◆静かな日々の階段を
ケイさま作


朝から憂鬱な雨が降り続いていた。
六月のいいかげん梅雨も明ける時期。
今日は第二土曜で学校も休み、日本中の学生が最も心待ちにしている日である。
しかし、雨となると話は変わってくる。
「はぁ・・・。なんだって雨降るかなあ・・・・」
縁側に座込んで、憂鬱げにあかねは呟いた。
「あかねちゃん、どうしたの?ため息なんてついて・・」
「なんでもないよおねえちゃん」
かすみさんの優しい言葉すら今は胸に届かない。
幾日も前から心待ちにしていた日。
「あかね、今週の土曜暇か?」
「う・・うん暇だけど・・どうして?」
「・・・い・・いや、もし暇なら・・ゆ・・遊園地でも行かねえかとおもってよ・・」
しばしの沈黙。
「ほ・・ほら一人で行っても恥ずかしいだろ?だから一緒に・・・と思って・・」
もう一度沈黙。
「う・・うんいいよ」
「わかった!!じゃあ土曜の朝10時にな!!」
急に元気になる彼、どうやらこんなことでも彼には計り知れないプレッシャーがあったようだ。
不器用な彼の不器用なデートの誘い。
思わず笑みがこみ上げてくる。
「乱馬ったら」
と、幸せな気分だったのも昨夜まで。
今朝は起きてみると天気予報は大外れ、外はしんしんと雨が降っていた。
「あーあ・・・雨か・・・」
別室では乱馬が憂鬱げな声を漏らしていた。
「なんだ、乱馬,雨がどうかしたのか?」
と、巨大なパンダがプラカードで話しかける、だが乱馬は上の空だ。
「どうした?」
「悩みならこの父に相談してみろ」
「聞こえないのか?」
乱馬の後ろを巨大なパンダがちょこちょこ動き回る。
その横には、一度書いて放置してあるプラカードが山積してある。
「聞こえるわけねえだろ!!うっとうしいっ!!!」
どご〜〜〜〜〜〜〜ん。
朝っぱらから空中遊泳を楽しむことになってしまった、パンダもとい、玄馬さんであった。
まあ、それは仕方が無いだろう、巨大なプレッシャーに耐えぬいて。
家族が居ないタイミングを測って、何回も言い出せずにいたことをついに言えたと言うのに。
当日はあいにくの雨。残酷と言えばあまりにも残酷なことだ。
ナイーブな少年としては、父親の(パンダの)無神経な質問に怒りを覚えるのも当然と言える。
もちろん、玄馬に悪気があるわけではないのだが・・。今日のところは不幸に泣いてもらうしかなさそうだ。


「あらあら、あんたたち折角のデートだったて言うのにあいにくの雨ねえ」
・・・・・ぴきっ
なびきの毒のある一言に天道家居間に特有の空気が走る。
らんまとあかねの緊張プラス気恥ずかしさ、そして両家の親の過剰な期待である。
『ど・・どうして・・誰にも聞かれてないはずなのに』
乱馬は心の中でそう呟いた。
だが、考えてもみれば、あかねはあかねで昨日からいそいそと服を用意している。
しかも、休日は昼近くまで寝てる乱馬が今日に限って早く起きている。
この二つのヒントがあれば、導き出される結論はひとつだろう。
洞察力の鋭いなびきのことだ、これくらいの推理はお茶の子さいさいてなもんだろう。
「らんまくん・・そんなにあかねのことを・・」
「でかしたぞ乱馬!!」
「あらあら・・気をつけていってらっしゃいね」
どれが誰の台詞かは説明の必要も無いだろう・・・。
「な・・なんで俺があかねなんかと・・」
そしてお決まりの一言。
「なんですってえ!!あたしだってあんたとデートなんてしたくないわよ!!」
二人とも一緒に行きたくて仕方が無いのに、妙な意地がお互いを素直にさせない。
「なによ!!」
「なんだよ!!」
もはや臨戦態勢である。家族たちもなびき以外は必死で二人を仲裁しようとはしたが。
ここまでこじれた二人が、家族の助言ぐらいで落ち着くはずが無い。
「乱馬のばか〜〜〜!!!」
そして定番のこの台詞。
期待が大きかっただけ失望も大きかったようだ。
「なんでこうなるの早乙女君・・・」
「ぱふぉ・・・。」
あかねが勢い余ってひっくり返してしまったコップの水を浴びたパンダが、失望の声をあげた。


