のたこけ #1



始まりは・・・・・
3月だがまだ肌寒い夜の日だった。
いつものように、天道家では、天道あかねとその許婚、早乙女乱馬が、元気に痴話ゲンカをしていた。
しかし、いつものケンカとは、ちょっとちがうようだった・・・・・。
「なによ。」
「なんだよ。」
二人は、すごい剣幕でにらみあいながら立っている。
まるで、怪獣が、街で暴れだす一歩手前のようだ。 
『怖いよ〜』
玄馬[パンダ]がプレートをあげなから密かにうったえている。
が、二人は気にせず、にらみあっている。
天道家の人々は、《いつものことか》と、思っているか直感的に《かかわらないほうがいい・・》と、思っている感じで、黙ったままだ。
にらみあいが永遠にづづくかと思ったとき、あかねが口を開いた。
「乱馬なんか、乱馬なんか・・・大っ嫌い!」
むかっ!
「ああ、わかったよ。おれも、世界一不器用で、まぬけでおこりっぽい寸胴女なんておことわりだぜ。おめぇなんて、大っっ嫌えだ!」
売り言葉に買い言葉で、あかねの言葉にカチンときたのかつい、乱馬はそのようなことをいってしまった。
その瞬間、《これはいかん》と、思ったのか早雲が、一言。
「二人ともケンカはやめなさい。」
と、二人に負けないほどの剣幕で、言ったつもりなのに、
「おじさんは、黙っててください!」
「お父さんは、黙ってて!」
乱馬とあかねが同時にものすごい剣幕で、にらみつけた。
すると、早雲は隅に行きしゃがみこんで落ち込み始めてしまった。
「そんなに、にらまなくったて〜。」
すぐに玄馬[パンダ]が駆け寄り、肩を軽くたたきつつ早雲をなぐさめている。
『よしよし。』
二人は早雲が落ち込んでいるのも気にせずにまだにらみあっている。
そのとき、乱馬が、
「そんなに言うんだったら、出ってやるよ!」
そう言うと、乱馬は自分の部屋に行き、荷物を出して本当に天道家を出で行く準備を始めた。
『これ、乱馬!出て行くとはなにごとだ!』
「そうだぞ乱馬君、何も出て行かなくたって、それにあかねはどうするんだね。」
「そうよ乱馬君、考え直して。あかねもなにかいって!」
しかし、あかねはまだ怒っているのか乱馬を引き止めようとはしなかった。
かすみや、早雲(いつのまに復活したんだ?)、玄馬[パンダ]は、乱馬を止めようとしたが無駄であった。
荷物とまとめ、背中に背負い玄関へ向かった。
そして乱馬は、たった一人で旅に出て行ってしまった。
玄馬[パンダ]は乱馬に忘れられていた。
まだ天道家に居るが乱馬を追いかけなかった。
たぶん、居候生活の方がいいととっさに思ったのだろう。
のどか《乱馬の母》は言うと、風邪を引いていたので連れて行けなかった。
その夜。
あかねは、布団に潜り込んだ。
(乱馬の馬鹿・・・・・。)
そう思いながら眠りについた。
見たところ、ピーちゃんは、いないようだ。
また、良牙としてどこかでさまっよているだろう。



