はじめに、使用上の注意をよくお読みください。
 
 この話は、PS版らんま格闘ゲーム「バトルルネッサンス」の設定と作者のアホな煩悩で進めております。んなもんであかねが強い!乱馬に強い(笑)だけじゃなくマジ強いっす。その分乱馬がギャグに走っとります。しかもちょいすけべで情けないす(おい)。乱馬vsあかねという格闘対戦カードもあります。裏技「胸囲掌握鷹爪拳」を作中乱馬に使わせておったりします。てなわけで、あなたのらんまワールドをぶち壊される恐れがあると判断された方はご使用をお控えください。
「ちっ、読むふりでもしてやるか」とおっしゃられたありがたいお方はどうぞ先へお進みください。
                 
半官半民  拝




◇昇竜覇闘
  序章 ヒーロー&ヒロイン登場



 1人の格闘少年がいた。洗練された鮮やかな身のこなし。無造作に編んだ髪が肩先で揺れる。まっすぐに前を見据える強く輝く武道家の瞳を持つ少年の名は、早乙女乱馬といった。そして、1人の格闘少女がいた。ふわりと艶やかな黒髪をひるがえし、明るく微笑むかわいい笑顔。大きな黒い瞳と、さくらんぼのような唇が愛らしいしなやかな少女の名は、天道あかねといった。乱馬とあかね、2人は同じ流派の親同士が決めた許婚で、家族で、けんか相手で、そして……深く心を結び合わせた夫婦となる一組であった。


 九能帯刀は風林館高校の二年生。剣道部の主将である。彼は風林館の蒼い雷と呼ばれ、高校最強の男だった。そして、一年生のある少女に惚れていた。愛らしく、優しく、強い格闘少女。その名を天道あかねといった。
「交際しよう、天道あかねくん。」
自信家の彼は何度もアタックを繰り返した。
「九能先輩、悪いけどあたしその気ないんです。」
あかねはスポーツ万能で頭も良く、そして比類なき美少女である。九能だけでなく多くの男子学生から目をつけられていた。あかねの下駄箱もロッカーも机も、毎日ラブレターが入ってない日はなかった。九能はおもしろくなかった。自分が狙っている少女にちょっかい出し続けている輩のあまりにも多いことが。
「小太刀よ。ぼくには愛する少女がいるのだが、あまりにも態度がかたくななのだ。しかも他に交際を申し込む不届きな輩がおる。何かいい案はないであろうか。」
妹の、聖ヘベレケ学園一年生の小太刀は、高笑いして兄を見た。
「こうおっしゃいませお兄さま。その天道あかねとやらに交際を申し込む不届きな輩に、闘って勝たねば交際を申し込む資格なし、と。」
ぽん、と九能は膝を叩いた。名案であると言わんばかりに嬉しそうに笑う。
「よし、早速明日の学生総会で申し伝えようぞ!」
 翌日の学生総会、全学年が体育館に集まった前にずんずんと九能が進み出た。何事かとざわめく学生たちは、九能の動向をじっと見ていた。
「諸君! 最近僕は憂えている。1人の少女にあまりにも多くの男どもが我先に言い寄っている嘆かわしい事実があることを!」
九能が一呼吸おいたところで、皆一斉にあかねを見た。当のあかねは、一体何を言い出すのかと目を丸くして九能を見た。そのあかねをちらりと見て、九能はさらに言葉を続ける。
「ぼくは声を大にして言う。あかねくんと交際したい者は……………」
そして九能は全校生徒を見渡した。
「あかねくんと闘って勝て! それ以外の交際申し込みは!」
手にした木刀を九能はぶんと振った。たちまち重い檜の講演台が真っ二つになる。
「この僕が許さん。」
壇上からあかねを見て、九能はふっと微笑んだ。あかねが背筋に寒気を覚え体を震わせる。九能の瞳をきっと睨んだ。がやがやとまだ静まる気配のない体育館をあかねはまっ先に飛び出す。多くの男子生徒が舌なめずりしそうな顔でその後ろ姿を見送った。

