◆少年時代
ケイさま作



風が吹いている。涼やかな風。心のつかえを静かに溶かすような、忘れていた大事なものを思い出させるような・・・
体の中を吹き抜けて行くような、優しく、心を遠くへ運ぶ風。・・・夏を予感させる風。
「あっちー・・・・」
少年がそう言ってタオルで顔の汗を拭っている。どうやら道場での鍛錬が一区切りついたところらしい。
「もう夏だな・・・」
そんな言葉を漏らして彼はその場に座り込んだ。
この年代の少年は大概は夏に憧れを持っているものである。その期待は素敵な恋の物語だったり、夏休みだったり
女の子の水着姿だったり、とにかく夏は楽しさを連想させる季節である。また、この夏には彼女と・・・!!
などの具体的な期待を抱いている少年も少なからずいるはずである。その思いは、男女共通かもしれないが・・・
早乙女乱馬17歳。高校生活二度目の夏。彼も先ほどの例ほど具体的ではないものの、やはり夏となれば浮かれてしまうのは
仕方ないことと言えるだろう。その証拠に今日の稽古は、普段より心持短い。
それもまた仕方が無い。今日はお祭りなのだ。天道家の前にも○○神社祭というのぼりが立ち、
浮かれるなと言うほうが無理な状態だ。もう乱馬の頭の中は今夜のお祭り一色だ。
しかし、ただ祭りが楽しみと言うわけでもない。彼だって年頃の少年だ。
密かに(全然そうでもないけど)に想う女の子・・・あかねと一緒に行きたいのは当然だろう。
しかし彼の性格は簡単にそんなことをさせようとはしない。どうやら今日の稽古は「決戦前の精神統一」的な意味を含んでいるようだ。
幸い今日はアメリカ人並にお祭り好きな天道家面々と玄馬、のどかは福引で当たった旅行へ行ってしまっている。八宝斎もどこかへ行ってしまった。
普段なら、今ごろ家族全員で大騒ぎしている頃だろう。それはそれで楽しいのだろうが・・・・。
今現在家に残っているのは学業のため旅行に行けなかった乱馬、それにあかね、なびきの3人である。
「最大の問題はあいつだよな・・・」
乱馬の目の前に小悪魔じみた笑顔が浮かんだ。
「絶対邪魔されるな・・・・」
最近、受験が近くなってきたなびきはすこぶる機嫌が悪い。うっかりあかねを祭りに誘ったことがバレでもしたら、格好のストレス解消のタネにされてしまう。
「冗談じゃねえ・・・」
乱馬は想像しただけでみぶるいがした。
『やっぱ・・二千円ぐらい払うしかないか・・・』
やはりそれしかない。そんなことは分かりきっている。乱馬はおもむろに財布を開いてみた。
「五千円が一枚・・・あと千円が・・・二枚か」
のどかがお小遣いとして五千円置いていったため、今日の乱馬は、比較的リッチである。
それにしたって、無駄に使える額ではない。だいたいにして、屋台の物と言うのは暴利である。
(筆者的に最も許せないのが「おでん」。筆者の故郷の祭りははんぺん一個350円である。うっかり3人くらいでおでんを食い、
ビールを飲めば軽く、一万円を超えてしまう。コンビニならせいぜい3千円だが・・)
なので、最低でも五千円は残しておきたい。なびきとの交渉が勝負のカギだ。
「そうねえ・・・。二千円でいいわよ」
ぎく・・・・・・・・・
どうやらうっかり声を出して考え込んでたらしい。そのためまたもや乱馬はなびきの接近に気づけなかった。
「なんで俺がおまえに金を払わなきゃなんないんだ?」
一応ささやかな抵抗を試みる乱馬。
「あらそう・・・。でも保護者としては、若い男女を暗がりの中に放り出すわけには行けないわねえ。乱馬君だって一応男だし・・」
:・・・もろばれだ。なびき姉さんをたばかろうと言うのがどだい無理なのだろう。
「千円・・・・」
だが、乱馬も心得たものである。予算限度額よりもひくく、かつなびきが交渉破棄しない額。その当たりを言う。
「2000円」
「1500円」
「わかったわ。今日は1500円で見逃してあげる。」
そう言ってなびきは家のほうに戻っていった。
乱馬は500円安く済んでホッとしていたが、もはや金を払うことにはなんの違和感も感じてないようである。不幸な男だ・・・
