◇imitation  ACT.1
kawachamonさま作

「あかね、・・・。好きだ。」
乱馬は小さくささやきぎこちなくあかねの肩を抱き寄せた。
やっと、やっと口にした言葉だった。

その日、乱馬はあかねをデートに誘っていた。
それもこれも、この一言を言うためだった。
天道家では周りの目がありすぎて、二人きりのなることもままならない。
落ち着いてあかねに自分の気持ちを打ち明けるなどできるはずもなかった。
しかしもう出会って二年と少し。
自分たちも高校三年生になった。
おそらくこの春には祝言が執り行われるだろう。
乱馬はそれが我慢できなかった。
もちろんあかねのことが嫌いなわけではない。
ただ、このままなし崩しに親のいうなりに一緒になる事だけは避けたかった。
自分は自分の意思であかねと結婚するのだということをあかね伝えたかったのだ。
しかし異常ともいえるほどのシャイな性格。
甘い愛の言葉を考え、何度も心の中で練習したがいざとなると口にすることができない。
今日一日、何度となくチャンスを逃し、とうとうデートも終盤の帰り道となってしまった。
見慣れた風景が見えてきた頃、今言わなければ男じゃないと自らにハッパをかけ乱馬は勇気を振り絞ってやっと告白した。
そしてそのまま思い切って肩を抱き寄せてみたが、所詮やりなれない事、そこから先どうしいていいかわからない。
乱馬はあかねの顔を見られずにいた。
ぎこちなくゆっくり歩きつづける。
ふとあかねの側の肩に少しの重みとぬくもりが・・・。
あかねが顔を乱馬の肩に寄せていたのだ。
夕日に照らされてあかねの顔は紅色にそまっている。
「私も乱馬のこと・・・、すき」
あかねも小さくささやいた。
言葉は少なかったが二人にはそれで十分だった。
息が鼓動がまなざしが言葉の代わりに二人を近づけてゆく。
”このまま永遠にこの道が続けばいいのに・・・”
寄り添った二つの影は決し離れることなく、ながくながくその姿を歩道に落としていた。



シャンプーは出前の帰り道、いつものように岡持ちを片手に自転車を走らせていた。
”はやく帰らねばな、もうすぐ忙しい時間帯ある”
そう思ってスピードあげ角をまがると、前方に見慣れたおさげ髪とショートカットの女の子が見えた。
「乱馬ー!!デートするある!!」
いつもの台詞を叫ぼうとした時、信じられない光景をは目の当たりにした。
乱馬があかねの肩を抱き寄せたのだ。
二人で歩いているのはいつもの事だ。
しかし、こんな風に乱馬があかねの肩を抱いている事など今まで見たことはなかった。
しかも乱馬の方からあかねを抱き寄せるなど、シャイな彼の性格を考えればあろうはずもない。
二人の雰囲気が明らかにいつもと違う。
”なんアルか・・・!これはどうしたことアルか・・・邪魔をしなくては!”
そう思ったのに自分がしたのは、物陰に隠れるというあべこべの行動だった。
”乱馬・・・。あかねを抱き寄せたある。乱馬のほうから抱き寄せたある・・・”
見てはいけないものを見てしまったような気がした。
心臓がまるで別の生き物のように踊り出す。
苦しくなって思わず胸のあたりをぐっとつかんだ。
”私は、何をしているか!?どうして隠れるある!?誇り高き女傑族の女あるぞ!隠れるなんて・・・!”
悔し涙なのか、それとも悲しみの涙なのか、頬をいく筋も涙が伝う。
”乱馬は、・・・あかねを選んだのだな”
絶望の中、シャンプーは理解した。もう自分の入り込む隙間はないと。
二人の姿がだんだん小さくなっていく。
しかしシャンプーはその場から動けない。
暮れ行く夕日に、あたりはやわらかくあたたかな光。
もうまもなく闇が支配する夜がやってくる。



ダーン!!バーン!!
激しい音が天道道場から聞こえてくる。
乱馬とあかねが手合わせの最中だ。
二週間前お互いの気持ちを確かめあってから、二人は毎日こうして手合わせをしている。
”手合わせをしている時が一番互いを近くにかんじる”
武道を志すものどうし、やはり気持ちも同じだ。