なぜ、こんな大喧嘩になったんだろう?
事の発端は今日の放課後であった。
あかねと乱馬は学校が終わり、一緒に帰っていると。
「乱馬〜〜〜〜〜〜!会いたかったね〜〜〜〜〜〜〜早速デートするある♪」
いつものようにシャンプーが乱馬の顔に自転車を直撃させながら来た。
そしてお約束どうり乱馬はシャンプーに追いかけられるはめになる、それならまだ良い方だが・・・・・・。
「乱ちゃんは今日、うちと一緒に帰るんじゃ!!」
そう言って右京が飛び出して、小ベラを投げてくるし、
今度は、
「おーほほほほほほ。乱馬様は私とデートするのですわ〜〜!」
と、高笑いと共に黒バラを振りまきながら小太刀まで出てくる始末。
そんな事で乱馬は約二時間ほど追いまわされるはめになった。
あとに残ったあかねはブツグサ文句を言っている。
「今日、買い物につきあってって言ったのに。乱馬ってなんでいつもちゃんと断れないのなかしら。」
こんなことを言っているがいつもの事なので、あかねはまだ怒りは抑えられるし、しかも少し楽しみなこともあるので大丈夫なのである。
(ま、いっか。今日は家庭科で‘あれ,を作って美味しく出来たし。三十回くらい失敗したけど・・・。ちゃんと乱馬に渡せたし、家に帰ってから食べるって言ったし、早く買い物済まして家に帰ろう。乱馬、食べたら驚くだろうな〜〜。)
上機嫌であかねは三十分ぐらいで買い物を済ませ、家に帰って来た。
「ただいまー。」
「おかえり、あかねちゃん。」
かすみが洗濯物を運びながらあかねを出迎えた。
「あ、かすみねいちゃん。乱馬まだ帰ってない?」
靴をぬぎながらかすみに聞く。
「まだ帰ってないわよ。」
「そう。」
こんな会話を交わしてかすみは二階に、あかねは居間に行った。
居間には誰もいなかった。
コチコチコチコチコチ
時計の音が鳴り響く。
かれこれ一時間くらい経った。
「乱馬遅いな、早く帰って来てよ。はっ、まさか・・・」
あかねの脳裏にシャンプーと乱馬が公園の噴水をバックに向かい合いあっている姿が浮かんできた。
右京と小太刀は横で気絶している。
そのとき、シャンプーが口を開いた。
「乱馬、私とデートしたら猫飯店の料理一週間ただね。」
シャンプーの言葉を聞いて乱馬の顔が明るくなった。
「いくいく!だからちゃんと一週間ただにしろよ。」
「わかったね。」
ガシャッ!
あかねは近くにあった湯のみ茶碗を握りつぶした。
「まさかね。」
今度は右京と乱馬が川をバックに向かい合っている風景が浮かんできた。
そして横にはシャンプーと、小太刀が気絶していた。
「乱ちゃん。今日、暇やったらうちと一緒に帰ってくれへん。」
右京が顔を真っ赤にして乱馬を見る。
「え、別にいいけど・・・。」
どうしたんだよといいたげに乱馬は承諾した。
「乱ちゃん、ほんま?うれしー♪」
右京が乱馬に抱きついた。
バキッ!!
今度は机が粉々になっていた。
「ほんとにいいかげんなんだから!」
廊下をたまたま通った早雲が居間の机と湯のみ茶碗の無残な姿を見て青ざめた。
そしてそのまま居間を通りすぎた。
次に乱馬と小太刀の姿が浮かんだ。
「おーほほほほ。乱馬様、早速、式を挙げましょう。」
やっぱり変な奴だ。
「いやだ!」
もちろん乱馬は断わる。
「逃げようとしても無駄ですわ!そ〜れ〜。」
そう言って乱馬の周りに黒バラを撒いた。
「うっ、しびれ薬・・・。」
乱馬がしびれている間に小太刀は乱馬を抱きあげて自分の家のほうに帰っていった。
メシャッ!
次はテレビのリモコンがぼろぼろになっていた。
「まさか、いや、有りうるかも。小太刀がやりそうなことだわ。」
時計を見ると乱馬と別れてから二時間経っていた。
あかねの怒りは頂点に達し始めた。
ガラガラ
「ただいまー。」
乱馬の声が聞こえてくる。
(乱馬だ。)
あかねは急いで玄関へと急いだ。
「乱馬ー。遅いじゃないの今日買い物付き合ってくれるって言ったでしょ。」
「あ、わりぃ。忘れててた。あいつらしつこくてよ〜。」
まいったぜとでも言いたげにあかねを見る。
「そうだ、乱馬。今日渡したカップケーキちゃんと食べてね。」
あかねがそういった瞬間、乱馬の顔が青ざめた。
そう、あかねは料理が苦手なのだ。
その不味さは脳天を突き抜け、鉄の胃袋を持つ乱馬でも食べたら寝込むという。
「あ、ああこれのことだな。」
そういって乱馬はかばんを開けてカップケーキが入った袋をとりだそうとした・・・。
だがカップケーキを見た瞬間!乱馬は固まってしまった。
その行動を不審に思ったのかあかねは、
「ちょっと見せなさい。」
乱馬のかばんを取り上げ中身を見た。
乱馬は止めようとしたが遅かった。
あかねの目にはみるみる涙が溜まってきた。
そう、あかねが一生懸命作った最高傑作がペシャンコのぼろぼろになって食べられない状態になっていた。
これにはさすがにあかねもぶちぎれた。
バッシーン!!!
怒りのあまりあかねは乱馬の左頬を思いっきり平手打ちをした。
乱馬はいきなりだったので避けれなかった。
「な、何すんだよ!ぼろぼろにしたのは悪かったけどよ、もうちょっと可愛げのある怒り方しろよ。」
この一言があかねの逆鱗を完璧に逆立てた。
「乱馬の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!!!!!!!!!!!!!」
そして険悪な不陰気が夜まで続き、乱馬とあかねの大喧嘩は発展していった・・・。



天道家を出てから
二日後・・・・。
パチパチ。
乱馬の目の前には、赤々と、燃え上がる焚き火かあった。
今、乱馬がいるのは、森・・・ではなく、森のように深い人里離れた竹ばかりの山だった。
そこで、乱馬はずっと焚き火をみたままだ。
「おっそろそろ焼けたかな?」
乱馬は、焚き火の中に木の棒をつっこみ、アルミホイルで包んだ何かを取り出した。
アルミホイルをとると、中身はたけのこだった。
「今日の夕飯は、ここの山で見つけた、このたけのこだな。」
そう独り言を言うと、食べ始めた。
(あかねの馬鹿野郎・・・)
そう思いながら、たけのこを味わいながら食べていった。
「んっ、あれは人か?」
そう言ったのは乱馬ではなく、乱馬から二〇〇メートルぐらい離れたところにいたおじいさんだった。
おじいさんは、いかにも登山者!という格好をしている。
しかし、乱馬は、おじいさんに全然気がつかなかった。
なぜなら、あかねのことで頭がいっぱいだったのだ。
おじいさんは、何で見えるんだ?というような眼力で、乱馬の持っているたけのこに気がついた。
「あっあのたけのこは・・・・・。」
少しあわてた様子だったが、すぐに落ち着いたみたいで、心配そうに乱馬の方に視線をむけた。
「何事も、おこらなけらなければいいが、・・・。」
そういったまますぐにどこかに行ってしまった。
おじいさんが、行ってしまったあと、急に乱馬に異変がおこった。
「うっ・・・・・。」
ドクン・・・ドクン・・・
(なっなんだ?なんだ?すげぇ苦しくなってきた。もしかしてこのたけのこのせいか?あっちくしょう、目までかすんできやがった。)
ドサッ・・・・・。
乱馬が目をつぶったと思うと、そのまま倒れてしまった。

