーっぱい買ってきてくれたのよ、忘れちゃってたの?」となびきが呆れ顔で言った。
それを聞いたあかねは「あっ、そうだっけ。すっかり忘れちゃってた」といった。
乱馬が「あちゃー、やっちゃった」と手のひらを目に当てた。
次の瞬間、4人は爆笑になった。
 なびきはコホン、とせき払いをして「ところで、2人とも仲がいいのね」と笑っている。
彼女の視線は2人の繋がれた手にくぎ付けだった。それに気づいた2人は、あわてて手をパッとはなした。顔は真っ赤になっていた。
なびきは言った。「まあいいわ。それよりお昼できてるから食べるわよ」
乱馬とあかねは、その言葉にしたがって居間のほうへと言った。
玄関に残ったなびきは「あの2人、すごく仲が良くなってきたわね。コバ君のおかげね。
ありがとう、コバ君」とクラスメートである彼に感謝の言葉を述べた。
小声でぽつりとつぶやくように言ったので、もちろん乱馬とあかねには聞こえてない。
「なびきお姉ちゃーん。お昼いらないの?早く食べないとなくなっちゃうよー」居間からあかねの声が聞こえた。
「はいはい、今行くわよ」と彼女も居間の方へと向かった。
 昼食後、部屋にもどったあかねは洋服ダンスをあけた。
明日は乱馬と出かけるから、そのための洋服選びである。
その表情は、金曜日に話しかけてきた、明日が初デートであるはずのクラスメートの少女の表情のように、ニコニコと嬉しげだった。








作者さまのあとがき
 こんにちは、Kobayashiです。
えーっと、今回は「雨」をいれて話を構築しました。
「雨」を題材にした曲を片っ端から聴いていたところ「これだ」と思ったのが
カーペンターズの「Rainy Days and Mondays」(雨の日と月曜日は)なのです。
話にも記述したとおり、この曲は1971年に発表されて、カーペンターズの名曲の
ひとつにあげられています。他には「Yesterday Once More」(これはご存知の方も多い
ことと思います)や「I need to be in love」(青春の輝き)とかがあげられます。
ちなみに、「I need to be in love」(青春の輝き)は5年前にドラマの主題歌に使われています。
 私事ですが、3年前にカーペンターズのお兄さん(リチャード)が来日してコンサートをしました。僕も行きました。とても感動したのを覚えています。ちなみに「Yesterday Once More」は僕がはじめて歌えるようになった英語の歌でもあります。
カーペンターズは父が学生時代に好んでいて、僕が洋楽に興味をもったきっかけは、彼の影響でビートルズやカーペンターズを聴いたことでした。
ここにあげた曲はカーペンターズのベストアルバムからです。興味を持たれた方は、ぜひ
聴いてみることをおすすめします。
 今回も前回に登場したオリキャラ「コバ少年」を登場させてみました。
彼のことを少し紹介すると、趣味はサッカー、パソコン、ギター、音楽、読書をきくこと、カメラ、旅行をすることなどだそうです。血液型はAB型。9月21日生まれのおとめ座。
とまあ、こんなところでしょう。
というわけで、みなさん。彼の事、少しはわかっていただけましたでしょうか?
最後に、次回作は12月の予定です。
もちろん、コバ少年も登場します。
それでは、次回にまたお会いしましょう。

  Presented by Kobayashi


 コバくん再登場♪
 彼はなびき姉さんのクラスメイトだったのですか・・・。乱馬たちの先輩。九能ちゃんの同輩(笑
 乱馬とあかねの間で邪魔するでもなく、そのあたりの距離感がとても好きです。
 また、コバくんは登場するのか・・・今度はどんなシュチュエーションで乱馬とあかねを盛りたててくれるのか・・・興味深いところです。(←さりげなく、再登場を要求)

 カーペンターズの大ヒット曲「イエスタディー・ワンス・モア」・・・。
 従兄から貰ったこの曲入りの「NOW AND THEN」は今でもお気に入りのLPです。
 日本公演(大阪フェスティバルホール)にも行きました・・・亡きカレン・カーペンターの迫力あるドラムさばきは、今でも目に焼き付いてます。
 生まれてはじめておこずかいで買ったシングル盤レコードは「ミスターポストマン」。
 (きゃあ、世代がばれる・・・汗)
 (一之瀬けいこ)


Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.