◇昇竜覇闘  
  最終章  格闘の道
半官半民さま作


 「おい、ついに秘石全部集まったな。」
あかねの手の中で淡く光る8つの石を、乱馬と良牙がのぞき込む。
「鬼の宝ってどんなものでしょうねあかねさん。」
かなりの期待と興奮があった。武道家にとって重大な意味を持つというその秘宝の正体を、3人とも知りたくてうずうずしていた。しかし……
「これ、どうやったらいの?」
あかねが秘石を転がしてみたり並べてみたりいろいろやってみたが、まったく変化ない。何も起こらなかった。
「貸してみろ不器用。おれが………」
乱馬があかねから秘石を取り上げ、放り投げたり水をかけたりお湯をかけたりしてみたが、これもムダである。
「見ちゃいられねえぜ。あかねさん、おれがきっと秘宝の正体を……………!」
しかし良牙も何もできなかった。いつの間にか周囲ががやがやと賑わっていることに3人ははっと振り返る。乱馬と阿修羅の凄まじい戦闘に、今まで秘宝を争ってきた者たちが次々と集まってきていたのだ。口々にわいわいと好き勝手なことを言い合う。
「ばか息子め。どれ、父に貸してみい。」
「あっかねちゃ〜ん♪ わしが秘密を解いてあげようぞい。」
「あかねなんかにムリね。乱馬♪ わたしと秘宝手に入れて2人で幸せになるよろし。」
「シャ、シャンプー………おらがいるだぞ。」
「おい、早乙女乱馬。もう一度おれと勝負しろ!」
「さあ、天道あかね。この青空の下でぼくとデートだ!」
「あー! うっせええええっっっ!!!」
乱馬が一喝して、黙れとばかりに拳で地面を突いた。8つの秘石が同時に宙に舞い上がる。それぞれが偶然8方角を正確に示した。
「うわっ!」
周囲がにわかにかき曇る。暗闇が空を覆う。眩い光が8つの秘石から発せられ、その光が石の囲む中央へと次第に集まり、やがてごおうという音とともに巨大な光の柱を造り上げた。
「中に………何かいる!」
あかねがその眩さに両手をかざしながら、光の中を見つめた。巨大な光柱の中で、巨大な影がうごめいていた。きいんと、頭の中に直接音が響く。全員がその場に伏せ思わず頭を押さえる。音を感じる神経を剥き出しにして直接弾かれているような耐えがたい苦痛だった。
『我が眠りを妨げる者は汝か…………』
「………うるせえっ! この音を止めろーっっ!!」
耳を押さえつつも乱馬が立ち上がり目の前の光に向かって吠えた。無意識のうちにあかねの側に歩み寄る。少しでもあかねを苦しめる音を遮りたいと、乱馬はうずくまってるあかねを守るように覆い被さる。光の中から自分を見る強烈な視線を乱馬は感じた。
『汝……汝とその女……竜の気配を感じる………』
「何だと? てめえ、おれとあかねのことを言ってんのか?!」
光が消える。中から巨大な鬼が姿を現す。底の知れないような強大な闘気をまとうその鬼は、乱馬と、その側にいるあかねに目を向け、おもしろそうに笑った。
「何者よあんた!」
乱馬の下から、あかねが強く鬼を睨む。
『竜児らに会えるとは……この世界もなかなかおもしろいやも知れぬ………』
鬼が高笑いした。その凄まじさに大気が振動し、島全体が揺れる。とっさに乱馬があかねをかばい腕に抱く。その目は、みじんも鬼から離れない。
「竜児………?」
聞き慣れないその言葉に、乱馬とあかね、2人とも怪訝そうに表情をゆがめた。
「竜児とは…………格闘技の申し子のことじゃ。別名を拳聖とも言う。」
いつの間にか八宝斉が2人の側に来ていた。
「拳聖だと?」
鬼を強く見据えたまま乱馬が問いただす。その腕に守られたあかねが、八宝斉へと目を向けた。いつになく真剣な表情で、八宝斉は鬼を睨んでいる。鬼が八宝斉に視線を落とした。
『汝……覚えておる。汝も竜児の名を与えられし者であったな………』
鬼を睨む八宝斉の、皺の奥の小さな目が一瞬笑った。だがすぐに鋭い格闘家の瞳に変わる。そしてゆっくりと乱馬とあかね、2人の孫弟子の顔を見比べた。
「我が無差別格闘流を継ぐ者たちよ。行けい。かの鬼に見込まれし竜児らよ。」
重々しく告げるその声は、元祖拳聖と呼ぶにふさわしく荘厳さを感じさせた。その言葉に、2人は八宝斉をじっと見つめ、大きくうなずくとまた鬼を睨み上げた。きりっとした精悍な顔の中の、そして甘く愛らしい顔の中の、強く輝く格闘家の瞳。その4つの瞳に見上げられた鬼が、2人を見下ろし高らかに笑う。
『我が名は真剛鬼………汝らが格闘の道を進み続けるのならば、いずれまた会うであろう……』
鬼は空を包み込むように両手を高く掲げた。その巨大な姿が大気に溶け込むように消えていく。やがて闇が晴れ、何ごともなかったように空は静けさを取り戻した。鬼の消えた空を、乱馬とあかねはじっと睨み続けた。その2人の様子に、ようやく音の拷問から解放された連中が声をかける。
「あかねさん、今の鬼は一体……」
まだ上空を睨む乱馬の傍らで、あかねが良牙を振り返り、ゆっくりと口を開いた。
「わからない……でも、」
「格闘の道を目指すなら、いつか闘う時が来るらしいぜ。」
あかねの言葉を継いで、乱馬が続ける。その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
「あの真剛鬼とかいう野郎とよ。」
集まった武道家たちは、その乱馬の言葉におもしろそうに笑った。真の武道家なら会いまみえることになるのであろうその真剛鬼に、自分こそが闘いを挑むのだと、それぞれの胸中に強い思いを刻んだ。
「おもしれえ…おれが最強の名を手に入れてやる!」
「ふん、ぼくこそがふさわしいのだ。」
「おれに決まってんだろーが!」
「最後に笑うのはおらじゃ!」
「女傑族の女に一番名誉な話ね。」
闘志を燃やす若き格闘家たち、そして、強く光をはじく格闘家の瞳を持つ無差別格闘早乙女流二代目、早乙女乱馬と、愛らしい凶暴な乙女、無差別格闘天道流二代目、天道あかねの一組の竜児たち。
「ふっ、勝つのはおれだぜ。おれこそが格闘の頂点に立ってみせる!」
「お調子者の性格直さないとムリじゃない?」
凄んで闘志を燃やす乱馬にあかねが水をさす。なにいとばかりに乱馬があかねを睨みつける。あかねも睨み返す。深く愛し合っているくせに相変わらずけんかを繰り返す無差別格闘夫婦を、他の格闘家たちがあきれて見ていた。
「1人でカッコつけて、バッカじゃないの。」
「ほんとーにかわいくねえっっ!!」

