◆「ヒロイン=飼い主」?
ゴンタックさま作


雨上がりのある日。
「乱馬ぁー、どこ行ったのー!?」
辺りにあかねの声が響く。
「ったく、シャンプーったら猫のままで乱馬にとびつくんだから…。」
ほんの数分前、乱馬とあかねは学校の帰り道をいつものように歩いていた。
そこへシャンプーが、これまたいつものように乱馬に向かって飛びつこうとしてきた。
ちょうどその時、タイミングがいいのか悪いのか、彼女の横を猛スピードで走ってきた車が飛ばした水溜りの水がシャンプーに降りかかった。
シャンプーはよけることもできず、まともに水を被り、そのままの勢いで猫の姿で乱馬にとびついてしまった。
案の定、猫嫌いの乱馬は錯乱状態に陥り猫化してしまいどこかへ走り去っていってしまったのである。
「乱馬ぁー、乱馬ぁー……って、これは!?」
しばらく乱馬を探しながら歩き回っていたが、ふと足が止まった。
「はぁ〜…乱馬のしわざね…。」
あかねは目の前に広がる光景にため息をついた。
コンクリート塀には大きな引っかき傷や穴が残っていて、道路には真っ二つに折れた電柱や郵便ポストなどが散乱している。
「この辺りだけ大地震が起きたみたいだわ。」
倒れた電柱などをよけながらあかねは乱馬を探し始めた。
「乱馬ぁー、乱馬ったらぁー!!」
しばらくの間、乱馬の「足跡」をたどっていると、どこからか変なうなり声が聞こえてきた。
「フゴー!!シャーッ!!」
(…これは乱馬の鳴き声だわ!)
あかねは声のするほうへ足を速めた。

コンクリートの破片などが散らばっている道を、足元に気をつけながら進んでいくと、少し先の曲がり角で見慣れたチャイナ服が眼に入った。
「乱馬っ!!」
「フゴー!!」
「乱馬ったら!!」
あかねは何度か彼の名を呼んだが乱馬は反応してこない。
乱馬は四つん這いで、毛を逆立てて何かに向かって威嚇していた。
(犬と喧嘩でもしてるのかしら…?)
あかねは曲がり角から乱馬が睨んでいるほうへ、ヒョコッと顔を覗かせてみた。
「…!!な、なんなのよこれ!?」
あかねは乱馬の相手に驚いた。
その者は銀色の髪と犬のような耳をもち、首には変わった形の首飾り、腰には刀を身につけ、赤い着物を着ていた。
それだけでも奇妙なのに、その者は乱馬と同じように四つん這いになって、乱馬に向かってうなり声をあげていた。
「グルルルル……!!」
「フゴー……!!」
乱馬も負けじと睨みをきかせている。今にも喧嘩が起きそうな雰囲気である。
そうなれば、周囲の被害がさらに拡大することは避けられないだろう。
「ちょ、ちょっと乱馬っ!!」
あかねは何とかそれを防ごうと乱馬に呼びかけるが、乱馬は警戒を解こうともしない。
いつもの猫化した乱馬なら、あかねの呼びかけにすぐに反応してじゃれてくるのだが…。
二人…いや二匹の間には凄まじい闘気が渦を巻いているように感じた。
「乱馬ったら!!」
あかねは乱馬の服を掴もうと手を伸ばしたが、それより早く乱馬は動き出していた。
相手も乱馬の動きと同時に動き出した。
「シャーッ!!」
「グアーッ!!」
あかねは思わず目を瞑った。

ドッゴーン!!

辺りに物凄い音が響く。
「ら、乱馬?」
あかねはおそるおそる目を開けた。目の前にはチョコンと座ったままの乱馬の後姿があった。
そして乱馬の前には、うつ伏せのまま地面にめりこんだ銀髪少年の姿が。
「うにゃ?」
乱馬は首を傾げながら、相手の頭をつついている。
「こ、これ乱馬がやったの!?」
「にゃ?…にゃ〜ん、ごろごろ…。」
ようやくあかねの声に反応した乱馬は、嬉しそうにあかねの足元に近寄り頬ずりをしてきた。
「ちょっと乱馬聞いてるの!?」
「にゃ〜ん。」
猫化した乱馬は、あかねに頬を摺り寄せながら物欲しそうな目で彼女を見上げている。
「ったく……よしよし。」
あかねは仕方なくその場にしゃがみこんで乱馬の頭を撫で始めた。乱馬は嬉しそうにあかねの膝の上に飛び移った。
あかねがため息をついていると、地面にめり込んでいた少年の体が動き始めた。
「うぅ……。」
少年は顔をさすりながらゆっくりと起き上がった。着物は土埃で少し汚れている。

