のたこけ#2


病院から帰ってきた乱馬とあかね。
腕時計は11時を指していた。
帰ってみると居間でなびきが一人でくつろいでいた。
「あら、おかえり。早かったのね。」
なびきの手には「お金の貯めかたのコツ100技教えます!これであなたも億万長者!?」と書かれた雑誌がある。
あまりにもなびきらしい雑誌である。
「あれ、お姉ちゃん。いつ帰ってきたの?」
あかねがなびきに聞く。
「10時ぐらい。門のところであんた達見かけたあとに時計を見たから。」
雑誌を見ながら答える。
「ふ〜ん。それじゃあお姉ちゃんも早かったのね。」
鞄の中身を出しながらあかねはなびきを見る。
「ああ、あたしはただ九能ちゃん相手に商売しに行ってただけだから。」
さらりと言う。
「・・・・・・・・。」
(こんな休日にも九能先輩相手によく商売できるもんね。)
と、心の中でそう思いながらも口にしなかった。
「あの・・・・・。」
遠慮がちに乱馬が間に入ってくる。
「あ、ごめん乱馬。そこに座ってて。お茶入れてくるから。」
そう言ってあかねは台所に入っていった。
「あ、そうそう。私の名前はなびきよ。あかねの姉なの。」
自己紹介をしていなかったのを思い出し、なびきらしく手っ取り早く済ませた。
「なびきさんですか。よろしくお願いします。」
こうして自己紹介は終った。
そのまましばらくして、
ガッシャーン!
「きゃ〜!!」
何かが割れた音とあかねの悲鳴が台所から聞こえてきた。
「あかねさん!どうしたんですか!?」
「とうしたのよ。悲鳴なんかあげちゃって。」
まず、乱馬が大慌てで台所に駆けつけ、そのあとにめんどくさそうな顔でなびきが来た。
「ごめん、ごめん。湯のみ落としちゃって。」
苦笑いをしながら破片を片付けている。
「ドジねー。」
呆れかえった顔をしている。
「まあまあ。あかねさん手伝いますよ。」
乱馬も一緒に破片を片付け始めた。
10分後。
お茶が沸き、乱馬・あかね・なびきがちゃぶ台を囲んでお茶をすすっている。
あかねの膝の上にPちゃん(もとい良牙)が乗っている。
そして待ちかねたようになびきが喋り始めた。
「あかね、それで乱馬君どうなのよ。」
ピクッ
膝の上に乗っている良牙もなびきの言葉に反応した。
「うん・・・。明日にでも学校は行けるから、そこで様子を見てくださいって言っていた。でも・・・最悪の場合も覚悟してくださいって。」
悲しそうにお茶の入った湯のみを見る。
「そっか。大丈夫よ、そのうち思い出すって。」
なびきにしては優しい言葉をかけた。
どんなに冷たい態度を持ってもやっぱり姉である。
妹の事が大事なのだ。
そんな2人の様子を見て微笑ましく見ていた乱馬だったが急に何かを思い出したように声をあげた。
「あ、そういえば。」
乱馬がいきなり声をあげたのでしんみりしていた2人は驚いた。
「な、なによ、いきなり。」
なびきは困惑した顔で乱馬を見た。
同じようにあかねも乱馬を見る。
「なんで俺、あかねさん達と一緒に暮らしているんですか。」
乱馬の質問にそこに居た全員(乱馬以外)ずっこけた。
(気づくの遅い!!)
乱馬以外そう思った。
「あ、あのねえ乱馬君。あなたはこの家の居候なの。そして、この子、あかねの許婚なの。」
あきれ返ったようになびきが答える。
「え、俺とあかねさんが許婚!?だからか・・・・・。」
最初は驚いていたがすぐに納得したようだった。
そんな乱馬を見てあかねはひとまず安心した。
(明日学校に連れて行けるわね。みんなにも言わなきゃいけないし。)
それでもあかねの目は何処となく悲しそうだった。

