のたこけ #3

十四

月曜日の午前6時30分。
天道家の朝は早い。
「おはよー。かすみお姉ちゃん。おばさま。」
「おはよう。あかねちゃん。ご飯もう少しで出来るから、乱馬君たちを起こしてきて。」
いつものように挨拶をかわす。
いつもと変わらない朝。
いつも乱馬を起こすのはあかねの役目になっている。
(これで、乱馬が記憶喪失だっていうことがなければいいのに・・・。)


ふと、そんなことを思ってしまう。

今の乱馬は、別に嫌じゃない。

だけど、なんとなく寂しい。

いつもの悪態が聞けないと、いつもの乱馬のふてくされた顔が見れないと、気持ちが暗い方へと向かっていく。


(また暗い方に向かっていっちゃう。元気にならないと・・・・・。)
階段を上り、二階の乱馬の部屋ふすまを開けて、
「乱馬!!起きなさい!遅刻するわよ!」


自分でもわかっているほどのやせ我慢。

けれども、自分の性格がそうさせてしまう。

どうしようもない、自分でもそう思う。


「う〜ん。もう少し・・・。」
乱馬が、夢うつつの状態でつぶやいた言葉にあかねの考えは打ち消された。
「もう少しじゃない!さっさと起きてよ!」
(そうだ、今は乱馬を起こさないと・・・。)
「わかりましたー。今起きますよぅ。」
まだ眠そうな顔であかねを見上げた。
そして横で寝ている玄馬(パンダ)に視線をむけながら、
「父さん、朝ですよ。起きてください。」
と、呼びかけた。
玄馬は寝返りを打って近くに置いてあったプラカードを取り出した。
『あと五分・・・・・。』
「だめですよ。起きてください、朝ご飯食べないんですか?」
乱馬が『朝ご飯』といった瞬間に起き上がり、
『なに!?飯か!?』
と、書いたプラカードを持ち上げた。
そしてさっさと、しかも小躍りしながら下に下りていった。
「・・・・・。」
(おじさま、情けないわ・・・。)
(父さん、情けない・・・。)
玄馬の様子を見つつ、あきれかえってしまう2人だった。

十五

「おはようございます。」
乱馬とあかねが一緒に居間に来た。
居間には全員がそろっていた。
乱馬はその中にいる八宝斉が顔に包帯を巻いているのが少し気になったが、とりあえず自分の席らしい場所に座った。
『いただきまーす』
全員がいっせいにご飯を食べ始めた。
「おいしいですねー。」
乱馬がまるでかすみのような言い方をする。
「ありがとう、乱馬君。」
かすみ特有の、のんびりした声で乱馬のつぶやきにお礼を言った。
食卓はなごやかなふいんきに包まれていた。
乱馬が大人しいんでいつもの『パンダVSおさげの少女食べ物乱捕り合戦』(なびきが名付けた。)はなかった。
玄馬も、あまりに大人しいんで、ちょっかいを出す気にはならなかったようだ。
(乱馬君、まるでかすみ姉ちゃんを少し混ぜたような感じねー。でも、女の子にならないんじゃ金儲けなかなかできないし・・・。―そうだ!)
乱馬を見ていたなびきが少し薄っすら笑ったことには誰も気がつかなかった。
ここから自称『金の奴隷』なびきの本領が発揮されるのである。
ついでなので、ここで少し八宝斉が包帯に巻かれている理由を説明しよう。