「あんたねぇ、いい加減にしなさいよ!!」

少年の背後から大声がした。その場の全員が声のするほうへ顔を向けた。
セーラー服姿の少女が手を腰に当てて立っていた。目はつりあがっていて、かなりのご立腹の様子だ。
銀髪少年は少女に向かって文句を言い始めた。
「その言葉、そっくりおめえに返すぜ!」
「なんですって!?」
「毎回毎回、地面に叩きつけやがって…こっちの身がもたねえんだよ!!」
「それは、あんたが意地っ張りで我侭で、いっつも人に迷惑をかけてるからでしょうが!!」
「な、なんだと!?」
「あ、あの……。」
あかねは何とか間に入ろうとしたが、二人の喧嘩は凄まじく、彼女の入り込める余地はなかった。
乱馬はというと暴れすぎて疲れてしまったのか、あかねの膝の上であくびをしている。
近くを通り行く人たちはみな、いかにも迷惑といった感じでこちらを見ている。
それでも二人は周囲のことには気にもかけず喧嘩し続けている。
「あんた目立つんだから、勝手に街中を歩き回らないでっていつも言ってるでしょ!」
「そんなの俺の勝手だろっ!」
「しかもなにこれ!?壁とかに穴あけるは、電柱折るはして!!」
「それは俺がやったんじゃねえ!!全部コイツが、って……おいっ!!」
少年は乱馬に向かって指をさしたが、当の本人はあかねの膝の上でスヤスヤ眠っていた。
「おい、てめえ寝てんじゃねえっ!!……ぐっ!?」
銀髪少年は乱馬を捕まえようとしたが、少女が彼の襟首を思い切り引っ張ったため、一瞬呼吸困難に陥ってしまった。
「ごほっ、げほっ・・・・・・なにしやがんでいっ!!」
「すいません、うちの暴れ犬が迷惑をかけたみたいで……。」
少年の言葉には耳を傾けず、少女はあかねに謝罪してきた。
「だぁれが暴れ犬だ、だれが!!」
「うるさいっ!もう一度地面に叩きつけられたいのっ!?」
「ぐっ……!」
少女の怒りのオーラの凄まじさに少年はすくみあがってしまった。
少女はフンッと鼻を鳴らすと、また笑顔であかねに話しかけてきた。
「あっ、すいません。コイツいつもこんな調子なものですから……。」
「い、いいのよ…はは。」
あかねは少女の怒りの表情と笑顔のギャップに圧倒されていた。
「まあ、この惨状はコイツが暴れたせいなんだから。」
膝の上で寝ている乱馬を指差す。
「えっ、この人がですか!?」
少女は驚きの表情を浮かべた。あかねは苦笑いをしている。
「そんな風には見えないんだけどな・・・。」
「ほら見ろ、だから俺じゃねえって言ってんだろ!!」
「う……ごめん。」
「わかりゃあいいんだ、わかりゃあ。……それと。」
「?」
銀髪少年はなぜかエラそうな態度をとりながら、眠りこけている乱馬に近づくと…

ゴチンッ

「イッテー!?」
「ら、乱馬!?」
思い切り乱馬の頭に拳を振り下ろした。その衝撃で思わず乱馬は飛び起きた。
「幸せそうに寝てんじゃねえ!!しかも膝枕で!!」
「ちょっ、あんた何してんのよ!?」
少女が少年に向かって怒鳴る。少年も負けじと怒鳴る。
「うっせー、元々コイツのせいなんだからな!」
「だからって、殴ることないでしょーが!」
「ほーう?それじゃお前は俺が無実の罪で地面に叩きつけられてもいいと?」
「う……だ、だからそれはごめんって言ってるでしょ!!」
「な、何だその開き直った態度は!?」
「なによ!!」
「なんだよ!!」
今度は銀髪少年と少女の睨み合いが始まってしまった。
「痛ぇー…何なんだ一体!?」
頭をさすりながら起き上がった乱馬は、目の前の二人の様子に?マークを浮かべている。
「元に戻ったみたいね、乱馬。」
「あかね…そっか、俺シャンプーに抱きつかれて…。」
乱馬は周囲の惨状を見て、己の失態があったことを理解した。
「…で、こいつらは何だ?」


