◆「卒業」

みのりんさま作さま作




「おはよう。」
「おお。」
 乱馬は軽くてを上げて応えた。
 ガチャガチャとせわしなく動く乱馬の箸。
「おかわり!」
 勢いよく出される茶碗を受け取り、かすみお姉ちゃんはご飯を盛りつける。

「乱馬、早くしないと遅刻よ。」
 あたしの呼びかけに、乱馬はしぶしぶといった感じで立ち上がる。
「行ってきます。」
 二人揃って家を出た。
 乱馬はフェンスの上を、あたしはその下の道を歩く。
 それは、毎日の繰り返し。
 見上げればいつも、乱馬がいた。
 久能先輩が竹刀片手に向かって来たり、シャンプーの乱入があったり……嫌なこともあったけど、あたしはこの光景が好きだった。
 ――けれど、最後の日は必ず訪れる。


『卒業式』と書かれた立て看板を、二人で見た。
「何か、実感わかねえな。」
 ポツリと乱馬が呟いた。
「そうだね。」
 あたしも同感だった。
「あっかね!」
 声がした方を見ると、ゆかとさゆりがカメラを持って、手を振っているのが見えた。
 あたしも振り返すと、「じゃあ。」と、乱馬は一人で校舎に向かって行った。
「写真撮ろ!」
「うん!」
 何枚かポーズを変えたり、交代したりして撮った。


 式は体育館で行われた。
 この時ばかりは、さすがの校長も神妙な調子でいた。
 一人一人の名前を担任の先生が読み上げる。
「早乙女、乱馬。」
「はい。」
 校長から授与された証書を右わきにはさみ、こちらに向かって一礼する乱馬の顔も、しかつめらしかった。
「うぐっ……」
 誰かが嗚咽を上げていた。
「天道、あかね。」
「はい。」
 みんなの見ている前で、すごく緊張したけど、練習どおりにきちんとできた。

「卒業生退場。」
 音楽の先生のピアノ伴奏で、在校生が “蛍の光”を歌い始めた。
 そのメロディに感化されたのか、あたしは急に入学式の日のことを思い出していた。
 ――希望と夢を抱いて、校門をくぐったあの日。
 A組の人達が一斉に立ち上がり、前から順番に退場していく。
 ――乱馬が編入してきたあの日。
 A組の最後の人が行って、B組の人達が立ち上がる。
 ――みんなと笑って……
 どんどんと卒業生が出て行く。
 ――みんなと泣いて……
 次々に卒業生が出て行く。泣いてる人をみかけた。
 みんなと怒った……
 ゆっくりと、あたしの目に涙があふれてきた。
「うっ……うっ……」
 堪えようとしたけど、ダメだった。
 ハンカチを取り出して、目頭を押さえ、あたし自身も退場した。
「あかねぇ……」
 呼びかけてきたのは、ゆか。
「ゆかぁ……」
 ゆかも泣いていた。
「もう……二人とも……泣かないでよぉ」
「そう言う……えぐ……さゆりこそ……」


 終わりのホーム・ルーム。
 いつもは賑やかなクラスメイトも、黙って先生の話に耳を傾けていた。
「起立!礼!」
 揃って一礼した。
 この席に着くのも、この教室に来るのも、この校舎に入ることも、もうないだろう。
 一年間過ごした教室、毎日通った校舎ともお別れして、いつの間にか校庭に出ていた。

 何枚も、何枚も写真を撮った。
 何枚も、何枚も映しあった。
 先生とも撮った。
 ――さよなら、みんな。
「あかねちゃん、乱馬と一緒に一枚撮ってくれない?」
 いつの間にか早乙女のおばさまが側にいた。その横に乱馬が立ってた。
 ――さよなら、高校生活。
 あたしと乱馬は自然と目が合った。
 ――さよなら、高校生のあたし。
 乱馬はあたしから視線をそらす。
「まあ……おふくろが言うから……」
 ――サ・ヨ・ナ・ラ
「じゃあ、二人ともこっちを向いて。」
 おばさまが言うのに、顔を上げた。
 ――そして――
 バシャッ!
 ――ありがとう。――








作者さまより
 自分の卒業式は……げ、卒業証書どこやったっけ……と、全く記憶に残っていません状態です。




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