乱馬が倒れてから二時間後・・・・・。
「ここはどこだ〜〜〜!?」
乱馬のいる竹ばかりの山に、ぐうぜん乱馬のライバル(?)、響良牙がいつものように迷ってた。
良牙の家族は、全員強烈的方向音痴なのだ。
良牙もその血を引いているのだから、迷うのはどうしようも無い。
「こう竹ばかりじゃ、きっと人も住んでいないだろうな。」
良牙は、辺りを見渡していると、遠くの方に明かりが見えた。
「ありがてぇ、明かりがあるってことは、人がいるってことだあそこで道を聞こう。」
明かりを見つけると、良牙は明かりにむかって一目散に駆け出した。
近ずいていくと、焚き火か見えてきた。
良牙が焚き火のある所につくと、そこには、乱馬が倒れていた。
「ら、乱馬・・・?」
すぐに、駆け寄り乱馬の身体を、起こすと、何度か頬を叩いた。
「乱馬、どうした?何があったんだ?おい、しっかりしろ!」
だが、乱馬は反応がない。それどころか、すごい熱を出して苦しそうに脂汗をかいている。
(す、すげえ熱だ、早く天道家に連れて行かないと・・・。)
急いで良牙は、乱馬をかついだ。そのとき、乱馬の近くに食べかけのたけのこを見つけた。
(たけのこ・・・・・?)
しばらく、考えこんでいたか、
「そうだ、こんな事している場合じゃねぇ、急がないと。」
考え事は、一時中断して、良牙は、天道家に急いだ。
そのあと、いつものように迷いに迷って、天道家に着くのは五日後のことだった。



乱馬が旅に出てから、一週間。
あかねは二階の自分の部屋で窓を見ながらため息をついていた。
(乱馬の馬鹿・・・何で帰ってこないのよ。)
あかねが、思いふけている時、玄関の所でだれかが来たみたいだった。
「すみませーん。だれかいませんか?」
「はーい。」
あかねは、すぐに反応し、玄関へ急いだ。
あかねが、玄関に着くと、良牙が立っていた。
「あら、良牙君久しぶり。今日は、どうしたの?」
良牙は、あかねに気付くと顔を赤くしながら軽くおじぎをした。
良牙があかねを見た瞬間、顔を赤くした理由はただ一つ、良牙はあかねのことが好きなのだ。
だが、良牙は雲竜あかりちゃんと言うガールフレンドがいる。
つまり、良牙は二股をかけているといっても同じなのだ。
だけど、あかねには乱馬がいる。
だから当の昔にあかねのことをあきらめたが、まだやっぱり少し好きなのだろう。
「あ、あかねさん、お久しぶりです。えっと、これお土産です。」
右手に持っていた、おせんべいの詰め合わせをあかねに手渡した。箱には、『奈良限定、鹿せんべい』と書いてあった。きっと奈良まで行って来たんだろう。
「いつも、ありがとう。」
あかねは、受け取ってお礼を言った。
「あれ?良牙君、後ろに何かあるけど、あれ何?」
あかねは、玄関の外に何かが有るのに気付いた。
「そうだ、こんな事している場合じゃなかった。」
良牙は、思い出した様子で慌てて後ろを向き外から何かを背負って来た。
「ら、乱馬・・・・・。」
それはまぎれもなくなく乱馬だった。
「乱馬!どうしたのよ。」
「おれが見つけた時にはもう倒れていたんだ。」
《なんだ?なんだ?》と、言う様子で天道家・早乙女家一同が集まってきた。
乱馬の様子を見て一番最初に乱馬に駆け寄ったのはのどかだった。
もう、風邪を治して元気になっていたが、乱馬の様子を見るとみるみる顔が青ざめていった。
「乱馬!どうしたの、・・・・・すごい熱だわ、かすみちゃん、氷と薬を用意して!あなた、あなたは乱馬を運ぶのを手伝って。あかねちゃんは、お医者さんをよんで!」
玄馬[人間]と良牙が乱馬を運び、かすみは、氷と薬を取りに台所に行き、あかねは医者を呼ぶため、電話をかけに、ついでに八宝斉はいつもの下着ドロボーに、そしてただ一人玄関になびきが立っていた。
みんなそれぞれ行った時に早雲が玄関に来た。
玄関にただ一人いたなびきに早雲が尋ねた。
「なんだ?どうした?みんなは?」
「おしえてほしい?」
「ウン。」
早雲の質問をひととうり聞いたなびきは早雲の方に手の平を差し出した。
「なんだ?」
「千円♪」
「・・・・・・・。」
早雲はなびきの一言でどうしょうかと考えこんでいる。
そこになびきが合いじつを打つ。
「どうしたの?おしえてほしくないの?だったら別にいいけど。」
そう言われて早雲は、懐からサイフを取り出し、千円をなびきに渡した。
「まいど〜♪」
「それで?」
≪早く聞かせろ≫と言った感じでなびきの回答を待っている。
「えっと、さっき良牙君がうちに来て、乱馬君が倒れていたからって連れて来たの。でも、乱馬君すごい熱を出していたからみんな急いでそれぞれ手分けして準備に行っちゃた。」
「ふむふむ、なるほど・・・・って、なにーーーー!乱馬君が倒れたー!?」
なびきの説明を聞いて納得していたが、すくに一大事と気付き焦った様子でなびきにもうひとつ質問をした。
「で、乱馬君は何処に?」
「えっ、えっとおじ様の部屋よ。」
千円をもらってほくほくしていたのか、唐突な質問だったので、なびきはあっさりと答えてしまった。
「そうか。」
乱馬のいる場所を聞くと、早雲は一目散に駆け出した。
また、一人になったなびきは、
「しまった、追加として三百円貰っとくんだった。」
と、くやしんでいた。