今からだいたい5時間前。
乱馬が変身しないことを知った八宝斉は、つまらなさそうな顔で天道家に帰ってきた。
「らんまちゃんに会えないなんてつまんないのう。」
ふと、上を見ると窓が開いている部屋を見つけた。
そこはあかねの部屋だった。
八宝斉の顔が不気味に笑い始めた。
「あそこはあかねちゃんの部屋・・・。丁度いいことに窓も開いてあるわい、好都合じゃ。」
エロ妖怪不良じじい・八宝斉はスケベな闘気を発散しながらゆっくりとあかねの部屋に近づいていった。
この時の八宝斉が街中を歩いているとするとすべての人が避けていくだろう。
それぐらい不気味なのだ。
「げへへへへへへ・・・・・。」
もう目の前にはあかねの部屋が待っている。
当のあかねは超スケベ闘気が自分を狙っていることにすでに気が付いていた。
Pちゃん、もとい良牙も気付いている。
(あかねさんは俺が守る!)
鼻息を荒らして威嚇するように窓を見ている。
あかねは近くにあった木刀を握り布団に潜って八宝斉の様子をうかがっている。
(きっとおじいちゃんだわ。捕まえてすまきにして川に叩き込んでやる!)
かなり物騒な事である。
トンッ
八宝斉が窓から入ってきた。
「げへへ。あかねちゃんお待たせ〜。」
スケベな本能丸出しの顔であかねに近づいている。
そして、
「あっかねちゃ〜ん☆」
あかねに飛びつこうとした
が、
ベットから黒い塊が飛び出してきた。
「ぶぎーっ!!!」
もちろん良牙である。
バンッ!
良牙の体当たりを受けて八宝斉は壁に叩きつけられた。
「なにすんじゃい!」
八宝斉がそう言った瞬間、
バキャッ!!!
脳天にあかねの木刀を受けた。
続けざまに良牙のひづめ攻撃に、あかねの連続切り。
さすがの八宝斉も打ち身・捻挫数知れず、顔面流血一歩手前までいっている。
そして最後の一発で吹っ飛んで行った。
キラリーン☆
これでこの作品中、三回目である。
「ちょっとやりすぎたかしら?」
と、思いつつまた再び眠りについた。
その後八宝斉は自分の部屋に行き手当てをして死んだように寝た。

さて、話を戻そう。
朝御飯が食べ終わった頃。
そろそろ学校に行かなくてはいけない時間になった。
「乱馬、学校に行くよ。」
あかねが鞄を持って乱馬を呼んだ。
「はーい。」
二階から乱馬の声が聞こえて来た。
(何やっているのかしら、乱馬ったら。)
階段の方を見ると丁度降りてきた乱馬を見て驚いた。
なにしろ乱馬が着ているのはいつものチャイナ服ではなく、
学校の制服だったのだから。
「どうしました?あかねさん。」
驚きすぎて固まっているあかねの顔の前で手を上下にひらひらさせた。
当の乱馬はこれがいつもの格好だと思っているのであかねが固まっている理由がわからなかった。
乱馬に呼びかけられて我に帰ったあかねが時計を見て、
「いっけなーい、遅刻しちゃう!乱馬急いで!」
と大慌てで家を飛び出した。
乱馬も慌ててあかねの後を追った。
普段鍛えている乱馬だ。
あかねに追いつき、走りながら話すのは造作も無かった。
「あかねさん。昨日も聞きましたけど、俺が行く風林館高校ってどんなとこなんですか?」
もっともな質問だろう。
「変な学校よ。校長はハワイかぶれの変態。先輩にも変な人がいるし、おかげでこないだ校舎の一部が壊れたわ。」
「よくそんなところに通っていられますね。」
普通の神経を持つ人なら絶対言う言葉である。
「なれちゃったわよ、それに乱馬だって通っていたし。」
「ふーん。」
納得するようなところじゃないけどとりあえず納得した。
「あ、乱馬。」
「なんですか?」
まだ走りつつもあかねが真剣な顔で、
「校長や九能先輩っていう人や他の人の口車に乗っちゃだめよ。」
「わかりました。気よつけます。」
真剣なあかねにただ事ではないと感づいたのか乱馬も真剣な顔になった。
途中、九能やシャンプーの妨害(?)もなくすぐに学校が見えてきた。
しかし、ここで九能がくるのはお約束。
「早乙女乱馬!覚悟ー!!」
木刀を振りかざしながら九能が真正面から来た。
「だれです?あの人。」
「九能先輩。学校一の変体生徒よ。」
「ふーん、あの人が。」
時間が無いのでまだ走りながらも話を続ける。
「いざいざいざ!!」
九能があかねの間合いに入った瞬間。
ドッカーン!!
キラン☆
あかねに吹き飛ばされ、あわれ星になってしまった。
「・・・いつもこんなことを?」
ちょっと健康的ではない汗をかきつつあかねに聞くと、
「普段はあんたがやっていることよ。ま、あたしもたまにやるけど。」
こんな返事が返ってきたので乱馬はさらに健康的でない汗をかいた。
(俺って、乱暴な奴だったのかな・・・。)
自分の事に悩みつつ校舎の中に入っていた。