十一

12時になった。
いまだに誰も帰ってこない。
乱馬・あかね・なびきは今日の昼ご飯の事について話し始めた。
「なんならあたしが作ろうか?」
あかねが笑顔でとんでもない事を言った。
「あ、あたしちょっと用が・・・。」
すぐさまなびきは立ち上がってリュックを背負い出かけていった。
そう、前にも言ったが、あかねの料理は殺人的不味さを誇るもので一般人が一口食べるとお花畑が見えると言われている。
すなわち、あかねの料理を好んで食べると言うことは自殺行為と言ってもおかしくないのである。
そんなことを知らない乱馬は、なびきの行動を不可解に思った。
知らないとはなんと怖いものだろう。
「どうしたんですか?なびきさん。」
なびきが出て行った方を見ながらポツリと言った。
「きっと、あたしの料理が下手であんまり美味しいくないから・・・。」
聞こえたのか恥ずかしそうに下を向きながらあかねが言う。
「大丈夫ですよ、俺も手伝います。」
普段の乱馬だったら絶対こんな事は言わない。
逆に急いで逃げるだろう。
「ありがと。乱馬。」
精一杯の笑顔を乱馬に向けてお礼を言った。
そして、自分のエプロンを取りに自分の部屋へと向かった。
これ以上、変わり果てた乱馬を見たくなかったからと言うのもある。
(乱馬の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!なんで・・・。)
そう思いながら自分の部屋に行き、エプロンに着替えっていった。
一方乱馬は、
「あかねさん・・・。」
あかねの方を見ながら、寂しそうに目を閉じた。
(なんで俺には記憶がないんだ!!あかねさんにあんな顔させたくないのに・・・。ちくしょう!!)
と、思いながら拳を強く握り締めた。
「おまたせー。」
(できるだけ明るく振舞って乱馬に心配させないように)
そう思いながらあかねは居間に下りてきた。
「あ、はい。それじゃあなに作りましょうか?」
乱馬はあわてて強く握っていた拳を解き、あかねに笑顔を見せた。
「そうねー焼き飯なんてどうかしら。」
乱馬の隣まで来たあかねはできるだけ明るく振舞っている。
乱馬はそんなあかねに気付いているが、傷つけたくない一身で言葉には出さなかった。
「簡単ですもんね。そうしましょうか。」
そういってあかねと乱馬は台所へと入っていった。
「えっと、材料は・・・っと。」
あかねは冷蔵庫に顔を突っ込んで材料を探している。
「あ、有った有った。卵とグリンピース、それから人参に、ハムね。えっと後は・・・。」
と、一つずつ冷蔵庫から取り出していく。
「じゃああかねさん。人参を一枚ずつとって小さく切ってください。だいたい一個ぐらいで良いんじゃないですか?」
何気なく言う。
「わかったわ。」
あかねは答えると、棚からまな板と包丁を取り出し、そこに人参を一個乗せた。
そしてそのまま・・・。
「とりゃーーーー!!!」
力任せに包丁で人参を切る。
人参は切れている。
しかし、人参はまな板に散乱していく。
乱馬は、あまりまな板の方は見えないが凄い事になっているのはわかる。
「あ・・・あかねさん・・・。」
(こ、ここまでひどいとは・・・。)
乱馬はすでに驚きを超えて呆れの境地に入っている。
呆れているうちにあかねはどんどん人参を切っている。
まだ、乱馬は呆れている。
(いつも俺は、こんな光景を見ていたんだろうか・・・。)
「・・・馬・・・乱馬!!」
「あ、ああ。何ですか?」
もうすでに切り終わった様子で、乱馬の目の前に立っていた。
いつのまにか自分の考えの中に入り込んでいたようだ。
「どうしたのよ、ボーっとして。さっきから人参切るのできたわよ。って言ったのに。」
「すみません。ちょっと考え事をしていて。」
と、あかねに謝った。
その後にまな板に見ると、まな板に人参が散乱していた。
しかも妙に量が多い。
おそるおそる近づくと、人参と一緒になにか薄茶色の物が混じっている。
それはまな板のかけらだった。
よく見ると、まな板は所々欠けていた。
しかし、欠けていると言うより刃物で叩き割った感じだ。
普通はこんなふうにはならないが、格闘家のあかねならたやすいことだろう。
「・・・あかねさん。」
少しためらいつつも、乱馬はあかねを見た。
「どうしたのよ。乱馬?」
あかねは乱馬の様子が少し変だと思ったのか少しずつ近づいてきた。
「あかねさん、人参と一緒にまな板まで切っていますよ。」
乱馬は意を決して、言った。
「そんなわけないじゃない。」
あかねは冗談だと思っているか、笑いながらまな板を見た。
「・・・・・・・・。」
まな板を見て、あかねの笑いは消えた。
「ごめんなさい。」
顔を真っ赤にしながら乱馬を見た。
「別に良いですよ。あかねさん、料理するときはもう少しやさしく切りましょうね。」
乱馬が笑顔で言う。
いつものあかねなら「なんで止めなかったのよ!!」と、言って喧嘩になっているところだろう。
しかし、今の乱馬には強気に出れない。
乱馬は乱馬でも別人のような喋り方と態度を持っている。
いつもの調子が出ないのだ。
「うん・・・。」
はずかしそうにうなずいた。
そのあとは人参からまな板のかけらを取り出した。
残りの材料を切るのはあかねだけでは任せられないんで、乱馬も手伝った。
とんとんとんとんとん
乱馬は見事な包丁さばきで材料を切っていく。
あかねのほうは、
と・・・ん、と・・・ん、と・・・ん。
慎重に材料を切っている。
だが、やっぱりまな板の上は散乱している。
まな板のかけらが無いだけましだが・・・。
乱馬の見事な包丁裁きと、あかねの危なっかしい包丁裁きで材料の下ごしらえは終った。