それからすぐに医者が来て乱馬に適切な治療ひととおりした。
「だいぶ、落ち着きましたが、二・三日は安静にしとくといいでしょう。それと、目が覚めたらこの薬を飲ませてください。」
そういうと、薬をかすみに手渡し医者は帰っていった。
今、早乙女一家の部屋に居るのは、あかね・かすみ・なびき・のどか、そして布団に横たわっている乱馬である。
「乱馬・・・・・。」
心配そうにあかねが乱馬を見つめている。
乱馬は、死んだように眠っている。
「あかねちゃん。」
のどかがあかねに声をかけた。
「なんでしょうか?」
「ねえ、あかねちゃん、乱馬の看病してくれない?」
「な、何で私が・・・・・。」
「乱馬のそばにいてあげて。あなたは仮にも乱馬の許婚。乱馬の目が覚めたときにあなたが一番そばにいてほしいの。」
「でっ、でも。」
「そうよ、おば様の言うとうりよあかねちゃん。幸い明日は日曜だし。」
かすみもいっしょに説得してくる。
「わかったわ。する。」
のどかとかすみに一緒に頼まれると、断れないあかねだった。しかし、実際は心配で心配でしょうがなかった。
ガラッ!!!
話がまとまった時、障子が勢いよく開いた。
「あっかねちゃ〜ん☆」
いきなり謎の生物があかねの前に飛び出してきた。 
「きゃぁ〜!」
しかし、あかねとてこう見えても格闘家の端くれだ。
いきなり出て来た謎の生物を悲鳴を上げながら手で弾き飛ばした。
バッチィ〜ン!!!
「ぐはっ!!」
あかねに弾き飛ばされ、おもいっきり壁にぶつかった。
それは八宝斉だった。たぶん下着ドロボーから帰ってきたのだろう。
しかし、こんなことで参る奴じゃない。
「ひどい、ひどいよ、あかねちゃん。」
「何がひどいよ、そっちがやって来たんでしょ!」
泣きまねをしている八宝斉に、つい、あかねは大声を出してしまった。
「あかねちゃん、静かに。乱馬君が寝ているのよ。」
かすみが、あかねに注意した。
「ごっ御免なさい。」
乱馬が寝ていることを思い出し、すぐかすみに謝った。
「なんじゃぁ〜?おー乱馬、帰って来たのかぁ、んっ!!どうしたのじゃ?」
やっと乱馬に八宝斉が気付いたが、乱馬が具合が悪いのは八宝斉でも一目見てわかった。
「おじいちゃん。今日は一晩中あかねは乱馬君に付きっきりで看病するんだから二人の邪魔しちゃ駄目よ。」
なびきは八宝斉をからかうように、さっき決まったことを説明した。
「なっ!!なんじゃとぉ!!!と、ゆーことは、あかねちゃんと乱馬は一晩中二人っきり!?」
「そうゆうこと〜♪」
なびきにキッパリ言われショックを受けたのか、しばらく畳の上で『の』の字を書いていた。
「いいのぉ〜いいのぉ〜 乱馬は。わしもあかねちゃんに看病してほしいのぉ〜 のぉ、あかねちゃん・・・・・。」
「だぁーめ!!おじいちゃんはさっさと寝なさい!!」
八宝斉の言葉が言い終わらないうちに、あかねが否定した。
「あかねちゃんのいぢわる〜 いいじゃないか別に。」
ゴロゴロゴロ・・・ドタバタドタバタ・・・
今度は、あかねにキッパリ言われ、畳の上で転がったり、暴れたりしている。
しかし、すぐに立ち直りあかねに赤い丸薬を手渡した。
「あかねちゃん、夜更かしするんならこれを飲んどくといいじゃろう。」
「なによこれ?」
(おじいちゃんが出した薬だわ、きっと変な物にちがいない。用心しないと・・・・・)
全員に冷たい目で見られているのも気にせず、得意げな顔で、赤い丸薬の説明を始めた。
「これはの、わしが昔、中国で買ってきたものじゃ。これを飲むと一日中眠らなくても大丈夫なんじゃ。」
「ほんと?じゃあ、おじいちゃん・・・・・・・。」
グイッ!!
あかねは、引きつった笑顔を八宝斉に向けるといきなり、八宝斉の口を開いて、
ポイッ
っと、あの赤い丸薬を八宝斉にの口の中に押し込んだ。
ゴックンッ!!
いきなりのあかねの行動に驚いたのか、なにも抵抗せずに丸薬を飲み込んでしまった。
「なにすんじゃぁぁ〜 ふぁ〜 なんだか眠たいのぉ〜。」
飲んだ瞬間、八宝斉に睡魔(すいま)が襲って来た。
そのうち堪えきらなくなり、幸せな世界へと旅立っていった。
「Zzzz・・・・・。」
(やっぱり・・・・・)
幸せそうな顔で寝ている八宝斉を見てあかねはすっかり呆れ返っていたが、見ているうちに怒りがこみあがってきた。
きっと、この薬をあかねに飲ませて連れ去ろうと思ったのだろう。
「Zzzzzz・・・・・おねいちゃ〜ん!・・・ムニャムニャ。」
ペタッ
八宝斉が寝言を言いながら寝返った時、八宝斉の手があかねの胸に触った。
プッツン・・・
この瞬間、あかねの怒りが爆発した。
「そのまま・・・・・・。」
八宝斉を畳の上にのせ、その前に立ち、おもいっきり足を振り上げた。
「成仏しろ〜!!!」
バキッ!!
あかねの足が八宝斉に直撃し、そのまま八宝斉は天井を突き破って空の彼方へと飛んでいった。
キラリーン☆
「あーあ、おじいちゃん飛んでいちゃった。」
あかねの横でなびきが空を見ながらつぶやいた。
その横のかすみが天井の穴の下に駆け寄り八宝斉が飛んでいった方向におっとりとした声で喋った。
「おじいさ〜ん、朝ご飯までには帰ってきてくださいね〜。」
そんなドタバタを気にせずに、乱馬の横で看病に必要な道具を取り替えていたのは、のどかだった。
のどかの行動にすぐ気付いたかすみは、何事もなかったようにのどかの手伝いを始めた。
十五分ほどすると薬や水の取り替えが終わった。
そして本当に何事も無かったようにあかねを残してそれぞれの部屋に戻っていった。
「それじゃあ、あかねちゃん 乱馬の事よろしくね。」
と言うのどかの言葉を残して・・・・・・。