十六

キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。
1年F組。
「セーフ!」
さゆりが駆け寄ってきた。
「間にあったわね、あかね。まだ来てないよ先生。」
「あれー?!」
さゆりと一緒に駆け寄ってきたゆかが乱馬の姿を見て驚きの声をあげた。
「乱馬君が制服着てるー。」
「ほんとだ。めずらしい。」
ゆかの指摘を聞いてさゆりも気がついた。
「お、乱馬。久しぶりじゃねーか。」
ひろしが来た。
「乱馬。お前が制服着るなんて初めて見たぞ。」
大介も来た。
「誰です?この人たち。」
乱馬があかねに耳うちをした。
「右から、さゆり・ゆか・ひろし君・大介君よ。あたしとあんたの友達。」
「おいおい、二人してなに内緒話してるんだよ。愛の囁きか?」
大介が二人を見てからかってくる。
「な、何でそうなるのよ。」
あかねが真っ赤になって反論する。
ニタニタと笑ってあかねたちを見たが、乱馬は何がなんたかわからない顔をしていた。
「おい、乱馬。お前なんか悪いもんでも食ったか?」
ひろしが眉をかしめながら乱馬を見たが、大介はと言うと
「きっと珍しく照れてるんだぜ、二人っきりにしてやろう。」
「はは〜なるほど、そうかそうか。ゆか、さゆり行こうぜ。」
そうひろしに言い。
二人で勝手に納得してゆかとさゆりを引き連れていった。
「なんなんでしょう?」
乱馬はさらに疑問をおもう。
「さあ?」
あかねもよく解らないといった感じだ。
「はいはいはい。よいこのみなさーん、おはようございまーす。」
担任の二宮ひなこが来た。
「乱馬、先に座っといて。あそこがあたしの机だからその隣の席よ。」
そう言ってあかねはひなこに駆け寄った。
「先生、ちょっと・・・。」
「なあに、天道さん。」
「少し話さなければいけないことなんですが廊下に出てくれませんか?」
「わかったわ、みなさーんちょっと待っててねー!」
ひなこはそう言ってあかねと共に廊下に出た。
「乱馬、おまえまた何かやらかしたのか?」
駆け寄ってきた男子二人。
もちろん、さっきのひろしと大介だ。
「いや、なにも・・・。」
これは本当だ。
乱馬はあかねが自分の記憶喪失について知らせに行ったことはわかる。
だけど何もしていないのは確かだ。
どもりながら返事をしようとしたら珍しく真剣な顔をしたひなことあかねが入ってきた。
慌てて二人が自分の席に戻っていく。
珍しく真剣な顔のひなこに教室中は静まり返った。
「先生も今天道さんに聞いたところなんですが、みなさんにお知らせしなければならないことがあります・・・。」
教室中が不安に満ち溢れている。
「早乙女君が、記憶喪失になったそうです。みなさん、いろいろわからないことがあるのと思うので教えてあげてください。」
乱馬が記憶喪失。
そうひなこが言った瞬間クラス中が騒いだ。
「それでは、HR(ホームルーム)を始めます。」
「起立、礼、着席。」
こうして、乱馬の長い一日が始まった。

