◇染井吉野   五
かさねさま作


(五)


 少年が町を出て行った年の夏頃から老女は何度か入退院を繰り返すようになった。

 入院をすれば、自分で用意しなくても栄養士さんが考えてくれたおいしい食事が三度三度きちんと出される。介護をしてくれる優しい看護婦さんたちもいる。寂しくなったら同室の患者さんたちとお話ができる。
 初めのうちは、入院すると元気になって帰ってきた。だが、それも長くは続かなかった。
 生きる気力を失いつつあった彼女は、人間の最も基本的な欲求である「食べる」ということを無意識に拒んでいるかのように以前にも増して食事の量が減っていった。
 食パン一枚を四分の一にカットして、簡単なお味噌汁を啜る朝食。
 小さな一人分のインスタントラーメンを半分にして、それでも食べ切れなくて、残してしまう昼食。
 そして、残った昼食を食べる夕食。
 こんなに物が溢れ返り、「飽食時代」と言われているこのご時世に彼女は栄養失調と診断されたこともあった。
 自分の身を少しずつ少しずつ削り落として、今にも消えそうな火ごとなくしてしまおうとしていたのか。
 老女がどれだけおじいさんを頼りにその人生を歩んでいたのかは容易に想像ができた。彼女の時代ならそれだけの依存は特に珍しいことでもない。残されたほうは、連れ合いをなくし、生きる張り合いもなくしてしまうというのもよく見聞きする話。
 長年連れ添った伴侶を亡くしても、自分の持つ世界で伸び伸びと生きていける人もいれば、そうでない人もいる。彼女の場合は間違いなく後者だった。
 老女には息子や娘、それに孫だっていた。もちろん彼女自身の兄弟姉妹だっていた。みんな老女を心配して時々彼女の様子を見に来ていた。息子夫婦との同居を勧める者もいれば、自分の趣味に明け暮れてみてはどうか、友達や家族と旅行へ行ってみてはどうか、と助言する者もいた。
 あかねもその一人で、大学へ進学してからも時間を見つけて桑島の家へ遊びに行ってはこう元気づけていた。
 「おばあちゃん。まだまだ元気で生きなくちゃ」。
 「頑張って生きようよ」。
 だが老女の返事は決まって「うん、そうだね、そうだね。」という微笑みだけだった。



「………え………?」
 クルクルと丸椅子を左右に動かしていた足が止まった。
 嗅ぎ慣れた消毒液の匂い。もう二十年近くも経つのに、ここだけは変わらない。
 子供の頃は毎日が変化に富んでいて、そんな退屈しない毎日を自ら探し出すほど望んでいたはずのに、こうして大人という領域に身を収めるようになると変わらない何かがあることにホッとするのはなぜなのか。そんな「変わらない」安堵感を与えてくれるセピア色がかった小さな診療所。
 この春ここへ嫁いだ姉のかすみに用があり、その姉が買い物で留守だということで義兄と久し振りにゆっくりと話をしていた。
 あかねはそこで一つの真実を知ることとなった。
「あれ……?あかねちゃんなら知ってるのかと……。」
「い、いえ……。そんな話、初めて、です……。」

(―――だって、あんなに……。)

