◆飼われ者の愚痴とその結末
ゴンタックさま作


ある日の午後。
「ふう〜…。」
天道家の居間に、いかにもつまらなそうな顔をしながらテレビを見ている乱馬の姿があった。
他の面々はそれぞれの用事のために家を出ていた。
(毎日がドタバタしてるからな〜…たまには休息も必要だよな。)
乱馬はつまらないテレビ番組を見ながらそう思っていた。
学校へ行けば、九能や校長が何かと乱馬に因縁をつけて全校を巻き添えにするトラブルを引き起こす。
学校の休みの日でも、右京やシャンプー、小太刀が乱馬のもとに来てトラブルになる。
さらに、どのトラブルにおいても必ずと言っていいほど許嫁のあかねがからんできたりする。
自分だけでなく、あかねへの被害を最小限に抑えるために体を張っているので、彼にとっては毎日がハードの連続なのである。
「今日はどうすっかな〜?」
ちょうどその時である。庭の壁の向こうから声が聞こえてきた。どうやら一組のカップルが喧嘩をしているようだ。


「おいっ、ちょっと待てよっ!!」
「うるさいっ、ついてこないでっ!!」
「何で怒ってんだよっ!?」
「自分の胸に訊いてみなさいよっ!!」
「だから、わかんねぇって!!」
「…このバカァァァァァァァッ!!」
女の声が最後に響いてきた時、

ドコーンッ!!!!!!!

地面が揺れたかと思うほどの凄まじい音が辺りに響き渡った。
「な、何だ?」
乱馬は何事かと庭に出て、壁の上に飛び乗った。
「お、久しぶりだな!」
乱馬は下に向かって声をかけた。
そこには、地面にうつ伏せの状態で倒れている銀髪の少年がいた。
乱馬が辺りを見回すと、遠くで怒りのオーラを漂わせて歩いていく少女の姿が目に入った。


「あー、いってぇ…。」
天道家の居間で銀髪の少年が顔を擦っている。どうやら乱馬が彼を家に入れてあげたようだ。
そこへ乱馬が台所から飲み物を入れたコップを持ってきた。
「ほらよ、飲め。」
乱馬はコップを彼に差し出した。彼は受け取ると怪訝そうな顔をした。
「何だコレ?」
「はあ?お前それ知らねえのか?」
「ん?」
「…まあいいや、飲んでみろよ。」
銀髪少年は不思議そうな顔をしながらそれを飲むと、いきなり叫んだ。
「!?…なんだコレ!?口の中ではじけやがったっ!!」
「ははは、コーラだよそれ。」
「こ、こおら?」
少年はコップの中のコーラを匂いを嗅いだり、はじけている泡を見つめたりし始めた。
乱馬は変な奴だなと思いながらも、先ほどの件について尋ねた。
「なあ、お前さっき何で怒られてたんだ?」
「ん、ああ、あれか…。」
少年はブスッとした表情になった。
「俺もよくわかんねえんだよ。いきなり怒り出すからよ〜…。」
「心当たりないのか?」
「あるわけないだろ!?」
いかにも何故自分が怒られなくてはならないのかと納得できない顔をしている。
「…ったく、ことあるごとに俺をぶっ倒しやがって。」
「お前、毎回あんなのをくらっているのか!?」
「ああ、ほぼ毎日な…。」
「まじかよ…。」
乱馬の顔が少しばかり引きつる。
「いくらなんでも女だからってそれはやりすぎだろ…。」
「だろ?お前もそう思うだろ!?」
「お前の気持ちわかるぜ。俺もけっこうやられてるからな…。」
「ん?お前んとこにもアイツみたいな女がいるのか?」
「ああ、かなり凶暴なのがな……。で、そいつはよ……。」
「まじ?そういえばアイツもよ……。」
二人は互いの女性に対する不満や愚痴を言い合い始めた。


