◆二人の義姉とその妹

ゴンタックさま作




ある日の休日。
「それっ、王手飛車取りっ!」
「あーっ、天道君そりゃないよ!」
「早乙女君、待ったなしだからね。」
「そこをなんとか…天道君、この通り!」
「『格闘家に二言は無い』だよ、早乙女君。」
「う〜……。」
天道家の縁側で早雲と玄馬が将棋をしている。
そこへかすみが二つの湯飲みを盆に乗せてやってきた。
「はい、お父さん。」
「おっ、相変わらず気が利くねぇ、かすみ。」
「はい、おじ様。」
「いつも悪いねぇ。」
かすみは微笑みながら二人に茶を渡した。
「お父さん、今から買い物に行ってきますから…。」
「そうか。じゃあお盆はそこに置いといてくれ。湯飲みは自分で片付けるから。」
「それじゃお願いしますね。」
かすみはにっこりと微笑むとそのまま出かけていった。
「天道君、もう一局!!」
「それじゃあ負けた方がこの後片付けをするってことで。」
「天道君…さっきそれは自分でやるって…。」
「ん?そんなこと僕言ったっけ〜?」
なんだかんだ言いながらも二人はまた将棋をやり始めた。
「それにしても天道君。かすみ君はえらいね〜。毎日家事をこなしたりして。」
「早乙女君。そりゃあ僕の娘だもん。当然じゃないか!」
玄馬の言葉に早雲は胸を張った。
「きっとかすみ君はいいお嫁さんになるよ。…はい、王手角取り。」
「はっはっはっ、そりゃあ僕の娘だから……って、早乙女君そりゃないでしょ〜!?」
「『格闘家に二言は無い』んだよね〜、天道君?」
「ぐぐぐ…!」
「ん?その目は何かな、天道君?」
睨んでいる早雲を嘲笑するかのように見る玄馬。
「居候のくせに少し生意気なんじゃないかな、早乙女君?」
「そんなの関係ないとは思わんかね、天道君?」
「なぁにぃ〜!?」
「やるかぁ〜!?」
今度は二人の睨み合いが始まってしまった。

「何やってんだか…。」
「あかね、いつものことじゃない?」
「ったくおじさんも親父も大人気ねぇな〜…。」
居間では乱馬とあかねとなびきの三人がテレビを見ながらくつろいでいた。
「それにしてもこの子、よくテレビに出てるわね〜。」
「その分、ギャラも半端じゃないんでしょうね。乱馬君もテレビに出たらいけるんじゃない?」
「んなもんめんどくせ〜し、出たとこでおめぇがおいしい思いするだけじゃねえか…。」
「あ〜ら、よくわかってるじゃな〜い。」
ふふんと笑うなびきを乱馬はジト目で睨んだ。
「でも、乱馬君はテレビに出ないほうがいいかもね。」
「なびき、さっき言ったことと矛盾してるぞ。」
「そりゃテレビに出れば出演料とかで稼げるけど…。」
なびきはニヤニヤしながらあかねを見た。なびきの嫌な視線にあかねはたじろいだ。
「な、なによ!?」
「そうなると乱馬君のファンが増えちゃってあかねが困ると思うし…。」
「なびきお姉ちゃん!!」
顔を赤くするあかねの抗議を無視して、乱馬のほうを見てニヤッとするなびき。今度は乱馬がたじろいだ。
「な、なんだよ!?」
「乱馬君も自分のファンはあかねだけでいいと思ってるからねぇ〜。」
「なびき、てめぇ何言ってやがる!!」
あかねと同様に顔を赤くする乱馬。なびきにとっては面白くてたまらない。
「あたしは相思相愛の二人の仲を引き裂くような真似はできないわ〜。」
「お姉ちゃん!!」
「なびき!!」
なびきは同じ反応をする二人を見て笑いながら時計を見た。
「あらいっけな〜い。もうこんな時間?」
「なびきお姉ちゃん、何か用事でもあるの?」
「ん〜ちょっとね。ビジネスよビジネス。」
なびきは一言そう言うとそのまま居間を出て行った。
姉の後姿を見送ったあかねはため息をついた。
「はあ…たく、なびきお姉ちゃんたら…それにしてもどこ行くんだろ?」
「…なびきの奴、また九能んとこだな。」
乱馬がボソッと呟いた。
「乱馬、なびきお姉ちゃんのこと何か知ってんの?」
「あいついつも金欠になると、おさげの女とお前の写真を九能に売りつけにいってるんだよ…。お前知らなかったのか?」
乱馬はお前気づけよな〜というような顔であかねに答えた。
「え〜まだそんなことしてんの?っていうか何で止めないのよ?」
「止めたところであいつがやめると思うか?第一そんなことしたら俺たちがぼったくられるんだぜ?」
「う〜…でも…。」
「あきらめるんだな。」
頬を膨らませて納得できないという顔をしているあかねに対し、乱馬は開き直ったような感じで頬杖をつきながらまたテレビを見始めた。