「そうか……。あかねちゃんの話をする時は、いつでも自分のお孫さんのように話してたからてっきり……」
 老女が足腰を悪くしてからずっと通い続けている診療所。この青年医師との付き合いも決して短いものではないのだろう。
「あかねちゃんになら、って思ってたんだけど……。」
 参ったなぁ、なんていう小さな呟きが聞こえてきそうだ。優しい面持ちの青年。心底困っているのが手に取るように分かる。彼は決してポーカーフェイスなんてことができる人でもなく、明かされてしまった事実を適当に誤魔化すなんて器用なことができる人でもなかった。
 けれども、一度覚悟を決めたら、その自分の決断に自信と信念を持って貫ける人でもあった。
「あかねちゃんなら分かってくれると思うけど、これはとてもプライバシーな話だと思うんだ。……それをうっかり僕が言ってしまったのは桑島さんのおばあさんに対してとても失礼なことをしてしまったと思うけどね。」
「そんなっ、東風先生は別に悪くなんか……。」
「いや、僕の責任だよ。こうやって自分の中で秘密にしておきたい話がいつの間にか広まっていたりするからね。」
 人というのは程度の差はあれ、他人の事情に興味があるもの。悪く言えば、それを種にして話を共有し合い、生まれた偽装の「連帯感」に安堵する。
「だから、この話はあかねちゃんの胸の中だけに納めておいてほしいんだ。僕が言うのもなんだけどね。」
「いいえ、そんな……。でも、あたしこのことは黙っています。誰にも言いません。……桑島さんちのおばあちゃんにも。」
「そうだね。それがいいと思うよ。」
「…………。」
「どうしたの?あかねちゃん。」
「だって―――」
 どこか腑に落ちない彼女の表情に義兄は苦笑した。

 一つ目の十字路をいつものように右に曲がって道なりに歩けば左側に見えてくる洋風の家。人気のない寥々とした感じが素人目でも分かる。いつも小奇麗なはずの玄関の片隅が吹溜まりとなって、落ちて久しい枯れ葉たちが身を寄せ合っている。
 体が思うように動かないと嘆いてはいても、元々まめな性格だったのだろう。遊びに行くといつもきちんとしていた家。老女が入院して二週間になるこの家は、すでに廃屋の影さえ見せ始めているようだった。


『最初に嫁いだのはお兄さんのほうだったからね。』


 東風先生のお祖父さんが、桑島のおじいさんと幼馴染みで、老女とも親しい付き合いをしていたという。
 どういう経路でその話が伝わったのかは知らない。義兄はただそのお祖父さんから聞いていたという。
(…………。)
 思えば、自分は二人の馴れ初めを聞いていなかったような気がする。
 あかねには言えない……言いたくないことだったのだろうか。
 老女が黙っていたかったというなら、それでもいい。
 ただ―――


『なんだか、納得いかないって顔してるよ、あかねちゃん。』

『だって―――』

『昔はそういうことがよくあったんだと思うんだ。』

『………。』

『僕はまだこうして結婚したばかりだけど、時々思うんだ。夫婦って…………』


(あたしにはまだ分からないよ、東風先生……。)

 あれほどおじいさんを支えにして生きてきたのではなかったのか。
 おじいさんなしでは歩んでいけないほど、その手をしっかりと握り締めていたのではなかったのか。
 老女の話に触れながら胸の中で育っていった平穏に満ちた安心と確かな自信が波立っていく。


『赤紙が来てね。お国のために行って来るって。』

『その頃にはもうおばあちゃんたちは結婚してたんでしょ?』

『………そうだね。結婚して暫くしてからだったかな。』


 あの時、少し躊躇いがあったのはそのせいだったのか。


『それから暫くしてからだったよ。お兄さんの戦死の知らせを受け取ったのは。』


 どんな思いでその知らせを受け取ったのだろう。
 弟であるおじいさんと夫婦になると決まって、どんな思いだったのだろう。

 こんなふうには言いたくない。
 だけど、とても乱暴な言い方をしてしまえば、最初に嫁いだ相手が戦死してしまったからその弟と結婚した、となるのだろう。ならば………

 ―――そこに、二人の間に……―――

「それが当たり前の時代だったの……?」
 老女には決して聞くことのできない問い。無人の家に問うたのは、またそれも決して答えを返してくれることはないから……。
 無論、好いている者同士が一緒になるのが大前提という今の世の中とは違っていたのは理解できる。義兄の言うように、そんなケースは逆に少ないほどだということも分かる。
 そう、頭では分かる。だけれども、気持ちが割り切れない。 
 どこか悲しい気持ちでひっそりとした家を見つめてしまう。

