「そしてドラえもん」
半官半民さま作

 
 ある日、乱馬がドラえもんになっていた。

 違った。乱馬の座布団に等身大ドラえもんぬいぐるみが鎮座していた。

「ドラちゃんかわいい〜♪」
 隣に座っているあかねがうれしそうにドラえもんを撫でる。なんでも「春休みだよ!ドラえもん2時間スペシャル」で見たミニドラがひどく気に入ったらしい。きゅうっと抱きしめて頬擦りしている。乱馬が思わずむっとなった。
「……あん? なんだよこれ。」
 自分の席に座っているその邪魔ものを乱馬はぽんと蹴った。
「ドラちゃんになにすんのよっ!」
 間髪をおかずあかねの蹴り一閃。乱馬の体は宙を飛ぶ。通常ならば庭の池に落下するところであるが、今回の蹴りの威力は増大しており乱馬は壁に激突した。
 がらがら
 瓦礫の下で起き上がった乱馬が抗議の目であかねを見たが、あかねはちらっと睨んだだけで気にとめる様子もない。嬉しそうにドラえもんのぬいぐるみを抱きしめていた。
(ドラえもん許すまじ!)
 乱馬はめらめらと燃えていた。
 同じ頃、無念の涙を流しつつその光景を見守る者があった。
「あ……あかねさん、おれ(Pちゃん)というものがありながらそんなブタ猫やろうなんかを……!」
(ドラえもん許すまじ!)
 良牙もめらめらと燃えていた。

「おーい、あかね。今日の宿題さあ……」
 ノックするが返事がない。乱馬はがちゃりとドアを開ける。
「うぐっ!」
 あかねの部屋は、大小色とりどりのドラえもん人形で埋め尽くされていた。ぴきと乱馬の額に青筋が立つ。ベッドの上にこずまれているドラえもん人形1コ中隊をふてくされたように睨んだ。
「おめーら、誰に断ってあかねのベッドに居座ってやがんでい!」
 どたどた
 腹立ち紛れに近くにあった黄色いドラえもん人形を手にとり、壁にぶつけた。ぽんとドラえもん人形が跳ね返ってくる。まっすぐ乱馬の方向に。
「え?」
 ふいに空間がゆがんだ気がした。そのまま乱馬は気を失った。

(……あれ、どこだここ……)
 目を開けたそこは巨大化したドラえもん人形がひしめいている。
(よいしょっと……あれ? なんか動きが悪りい……)
 じゃまっけな周囲のドラえもん人形を蹴り飛ばそうとしたが、足が届かない。腕を振ったが、これも届かない。
(ええいめんどくせえ。一気にかたづけてやる! 飛竜昇天破!)
 ふしゅる
 頭上高く上がるはずの自分の拳は、なぜが目の前までしかこなかった。
(……なんだ、このまんじゅうのような手は)
 指がない。
(……?)
 ぶんぶんと動かしてみた。自分が力を入れたのと同じように動く。
(こ、このドラえもんのような手が……おれの手?!)
 血の気が引いた。乱馬は恐る恐る自分の体を見てみる。
(な、なんでおれの腹にポケットがついてんだああ!)
 しかもずん胴。さらに短足。
(と、とにかく鏡……!)
 乱馬は身軽にベッドから降りた。気分だけは。
 ぼて
 パイルドライバーよろしく脳天から落下し床に突き刺さる。頭の重心の重いドラえもん体型としては当然至極の結果である。
(そ、そうか。たけコプターは運動神経の激ニブいのび太のやろーじゃなく、ドラえもんの必需品だったのだ!)
 またひとつ賢くなった乱馬であった。

「ふーッ! ぴいい……!」
 ふいに背中にぶつけられた殺気に乱馬が振り返る。はたしてそこには巨大な黒ブタがいた。首には見慣れたバンダナ。
(げっ、Pすけのやろうがでけえ!)
 血走る良牙の目は、らんらんとその怪しいドラえもん人形を睨んでいた。神聖なるあかねさんの部屋に侵入するいかなるばかものをも排除しようとの使命感に燃えている。
(ま、待て良牙。おれだ、乱馬だ!)
 声の出ない乱馬は必死に身振り手振りで伝えようとしたが、短いそれでは相手に伝わるすべもない。ますます良牙は警戒心を高める。だいたい自分勝手に動く、しかもおさげがついているドラえもん人形など限りなく怪し過ぎる。
「ぷぴぎいいーっ!」
 黒い弾丸のような良牙の突進は、軽く乱馬を吹っ飛ばした。窓ガラスを破ってその黄色いドラえもん人形(おさげつき)は彼方へと飛び去った。
(良牙のばかやろーっ!)
 声にならない乱馬の捨てゼリフは、当然誰の耳にも届かなかった。