「さて・・」
そう、最大の問題は片付けたが、まだ勝負はコレからだ。まだ「あかねを誘う」という大一番が残っている。
早鐘のように打つ胸を押さえながら乱馬はあかねの部屋へと向かった。「AKANE」と可愛らしいネームプレートがかかった部屋を前に乱馬は凍りつく
「えーと・・・・・・・」
さあいくぞ!!そう思った瞬間予想外の事態が起きた。
バタンと小気味のいい音を立ててあかねの部屋の戸が開いてしまったのだ。
「あら、乱馬どうしたの?」
あかねが少々戸惑いながらも問い掛ける。
「あ・・・いや・・えーと・・」
「そうだ!!乱馬今日暇?」
「あ・・ああ。」
「一緒に縁日行こうよ。」
「ああ!!いいぜ。」
「それじゃあ今日の七時からね。」
あかねはそれだけ言うとうれしそうに走って行ってしまった。
「・・・・・・ラッキー!!」
乱馬は小さくそう呟いた。いや本当は踊り出したいくらいの気持ちだ。
だが、このとき既に災難のタネは確実に胎動していた・・・・。

その夜、二人は連れ立って神社に向かった。

「たこ焼き」「やきそば」「焼き鳥」「金魚すくい」「ヨーヨー釣り」「射的」「ダーツ」「おでん」
「フランクフルト」「りんご飴」「薄荷パイプ」「カルメ焼き」「ひもくじ」などなど・・・
縁日を彩る多種多様な屋台達。きれいな明かりがともり、見ているだけでも心は弾む。
話は戻るが、お祭りが好きな人なら既にお気づきかとも思うが、上の屋台には、肝心な物が抜けている。
「たこ焼き」「フランクフルト」に並ぶお祭り三大食物(作者独断)そう。「お好み焼き」である。
「いらっしゃいー。おいしーお好み焼きやー食べてきー!!」
小気味良い関西弁。そして背中には巨大なヘラ。お好み焼きの久音寺右京だ。
そして、その向かいには屋台としては少し珍しい「中華まん」ののぼりが上がっている。当然猫飯店の屋台だ。
「肉まん、あんまんいかがあるかー」
シャンプーだ。どうやら今日この二人が乱馬を誘いに来なかったのはこう言う理由があったからのようだ。
シャンプーの後ろではムースとコロンばあさんがあくせくと肉まんを蒸している。
「なんちゅう人使いの荒い店じゃ・・・」
ムースがポツリと不満を漏らしている。
「や・・・やばい・・・。」
ついにそこを通りがかってしまった乱馬とあかねだった。ここまでの二人は珍しく喧嘩もせず、仲良くきていたが
流石に、苦手な二人・・・いや四人が勢ぞろいしているとなると怖気づいてしまう。
「避けて通ろう・・・」
結論はやはりそうなる。もしも、あの二人に見つかろうものなら、せっかくの楽しいデートはいつものとおりドタバタになってしまう。
「なによ。情けないわね」
あかねが少しきつく言うが、異論は無いようだ。しかしあかねの本音としてはきっぱり「俺はあかねと一緒に歩く」
と言って、二人を追い払って欲しいところだろう。乱馬にそんなことは到底出来ないと言うことも良く理解してはいるが。
結局二人は横の分かれ道から神社の境内を通って別の位置に出ることにした。細道は木が生い茂り、夜も遅いため視界が悪い。
「あかね、足元気をつけろよ」
「うん。大丈夫」
そう言って乱馬はあかねの方をちらりと見て手を少し後ろに伸ばす。その刹那、あかねは乱馬の手を握り返した。。
思えば、竜幻沢の一件以来、半年近くが経つが、手をつなぐのはそれ以来初めてだ。つかずはなれず。そんな関係のまま二人は日々を過ごしていた。
「お、社(やしろ)だ」
二人は細道を抜け、社に辿り着いた。少し先には屋台の方へ出る道がある。
この社はお化けが出ると噂されているため少々不気味だが、それは一人で来た場合に限る。
「乱馬、少し休んでいかない?」
あかねが出し抜けに言った。二人は社の端に、並んで座った。
「いいけど・・」
乱馬があかねの本心をはかりかね、すこし曖昧な返事をした。
「ひさしぶりね、乱馬と二人って」
「あ・・・ああ」
今日のあかねはなんか普段と違うな・・。乱馬は思った。風に乗ってなびく髪。洗い髪の香り。
過去にも何度か見ているあかねの浴衣姿もなにか新鮮に見えた。