「あかねちゃん?」

「あ……。」
 はっとして振り向いた先、夕飯の買い物を済ませたのどかがそこに立っていた。



 駅の土手に生えるススキの穂が銀色に光り、街の落莫とした顔には、街路樹の鮮明な色付きによって血色のいい温かみが乗せられる。
 自動販売機にはホットココア、コンビニにはおでんや肉まんなどが顔を出すこの季節。ちょっと寄っていきましょうか、と誘われて入った甘味処。二人の前にも、香ばしい匂いと美味しそうな焦げ加減を呈したお餅がとろりと甘い汁粉の中で浮かんでいた。
「こんなんの食べちゃったらお夕飯が食べられなくなっちゃうわね。」
 今晩のおかずになるであろう食材たちが詰まった買い物袋を申し訳なさそうにちらりと見遣る。
「でも、甘いものは別腹ですから。」
「それはご飯を食べた後に言うものよ。」
「あ、そうか。」
 乱馬が天道家を出たその時に、早乙女夫婦も家を出る意向であることを早雲に伝えた。たとえ許婚の関係であろうと息子が出て行った以上、しかもいつ帰ってくるかも分からないのなら尚のこと、と言って。だが、早雲はそんな親友夫婦の遠慮を、水臭いよ早乙女君、といつものように笑い飛ばした後、泣き伏して引き止めた。かすみが嫁ぎ、次女のなびきに至っては断じて家事などをする性分でもなく、天道家の食生活が全てあかねの手の中に握られる事態だけは何が何でも避けたかったという話もある。
「桑島さん家のおばあさんが入院してもう暫く経つかしら。」
「……え?」
「ほら、あそこのおばあさん、まだ退院されていないでしょ?」
「あ、え、ええ、そうですね。」
「お一人であんな広い家に住んでいるのもなんだか寂しいでしょうねぇ。」
「ええ、そう思います。あたしも時間が作れる時は顔を見せるようにはしてるんですけど、最近はなかなか時間が取れなくて……。」
「あかねちゃんは優しいわね。」
「いえ、そんな……。おばあさんと話していると楽しいし、昔のこととか色々面白い話が聞けるから……。」
「そうね。あかねちゃんのお家はともかく、最近は核家族が当たり前になってきて、そういう昔のことを知る機会がぐっと減ってしまったものね。」
「あたしの家だって、普通の家と比べたら家族は多いかもしれないですけど、おじいさんやおばあさんと同居しているわけじゃないし。」
「私のところだって、あかねちゃんのお家にご厄介になっていなければ典型的な核家族だわ。しかも乱馬には父親だけだった時間が長かったから。それでも、あの子が修行先でたくさんの人に出逢って多くのことを学んでくれていると思いたいけど。」
「………。」
 老女の話を打ち明けるつもりはなかった。
 ただ、煙ってしまった不透明な胸。見えていたものが見えなくなってしまった時。ただ一つの存在を求めて、縋る思いでそれを見つけ出そうとする。