 ドアが開く。この部屋の主が入ってきた。散らかったドラえもん人形と、暴れている黒い小ブタを見て眉をしかめる。
「Pちゃん? どうしてこんなおいたするの!」
 あかねにめっと怒られたPちゃんは、たじたじと後ずさりすると泣きながら部屋を飛び出した。
「もう、Pちゃん!」
 あかねはため息をつくと、散らかったドラえもん人形をていねいにかたずけ始める。もとの場所に収めてしまい、数を数えながらふと首をかしげた。
「あら……? 黄色いドラちゃんがいないわ。」
 窓の破れた穴を見る。先ほどのPちゃんの様子を思い出し、もう一度あかねはため息をついた。

 その頃、乱馬は木の枝に引っかかっていた。くるりとかっこよく木の枝に着地する予定が、頭の重心が重すぎて余計に回転してしまい木の枝に激突した。そのまま枝が絡まり乱馬は難儀する。短い手足を必死で動かしながらようやく動けるようになると、乱馬はとにかく天道道場へ帰るべく屋根へと跳び移ろうとした。
 ひう〜
 枝をつかもうとしたが頭が邪魔で手が届かない。乱馬の両手は虚しく空をつかみ、ばんざいした姿のまま地面へと落下した。
 どてん
 ぽんぽんと黄色いドラえもん人形(おさげつき)が地面を跳ねる。ころんと横たわって回転が止まった。その場所に、乱馬の本能に鋭く訴えるいやな気配があった。
「ふうううーっ」
(ねねねねねねね猫おおおおおおおおっっ!!)
 その猫は、目の前に転がってきた黄色いドラえもん人形(おさげつき)にいきなり跳びかかる。
(うぎゃあああああああああああっっっ!!!)
 彼の心情察して余りある。猫は人形をばくりとくわえると、わき目もふらず走り出した。哀れなり乱馬。その恐怖は筆舌に尽くしがたい。
「Å♯∽¶††⇒∀▼△☆☆☆♀♂¥◎£!!!!」
 ……表記不能である。

「あっ、あたしのドラちゃん!」
 あかねの視界に、走り去る猫とその口にくわえられた黄色いドラえもん人形(おさげつきだがあかねからは見えない)が入る。あわてて後を追った。しかし、ふいにその猫の姿がまぶしく輝く。
「ぎゃん!」
 猫がくるりと倒れる。急速に光が膨れ上がる。次第に人の姿をとり始める。
「え……? 乱馬?!」
 乱馬は立ち上がらない。四つん這いになったままだ。その目が薄い緑色の光を放つ。野獣の瞳。
(猫化!)
 あかねが思ったのと、乱馬が猫に跳びかかったのは同時だった。一瞬で猫は因幡の白兎よろしく丸裸となり、周囲は乱馬の拳圧でかんなくずのごとく削られる。
「ぐるるるーっっ!」
 あわれ猫は悶絶。収まりのつかない乱馬はさらに被害を拡大する。先ほどの恐怖が深く彼の心を苛んでいるのだろうか。あっという間にあたりは瓦礫の山と化した。
「乱馬!」
 乱馬が反応する。あかねがひざまずき、にっこり微笑みかけた。乱馬の陽だまり。ひきつっていた乱馬の表情が一変する。
「にゃあああーん♪」
 一目散に乱馬はあかねに駆け寄ると、そのひざの上に跳び乗ってひたすら体をすり寄せた。甘えるようにのどを鳴らす。
「にゃあん、にゃあん、にゃあ♪」
「よしよし、そんなに怖かったの。」
「ふにゃあん。」
 安堵したのか、乱馬はあかねのひざのぬくもりをいつまでも貪り続けた。

「だあから、おめえがあんなドラえもんなんぞ山のように買ってくるからだろーが!」
「なによ! 呼ばれもしないのに人の部屋勝手に入るあんたが悪いんでしょ!」
 ようやく正気に戻った乱馬があかねを解放した頃は、すでに陽もとっぷりと暮れていた。

 同じ頃、良牙はまだ庭の片隅で泣き続けていた。

                                     (おしまい)


(おわび)
…………すんまっせん。軽いタッチのあったかい笑える話つーのに憧れたんす。書いてみたかったんす出来心す。ああ、呪泉洞の品位を一人で落としまくっとる……この春サイトをお閉めになった「らくがきらんま」のnobさん、この方の作品が好きで、何とかあの味を追求したいなあと……撃沈しましたがやっぱ。あと、「陽だまり」の表現は母じゃのタイトルから拝借しました。(YOU ARE MY SUNSHINE♪)


 楽しいっ!こういうらんまワールド大好きっ!!
 パロディーの中にちゃんと乱馬とあかねが・・って、これもいいな。美味しいな。
 でも、良く考えるとドラえもんって猫型ロボットだけど・・乱馬君は平気なのか(笑
(一之瀬けいこ)

背景画・・・これを始めて読ませていただいたときに、何故か浮かんだイメージイラスト。
この背景を是非使いたいと思ったんで、勝手に仲良し(か?)の
甘栗ケンさんち(秘的会党)から貰ってきました。
勝手に持っていってゴメンネ・・甘栗さん(苦笑
(もちろん、許可は貰っています)


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