◆変なプレゼント
ゴンタックさまさく


「今日こそ…今日こそはコレをあかねさんにプレゼントするんだ…!」
ある朝、紙袋を抱えた男がぶつぶつとつぶやきながら風林館高校へと歩いていた。
「早乙女乱馬めー、今に見ていろよ。絶対あかねさんを僕のモノにしてやる!」
くまのできた目をぎらつかせている彼―五寸釘の表情は決意に満ち溢れていた。
「…どうやって渡そうかな?直接渡すか、下駄箱の中、それとも机の中……うーん…。」
彼は想い人である天道あかねに、どのようにプレゼントを渡そうか考えていた。
考え込みすぎて周りが見えなくなっていた。
その時である。

「わーっ、危なーい!!」

「……えっ?」

ドッカーン

辺りにものすごい音が響いた。自転車が五寸釘に向かって突っ込んできたのだ。
幸い直撃は免れたものの、あまりの衝撃で紙袋がやぶれて中身が周辺に飛び散ってしまった。
「いてててて……あーっ!あかねさんに渡すプレゼントがーっ!!」
五寸釘はあわてて中身を拾い始めた。
拾い続けている間に、ふと気がついた。
「…あれっ、こんなの袋に入れたっけ?リボンをつけた記憶もないし…?」
見覚えのないモノまで散乱していたのだ。彼の頭の上には無数のクエスチョンマークが浮かぶ。
ちょうどそこへ声が聞こえてきた。
「あの…それ、僕のなんですけど…。」
顔を上げると、一人の少年が立っていた。制服姿からして中学生のようだ。
「あっ、そうなんだ…はい。」
五寸釘は彼にポンと渡した。
「ありがとうございます。あの…大丈夫ですか?」
少年はすまなそうな顔をしていた。
「僕は大丈夫だよ。袋の中身も問題ないみたいだし…。」
ポンポンと服の汚れを振り払って立ち上がる。辺りを見回してみる。
「まだいろいろ散らかってるね。早く拾わないと…。」
「そ、そうですね。」
二人はせっせと拾い始めた。

「これ、誰かへのプレゼントなんですか?」
不意に少年が話しかけてきた。
「えっ?」
「あっ、その…さっき『プレゼントがーっ!!』って叫んでたから…。」
五寸釘はさっきの自分を思い出して赤面した。
(ぼ、僕としたことが…人前で取り乱すなんて…!)
とりあえず平静を装う。そのつもりだったのだが、うまく返事ができない。
「う、うん…まあ…。」
「もしかして、彼女にですか?」
「…えっ!?」
少年の質問に戸惑った。が、
(ま、いいか。いずれはあかねさんは僕の彼女になるんだから…。)
と、全く根拠のない理由で自分を納得させた。
「うん、そうなんだ。」
「へえ、うらやましいな。プレゼントを渡せる彼女がいて。」
「そういう君こそ…。」
五寸釘は自転車のかごに入っているモノを指差した。
「アレはプレゼントなんだろ?」
リボンつけてあるし、と五寸釘は少年に問い返した。
「えっ…まあ、そうなんですけど…その…片思いなんです。」
少年は顔を少し赤らめながら答えた。
「へえ、そうなんだ。」
「でも、会えるかどうかわからないんですけどね。」
少年は苦笑していた。
「…会えるといいね。その子に。」
「…はいっ。」
いつの間にか二人は意気投合していた。
拾い続けている間、二人はお互いの想い人のことについて話し続けた。

「…っと、これで全部だね。」
「ありがとうございます。…あっ、本当にすいませんでした。」
「そんな気にしなくていいよ。…それ、彼女に渡せるといいね。」
「…はいっ!」
「がんばれよ!」
「はいっ!それじゃ…。」
少年は自転車に乗り、手を振りながら走り去っていった。
それを見送る五寸釘の表情はとても晴れやかだった。
「さてと、早く学校に行かなくちゃ…。」
珍しく先輩らしいことをしたからか、五寸釘の足取りは軽かった。

(見た目よりも、いい人だったな…。)
自転車をこぎながら、少年は五寸釘のことを考えていた。
(見た目どおりに、さわやかな子だったな…。)
歩きながら、五寸釘は先ほどの少年のことを考えていた。
お互いに好印象を与えたようだ。

しかし、二人は思った。
「アノ」プレゼントは絶対に受け取ってもらえないだろうと。







作者さまより
 テレビアニメで五寸釘が初登場時に、あかねにお近づきのしるしとして藁人形を渡そうとしたシーンで、ふと思いついたネタです。
 少年は、学校を休みがちのヒロインにいつも健康グッズをプレゼントしてくれている、ある意味で迷惑な「彼」です。
 この話に出てくるプレゼントの中身は、ご想像にお任せします。
 彼らの性格からすれば、察しがつくと思いますが…。(笑
 「彼」のプレゼントは、インフルエンザなどが流行している時期なら喜ばれるかも…。何事も健康が一番ですからねぇ。(笑



 
 脳内は二又一成さん(五寸釘君)と上田祐司さん(北条君)の声で会話が聞こえてきました。・・・ぱっと声優さんの名前が出るのも怖い現象だと思いますが。
 そっか・・・。この二人も似たもの同士だったんだ。変な物プレゼントしようとするところは(笑
 いつもの如く、その鋭い洞察力に感服!
(一之瀬けいこ)


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