◆家来はつらいよ
ゴンタックさま作


「帯刀様ぁー、帯刀様ぁー!」
町中に佐助の声が響く。佐助は九能を探し回っていた。
「まったく、人を呼びつけといてどっか行っちゃうんだからなあ、もう。」
ぶつぶつ文句を言いながら歩いていると道端に倒れている男が目に入った。
佐助はその者のところへ駆け寄った。
「ど、どうしたでござるか?」
抱きかかえて見てギョッとした。
その者は人間ではなかった。
全身が緑色をしており、鳥の口ばしのようなとがった口、野球ボールのような大きな目をしている。
背丈は低く小学生ぐらいで、平安時代の貴族が着ていたような服を着ている。
「う…うう…。」
「大丈夫でござるか!?」
「み、水を…。」
「わ、わかった。」
佐助は男を抱きかかえると、近くの公園へと足を運んだ。

「さっ、水でござる。」
佐助は竹筒に水を入れて男に飲ませた。
「すまんのう…。」
男はそれを受け取ると一気に水を飲み干した。
「…ふうっ、生き返ったわい。」
「おぬし、なぜあんなところに…?」
男はハァとため息をついた。
「あるお方を探しておったのじゃ…。」
「あるお方?」
「うむ…わしは見たとおり人間ではなく妖怪じゃ…。」
その妖怪は自分の身の上話を始めた。
「わしはかつてこの辺りを制しておられた大妖怪に仕えておってのう。」
「ほう…。」
妖怪は遠い過去に起きた出来事を延々と語った。
佐助は黙って耳を傾けている。
「そのお方とともに幾多の困難を乗り越えて生きてきたのじゃが…。」
はあっと妖怪はため息をついた。
「いつの間にかはぐれてしまってのう…。」
「要するに迷子になってしまった、ということでござるな?」
「そう、迷子に…って、誰がじゃぁ!」
妖怪の持っていた杖が佐助の顔面にヒットした。
「いててて…で、その方とはいつ、どこではぐれてしまったのでござるか?」
佐助は両手で顔を擦っている。
「わからん…。」
あまりにも年をとりすぎたから、と妖怪はため息をつく。
「…しかし、罪な方でござるな。こんなにも慕われているというのに…。」
「やはり、わしは必要とされていないのじゃろうか…?」
「は?」
「いや、確かにあのお方を慕ってはいたのだが…。」
妖怪はその「お方」にやられた、やらされた仕打ちを淡々と語った。それはどれも凄まじいものだった。
佐助の目には涙が溜まっている。妖怪は佐助の様子に気づいた。
「ん…どうしたのじゃ?」
「せ、拙者と同じでござる…。」
「は?」
佐助は自分の主人にどのように仕えているかを説明した。
すると、妖怪の目にも涙が。
「…お主も相当苦労しているのじゃなあ…。」
「…お互い様でござる。」
涙目の二人は手を取り合った。
「お互い仕えるべき主人のいる身として頑張ろうではないか。」
「うむ、いつか報われる日が来ることを信じて、でござるな。」
涙を流しながら二人は誓い合った。自分の仲間ができたという喜びとともに。


おまけ
「ん、おい、あかね。あそこにいるの佐助じゃねえか?」
「あ、ほんとだ。」
ちょうど学校の帰り道で、公園の前を通り過ぎようとした乱馬とあかねがベンチに座っている佐助に気づいた。
「泣いているみたいね。どうしたのかしら?」
「九能ん家の暮らしが嫌になって家出してきたんじゃねえの?」
「…それにしても嬉しそうに見えるわね。」
「そう言われてみるとそうだな。」
二人には佐助が一人で嬉し涙を流しているように見えた。
「ま、どうせ九能から開放された喜びでも噛みしめてるんだろ?」
「そうなのかなあ?」
「さっきの九能の様子を見てみろ。あんな奴にすすんで家来になるやつなんていねえって。」
二人は先ほど変な法師と戦っていた九能の様子を思い出していた。
「…それもそうね。」
「だろ?」
顔を見合わせて二人は笑った。
「さ、帰ろうぜ。もう俺腹ペコ…。」
「ふふ…はいはい。」
そして二人はまた腕を組みながら家路に着いていった。






作者さまより

 今回の似たものは「九能の新たなる敵!?」を描いていた最中に浮かんだ話です。ちょっとした続編(?)にしてみました。
 前回は法師が現代にやってきてしまうという致命的なミス(?)をしてしまったので、妖怪なら現代まで生きているのではと思い、あの妖怪を登場させました。
 あの井戸が誰でも通行可能ならいいのですが(笑) でも、妖怪の寿命ってどれくらいなのでしょうか……?



 この方の「似たものシリーズ」の切れのよさは、二次創作の楽しみを存分に広げておられます。
 今回も、ううむ・・・この二人可哀想なキャラだもんなあ、と妙に納得。
 仕えている主が共に超ワガママで気分屋ですものね。顔は良いのに性格は悪いし(笑
 頑張れ、報われない家来たち!
(一之瀬けいこ)



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