「わたし、乱馬に聞きたいことがあるんだ。」
あかねが続けた。心地よい涼やかな風が二人の間を吹きぬけた。
「なに?」
乱馬が聞き返す。
「乱馬は道場を継ぐの?」
あかねの質問に乱馬は少し・・いやかなりドキッとした。その質問の意味は額面どおりに捉えていい物ではない。
「・・・・そのつもりだけど・・」
今にも消え入りそうな声で乱馬は呟いた。あかねの顔がパッと明るくなる。
「そうなんだ・・じゃあ、シャンプー達のことはどうするの?」
乱馬は答えに窮した。どうすればいいか、それは彼が日々おのれに投げかけている問でもある。
「・・・ほんといいかげんね、あんた・・」
少し風向きが変わってしまった。
「だって・・しかたねえだろ・・」
「あんたがそう言う態度だから・・・」
あかねがきつく言い放つ。
「ひょっとして、どうでもいいとか思ってるの?」
あかねが語気を荒げて言った
「そんなわけねえ!!俺はおまえを・・・」
そこまで言って乱馬は言いよどむ。そして、二人の距離は少し近づいた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
無言で目が合う。
「あかね・・・」
そう言って乱馬はあかねの体に手を回す。普段ならばあれほど器用に動く手が、今日は震えている。
顔と顔。目と目。そして唇と唇。その距離が少しづつ縮まっていく。
ガサガサガサッ
乱馬達が通ってきた細道から誰かが来た。その気配に驚き乱馬は思わず体をあかねから離してしまう。
「あかねっ、隠れろ!!」
その誰かの顔を確認するなり乱馬は声を殺して言った。
「うん?どうしたの?」
乱馬ほど気配に敏感でないあかねは、まだ状況を呑みこんでいない。
「いいから早く!!」
乱馬に急かされるまま、ふたりは社の裏に隠れた。
「こっちじゃシャンプー。」
「何慌ててるあるか、ムース」
聞きなれた声が響く。
「急がなければ休憩がおわってしまうだ」
あかねは声の主の二人を確認して、少なからず驚いた。
「シャンプーとムース?」
もちろん、ムースがシャンプーに想いを寄せているのは知っていたが、シャンプーはムースなどまるで相手にはしてないと思っていた。
しかし、今日はその二人が連れ立って歩いている。それもこんな時間のこんな場所を。これはどう考えても尋常な事態ではない。
「ねえ、乱馬、あの二人って?」
「しっ!!静かに!!」
乱馬が小声で言った。
それを聞いてあかねも言葉を飲み込む。シャンプー達は、社の端の、さっきまで乱馬とあかねが腰掛けていた辺りに並んで座った。
「涼しいあるなー」
シャンプーが言った。
「ほんとにすずしいだな」
ムースも応える。普段の二人とは打って変わったいいムードだ。普段は女王さまと犬とでも言わんばかりだが(笑)
「乱馬に会えなかったのが残念あるな」
少し無神経にシャンプーが言った
「なあ・・シャンプー、おらは一つ聞きたいことがあるだが・・」
ムースが切り出す
「なにあるか?」
「そんなに乱馬が好きだか?」
ムースが訊いた。シャンプーは一瞬困惑の表情を見せた後
「・・・・好きある」
と応えた。あかねはそれを聞いてすこし苛立たしい気持ちになった。
「・・・じゃあ、おらのことは嫌いだか?」
「・・・別に・・嫌いじゃないあるが・・」
二人の間に少々の静寂が流れる
「おらは・・・シャンプーのことが好きじゃ・・・」
また二人の間に沈黙が流れた。
「そのことは、すこし・・待って欲しいある・・・」
シャンプーが続ける
「わたし、乱馬が好きある。でも乱馬はあかねが好きね。ダメだと分かってても割り切れない・・・。だから・・あの二人が・・まで・・」
シャンプーが途切れ途切れに言った
「それまで・・待って欲しいある・・・」
シャンプーの悲痛な言葉を聞いて、乱馬とあかねはどこか罪悪感にかられた。ふだんあれほど元気なシャンプーでも深い悩みを抱えている。
きっと、右京も、いや小太刀でさえもそうなんだろう。乱馬は思った。
「わかっただ・・・。」
ムースは少し苦い顔で応えた。
パキン!!