 真実を知りたかった。

「……おばさま……。」
「ん?」
「あのっ…、へっ変なことお聞きしますけど……」
「なにかしら?」
「気を悪くされたらごめんなさい。……その、早乙女のおじさまと乱馬が十年以上も修行の旅に出てしまって、例えば、もしも…、もしもハガキも連絡もなにもなかったとしたら……、どう…してました?やっぱり他の人と―――」
 のどかの目を直視できなくて、甘い香りと温かそうな湯気を立てるお汁粉に視線を落とす。義母になるであろう彼女の周りの空気が微かな驚きで止まっているのを、さすがの鈍感なあかねも感じ取った。
「ごっごめんなさいっ!あたしったら失礼なこと聞いちゃって……っ。あのっ、今の質問は忘れてください!」
「あかねちゃん……」
「あっあのっ、本当に……」
「失礼だなんてとんでもない。ごく当たり前の質問だと思うわ。」
「……え……?」
 慌てふためきながら大きく振り続けていた両手が、羞恥で真っ赤になった顔の前でピタリと止まる。
「待つ身の女性としては当然、不安になると思うわ。」
 どうやらのどかは、乱馬を待つあかねの不安な乙女心から生まれた声だと思ったようで……。
「……あ、えっと……」
「だけど―――」
 言い淀むあかねに構わず、のどかは続けた。
「たとえあの人と乱馬が家を出てからの十数年、何一つ連絡がなかったとしても、きっと二人の帰りを待ち続けていたでしょうね。」
「………それは、乱馬がいた、から……。」
「そうね。」
「じゃ……、もしも―――」
 募りだした思いはもう止まらない。
「もしも乱馬がいなかったら?」
「!」
 時として、普段の彼女からは考えられないような鋭い洞察力にドキリとさせられる。
「……乱馬がいなかったら―――」
「いなかったら……?」
「どうしてたかしら……。あの人が一人修行の旅に出たきり帰ってこなかったら―――」
 あかねは、その胸裏で揺れる半々の気持ちを、のどかの言葉に託す。

「……それでも、きっと待っていたでしょうね。」

 ああ、やはり―――

 予測のつけられた答えでも、一縷の望みを握り締めて見つけ出したかったもの。
 それはやはり見つからないのか。
「あ、でもね、誤解のないように言っておくけど、別に乱馬を待っていてほしくてそう答えたわけじゃないのよ。そりゃもちろん、あかねちゃんが待っていてくれたら嬉しいけれど、だからってあなたの心を縛り付けるようなことはしたくないのよ。」
「ええ、分かっています、おばさま。」
 あかねには、許婚の青年を待つ覚悟などとうの昔にできていた。そう、たとえどんなことがあっても―――
 だからこそ、歯切れの悪い気持ちがこびり付く。
「でも、もし……、もしも、おじさまが……、こんなこと想定するのは本当に失礼だと思うんですけど、例えば、修行中に不慮の事故で亡くなったとして、それで、例えばおじさまに弟さんがいらっしゃたとして、その弟さんと結婚しなくちゃならないとしたら―――」
「……あかねちゃん?」
「あっあの、もしもの話であって―――」
「あの人に弟がいたなんて話は聞いたことがないけど、だけど、もしもそういう状況になったら……」

「………なったとしても、やっぱりそのお話はお断りすると思うわ。」

 自分も選ぶであろう決断。
 それでも賭けたかった、もう一つの選択。
 それを否定することは………

「だけど―――」
「……え?」
「だけど、もしもそうならざるを得ない状況だったら……、例えば私たちの親の世代や、それこそ桑島さん家のおばあさんの年代やずっと昔の時代に生まれていたら……」
 老女へと及んだ時は心臓がビクリとした。
「そういう時代に生まれ育っていたら、もしかしたら弟さんと結婚していたかもしれないわね。」
「……でも、そこに―――」
「昔は恋愛結婚なんて少ないほうだったんじゃないかしら。」
「………東風先生も同じこと言ってました。」
「え?」
「あっ、いっいえっ、なんでも…!」
「確かに、私の世代やもっと若いあかねちゃんたちの世代から見たら、なんだか合点のいかない結婚の形かもしれないけど、なにも好きあっている者同士が結ばれる結婚だけが幸せな家庭を築けるわけじゃないのよ。」
「………。」
「そりゃ、好きな者同士が結ばれてこそ『結婚』だって思うかもしれないけれど、結婚は結ばれたからそれで終わりってわけじゃないわ。結婚は始まりに過ぎないってよく言うでしょ。そこから家族を作って、死ぬまでの何十年という時間を共に分かち合っていかなくてはならないのよ。お互いが好きであることは二人の絆をより強くするかもしれないけれど、それ以上に必要なものがあるような気がするの。」
「それ以上に必要な、もの……?」
「私も上手く言えないけれど、例えばそれは、お互いを理解し合おうという歩み寄りだったり、家族という一つの城を共に作り上げていこうっていう労力を惜しまないお互いの気持ちだったり努力だったり……。それは、ただ恋愛で感じていた『好き』という気持ちだけじゃなかなかやっていけないことだと思うの。」
「じゃ……。」
「生活を共にしていくことでね、生まれてくる愛情があると思うの。」
「家族の愛情……ってことですか?」
「そうね…。はっきりは分からないけど、でも、この愛情って恋愛で感じるものとはまた違ったもののような気がするわ。始まりに恋愛感情があったとしても、それは夫婦として過ごしていくうちに形を変えていくと思うの。うまく変わる人もいれば、そうでない人もいる。逆に、たとえ始まりに恋愛としての愛情がなくても、夫婦として……人としてその相手を愛せるのなら、それはとても素敵な夫婦なんじゃないかしら。」
「………。」