(乱馬・・・・・。なにがおこったのよ。あんたはいつもそうなんだから、いつも一人で突っ走って。あたしに一言も言わずにいっちゃうんたから・・・・・。)
そんなことを思いながら一晩中あかねは乱馬に付きっきりで看病した。



翌朝。
あかねが目を覚ました。
時計を見ると5時を回っていた。
一晩中乱馬の看病をしているうちに疲れていつのまにか寝てしまったんだろう。
「いけない!ねむちゃった。」
大慌てで起き上がり、乱馬の額に乗せていたタオルを取り、氷水につけて絞ってまた乱馬の額に乗せた。
その様子をしばらく全員が見ていた。
何処にいるかというと、早雲・玄馬[パンダ]は、天井。
良牙は押入れ。
かすみ・のどか・なびきは、障子を少し開けて覗いている。
八宝斉は、あかねに蹴られて行方不明。
当のあかねは全く気付いていない。
乱馬の看病でそれどころではないのだ。
その状態で三十分が過ぎた。
「うっ・・・・・。」
ふとんから唸り声が聞こえたと、思ったら、乱馬が目を覚ました。
「乱馬!!」
(よかった・・・・・無事だったんだ。)
乱馬が気付いたのを見た瞬間、あかねの顔に笑みがこぼれた。
「乱馬くん!」
「パホホッ!!(乱馬!!)」
「乱馬君!」
「乱馬!!」
「乱馬君!」
「乱馬!」
乱馬が気付いたのを知ると、隠れて見ていた天道家・早乙女家が一目散に飛び出してきた。
そしてすぐ、乱馬の周りを囲んだ。
乱馬の名前を叫んだのは上から順に、早雲・玄馬[パンダ]・かすみ・のどか・なびき・良牙である。
「・・・みんなもしかしてずっと覗いていたの?・・・・・。」
その場に立って早雲に問い掛ける。
ギクリ。
「なっ何のことかな〜。」
慌てて早雲がごまかす。
「・・・・・。」
呆れ返って声が出ない。
(もう、まったくお父さんたら。)
「・・・・・?」
あかねと早雲のやりとりを乱馬がじっと見ている。
「ほら、そんなとこに突っ立てないで乱馬君が見ているわよ。」
なびきが間に入ってきた。
「ご、ごめん。」
あかねは素直に謝り再び乱馬に視線を戻した。
「・・・・・・・・・・・・・?」
当の乱馬は周りの状況が飲み込めずにただ、ぼーぜんと周りを見渡している。
そして、周りを取り囲んでいるあかねたちに視線を移す。
あかね・良牙・のどか・なびき・早雲・かすみ、の順に見渡している。
そして最後に玄馬[パンダ]を見たとき、乱馬の目線が止まった。
そして一言、
「な、なんで日本にパンダが居るんだ?」
驚いたような顔している。
『乱馬!貴様!父をからかっているのか!』
いつの間に書いたのかわからないが、そんなことを書いたプラカード?を使って乱馬に殴りかかろうとした。
ほんとだったら絶対安静のはずだがそんな事を気にする親じゃない。
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
叫びながら玄馬に拳を繰り出した。
そして見事玄馬は空の彼方へ飛んでいった。
「パホホォ〜!!!」
キラン☆
玄馬は吹っ飛んでいった。
1時間後に帰ってくるが・・・・・。
「ハァ、ハァ。」
少し乱馬の息が荒くなっている。
いつもの乱馬ならこのぐらいのことでは息は荒くならない。
「一体なんだったんだ?」
わけがわからないと言った顔で玄馬の飛んで行った方を見ている。
「あ、あの、乱馬?どうしたの?」
今の騒動で乱馬の様子がおかしいと思ったのか、あかねが乱馬に話しかけた。
「乱馬?誰だそれ?」
目を大きく見開いてあかねの方を向く。
「だれって、あんたのことよ。はっ、ま、まさか・・・・・。」
(記憶喪失!?)
そこにいるだれもがそう思った。
「俺の名前・・・・・?」
しばらく考え込んだがあかねを見て、
「わからない・・・・・。」
と、言って少し落ち込んだ顔した。
「じゃ、じゃあこの子は?」
のどかがあかねを差し出す。
「・・・・・知らない。」
あかね見ながら言う。
「な、なんですって〜。あたしのことも覚えてないの!・・・・・乱馬の、乱馬の馬鹿!」
目に涙を少しためて自分の部屋に駆け出した。
(乱馬の馬鹿!なんでこんな事になったんだろう。)
そんなことを思っているうちに自分の部屋に来た。
はっ
(もしかしてあの時のことのせいで・・・・・。)
あかねが思いふけているとき、乱馬の部屋では。