またも、辺りが静まり返った瞬間、小枝の折れる音が響いた。あかねがうっかり枝を踏み折ってしまったのである。
「だれじゃ!!」
ムースが叫ぶ。
「・・・そこの裏ある!!」
「やべっ!!逃げ・・・」
乱馬は慌てて逃げようとするが、あかねは咄嗟に動けない。
「おい!!あかね!!」
ついにシャンプーとムースが目の前に来てしまった。
「あかね・・・なにしてるか!!!」
「早乙女乱馬!!覗きとは最低じゃな!!」
二人分の怒声が響く。だが、たじたじとする乱馬を尻目に、あかねはシャンプーに反論する。
「もともと、私達がここにいたのよ!!」
シャンプーは少し動揺して乱馬に訊いた。
「乱馬、あかねとふたりでいたあるか?」
乱馬は一瞬答えに困るが、一息置いてきっぱり
「ああ」
と言った。普段なら「なんで俺がこんなかわいくねー女と・・」とでも言うところだが、流石の鈍感男もこの状況では決断を迫られた。
シャンプーの目じりに涙がたまり始める。その瞬間、
「シャンプーを泣かすとは、ゆるせんだ!!」
そう叫んで、ムースが乱馬に飛び掛かった。何十個という暗器が乱馬に向かって飛んでいく。だが、乱馬はその暗器をことごとく弾き、叫ぶ。
「おまえにゃ、関係ねー!!」
乱馬の蹴りがムースに当たった。しかし、ムースは怯まず、攻撃を続ける。ムースの放った蹴りが乱馬に当たり、乱馬は後ろに吹っ飛んだ。
そして、勢いで社の扉を突き破ってしまった。
「やべっ、なんか割っちまった・・・鏡か?」
乱馬は体の下にあった、御神体とおぼしい、割れた鏡を手にとった。翡翠のような色をした、古めかしい鏡だ。
「なにやってるだ!!乱馬!!かかって来るだ!!」
怒りのままにムースが叫ぶ。彼にとっては「シャンプーを泣かす」と言うことは、他にたとえようの無いほど絶対の悪のようだ。
「けっ!!言われなくても・・・」
乱馬がそう叫びかけた瞬間、異変は起こった。
ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ・・・・・・・
ヤット開イタ・・・・・・・・・・
不気味な声が響き、空間に、夜の闇より更に深い闇が口を開いた。
「キャー!!!!!」
「何あるか!!」
シャンプーとあかねの悲鳴が闇にこだまする。声のほうを見ると、口を開いた闇から出てきた無数の手が、二人をつかみあげている。
オンナダ・・・・オンナ・・・・ナン百年ブリジャ・・・
「あかね〜!!!」
乱馬が闇に向かって飛んだ、だがその刹那、闇は口を閉じてしまった。
「な、なにごとじゃ?」
状況を呑みこめないムースが茫然自失といった風に呟く。
「わかんねえ・・・。でもあかねとシャンプーが・・・」
「ばあさんに訊きに行くだ。何か知ってるかもしれん!!急ぐだ!!乱馬」
「ああ!!」
それに応え、二人は走り出す。凄まじい早さで。藪で足が所々切れ、血が滴ったたが、二人は気づきもしなかった。
「婆さん!!」
コロン婆さんは肉まんを客に手渡していた。
「何事じゃ?騒々しい・・」
「あかねとシャンプーが化け物に連れ去られた!!どうやったら助け出せるか教えてくれ!!」