 空は澄んでいる。爽やかな風が吹き抜ける。季節は春から初夏に変わろうとしていた。









 作者あとがき

 「らんま」らしさのあるものを書いてみたかったのでかなりどたばたしました。いやもうめちゃくちゃっすね。もとネタのPS版らんま格闘ゲーム「バトルルネッサンス」はキャラ8人です。
 ゲームには出てこないけど小説には出てきてるのがムースです。なんかあかねのバトルシーンを増やしたので登場してしまった。
 しかもルージュを男にしてしまった。(ルージュFanの方すいまっせん)
 全般にバトル主体ですが、横線の主題は「乱馬とあかねの絆」なのですね。だから2人が気の交換ができて互いを癒し合えるという設定になってます。
 「2人はひとつ」つーのを言いたかったわけですね。それと、「闘うあかね」も書きたかったので、シャンプー、ムース、九能と3人と闘っています。あ、乱馬入れたら4人ですね (笑) 。
 あかねは格ゲーだと結構強いのですが、本編ではあんまりバトルしてくれなかったから寂しいです。
 「バトルネ」はポリゴンなのでその分動きがリアルですね。やっぱ乱馬は強いですね。油断もすきもない。飛竜昇天破3発かけられたわたまらんかったです。動きもいいし技も多い。あかねも強いです。それはもー手がつけられんです。乱馬をわずか4秒で倒したこともありました。(最高記録だ情けないぞ乱馬!)
 なんか乱馬はあかねに弱いよなあやっぱ。とにかくあかねの攻撃ラッシュはすさまじい。多分攻撃の出るスピードは8人中トップではないかと。だから小説の中のあかねの闘い方も、そこのへんの特徴受けてるわけですが。
 まあそういうわけで、なんか皆様のイメージを激しく破壊してしまった気がいたしますが、私なりの闘う乱馬と、特に闘うあかねが書けて楽しかったです。
 最後に一言、エロ妖怪実は大物(爆)




 超大作ありがとうございました。これをいただいた時は一気に。後で伺いましたところ、元々R描写があったのを、呪泉洞にあわせて削っていただいたそうです。(元作もそのまま読んでみたかった気も…。度重なるパソコン禍で消えてしまったご様子ですが…。)
 「気」のやり取りのできる乱馬とあかねという設定ににメロメロになってしまった私です。
 気で回復できるだなんて、なんて美味しいプロット設定なんでしょう・・・こいつは使える。後に、拙作「マジカル☆まじかる」という作品の「リフレ」という回復魔法に、使わせていただいております。

その後の昇竜覇闘
半官半民さんとコンビネーションを組み「HALFMOON」というサイトを立ち上げましたが、その中で共同作品として取り組んでいる「創元紀」という原始編乱あ物語にて、こちらのプロットをふんだんに使うことになりそうです。(が、現行では止まっとります。見事に…ははは、いつ書き出すよ?私。)
(一之瀬けいこ)



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