「もちろん、幾つになってもラブラブな二人であってほしいとは思うけど。」

「え?」

 のどかにしては珍しい言葉を使うと思いきや、にこにこと笑う彼女の意味が読み取れて……
「えっ、でもっ、あの……っ///」
「ま、あの子ならそうなりかねないわね。」
「は、はぁ……。」
「さっ、そろそろ出ましょうか。お父さんたちがきっとお腹を空かして待ってるわよ。」
「あ、ここは私が…!」
「いいの、いいの。私が誘ったんですもの。」
「でも……。」
「こんなにかわいい許婚を長い間待たせてるあの子の母親として、ここは……ね?もちろん、お汁粉一杯で済まされるものじゃないけど。」
「そんな……。あたしは、全然大丈夫ですから……。」
「ありがとう、あかねちゃん。」

(あ……)

 伝票を持つのどかの左手。
 あかねは、老女といつか話した結婚指輪のことを思い出した。


『おばあちゃんたちはどんな結婚式を挙げたの?』

『結婚式なんて挙げてる余裕もなかったよ。』

『え、じゃ、その指輪は?』

『結婚して暫くした頃……、そうだねぇ、数年経ってからだったと思うけど、おじいさんがくれてね。式も何もできなかったから指輪だけでもって。』


 あの時の、老女の顔を今でも忘れることができない。
 刻まれた幾筋もの深い皺に隠されることなく表れた、幸せに満たされた微笑み。

 今にして思えば、老女がおじいさんと結婚したのは終戦前後。お兄さんが亡くなって、そしておじいさんが兵役免除として帰ってきてから……だろう。そんな世の中が混乱に陥っている最中、式などと悠長なことは言っていられなかったはず。

 おじいさんは、どんな思いであの指輪を贈ったのだろうか。
 そしておばあさんは、どんな思いでその指輪を受け取ったのだろう。

 老女と老人の気持ちを推し量るにはまだまだ未熟な自分。
 それでも、胸が熱くなった。
 そして、ほんの少しでも軽率な思いに至ってしまった自分を恥ずかしく思った。

 二人の結婚にどんないきさつがあったのかは知らない。自分はそのほんの断片を聞きかじっただけに過ぎない。
 二人の間にどんな思いがあったのか。それは、二人にしか分からない。

 老女のおじいさんを語る言葉に込められた想いに偽りはない。
 そして、彼女を妻として迎えたおじいさんの心にも―――
 二人で重ねてきた時間がなによりも真実。

(ごめんね、おばあちゃん。おじいさんも、ごめんなさい……。)

 もしも自分が同じ立場に立たされたら……
 のどか同様、後家を通すだろう。
 だからと言って、どんな愛の形も想いも否定することはできない。

「おばさま、今日はご馳走様でした。」
「たまにはね、こういうのもいいじゃない?」

 ―――女同士の話っていうのもね。

 家路に落ちる長い二つの影が他愛もないおしゃべりに揺れていた。



つづく




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