息せき切らせて乱馬が叫んだ。
「化け物じゃと?まさか封印が解けたのか?」
「封印?」
乱馬が訊き返す。
「そうじゃ。この神社には鬼門(魔界への入り口)がある。しかし、封じの鏡で閉ざされて居るはずなんじゃが・・・」
乱馬の脳裏に例の鏡が思い当たる。
「封じの鏡って、あの古ぼけた奴のことか?」
「知ってるのか?」
コロン婆さんが聞き返す。
「割っちまった・・・・」
「なんじゃと!!!何故?いやそんなことはどうでもいい。これは一刻の猶予も無いぞ・・」
コロン婆さんが大慌てで言った。
「どういうことじゃ!!」
ムースが訊き返した
「今はまだ、鬼門は小さな穴だが、次第に大きくなり、魍魎どもが自在に行き来できるようになってしまう・・・」
コロン婆さんも青ざめている。
「どうやって塞ぐんだ?」
乱馬が訊く。
「社の中に、もしもの時のための封印のしめ縄が入っている。それを使えばしばらくは大丈夫だ。その間に鏡を直せば良い。
だが、もしも今夜の牛の刻(午前二時)までに塞げなければ、鬼門は二度と塞げなくなってしまう・・」
「じゃあ二時までにあかねとシャンプーを助けて、しめ縄を張ればいいんだな?」
「そうじゃ!!急げ!!あの二人と言えども、魔界の魑魅魍魎が相手ではそう長くは持つまい!!」
コロン婆さんが叫んだ。
「わかった!!どうやって魔界に入るんだ?」
乱馬が訊き返す。
「割れた鏡の近くに鬼門があるはずじゃ!!だが、魔界に入った人間は陸に打ち上げられた魚と一緒じゃ。気も体力も、一度使ってしまえば、
二度と回復することは無い。心して行け!!わしはもしも婿殿達が牛の刻までに帰れなければ、冷酷なようじゃが、鬼門を閉じる。閉じねばこのあたり一帯が地獄と化すじゃての」
「ああ!!ありがとうばーさん!!」
そう叫んで乱馬とムースはまた走り出す。
「乱馬。お互い自分の惚れた女は自分でまもるだ!!」
ムースが唐突に叫ぶ。
「ああ!!わかったぜ!」
二人は藪を突っ切り、坂道を駆け上がった。
「あった!!鬼門だ!!」
割れた鏡のうえに半径一メートルほどの、暗闇の中でもはっきり分かる、無明の闇が浮かんでいる。
「飛び込むぞ!!」
「いくだ!!」
二人は何の迷いも無く魔界へと飛びこんでいった。


「たあっ!!」
「唖唖!!」
ガァァァァァァァァ
あかねとシャンプーの蹴りがグロテスクな魍魎をふっ飛ばした。
「ハァハァ・・・はあっ!!」
かれこれ十五分程にもなろうか。あかねとシャンプーは魍魎たちと戦っていた。巨大な昆虫のような、中には人のような形をしたものもいる。
「きりがないある!」
シャンプーもついには弱音を吐きはじめる。空間が歪んでいるため良く見えないが、ほんの数メートル先には現世への帰り道が見える。
しかし、魍魎どもも必死で通すまいとしている。彼らにとっては数百年ぶりの「ご馳走」なのだ。逃がす気などあろうはずもない。
グゥヮララララ!!!!
巨大な魍魎がシャンプーに襲い掛かる。だがシャンプーに蹴り飛ばす体力はもう残ってはいない。
「シャンプー!!!」
ズガガガガガガガガガ!!!