 翌朝、あかねは姉のなびきと一緒に朝の登校の道を歩いていた。しかし、正門の数十メートル前でぴくんと立ち止まる。姉が怪訝そうに妹を見て、どうしたのよと話しかけた。だがあかねは、じっと先の正門を睨んでいた。
「……おねえちゃん、先に行ってくれる?」
妹はじっと身構えていた。なびきがはっと思い当たる。昨日、九能は全員に対し、あかねと闘って勝った者だけがあかねに交際を申し込めると言った。あかねは殺気を感じているのだ。自分と闘い、自分と交際しようと意気込んでいる男たちのむさくるしい殺気を。あかねとなびきの家、天道家は無差別格闘流の一派だった。拳法、空手、柔道、剣道、合気道、相撲などありとあらゆる格闘技の要素を取り入れた流派である。その天道流初代の名は早雲といい、練馬の大泉学園町に道場を構え、門下生をとっている。その無差別格闘天道流の二代目は、天道家の三女あかねである。黙って微笑んでいれば愛くるしい美少女なのに、あかねの趣味は格闘を主体としたスポーツ全般である。だが、いくら道場の跡取り娘とはいえ、あかねは女の子だ。男が本気になれば倒せないはずはない。あかねを倒しさえすれば、それでこのかわいい少女は自分の彼女になるのだ。あかねが欲しい男たちは、ただもうそれだけで頭が一杯になっていた。正門の中で逆巻く膨大な殺気の渦。ひるむ素振りすら見せず、あかねは一気に大地を蹴ると、猛然と正門に向かい突進した。予想通り中で数十人もの男子生徒があかねを待っていた。口々に叫びながらあかねに向かい襲いかかってくる。
「天道あかねーっ! このぼくとつきあってくれえええっ!」
「おれの彼女にっ!」
「他の奴の手で倒されるくらいならこのおれの手にかかって…………!」
「はあっっ! でええ――――いっっ!」
男たちの群れに飲み込まれたかに見えた小柄な少女の体が、いきなり男たちの頭上高く現れた。愛らしい唇をついて鋭い気合いが響き渡る。たちまち十数人の男が薙ぎ倒された。あかねは動きを止めない。間髪を入れず次の一群に向かう。攻撃の手はまったく休まない。あかねの連続攻撃を避けられる者は同じ格闘家でもそういないだろう。普通の女の子ではないのだ。かわいい顔をしていても、愛らしい体をしていても、あかねは天道流の二代目である。いくら運動部で鍛えているとはいえ、並の男が歯の立つ相手ではない。おそらくは剣道部主将の九能など格闘系の主将クラスがなんとか相手になるくらいのものだろうか。いや、九能を除く各部主将はあかねの一蹴りのもとに大地に倒れた。倒した相手が累々と横たわる中に、あかねが息を弾ませ立っていた。その目はまっすぐ最後の相手、九能を睨んでいる。すっと九能が木刀を構えた。反射的にあかねが腰を落とし構えをとる。
「無粋な連中だ……交際したい一心で君を倒そうとはな。」
九能をきっと睨むあかねが皮肉混じりに答える。
「誰のせいですか。」
「問答無用! あかねくん、勝負!」
だああーっというかけ声とともに九能が木刀を振りかざしあかねに迫る。目前にしたあかねの姿がふっと消えた。思わず九能が立ち止まろうとした瞬間、背後から強烈な回し蹴りが彼を襲い、九能は木刀を構えた姿のまま前のめりに倒れた。
「あたしは誰ともつきあう気ないわ。悪く思わないで、先輩たち。」
そう言ってあかねは鞄を拾うとぱんぱんとほこりを払い、倒した数十名の男を尻目に学校の中へと姿を消した。風林館高校最強の生徒は天道あかねだった。愛らしい、されど武道の申し子と呼ぶにふさわしい少女だった。

 その毎朝の騒ぎは2ヶ月たっても続いていた。どんなに倒されても、男たちはあかねを諦めなかった。それほどにあかねは魅力的な存在なのだろう。騒ぎの張本人九能も相変わらずあかねに襲いかかっては倒されている。本来九能は近隣ではかなう者のいない超高校級の腕前なのだが、やはり相手が好きな女では腕も鈍るのだろう。未だにあかねに勝てないでいた。それでも、已然として高校最強の男には違いなかった。あの男が、早乙女乱馬が現れるまでは。