「ニィーハオ」
道場の入り口にシャンプーがたっていた。
「おぉ、シャンプーじゃねぇか、久しぶりだなどっか行ってたのか?」
タオルで汗をぬぐいながら乱馬が声をかける。
「うん、ちょっと用事があって中国に帰ってたある」
「猫飯店の常連さんがシャンプーが最近いないって嘆いてたわよ」
乱馬と気持ちを確かめ合って余裕ができたのかあかねは笑顔で言った。
「それより、今日は二人に報告があって来たある」
あかねの笑顔にこたえる風もなく、シャンプーは無表情だ。
「なんだよあらたまって」
いつもと様子の違うシャンプーに乱馬は少しの違和感をかんじていた。
「実は・・・。私、ムースと結婚するある。そして中国に帰るある。ひぃばぁちゃんも一緒に。猫飯店もたたむある」
「「ええっ!!!」」
あまりに突然の告白に二人はただただおどろいて目を白黒させている。
「で、でもシャンプー、あなたこないだまで乱馬をおっかけてたじゃない、なんでまた急に?」
確かに、このあいだまでシャンプーは乱馬をひつこいほどに追いかけていた。
あかねはそんなシャンプーにいつもやきもきさせられていたのだから、いきなりムースと結婚すると言われても解せない。
「心境の変化ある、中国にかえっていたのも式の準備ある」
やはり無表情にシャンプーは答える。
「心境の変化っていってもあんまりにも急で・・・。ビックリしちゃったわよ」
「そんでいつ帰るんだ中国に?」
「明日ある」
「「明日!?」」
どうも今日はシャンプーにビックリさせられっぱなしのようだ。
「だから挨拶に来たある。二人にはいろいろ世話になたあるからな」
乱馬とあかねは顔を見合わせて、なんといっていいのか言葉を捜していた。
これは本当の事なのだろうか?本当だとして、それでシャンプーは幸せなのだろうか?
「あのね、シャンプー、気を悪くしないでね、あなたはそれで幸せなの?」
あかねにとってシャンプーは、いつも自分をヤキモキさせる面白くない存在である。
しかしもうシャンプーとも長い付き合いだ、友情のようなものを確かに感じていた。
ムースは以前からシャンプーの事を深く愛しているしこの結婚は幸せな事であろうが、シャンプーにはどうなのだろう?
ひょっとして意に染まぬものではないだろうか?そうだとしたら、あまりにもシャンプーが気の毒である。
どうにかしてあげられないのだろうか?
あかねはねっからのお人よし、自分の事よりどうしても先に他人の事を考えてしまう。
「この結婚は私が決めたことある、私はムースを選んだある」
きっぱりとシャンプーはいった。
しかしその顔はやはり無表情のまま。
「そう・・・か、おめでとうシャンプー、よかったじゃねぇか!」
元来単純な乱馬だ、ムースの気持ちがやっと伝わったのだと素直に喜んだ。
「ホントなのね?」
あかねはいまだ信じられない。
「ホントある、心配するな、私は幸せある」
「なら、いいけど・・・。変な事きいてごめんね。シャンプー、おめでとう!!」
なにはともあれ本人が幸せだといっているのだ、喜んでやらねば。
あかねは精一杯の笑顔で祝福の言葉を送った。
「明日のいつに出発するんだ?俺たち見送りにいくよ、なぁ」
「もちろんよ、私たち長い付き合いじゃない」
突然の事で驚いたが、シャンプーは結婚するのだ。その門出を祝ってあげたい、乱馬もあかねも思いは同じだった。
「私、ネコになって宅急便で帰るあるから見送りはいいある」
そう言えば、シャンプーが再来日したとき彼女はネコになって宅急便で来ていた。
「なんだよしけてんなぁ、最後までネコかよ」
「乱馬のように泳いでいくよりはましある。新婚生活は何かともの入りある。節約する所はせねばな、とにかく二人とは今日でお別れある。世話になた。ありがとある」
ペコリとシャンプーは頭をさげた。
「んっ、まぁなんかあらたまれると変な感じだけど、こっちこそありがとな。楽しかったぜ、ムースと仲良くするんだぜ」
乱馬はこんな場面が少々苦手だ、人差し指で頬をポリポリ掻きながら照れた様子をみせている。
「もちろんある。おまえたちももうじき一緒になるのだろ?」
「「ええっ!!そ、それは・・・」
急に自分たちの事に触れられとまどってしまう。
恥ずかしがりやの二人だ真っ赤になりうつむいている。
しかしもう以前のようにムキになって否定はしない。
「乱馬、あかねの事をたいせつにするのだぞ」
上目づかいに乱馬をみる。
「あかね、幸せにな」
あかねに向かって手を差し伸べるシャンプー。
「えっ・・・。あ、ありがと」
今までのシャンプーでは考えられない行動に思わず戸惑うあかね。
しかし、しっかり差し伸べられた手を握った。
その時、シャンプーが何かをあかねにわたした。
何?コレ?っとたずねかけたが、シャンプーが目でそれを制す。
「あとで一人でよむよろし」
耳元でささやいた。
何がなんだかよくわからなかったが、ひとまずそれに従う事にした。
というより、従わざるを得ない真剣な雰囲気がそのまなざしにあった。
「それでは、元気でな、再見!!」
身を翻し道場をでていくシャンプー。
「お、おいっ!ってもういなくなってるじゃねーか。なんかあっけないなぁ、もう会えないのかなぁ」
さすがに今まで追われつつずけてきた乱馬である、名残おしさもひとしおなのかシャンプーの出ていった道場の出口を見つめている。
「いててててっ!何すんだよ!」
それが面白くないのかあかねは乱馬の耳をひっぱった。
「やきもちやいてんのよ!」
あかねはプイッとそっぽを向く。
しかしそれは怒っているわけではなかった。
やきもちを焼いている=自分は乱馬が好きだということを自ら口にしてみたものの、やはり恥ずかしがりやのあかね、顔が一気にほてっていくのを感じそれを乱馬に悟られたくなくて顔をそむけたのだ。
「なんだよ!やきもちも、も少しかわいく・・・!」
いつものようにへらず口をたたこうとした乱馬だったが、あかねの言葉の意味がわかりその先をつげなくなってしまった。
かわりにあかねをそっと抱きしめて、
「十分あかねはかわいい・・・」
などど言いなれない言葉をささやいたものだからお互いとり返しのつかないほどに赤面してしまった。
「えっと、なんだぁ、シャンプーもああ言ってた事だし、・・・、えっと、その・・・。大切にするぜ・・・」
もはや顔だけでなくおそらく全身真っ赤であろう。
しかし、言葉にしておきたかった。
いままでの自分は意固地でいつもあかねを怒らせて、困らせて・・・。
乱馬は乱馬なりにすまないと思っていたのだ。
自分につきまとっていたシャンプーも中国へ帰って行く。
出会って二年と少し、長い複雑な関係もやっとその終わりを告げようとしている。
これからは許婚として、いや自分の半身として大切にしていきたい。
その素直な気持ちをあかねに伝えたかった。
「うん」
あかねも素直にコクンとうなずく。
幸せだった。乱馬と出会った2年と少し前、まだ自分は東風に恋していた。
実らぬ気持ちを胸にしまいこんで、つらかった日々。
自分は男なんて嫌いだ、そう頑なになる事で自分をごまかしていた。
恋なんて苦しいだけ。そう思っていた。
しかし、今は違う。
乱馬に見つめられると胸が高鳴る。
乱馬に抱きしめられると身体が熱くなる。
私は乱馬に恋をしている。
”恋ってこれほど幸せなものだったの?”
あかねは生まれて初めて感じる幸福感に浸っていた。