十二

「炒めましようか。」
乱馬は棚からフライパンを取り出し、油を軽く引いた。
そのまま、普通に材料を炒め始めた。
味付けもした。
ジュー ジュー
いい匂いが台所に立ち込めてきた。
近くにいたPちゃん(良牙)はその匂いにつられて台所まで来た。
しかし、
「Pちゃん。もうすぐだから向こうに言っていてね。」
と、居間に戻された。
「へー。パンダといい、黒豚の子供といい、変わった動物をかっているんですねー。」
乱馬は感心しながらPちゃんを見送った。
「Pちゃんって言うのよ。かわいいでしょ。」
あかねがPちゃんが行った後を見ながら自慢げに言った。
そのとき、乱馬は机(ちゃぶ台)を片付けていないことを思い出した。
「あ、忘れてた、あかねさん、ちょっと机を片付けてくるんで炒めておいてください。」
「いいわよ。」
あかねが返事をした後、乱馬はあかねにフライパンを渡して居間に向かった。
乱馬が行った後、あかねはフライパンを見ながら言った。
「もうちょっと何か入れてみよう。」
これが、あかねの怖いところだ。
味付けのときに調味料を間違え、さらにいろんなものを入れるので一般人が食べたら花畑が見えるほどの味になるのだ。
「そうだ、隠し味に白ワインを入れてみよ。」
と、近くにあった透明のビンに入った液体を手に取った。
そして、フライパンに振りかけようとした時、乱馬が戻ってきた。
「あかねさん。何やっているんですか?」
目を丸くしてあかねを見ている。
「何って、隠し味に白ワインを入れようと・・・。」
あかねが言い終わらないうちに乱馬はその『白ワイン』のビンを調べ始めた。
次の瞬間、
「あかねさん。これ、『白ワイン』じゃなくて『酢』ですよ。」
と、呆れ顔で手に持ったビンをあかねに手渡した。
「え、そんなはずわ・・・。」
乱馬の言葉にビンを見ると、大きく
『酢』
と、書かれてあった。
「またやっちゃった。」
『酢』を見ながら深くため息をする。
「まあ、良かったですよ。間違いに気付いて。」
安心した顔でフライパンの中の焼き飯を見る。
そのとき、もしも間に合わずに間違えて『酢』を入れていたら・・・と、考えてしまった。
そこに浮かんだのは悲惨な姿になった焼き飯の姿であった。
想像力を働かせて、よりリアルに見えるようにしたが、あまりの酷さに考えを中断した。
(本当に良かった。あの時止めておいて・・・。)
あかねの怖さにやっと気付いた乱馬は今ここで、あのときなびきが逃げた訳がわかった。
「さ、焼けましたから皿に入れて食べましょう。」
できるだけ考えないようにしようと、さっさと皿を出して焼き飯を盛り付けて居間に運んでいった。
居間ではPちゃんがご飯を待っていた。
それに気付いた乱馬は、
「あかねさん。黒豚の子供って何食べるんですか?」
と、焼き飯を盛り付けた皿を持ちながら台所の方に向かって言った。
「ああ、Pちゃんね。Pちゃんなら私達と同じものを食べるわよ。」
あかねが台所から居間に来た。
「あ、そうですか。」
何気無い返事をして乱馬はちゃぶ台に皿を乗せた。
Pちゃん用に小さい皿に焼き飯を入れた。
「いただきまーす。」
二人と一匹は声を合わせて言った。
もっともPちゃんは「ぶいぶい」と言っただけだったが。
そんな感じで昼飯は進んでいった。
乱馬は自分のことやあかねのこと、学校などのことをいろいろと聞いてきた。
あかねは笑顔で答えていった。
そのうち昼飯が終った。

十三

そのあと、何事もなく時間は過ぎていった。
出かけた人は、なびき、かすみ、早雲、玄馬、八宝斉の順に帰ってきた。
シャンプー達は来なかった。
きっとなびきが気を利かせてくれたみたいだ。
落ち込んでいる妹にこれ以上何もするべきじゃないと思ったんだろう。
そうして天道家の一日が終った。

つづく

あとがき
こんにちはのほほんです。
ついに出来ました『のたこけ』の続き。
最近、パソコンに向かう暇がなく、だいぶ遅れてしまいました。
すみません。
こんな私の作った作品を見放さず、読んでくださった人、ありがとうございます。
とっても嬉しいです。だけど今、読み返しても全然進歩していない・・・。
しかも、なびきがいい役になっている。
あとは、前の作品で、乱馬君が倒れていた場所は、けいこさんの言っていた場所だと思います。
倒れている場所なんてあまり考えていませんでした。
とりあえず私の住んでいるところが奈良で、普通に鹿が道路を通っているといった感じのところなんです。
だから、奈良のお土産でいいやと思い書いてしまいました。
ここで次回予告を・・・。
次回は「記憶のない乱馬が風林館高校に行く」と、いった感じです。
まだまだ続きますがよろしくお願いします。


一之瀬けいこ的コメント
のほほんさんも私と同じ奈良県民だったんですね(笑
奈良県民はらんま的小説好きが多いかも・・・某最大手らんま小説Webの管理人さんも奈良県民だったりする(笑

礼儀正しい乱馬くん・・・。それもまた面白いです。この先乱馬とあかねはどうなるんでしょうか?
あかねちゃん以上にドキドキしているかも・・・。



(c)2003 Jyusendo