「ちぇ・・なんだってあかねの奴可愛くねえ・・」
乱馬は一人庭で巻き藁を打っていた。
雨がざんざんと降り続いていたが、彼は今、いわゆる「雨にぬれたい気分」だった。
六月のまだ冷たい雨は少しづつ、頭を冷やしていく。
「やっぱ・・俺が悪かったのかな・・」
やっと乱馬の考えはまっとうな位置に逢着した。
だが、時すでに遅し、覆水盆に帰らず。
既に時間は昼を大きく過ぎてしまっている。
「やっぱ・・・あやまんなきゃだめだろうなあ・・」
「乱馬君にそんなことできんの?」
「それができねえから・・・ってなびき?!」
「いつの間に?」
今日はあかね野ことで頭がいっぱいだったせいか、それともなびきの商魂のなせる技か、乱馬はなびきの接近に気づくことが出来なかった。
「そんなことはいいの。いい方法があるって言ってるのよ」
「5000円」
なびきは一息もつかずそう言った。
「3000にまけて・・」
「3500、コレ以上はまからないわ」
「わかった・・・」


「なんであたし、かんしゃく起こしちゃったんだろう・・」
あかねもまた、部屋で一人後悔していた。
つい先ほどまでは、後悔など頭に浮かばず、頭の中は不甲斐ない許婚のことでいっぱいだったが、雨の音を聞いているうちに少しずつ気持ちが落ち着いて、自分の反省点が見え始めていた。
『なんだって俺があかねなんかと』
たったこの一言でかんしゃくを起こさず、飲み込んでやるくらいの度量が自分にあれば少なくとも、今日のデートがここまで最悪の形で流れることは無かっただろう。
「やっぱ・・乱馬と話したいな・・・」
あかねの気持ちも、長い時間をかけてそこに辿り着いていた。
「あかね。はいるわよ」
その時唐突になびきの声が響いた。
「え?お姉ちゃんどうしたの?」
あわてて、目じりにたまった涙を拭う。
「あんたたち、ほんっと素直じゃないわねえ」
開口一番キツイ一言。
「なによ、おねえちゃんが原因でしょ?」
「あら、心外ね・・私はお父さんたちを喜ばせようと思っただけよ」
「まあ、でもさすがにほっとくのも悪いと思ってこんなものもってきたわ」
なびきはそう言ってポケットから一本のテープをとり出した。
「まあ、かけてみなさい。損はしないわよ」
ポンっとあかねに手渡してつかつかと出ていってしまった。
「なんだったんだろ?」
ぽつんと部屋に残されたあかねはしげしげとなびきのもってきたテープを眺めていた。
「なんだって言うのよこんなテープ・・・」
そうはいいながらも、部屋の片隅のラジカセにそのテープを押し込む。
再生の右向きの三角をポンと押す。
「・・・・えーっと・・・」
聞きなれた声がラジカセから響いた。
「えー・・・っと、」
どうやら切り出し方に迷ってるらしい。
「えっ・・・と・・あかね・・今日は悪かった・・・」
テープは続く。
「つい・・酷いこと言っちゃって・・・ごめん・・・」
「で・・このつみほろぼしって訳じゃないけど・・・明日一緒に・・・出かけないか?」
「よかったら・・・俺の・・部屋に来てくれ・・」
ポチッ
そこでテープは唐突に止まり、何処かで聞いたような曲のワンフレーズが流れ出した。
どうやら、なびきは一度自分が使ったテープを乱馬に売りつけたらしい。


「うまくいったわね、おばさま」
「ありがとう、なびきちゃん・・・」
あかねの部屋のドアの裏には、乱馬の部屋に向かって、走っていくあかねの後姿を見ながら微笑む二人の人影があった。
「いーえいーえ。わたしもいい小遣い稼ぎになったしね」
「大丈夫かしらね・・・あのふたり・・」
「だいじょうぶじゃない?だめならもう一回仲直りさせましょ。ただし今度は五千円でね」

♪雨がやんだ空の真下

     ♪自らの手でつかむ明日
   
          ♪For everyday

あかねの部屋のつけっぱなしのラジカセからは曲が鳴り響くなか、雨音は誰にも気づかれず、少しずつ小さくなっていった。








作者さまより
はじめまして!!生まれて初めて小説なるものを投稿させてもらいます
ちなみに、この小説の題「静かな日々の階段を」は最近賛否両論で話題になった
映画、「バトルロワイヤル」の主題歌です。
僕はドラゴンアッシュの大ファンなんで・・。知らないと面白くないですよね。
そう思ったにもかかわらず、歌詞まで入れてしまいました・・・。すいません・・。
でも、この曲はいい曲だと思うんで、聴いて損はないかも。
しかし・・見返すと・・恥ずかしいですね・・。とりあえず一生懸命書いたので
一読してくれると嬉しいです。


なびき姉さんの一人勝ち(笑
いえいえ微笑ましい二人が・・・
二次創作としては、初めての作品ということですがなかなか。
この続きも読んでみたいです・・・何処へ二人で出かけるのか気になって気になって。
(一之瀬けいこ)





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