魍魎の背に数十本の刃が突き刺さった。突然の猛襲を食らった魍魎はぐらりとその場に倒れ伏した。
「シャンプー!!良かった・・生きてただか・・・」
ムースが泣き出しそうな顔でシャンプーに駆け寄る。
「ムース・・・」
数体の魍魎を片付け、ムースがシャンプーを抱き上げた。
「猛虎高飛車ぁぁぁ!!!!!」乱馬の雄たけびが響く。数十体の魍魎が吹き飛んだ。
「乱馬!!」
あかねが叫ぶ。
「あかね!大丈夫か!!」
乱馬がまた叫んだ。
「大丈夫・・・。」
乱馬も、あかねにはもはや走る体力は残ってないことを察し、あかねを抱き上げた。こうしている間にも、魍魎の大群は襲い掛かってきている。
「ちょ・・・ちょっと乱馬・・」
「いいからしっかり捕まってろ!!」
ぶっきらぼうだが暖かい一言。いつだって自分を守ってくれる許婚。あかねは乱馬にしっかりとつかまった。
「乱馬早く逃げるだ!!」
意識を失ったシャンプーをしっかりと抱きしめたまま、ムースが叫んだ。そして二人は空間が裂け、光の指す咆哮へ向かって高く飛んだ。
ダン!!乱馬とムースは現世の土を踏みつける。
「帰ってきたか婿殿!!」
鬼門の前で、乱馬たちの帰りを待っていたコロン婆さんが、待ってましたとばかりに鬼門の前にしめ縄を張った。
オノレ・・・ニゲオッタ・・鬼門ガ塞ガッテイク・・・オノレ・・・オノレ・・・
魑魅魍魎どもの恨みの声が響いたあと、鬼門は塞がった。
パタン
「きゃっ・・」
「やっとおわったぜ・・・」
乱馬はあかねを抱えたまま、後ろ向きに倒れた。疲労が限界に達していたのだ。短時間の戦いとはいえ、魔界での戦いだ。常人なら瘴気の影響であっという間に倒れてしまう。
「ごくろうだったの。婿殿。ではわしは鏡を直しに行くとするか」
拾い集めた鏡の破片を見ながら、コロン婆さんが言った。
「ムース、ちゃんとシャンプーを猫飯店までおくりとどけるんじゃぞ!!」
帰り際に、そう付け加えて、コロン婆さんはどこかへ行ってしまった。ムースはバツの悪そうな顔でシャンプーを見たが、シャンプーは上機嫌だった。



「なあ、あかね。多分、もうシャンプーのことは大丈夫なんじゃねえか?ムースがいるしよ」
帰り道、乱馬はそんなことを呟いた。
「そうかもしれないわね・・・」
あかねもそう思った。
だが、その翌日も、シャンプーは元気に乱馬にちょっかいをかけにきたし、表面状は何一つ変わりはしなかった。
ただひとつ、「シャンプーとムースが手をつないで歩いていた」という目撃証言を除いては・・・・
ちなみに、乱馬とあかねが家に帰りついたとき、既に時間は深夜の2時を越えてしまっていた。そのため、乱馬は「周囲への口止め料」という名目で
なびきに三千円ほど支払ったことを付け加えておこう・・・。








作者さまより
 なんか・・・調子に乗ってまた書いちゃいました・・・。すいません・・。しかも今度は乱×あだけではなくシャンプー×ムース
 まで入れちゃいました・・。だってすきなんですもん・・。この二人(笑)それとこの作品、僕のお祭り好きが暴走してます。
 ちなみにテスト勉強サボってこれを書いていたため、数学は34点でした・・。(爆)って笑い事じゃないな。勉強せないかん・・・。
 留年する恐れがある・・。本気で。あいかわらず文章はかなり稚拙ですが、一読していただけると嬉しいです。



 夏祭りのワンシーンです。
 命懸けで惚れた少女を守る少年二人・・・美味しいシチュエーションですね。
 これでなびきさんにたかられなければ・・・と思うと少し気の毒になります。
 シャンプー×ムース・・・も案外好きなんですよ。私。ムースの一途が・・・。
 で、乱馬とあかねはどうなんでしょうか?気になりますね。
(一之瀬けいこ)



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