「シャンプーったら、なんだろう?」
あかねは夜の通学路を一人であるいていた。
シャンプーが握手をした時、あかねに渡したものは短い手紙だった。
”今日、9時。風林館高校の体育館裏へ来るよろし、あかねにどうしても伝えたい事がある。ただ乱馬や他人には内緒で来るよろし。
同じ人を愛した者どうし、あかねに少しでも情けがあるならこの願いききとどけてほしい。私は待ってるある”
同じ人を愛したものどうし・・・、少しでも情けがあるのなら・・・。
あかねが弱そうな言葉だ。
こんな事を書かれては、あかねにそれを裏切る事などできなかった。
もちろん気味が悪いとは思ったが、今までのシャンプーならともかく彼女はもう乱馬に恋をしていない。
ムースと結婚するのだから・・・。
「シャンプーがムースと結婚」
ふとつぶやいてみた。
口にするとなんだか急にそれが疑わしく思えてくる。
本当なのだろうか、それとも・・・?
「私ったら、疑い深いんだから」
疑いを吹き飛ばすように、そうひとりごちて頭をブンブンと振ってみた。
シャンプーはムースと結婚するとハッキリ言ったではないか。
変なキノコを食べさせられたり、ほれ薬を飲まされたり、今までシャンプーには散々振り回されてきた。
しかし、彼女はこの手の嘘をついた事はなかった。
女傑族の女というプライドがそれをさせなかったのだ。
あかねはシャンプーを疑った事を恥じた。
そして少しあゆみをはやめ、風林館高校への道のりを歩いて行った。