「あ、あかねさん!乱馬、お前あかねさんを悲しませたな!そんな事をする奴は俺が許さん!」
良牙が立ち上がりあかねを呼び止めようとしたがすぐにやめ、乱馬に殴りかかろうとした。
「まって、良牙君。乱馬は今、絶対安静なのよ。」
のどかが止めに入った。
「おばさん、俺はこれだけは許せねぇ。けど・・・今は我慢する。今の乱馬を殴っても意味がねえ。」
いらだった顔をしたが、すぐに落ち着いた顔になった。
「まあ、とにかく落ち着いてから病院に行きましょ。ね、乱馬君。」
かすみが乱馬を見ながらそういった。
しかし、乱馬は自分の名前が乱馬と言う自覚が無く、ぼんやりとあかねが行った方を見ていた。



二時間後。
時計は7時になろうとしていた。
乱馬は思ったより回復していた。
もう、学校へ行っても大丈夫と言っていいほどだ。
「乱馬。」
あかねが乱馬の部屋に来た。
「ごめんね、乱馬。もしかしてあんたが記憶喪失になっちゃったのあたしのせいかもしれないの。」
乱馬の方を見ながら謝り始めた。
「・・・・・。」
乱馬はじっとあかねを見ている。
「ごめん、ごめんね、乱馬。」
こころなしかあかねの目に涙が浮かんでくる。
それを見て乱馬はギョっとした。
「な、な、な、な、泣かないでください!」
あわててあかねに近づいて言う。
「えっ・・・・・。」
乱馬が記憶喪失になってから初めて自分に問いかけたので少し驚いた。
そんなあかねに気にせず乱馬は言葉を続ける。
「泣かないでください。あなたが泣いたら俺・・・・・。」
乱馬も少し悲しそうな顔をした。
「乱馬・・・・・。」
そう言ってあかねは少し微笑んだ。
「そういえば、あなたの名前聞いてなかったな。何て言うんですか?」
「あかね、天道あかねよ。」
「あかねさんか、いい名前ですね。」
そういって乱馬はとびっきりの笑顔をむけた。
ドキッ!!
(なに、何でときめくの?ヤダこんな時に限って。)
少しあかねの顔が赤くなった。
「どうしたんですか?あかねさん。」
乱馬の顔が近くに来た。
「な、何でもないわよ!」
(まだ、ドキドキしてる。早くおさまってよ。こんな顔乱馬に見られたくない。)
あかねの顔がますます赤くなっていく。
「そうですか。あ、そうだあかねさん、俺の名前って“乱馬”って言う名前なんですか?」
「え、乱馬、自分の名前思い出したの?」
乱馬の唐突な自分の名前の質問に驚いたあかねは《記憶を取り戻した》と思った。
「いえ、違いますけど皆さんが俺のことを乱馬って呼ぶからそうなのかなって思ったんですけど・・・・・。」
少し寂しそうな顔をした。
「そっか。」
残念そうな顔をした。
記憶が戻る望みが見えたと思ったからだ。
「そうよ、あなたの名前は乱馬、早乙女乱馬っていうの。」
そんな話をしているとあかねは違和感を感じてきた。
(なんか、乱馬の姿をした別人みたい。こんなに大人しくなって、それに私に敬語を使うなんて。)
乱馬はあかねの気も知らず、少し思いふけていた。
「俺の名前は乱馬か・・・・・。」
(やっぱり駄目だ。何にも思い出せない。)
「乱馬君、そろそろ朝ご飯よ。」
かすみが来た。
「あら、あかねちゃん居たの。」
あかねが居ることに気がついた。
「そうだわ、あかねちゃん。私の代わりに乱馬君を病院に連れて行ってくれない?」
あかねの顔を見てかすみの顔がほっとした感じになった。
(よかった。落ち着いたみたいね。)
やはり優しいお姉さん。あかねのことが気がかりだったんだろう。
「な、なんで。お姉ちゃんか、誰かが行けばいいじゃない。」
突然の申し出にあかねはとっさにそう言った。
「それが無理なのよ。お父さんと早乙女のおじさまはおじいさんの下着ドロの証拠隠滅に行っちゃったし、なびきは用事が有るって言ってたし、おばさまは友達の結婚式に行ったし、良牙君は居ないし、私は小学校の同窓会があるし。あかねちゃんしか居ないのよ。」
(な、なんてちゃらんぽらんな家族なの。)
かすみの説明を聞きながらあかねはそう思った。
実際には良牙は居るがPちゃんとして居る。
「わかった。行くわ。」
しょうがないといった感じであかねは承諾した。
「ありがとう。あかねちゃん。そうそう、もうすぐ朝ご飯よ。」
「はーい。」
そう言ってかすみは台所へ向かった。