 その日は梅雨の合間で久し振りに晴れていた。あかねは日課のロードワークから帰るなり道着に着替え、やはり日課である稽古にいそしんでいた。庭の方から鋭い気合いとともに何かが砕ける音がする。5つに重ねられたブロックがあかねの足元で粉々になっていた。ふうと息をつき、満足そうに汗をぬぐう娘の姿を、父親がじっと見て声をかける。
「あかね、来なさい。おまえに紹介したい人たちがいる。」
あかねが稽古の手を止めて父親を見上げた。そしてふわっと父親の側まで飛び上がる。父親はすぐ側にきた小柄な娘をじっと見下ろした。あかねが怪訝そうに父親に話しかける。
「何よおとうさん。誰なの?」
「おとうさんの親友で、同じ無差別格闘流の兄弟弟子だよ。」
ぴくん、とあかねが知らない気配に父親の後ろに目を向けた。背後から道着を着た男が1人現れる。その後ろに拳法着を着た少年が、そっぽを向き所在無さそうに立っていた。
「君があかねくんだね、初めまして。わしは早乙女玄馬と言う。」
そういって笑いかけた男をあかねはまっすぐ見上げた。見た目はやや鈍重そうな感じだが、その強い気配にただならぬ実力の持ち主であると、あかねは戦慄を覚えた。
「こりゃ乱馬、挨拶せんか。何をぼけっとしとる。」
父親にこづかれて渋々少年がこちらを向く。ぺこりと早雲に頭を下げた後、じっとあかねを見た。格闘家の瞳を持つ少年―乱馬の強い視線に、あかねがきっと鋭い視線を返した。ぎりっと睨み合う2人に、父親の玄馬が困った顔になる。
「ちゃんと自己紹介せんか。おまえの許婚だぞ。」
その言葉にあかねが思い切り驚きの声を上げた。
「なっ何なのよそれっ! おとうさん! あたしそんな話聞いてないっっ!」
「あかね、おまえは天道流の二代目だ。同門の早乙女流の二代目とは許婚なのだよ。おとうさんたちが、無差別格闘流のために決めたことだ。」
「ばか息子だが格闘の腕は保証する。あかねくん、よろしく頼む。」
「親父っ! てめえがかってに決めたことだろうが! おれには関係ねえ!」
初めて乱馬が口を開いた。思い切り父親に食ってかかる。その頭を容赦なく父親は殴った。
「これはきさまの宿命と言ったはず。男らしく聞き入れんかっ!」
その言葉が終わるか終わらないうち、ばきっと音がして父親は思い切り蹴り上げられる。
「気にくわねえっ! んな気の強そーな女と妙な約束すんじゃねえくそ親父っ! おれは許婚どころじゃねーんだ。あばよ!」
そう言ってその場を去ろうとした乱馬の頭上に、いきなりちゃぶ台が降ってきた。がつんと音がして乱馬がちゃぶ台に潰される。
「……あたしだって、許婚なんてごめんだわっ!」
足音荒くあかねがその場を後にする。あかねのその後ろ姿と、そしてまだちゃぶ台の下で気を失っている乱馬を、困ったような顔で父親たちは見た。
 こうして初対面は思い切り反発し合った乱馬とあかねであるが、次第に互いに魅かれ始めた。しかし、顔を合わせればけんかする。側にいれば乱馬がちょっかい出す。あかねがつっかかる。年頃の男と女なのに、仲良く寄り添う気配など微塵もない。2人がけんかするたび、父親たちははらはらして見ていた。飽きることなくけんかを繰り返す2人を、なびきはあきれて見ていた。ただ、長女のかすみだけが、いがみ合う2人の本質を見抜いていた。その粗暴な態度、乱暴な言葉の裏にある2人の本質を。最初から2人にとってその相手は遠慮する必要のない相手だった。言わば自分の片割れだった。頭では理解してなくても、直感でわかっていた。相手が自分の運命の人であることを。おそらくは初めて会ったあの日からずっと。