夜の学校は誰一人おらずシンと静まり返っていた。
昼間の喧騒を思うと、それが同じ場所だとはとうてい思えない。
ふと学校の怪談などどいう映画が昔はやった事など思いだし、怖がりのあかねは泣きたい気分になっていた。
体育館裏はそんな学校の中でも建物の陰に隠れており、今日のように月が出ていなければ何も見えないほどの暗闇だ。
「シャンプー?どこ?」
おそるおそる暗闇に向かって声をかける。
桜の木の板に人影がうごいた。
「シャンプー?何?話たいことって?」
人影はゆっくりあかねに近づいてくる。
月が雲間から顔をだし、少しだけだがあたりが先ほどよりは見やすくなったような気がした。
青白い光のもと、シャンプーはその姿をあらわした。
月明かりに照らし出されたシャンプーの顔は、まるでこの世のものとは思えないほど美しい。
その美しさは、あかねに底知れぬ恐怖をいだかせた。
「話って、何?」
ただならぬシャンプーの雰囲気に、あかねは少し後ずさる。
怖い・・・。とても怖い・・・。やはり来るのではなかった。
「あかね、私はあかねが好きだたある」
無表情にシャンプーがいった。
「えっ?」
この場にそぐわぬ台詞に、あかねは思わず聞き返す。
「私はあかねが好きだたある、でももうだめある。私は乱馬を本気で愛してしまった」
その言葉と同時に、シャンプーの蹴りがあかねを襲う。
すんでのところであかね後ろに飛びのきそれをかわした。
「シャンプー!なにすんの!?」
突然の攻撃にあかねは驚きの声をあげる。
しかしその問いの答えはなく、代わりに鋭い突きがあかねの顔面をねらっていた。
「キャ!!」
この突きもなんとか身をよじりかわす。
拳圧であかね頬が切れた。
シャンプーは本気だ・・・。私を殺す気でいる・・・。
逃げなければ、そう思っても夕立のようにふりそそぐ激しい突きをかわすの精一杯だった。
あかねもかなりの使い手であったが、シャンプーはその上をゆく。
まともにやりあって勝てる相手ではない。
みるまにあかねの息が上がってきた。
それにつれて動きも鈍くなってくる。
「やめてっ!シャンプー!!」
突きをかわしながらあかねは必死に叫ぶ。
「すまない、あかね、すまないある」
「シャンプー・・・、あなた、なみ、あぁ!!」
最後まで言い終わらないうちに、シャンプーのまわし蹴りがあかねの腹部を強襲した。
そのままあかねは後方にふっとばされ、受身をとる間もなく桜の木に激しく後頭部と背中を打ちつけた。
あまりにも勢いがありすぎたため、あかねのは桜の木に背中から張り付いたような形なり、そのままゆっくり地面に引き込まれるようにずるずるとその身を沈ませた。
「はっ・・・、くっ・・・」
視界がだんだん白んでくる。
息をすることさえままならない。
あかねはゆっくりと自分の意識が遠のいていくのを感じていた。
いけない、このまま意識を失ってはいけない・・・。
そう思ってもすべての感覚がまるですりガラスの向こうの景色をみるようにおぼろげになっていく。
痛みさえももう感じない。
「あかねすまない・・・。私には、もうこうする他・・・」
シャンプーはあかねに一歩一歩近づく。
あかねはもうぼやけてしか見えないシャンプーを見上げた。
シャンプーは泣いていた。
”あたし、もう・・・、乱馬ごめん・・・”
「別了」
シャンプーの手刀があかねに振り降ろされた。



