◆ビッグウェポン
ゴンタックさま作


ズドドドドドドドドドドドドドドッ

「こらあっ!じいさん、待たんかーい!!」
「ぎゃははははっ!大漁じゃ、大漁じゃー!」
朝から町中に大声が響き、ものすごい土煙が立ち上る。
下着泥棒の常習犯である八宝斎と、お好み焼き屋「うっちゃん」の主である右京が鬼ごっこをしていた。
「ぎゃはははははっ!!」
大量の女性下着を詰め込んだ風呂敷を背負って、身軽な動きで逃げ回る八宝斎。
「待てー!!」
巨大なへらを担いで、八宝斎の後を追う右京。
この町では日常茶飯事の光景である。
「今度こそ逃がさへんで!!覚悟しぃや!!」
「ふん、この青二才が!捕まえられるなら捕まえてみろっ、ぎゃははははっ!!」
「言ったなぁ、じいさん!」
右京はへらを手にすると、八宝斎に向かってそれを振り回してきた。
一般人にとって避けることができない攻撃を、八宝斎はいとも簡単にかわす。
「いかんのう、年頃の女がそんな物騒な物を振り回しては。」
「くっ……相変わらずなんて速い動きや!」
自分の会心の攻撃をあっさりかわされ、悔しがる右京。
右京の向かって、アッカンベーをしている八宝斎。
今回も八宝斎に軍配が上がるかに見えた。

ギュルルルルルルルルルルルッ

どこからともなく巨大な物体がものすごい勢いでこちらに向かって飛んでくるような音が聞こえてきた。
右京はその音のほうへと視線を向けた。
(な、なんやあれは!?)
その物体を見て右京は立ち止まってしまった。
「…ん?どうしたのじゃ、もう終わりなのか?」
動きの止まった右京を見て、八宝斎はまた高笑いをした。
どうやらこちらに向かってくる物体に気づいてないようだ。
「ぎゃはははっ、わしを捕まえるのは百年早いわ!!」
八宝斎はそう言いながらその場を離れようと振り向いた。

その瞬間、

ドゴッ

鈍い音がしたかと思うと、八宝斎は仰向けになって倒れていた。
右京は八宝斎に近づいて様子を伺ってみた。
顔には何かがぶつかったような痕がついており、目は完全に白目をむいていた。
「完全にノビとる…なんや一体?」
辺りを見回してみる。先ほどの巨大な物体を探す。
地面に落ちていると思っていたのだが、どこにも見当たらない。
しばらくしていると、近くに一人の女が立っているのが目に入った。
「……あっ!」
右京は声を上げた。探していた物が見つかったからだ。
それは女が背中に背負っていた巨大なブーメランだった。
「…?」
女は右京の表情に対して、首を傾げている。
「あっ、いや……それ、あんたが投げたんか?」
「えっ、まあそうだけど。」
ああ、そんなことかというような表情で彼女は答えた。
「変な妖気みたいなのを感じたからつい…。」
「ついって、あんたなあ…。」
右京はため息をついた。
「そんなけったいなモン、投げたら危ないやろ!」
本来、こういった場面では礼を言うのが普通である。
しかし、自分が捕まえるのに苦労していた八宝斎を彼女があっさりしとめてしまった。
それが悔しくて、右京はつい文句を言ってしまった。一種の負け惜しみである。
彼女のほうも黙っていなかった。
「危ないってねぇ…あんたもそんなでっかいの振り回してたじゃないの!」
自分のこと棚に上げて、と右京に文句を言う。
「ウチは投げてないからいいんや!そっちなんか人に当たる可能性大やないか!」
「投げる投げないの問題じゃない!…ったく、せっかく人が親切に捕まえてやったのに、礼の一つも言えないのか!?」
「ふん!誰もそんなこと頼んだ覚えはないわ!!」
「な、何だと!?」
「なんや!?」
文句を言い合っているうちに、互いの顔が怒りで赤くなっていった。
いつの間にか二人は、自分の武器を手にしていた。完全な戦闘態勢である。
しばしの沈黙の後、二人は最初の一歩を踏み出そうとした。

「こらー、待ちなさいよ乱馬!!」

遠くからあかねの叫ぶ声が聞こえてきた。
二人の動きが止まる。そして二人は声のするほうへ顔を向けた。
「な、何や!?」
乱馬が走ってくるのが見えてきた。
「乱ちゃん!?」
「よ、よぉ。」
軽く右京に挨拶をすると乱馬はそのまま走り去っていってしまった。
「あいつ何で逃げてるんだ?」
「さぁ…わからへん。」
二人が呆気に取られていると、そこへあかねがやってきた。
「乱馬ぁー!!待たんかーい!!」
「あ、あかねちゃんどうしたん!?」
右京はおそるおそる尋ねる。
「あっ、右京。ちょっとそれ借りるわね!」
「へっ!?」
「それとそっちのあなた。えーと、誰だっけ?…まあ、いいわ。それ貸してね!」
「えっ!?」
「絶対に許さないんだから!!」
あかねは右京の質問に答えず、右京のへらと彼女のブーメランを持って走り去っていった。
もちろん二人の了承を得ることもなく。
「ちょっ…あかねちゃん!!」
「あたしのを持っていくなー!!」
二人は慌ててあかねの後を追った。

残されたのは未だに気絶したままの八宝斎の情けない姿だった。





作者さまより

シリーズ初の女性ネタで、右京と妖怪退治屋の共演(競演)です。
二人の共通点は、タイトルどおり「でかい武器」です。
あんなものを軽く扱える彼女たちはかなりの怪力の持ち主だと思います。
でも、乱馬自身にとって、あかねのほうが怪力だと思っているかも…。


今回は怪力繋がりですか(笑
確かに力が男勝りで強くて優しいところなど似ていると思います。
あかねちゃんも相当な怪力・・・ですけれどね。
(一之瀬けいこ)


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