「……ふ〜ん。」
今までの経緯をあかねから聞き納得した乱馬は、睨み合いをしている二人を見ていた。
「とりあえず謝っときなさいよ。元はと言えばあんたが暴れたせいなんだからね。」
「へいへい。」
やれやれといった表情で乱馬は二人に近づいた。
どうやら二人の睨み合いは終わったらしく、互いにフンッとそっぽを向いている。
「…おい。」
「……何だよ?」
声をかけてきた乱馬に目を向ける銀髪少年。その視線が乱馬に鋭く突き刺さる。
「あ、いや、その……わ、悪かったな。俺のせいでとばっちりを受けちまったみたいで…。」
ハハハと苦笑しながら謝る乱馬。だが少年にとってはそんな彼の態度が気に食わないようだ。
「なんだ、その態度は?」
「な、なんだって…謝ってるんじゃねえか。」
「はあ!?謝るんならもっと真剣に言えよな。ったくヘラヘラしやがって…。」
少年のその言葉に乱馬はカチンときた。
「誰がヘラヘラしてるって!?」
「てめえに決まってるだろーが。バカかお前?」
「バ、バカだと!?てめえ、人がせっかく謝ってるのによー!!」
「その態度のどこが謝ってるって言うんだよ!?」
「だから俺が悪かったって言ってるだろーが!!」
「だったらもっと真面目に言えよな。お前には誠意っつうもんがねえのか!?」
「なんだと!?」
「なんだよ!?」
今度は乱馬と少年の睨み合いが始まってしまった。二人の間に火花が飛び交う。
傍らにいる少女二人はほぼ同時にため息をついている。
「ぐぐぐぐ……!」
「グルルル……!」
睨み合う二人は唸り声をあげている。
(はぁ…これじゃ、乱馬が猫になってたさっきとおんなじじゃない。)
手を額に当て首を横に振るあかね。少女もどことなくガックシと肩を落としている。
これじゃあ埒があかないと感じたあかねは乱馬に声をかける。少女も同様に少年に話しかける。
「乱馬、もういいから帰ろうよー。」
「あんたももういい加減にしなさいよー。」
睨み合いをしていた二人は彼女たちの声を聞くと同時にフウゥと息を吐いた。
「そうだな、こんな犬野郎にいちいち怒ってたらキリがねえもんな。」
「そうだな、こんな猫野郎にいちいち怒ってたらキリがねえもんな。」
二人はほぼ同時に、しかも同じようなセリフを口にした。
そして、互いに言った言葉に反応してまた睨み合う。
「誰が猫だ、誰が!?」
「うっせー、おめぇこそ犬って言うんじゃねえ!!」
「けっ、犬に犬って言って何が悪い!」
「てっめぇー……もう我慢できねえ、ぶっ殺す!!」
「やれるもんならやってみろ!!」
二人はほぼ同時に殴りかかろうとした。しかし……。
「いい加減にせんかーー!!」


バッコーン!!

ドッゴーン!!


あかねの怒号と同時に、辺りにものすごい音が二回響き渡った。
乱馬の後頭部にはあかねの鞄が炸裂していた。そして、銀髪少年はまたもやうつ伏せの状態で地面にめりこんでいた。
二人は悲鳴をあげることもなく、その場で完全に気絶してしまった。
「ったくもう…。」
あかねは倒れている乱馬に近づき彼の頭に乗っている鞄を拾い、パンパンと埃を払うと少女に向かって微笑んだ。
「ごめんね。うちの『バカ猫』が迷惑かけちゃって…。」
「いえいえ。こっちも『バカ犬』が迷惑をかけてしまって…。」
少女も似たような笑顔で答える。二人の少女の手にはそれぞれノビてしまっている少年の襟首が掴まれていた。
「……お互い苦労するわね。」
「……はい。」

その後『女に引きずられる銀髪男』、『女に引きずられるチャイナ服男』がいろんな所で目撃されたとか……。




作者さまより

 今回はヒロインの共演です。どちらも主人公に手をやいているような…。なんといっても「犬」と「猫」ですから。(笑
 この二人の少女の場合、「ヒロインと書いて飼い主と読む」のか「飼い主と書いてヒロインと読む」のかどっちなんでしょう?
  (となると、「主人公と書いてペットと読む」のかな?)



 
 乱馬も犬夜叉も、アニメは同じ山口勝平さんの声ですからね(笑
 どちらも半妖というところまでそっくりですし。(…乱馬の場合も半妖になるのかな?)
 そろぞれの彼女(飼い主?)の尻に引かれている有様も、似たもの同士です。
 二人が顔を突き合わせて、互いの愚痴を語り合ったらどうなるんでしょう。
 もっとも、犬夜叉が己を失ったら、狂犬化(妖怪化?)して、乱馬よりもっと性質が悪くなるかもしれませんが。
(一之瀬けいこ)



Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.