「あかね知らない?」
手合わせをしようとあかねの部屋を覗いたものの誰もおらず、乱馬はあかねを探していた。
「あー、あかね?教えてあげてもいいけど、2000円ね」
居間でねそべり、煎餅をパクつきながら雑誌を見ているなびきが乱馬に商談をもちかける。
いつものことだが商魂たくましい。
「たけぇよ、なびきねぇちゃん」
あかねの行方の情報料だけで2000円とはたしかに高すぎる。
乱馬はなれた様子で値切り交渉をはじめた。
「そうねぇ、行方まではっきり知ってるわけじゃないし、いいわ爆安価格500円で手を打とうじゃない」
雑誌に目をおとしたまま、なびきが値引きに応じた。
「ちぇっ、たまにはタダで教えてくれてもいいじゃねぇか。ほれ500円」
乱馬は軽くなびきをにらみ、親指とひとさしゆびで500円玉をなびきにむけてはじいた。
「まいどありぃ。あかねなら一時間くらい前学校のほうに向けて歩いて行ってたわよ」
「なにぃ!それだけで500円かよ!たかすぎるつーの!」
「うるさいわね、商談成立後のクレームは一切受け付けません」
ピシャリとなびきは言ってのけ、問答無用とばかり自室へ帰っていった。
「ちぇっ!」
いったい自分は一生のうちで、いくらなびきに金を絞り取られるのだろう・・・。
あかねと結婚したら彼女は義姉だ。
想像して乱馬は背中が寒くなりブルッと身を震わせた。
「それにしても、あかねの奴、こんな時間に学校?いったい何しにだ?」
独り言をつぶやきながら、探しに行こうと靴をはき玄関をでた。
秋口だが夜は少し冷える。
もう時計は十時をさしている。
女の子が一人でうろうろする時間ではない。
思わず乱馬は足を速めた。
川沿いを流れに逆らい登っていき、橋をわたった頃前方にあかねらしき影を見つけた。
「あっ!あかね!どこ行ってたんだよこんな時間に」
あかねが無事だったのはよかったが、心配をした分思わずきつい言い方になる。
「あっ、ごめん。ちょっと散歩に出かけてたの」
あかねは何でもない様子で答えた。
「散歩ってこんな時間にかよ」
まだ乱馬は不機嫌そうだ。
「あっ、ひょっとして心配してんの?」
あかねはいたずらっぽい上目遣いで乱馬を見上げる。
「べ、べつに、そんなことは・・・、・・・、・・・、心配だったにきまってんじゃねーか」
そういうと乱馬は右手であかねの頭に腕を回し、その顔を自分の胸にうずめさせた。
「俺に心配させる事するな」
ぼそっと、しかし乱馬はやさしくつぶやく。
「うん」
あかねはその顔を乱馬の胸に押し付けながら泣いた。
子供のように泣きじゃくった。
「お、おい、そんなになくなよ・・・!どうしたんだよ、あかね。俺そんなにきつくいったか?」
乱馬はあせってあかねの顔を覗きこみ、まるで小さな子供に話し掛けるようにやさしく問い掛ける。
乱馬はあかねの涙に飛び切り弱いのだ。
「ううん、なんでもない」
そういいつつも、なおもあかねは泣きじゃくる。
身体のなかから何かを搾り出すように嗚咽を繰り返した。
乱馬はどうしていいかわからずあかねを抱きしめた。
なぜだかこうする事が一番いいようなそんなきがしたから。
あかねは乱馬の腕の中で序々に落ち着きを取り戻して行った。
しかしあまり激しく泣いたせいで、まだしゃっくりがとまらない。
「あかね、大丈夫か?」
乱馬はどこまでもやさしく聞く。
「う、うん、大丈夫だから・・・。ごめんね。もう少しこうしてていい?」
「ああ」
自分の腕の中の少女はとてもはかなげで今にも消えてしまいそうだ。
乱馬の胸をいいようのない不安がよぎる。
あかねはなぜこんなにも取り乱したのだろう?
こんな彼女をみるのは初めてだった。
「乱馬・・・、お願い、私をはなさいで・・・」
あかねは今にも消え入りそうな声でつぶやいた。
「ああ、離さない、約束する」
乱馬は腕に力をこめる。
離さない、絶対に。
二人の影は重なったままいつまでもはなれようとはしなかった。




つづく



kawachamonさまも主婦乱あ作家さまでございます。
昨今は主婦な乱あ作家さまもたくさん増えました。ほぼ先駆者として突っ走っておった私といたしましてはとっても嬉しい限りであります。

さて、今回の作品は長編です。
いきなりラブラブの二人にシャンプーが乱入。波乱の予感が・・・。
(一之瀬けいこ)



Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.