朝の朝食。
時計は7時20分を指していた。
乱馬・あかね・なびき・早雲が居間に居る。
「皆さんできましたよ。」
かすみとのどかが台所から出来上がった朝食を持ってきた。
「へー美味しそうですね。」
かすみたちの料理を見て乱馬は感心している。
「ありがとう。」
かすみが言った。
「いっただきまーす。」
そんな感じで平和な朝食のひとときが始まった。
しかし、その平和も長くは続かなかった。
ごごごごご・・・・・・。
そんな音が聞こえてくるような異様な闘気が居間を包んだ。
「うおのれぇ 乱馬!」
昨日の夜にあかねによって空の彼方に吹っ飛んでいった八宝斉だった。
「お、お師匠様!!」
「あら、おじいさん。お帰りなさい。おじいさんの分出来ていますよ。」
慌てている早雲とは対照的にかすみはのほほんとしている。
「乱馬、貴様一晩中あかねちゃんと二人っきりで過ごしたな〜!!」
これが八宝斉の嫉妬というものか。
乱馬はあかねに近づき、八宝斉に聞こえないように声を潜めて喋り始めた。
「誰ですあのじいさん?」
「八宝斉って言うスケベで邪悪なおじいちゃんよ。」
「へー。」
なせか感心する乱馬。
「感心している場合じゃないでしょ、とにかくあのおじいちゃんには気おつけて。」
「こぉら、聞いとんのか。」
その八宝菜の一言で乱馬とあかねの会話は中断した。
「聞いてますよ。」
八宝斉の恐ろしさを知らない乱馬はさらりと言う。
「乱馬、別に許してやってもいいがのう・・・ただし!女になってこのブラジャー着けてくれたらな♪」
最初は真剣なと言うより邪悪な闘気を放ちながら言っていたのに、「女に」と言うところになったらただのスケベじじいである。
「女って何のことですか?しかも俺は男ですよ。」
《何のことだ》と言うような顔にで言う。
「とぼけるでない!」
今度は真剣である。
「おじいさん!いい加減にしなさい!乱馬は・・・乱馬は、今記憶喪失なのよ!」
「なんじゃと!!」
八宝斉もビックリである。
(乱馬が記憶喪失と言うことは・・・。)
八宝斉の頭に次のような公式が浮かんだ。

(乱馬が記憶喪失。=拳法の事も忘れている。=今の乱馬は大人しい。=力ずくで言う事を聞かせられる。)