どれだけ二人は話していただろう。
二人の愚痴はまだ続いていた。
「へぇ〜、お前んとこ大変だな〜?」
「お前よりはマシだと思うぞ?」
「…でもさ、互いに大変だよな〜。」
「そうそう、やられるこっちの身にもなれってんだよな!」
二人は完全に意気投合したようである。
「…とりあえずお互いこれからも頑張っていこうぜ。」
乱馬は手を差し出した。
「…そうだな。」
銀髪の少年はニッと笑うと乱馬の手を握った。
「さしずめ『凶暴女に耐える同盟』ってところかな?」
「ははっ、違ぇねえや。」


「だぁれが『凶暴女』ですってぇ!?」

二人の背後から怒りのオーラを漂わせた声が聞こえてきた。
「そ、その声はっ!?」
「な、何だ!?」
二人が振り向くと、そこには買い物袋をぶら下げたまま仁王立ちをしているあかねがいた。
「あ、あかね!」
「じゃ、じゃあコイツが……って、お、お前も!?」
銀髪の少年はあかねの隣を見て青ざめた。
そこには先ほど少年をぶっ倒した少女がいた。彼女もあかねと同様に、怒りのオーラを発している。
「あんたもつくづく懲りないわねぇ〜!?」
「あ、いや、その……。」
少女の低い声に少年はたじろいでしまった。
そこへかすみがやってきた。
「あかね、買い物袋を台所に持っていって。」
「は〜い!!」
あかねは乱馬を睨みつけながら台所へ荷物を運んでいった。
「ごめんなさいね、あなたにまで手伝わせてしまって。」
「いえ、いいんですよ。ちょうど、会いたいと思っていた人がいたので!」
少女はかすみに微笑んだが、目だけは少年のほうを向いて睨みをきかせていた。
「あら、乱馬君のお友達?いらっしゃい。」
「はは…ど、どうも…。」
少女の雰囲気に気づいていないのか、かすみは何ともなしに少年に微笑みかけた。
少年は少女のオーラに怯えながらも、なんとか笑顔をつくって答えた。
「二人とも、ゆっくりしていってね。」
かすみは微笑みながら居間を出て行った。そこへあかねがかすみと入れ替わるようにしてやってきた。
あかねの表情は先ほどとほとんど変わっていない。
「さ〜てとぉ…二人して誰の話をしてたのかしらぁ?」
「あ、あかね、お、落ち着け!!」
乱馬がなんとかあかねをなだめようとするものの、あかねは聞く耳持たんといった感じで指をポキポキ鳴らし始めた。
彼女の怒りを抑えることは皆無のようである。そして、少女の方も…。
「あんた、コソコソ何を喋ってたのかしら〜!?」
「う、いや、あの…と、とにかく落ち着け!!」
少年も乱馬と同様になだめようと試みるものの、やはりやるだけ無駄だったようである。
二人の少女はものすごい威圧感で、ジリジリと乱馬たちに近づく。
それに合わせるかのように乱馬たちは後ずさる。ついに二人は部屋の隅に追い詰められてしまった。
「ま、待て!」
「問答無用!!」

その後、二人の男の悲鳴が響き渡った。

それを台所で聞いたかすみは、「仲良しさんね。」と呟いたらしい。







作者さまより

 シリーズ前作(「ヒロイン=飼い主」?)に対する一之瀬様の「二人が顔を突き合わせて、互いの愚痴を語り合ったらどうなるんでしょう。」というお言葉があったので、このような作品を創ってみました。
 いかがでしょうか?個人的にはこういうイメージしか浮かびませんでした。(主人公’Sには悪いと思いつつ…)
 そして、最後にかすみが笑顔でこう呟くのではないかなと思いました。ある意味、マイペースなかすみも怖い…。(笑



 前回のお話から発展したというこのお話。
 乱馬も犬夜叉も「気の強い彼女」には手を焼いているんですね(笑
 二人の愚痴が聞えてきそうな…。
 何より、かすみさんの天然な突っ込み(?)に、笑いが止まりませんでした。
(一之瀬けいこ)



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