 あかねと同じ風林館高校に通うことになった乱馬は、正門に入るなりわらわらとあかねに襲いかかってきた男の集団に驚く。難無くその突進を避けた乱馬だが、闘いの渦中にあかねが飛び込んで行ったことに加勢しようかと自分も足を向けかけた。
「あかねなら大丈夫よ、乱馬くん。」
校舎の2階から声をかけるあかねの姉なびきを見上げ、乱馬は心配そうにあかねをとり巻く男の群れを指差した。それでも妹の無事を確信している姉の表情に、正門の門柱に腰掛け闘いの行方を見守っていたが、ものの4、5分もしないうちかたはついていた。ひゅうっ♪と、感心したように乱馬が口笛を鳴らす。全員を倒し、あかねが1人立っていた。鞄を片手に持ったままで、あかねはばさりと髪をかき上げる。
「もう、毎朝毎朝、うっとうしい!」
そのあかねにもったいぶって声をかける者がいた。剣道着を着た長身の男、九能である。
「あかねくん。手合わせ願おうか。」
すっと木刀を構える。切っ先からほとばしる闘気が見えるようだった。九能の体が、まるで木刀と一体化したように感じられる。その深い間合い。さすがに超高校級の剣道部主将である。とん、と乱馬はあかねの隣までとび下りた。九能は今まであかねが相手していた男たちとは違い、なかなかの腕前のようだった。だから乱馬はあかねの側まで降りてきた。簡単に倒せない相手のようだったから。あかねがもし手こずったら、代わりに倒してやるつもりだったのだ。乱馬の睨んだとおり、九能は他の男より遥かに強かった。男相手に本気出したら剣圧で銅像を切り裂くほどの腕前だった。九能がじろりと乱馬を睨む。自分が望んでも相手にされないあかねのすぐ側に乱馬は当然のような顔をしている。あかねもそれを嫌がる素振りはない。あかねが初めて認めた、側にいることを許した男。それは自分ではなかった。それがこの自信家の男のプライドをいたく傷つけた。九能は、あかねに向けた木刀の切っ先をすいと乱馬に向ける。強く非難を込めた口調で話した。
「なんだ貴様、あかねくんに対し馴々しい。」
「だーって、なあっ。あかね。」
「なあって、なんなのよ。」
愛する少女の側にいるこの無礼な男は、側にいるだけでも許せないのに、あかねのすぐ隣で、あかねの顔をのぞき込むようにして話しかけた。しかも名前を呼び捨てにしている。そのいちゃいちゃぶりに、九能がキれた。
「おのれ貴様ーっっ!」
有無を言わさず乱馬に打ってかかる。それをすっとかわし、乱馬は瞬く間に懐に飛び込む。勝負は一瞬だった。剣を構えたまま、九能は無言で倒れた。こうして風林館高校最強の男は、九能帯刀ではなく早乙女乱馬になったのである。毎朝毎朝あかねに襲いかかっていた男たちも、今はあかねではなくこの男に撃退される。実力の差はあまりにも歴然だった。一生かかっても倒せないと思うほど、乱馬の強さは群を抜いていた。あかねを賭けた闘いに決して乱馬は負けることがなかった。あかねの側には最強の男がいて、片時も離れず彼女を守っている。泣く泣く諦めるしかなかった。こうして、乱馬とあかねの風林館高校での生活が始まったのである。その間、乱馬のライバルであかねに一目惚れしてしまった響良牙や、乱馬を追って中国からやってきた女傑族の美少女シャンプー、そして愛するシャンプーを追って日本へと渡って来た同じ部族の男ムース、無差別格闘流の開祖である比類なきスケベじじい、八宝斉。乱馬を倒し早乙女流の名を手に入れようとたくらむ山千拳の使い手、公紋竜など、格闘で彩られた多彩な人間模様が出来上がっていった。

 乱馬が来て1年、すでにお互いを欠かせない相手として心に定着させていった乱馬とあかねの2人は、この間親たちのたっての望みで仮祝言を挙げた。形の上では許婚でも、心の奥底ではすでに夫婦に近いほど結びついているこの2人は、相変わらずけんかを繰り返し仲良く暮らしていた。しかし、穏やかな日常で暮らしていた乱馬とあかねに、その事件は起きた。




つづく




Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.