と、こんな感じである。
頭の中に公式の答え(力ずくで言う事を聞かせられるということ。)が出た瞬間、八宝斉が不気味に笑い始めた。
「ふふふふふふふ、ははははははは、わぁはっはっはっはっは。」
八宝斉の目がさっきよりも邪悪な光を放っている。
「乱馬!命が惜しければ女になってこのブラジャー着けるんじゃ!」
さっきと同じである。
「だから!女って何の事ですか!」
これまたさっきと同じである。
「忘れたと言うならば思い出してやろう・・・。そぉーーーれいーーー。」
いつのまにか用意したのか水がたっぷり入ったバケツを乱馬に投げた。
バッシャーン!
「冷て〜〜〜〜〜〜!!」
水が入ったバケツは乱馬に直撃した。
そして、乱馬の体は女のらんまにみるみる変身して・・・・・いかなかった。
「な、なぜじゃぁぁぁぁぁ。」
乱馬の体が女にならないのをショックに思えたのか、しばらく八宝斉の体は石になった。
当然ほかのみんなも固まっている。
いつもはあまり感情を出さないかすみでさえ驚いている。
「うううう、うぉのれ!」
やけくそになったのか八宝斉は乱馬に襲い掛かった。
「人に水ぶっ掛けといて、襲う事はないでしょう!!」
乱馬は無意識のうちに襲ってくる八宝斉の顔面に拳を入れていた。
朝のときの玄馬と同じように八宝斉も吹っ飛んでいった。
キラァン☆
乱馬が記憶喪失になっても拳法などの格闘のことは体が覚えているんだろう。
八宝斉がこの作品内で吹っ飛ばされたのは二回目である。
そんな乱馬の様子を見てそこに居た全員が同じことを考えた。
(なんで変身しないだ?)
「ら、乱馬あんたなんで女にならないの?」
やっとのことであかねは口を開いた。
「なんで?って当たり前じゃないですか、俺は男なんですから。」
当たり前、とでも言ったような顔で即答する。
「でも、あなた女の子に変身する体質なのよ。」
「えっ・・・・・。」
あかねの言葉に流石に驚いたようだ。
「お、俺って変態だったのか?」
あかねに真面目な顔でつめよる。
「違うのよ、乱馬は中国の呪泉郷という所にある呪いの泉に落ちちゃったのよ。」
悲しそうな目であかねは乱馬を見る。
「そうでしたか、てっきり俺って変態なのかって思っちゃて。」
安心したのかすこし笑う。
「ほらほら早く食べないと冷めちゃうわよ。」
なびきが二人を急かす。
そしてごたごたの朝食が終わり、全員それぞれの部屋に戻った。



時計は午前10時をさしていた。
「あかねちゃん。それじゃあよろしくね。」
かすみが出かけた。
ほかの人々は居ない。
天道家に残されたのは乱馬とあかねだけであった。
「乱馬、そろそろ病院行かない?」
「あ、わかりました。」
こんな簡素な言葉を交わし二人は病院へと向かった。

病院。

ピンポンパンポーン♪
「早乙女乱馬さん。第2検査室にお入りください。繰り返します。早乙女乱馬さん。第二検査室にお入りください。」
ピンポンパンポーン♪
アナウンスの声が病院内に鳴り響いた。
「行こう。」
あかねが乱馬を引っ張りながら第2検査室に入った。
「早乙女乱馬さんですね。」
医者がカルテを見ながら言った。
「はい。」
あかねが答える。
「記憶喪失ですか。さっき調べたんだが脳波に異常はないが・・・。」
言いにくそうに言葉を切る。
「なんですか?まさか・・・。」
最悪の状況を思い浮かべ、あかねは軽いめまいをおぼえた。
「いえ、そのうちに思い出すかも知れません。しかし最悪の場合も覚悟してください。」
「はい。」
医者の無情の言葉にあかねは泣きそうになった。
しかし涙をこらえ乱馬を見た。
「では、早乙女さんこのシャーペンの芯を出してください。」
医者はそう言って乱馬にシャーペンを渡した。
カチカチ
乱馬は受け取るとすぐさま芯を出した。
「それじゃあ一+一は?」
「二です。」
そういった質問を何度かして、あかねに向かって言った。
「普通に生活しても大丈夫です。体調の様子から見ても明日には学校にも行けるでしょ。そこで様子を見てください。」
こうして診察は終わった。
病院から帰る途中。
「乱馬、ごめんね。」
「なんですかいきなり。」
いきなりのあかねの言葉に乱馬は驚いた。
「ごめんね、ごめねんね。」
あかねは言葉を繰り返す。
「別にいいんですよ。そんなに自分を責めないでぐださい。」
乱馬はやさしく慰める。
あかねにはその乱馬のやさしさがとてつもなく痛く感じられた。

つづく



あとがき。
はじめまして、今回初めて小説を送らしてもらいました、ペンネームのほほんです。
これは私が生まれて初めて書いたものです。
ときどき変な所があってもあまり深くつっこまないで下さい。
ところでこの小説の題名がなんで「のたこけ」なのかを説明させてもらいます。
「のたこけ」ならびかえると「たけのこ」なんです。
この話の中で重要?な物の一つです。
また、乱馬くんの記憶喪失と関係が深いです。
まだまだ続くと思いますんで完成するまで見守ってください。



一之瀬けいこのコメント
長編作品ですね・・・こういう展開はドキドキしますね(^^)
続きが早く読みたいですね・・・
ところで、乱馬くんが迷ったのは「生駒付近」の山なんでしょうか?・・・良牙くん奈良のお土産持ってたみたいだし・・・
私が現在住んでいる奈良県生駒市は茶道具の「茶筅」の名の知れた産地です。竹細工でもある茶筅の殆どは生駒市の北部の高山というところで作られています。従って竹林も結構あります・・・。
生駒山って大阪の東に位置するんで、役の行者ともゆかりが深い古くから霊場だったようですし・・・妖しげなたけのこが生えて居そう・・・


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