◆ホントはこ〜だろう 2
みのりんさま作作



 写っているテレビの左の隅に、大きく「○○が出現!」と赤のゴシック体で書かれている。
 緊張した面持ちのリポーターは、マイクを手にカメラ目線で話す。
「ここは東京都練馬区の住宅街です。それは突如として出現しました。」
 画面は切り替わり、中年女性の顔に『主婦』というテロップがかかる。
「ええ、見ました。ビックリでした。」
 次はローアングルで男性の首から下が写る。。
「この商店街で長いこと店をやってますが、あんなの見たことがありません。」
 テロップは『店主』とある。声の調子から、やや年を老いた感じがする。
 続けて若い男性の映像に切り替わる。テロップによると『会社員』だそうだ。
「ええ、本当に驚きましたよ。まさか、こんな街中で見るとは思ってませんから。」

 そして再びカメラはレポーターの映像になる。
「このように、取材の中で数多く目撃証言を得ることができました。」
 レポーターはカメラ目線のまま、後ろに歩き出す。
 カメラはレポーターを追いつつも、右へ左へ周囲の映像を捉える。
「このような、閑静な住宅街に現れたもの、それは。」
 レポーターは少し間をおいて、口を開く。
「ジャイアント・パンダです。」


 デカデカと画面いっぱいに大きな文字が出る。
『練馬区内、閑静な住宅街に出現!』
『白昼に現れたパンダ?!』
 ジャジャジャ――ッ!と大きなミュージック付き。
「今朝、パンダを捕獲、飼育していたとして、十六歳の高校生を警察が逮捕しました。」
 そして、画面には見る人が見ればすぐに、天道道場と知れる門の引き画像になる。一応、『天道』はモザイクで隠れているが、バレバレである。
「ここが、少年が一時居候していたTさん宅です。」
 大きな門の前でレポーターは立ち止まる。
「少年は“修行”と称して中国に渡ったという証言をしておりますが、その時にパンダを捕獲し、密輸入したと思われます。ですが、外務省によると少年はパスポートの申請をしておらず、密出国、密入国した疑いが濃厚であると発表がありました。」
 スタジオの画面に変わる。
「皆さん、“ワシントン条約”と言うものをご存知でしょうか?」
 そう言って、識者とされる某大学教授にカメラはズームする。
「パンダは絶滅の危機に瀕している動物なので、“商業目的での輸入”が出来ないのです。」
 そして教授が指差すところには、パンダ他希少動物のイラストのフリップがある。
「少年は、中国で買ってはいないと証言していますが。」
 そう司会者はは述べる。
「そうですね、国際取引に関する条約なので、“国内”で生まれた動物を取引する際には適用されないそうです。」
 そしてカメラは教授を写す。
「ですが、絶滅の危機に瀕している日本には“種の保存法”という法律があるんです。」
「それは何ですか。」
 尋ねる司会者に対し、教授はカメラ目線で言う。
「パンダは学術研究目的などの例外を除いて“譲渡や捕獲が禁じられている”のです。つまり現行の法律では、“パンダをペットとして飼う事は出来ない”ということなんですよ。」


 テレビが写っているテレビは、家電製品の置いてある電気量販店だった。
 その前をガラガラとアタッシュケースを押す三姉妹が行く。
「電気、水道、ガス、電話、NHK受信料と……忘れているのないわね。」
 指折り数えるなびき。
「門下生の人からのお月謝の返納したら、お金なくなるわね。」
 かすみは前を見ながら言った。
「仕方ない、土地家屋、道場も含めて、売り払うしかないわね。」
「えっ!道場も?!」あかねは驚きの声を上げる。
「しょうがないでしょ。税金だけでもばかにならないし……この騒ぎで門下生がいなくなった今、私たち収入ゼロなのよ。生活するためには、それくらいガマンしないと。」
「うん、そうだけど……」諦めきれないのか、あかねは溜息を吐く。
「全く、お父さんもロクな友達いないんだから。そうだ、慰謝料請求しようかしら。」
 するとたしなめるようにかすみが言った。
「なびき、早乙女のおじ様、檻の中なのよ。」
 その一言に、なびきは大きな溜息を吐いた。

 彼女らの父は参考人調書のため、練馬署に出向いている。三人もまた警察から事情聴取を受けたが、あまり話すことはなかった。
「授業料も払えないし。こりゃあ、学校に退学届け出すしかないわね。」冷めた声でなびき。
「……嫌だな。ゆかやさゆりと離れるの。」
 ポツリとあかねが呟いた。
「私だって嫌よ。でもね、うちの台所事情分かるでしょ。」
 あかねは黙った。
「退学届けが受理されて、不動産の売却のめどが立ったら、郊外にアパートでも借りて生活するしかないわね。」
 父はなびきから“道場売却”の話を聞き泣き崩れたが、なびきから現状では生活できないと言い聞かせた。


 その後、天道一家の行方は誰も知らない。
 こうして、乱馬とあかねの物語は終わった。




                          ―らんま1/2 完―






作者さまより
お、終わってしまった……い〜のだろうか?

初期の玄馬パンダは看板を持っていません。
飼育員にお湯を要求するのは、かなり難しいかと……




Copyright c Jyusendo 2000-2012. All rights reserved.