しばらくテレビを見ていると、不意に乱馬が口を開いた。
「…それにしても似てないよな〜。」
「何が?」
「お前ら姉妹がだよ。」
あかねを横目で見ながら乱馬は答えた。
「え〜?みんなからは目元は三人ともそっくりだとか言われてるわよ?ほかにも…。」
「あ〜違う違う。そういう外見じゃなくて…。」
乱馬は軽く首を横に振ると、ウーンと考え始めた。
「なんつうか…雰囲気がなんとなく、な。」
「雰囲気?性格とかじゃないの?」
「まあそれも含めてってとこだな。」
うんうんと自分で納得したように頷く乱馬。
「どう違うのよ?」
「そうだな…例えばかすみさんはいつもマイペースで…。」
「のんびりやさんってこと?」
「簡単に言うとそうだな。でもそれでいて周りに安らぎを与えるっていうか…例えるなら『女神』ってとこだな。」
「う〜ん…確かにかすみお姉ちゃんはそんな感じね。」
あかねは乱馬の言ったことに素直に頷いた。
「んで、なびきは計算高いっていうかずるがしこいっていうか…。あと、何かあるといつの間にかそこにいるって感じだな。」
「そうね。何かトラブルがあるとなびきお姉ちゃん首つっこんでくるわよね。だいたいがお金稼ぎのためだけど。」
「そうだな。さしずめ狡猾な『悪魔』ってところか?」
二人の脳裏には悪魔の角と尻尾を生やしたなびきの姿が浮かんだ。
「…違和感ねえな。」
「…そうね。」
二人は顔を見合わすと笑い出した。
「…で、あたしは?」
「そうだな、かすみさんが『女神』でなびきが『悪魔』ならあかねは…。」
乱馬はあかねの顔を見て何のためらいもなく答えた。


「『破壊神』。」


その直後、乱馬の頭にはちゃぶ台が見事に炸裂していた。

「乱馬君、今のはさすがにまずいでしょ。」
「乱馬、今回はお前が全部悪い。」
縁側で将棋…いや睨み合いをしていた早雲と玄馬はぶっ倒れている乱馬にそう呟いた。
しかし、二人は怒りのオーラを漂わせているあかねを見て思った。

確かにそうかも、と。

天道家の一日はこうして過ぎていくのであった。








作者さまより
今回は「乱馬から見た三人姉妹」をテーマにして創ってみました。
ちなみにこの話の最後の部分(あかねが乱馬に鉄槌を下す場面)はアニメ第1話の最後をイメージして書きました。

一人っ子の乱馬は三人姉妹をうらやましいと同時にこんな風に感じたのではないでしょうか。
あかねのことを「破壊神」というのはやりすぎだったかな?せめて「大魔神」?(笑
少なくとも彼女の腕っぷしの強さは、乱馬といえどもかなわないんでしょうね。



確かに、あかねちゃんの料理の腕は破壊的ですが…そこまで言ったら、鉄槌を打たれても仕方がないよね、乱馬君。
かすみさんもなびきも、シンが強い女性ですから、そう言う部分は、三姉妹共通で、似ているように思います。
早雲さんには誰も似ていないような・・・でもないかな?
(一之瀬けいこ)

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