一方その頃、別の所である陰謀が渦巻いていた。

2年E組。
「ねえ、九能ちゃん。面白い情報があるんだけど、6千円で買わない?あかねとおさげの女の写真付きで。」
なびきとなぜか制服を着ずに道着を着ている九能が話をしている。
なびきの商売である。
「何だ天道なびき。」
ちょっと九能は興味を持っているようだ。
と、言ってもあかねとおさげの女の写真付きに惹かれたのだか・・・。
「6千円。」
つきだされているなびきの手を見てしぶしぶ6千円払う九能。
「まいど〜♪」
手早く懐に入れるなびき。
そして、写真を取り出し九能に渡す。
いそいそと受け取る九能。
「で、なんなのだ、その面白い情報というのは?」
話が本題に移った。
「実はね・・・。乱馬君の事だけど、」
自然と小声になる。
「早乙女がどうかしたのか?」
もったいぶるなびきに九能が迫る。
「実は、乱馬君記憶喪失になったのよ。」
「なにー!!早乙女が記憶喪失ぅ〜!!」
大声で叫ぶ九能。
「そ、修行から帰ってきたらそうなっていたのよね。」
なびきは続けて言うが九能はまるで聞いちゃいない。
己の道をまっしぐらに走っている。
(早乙女が記憶喪失・・・。と言うことは邪魔者が消えて天道あかねとおさげの女は自然と僕のものに・・・。)
よだれをたらしながら妄想に浸っている九能。
さすがは風林館高校一の変態野郎である。
その頃には担任がすでに来ていたが、妄想に浸っている九能に恐れて注意も出来なかった。

十七

最初の授業が終った。
だが、乱馬はなぜか背筋が凍るような感覚を感じていた。
授業中ずっとだ。
(何だろう、この感じ。なんかものすっごく嫌な予感がする。)
そんな乱馬の様子を気にせずクラスメイトが集まってきた。
「乱馬、お前記憶喪失だって本当なのか?」
ひろしが言う。
「はあ、そうらしいです。」
あいまいに答える乱馬。
「げ、乱馬が敬語を使ってやがる。本当みたいだな。」
大介が言う。
「何かわからないことがあったら私たちに言うんだよ」
さゆりとゆかも来た。
そんなとき、ますます嫌な予感は強まった。
嫌な予感は的中した。
「天道あかね入るか!!」
九能が来た。
「なんのようですか先輩・・・。」
明らかに嫌そうな顔であかねが出てくる。
「おお、天道あかね邪魔者は消えた。これからは二人で愛の歴史を築こうではないか!!」
と言って、花束を渡す。
「結構です!」
きっぱりと断わるあかね。
「ははは、照れる事はない邪魔者は居ないんだから。」
きっぱりと断わられているのに照れ隠しと思っている九能。
乱馬は静かに立ち上がり二人の元へ歩み寄った。
クラスメイトは興味心身で見ている。
「いい加減止めたらどうですか。あかねさん嫌がってますよ。」
九能を睨みつける乱馬。
「ふん。早乙女か、貴様はもう口をはさむ権利はない。」
睨み返す九能。
「ありますよ。俺はあかねさんの許婚なんですから。」
「なに!?」
乱馬の言葉に驚く九能。
(どういうことだ。早乙女が記憶喪失になったと言う事は婚約解消なはず・・・。)
つまり九能は乱馬が記憶喪失になったので婚約解消だと思ったみたいだ。
もちろんなびきはそんなこと一言も言っちゃいない。
九能の勝手な思い込みである。
「よおし、早乙女。あかね君をかけて勝負だ!」
九能が高らかに宣言する。
「今日の放課後、三時四十五分第二グランドで待つ、風林館こうこうのの青い雷。九能たてわき、十七歳。」
そしてドアまで歩き振り返って、
「逃げてもかまわんが、そのときは天道あかねは頂く。あかね君勝負が終わったら君に熱き口づけを・・・。」
「要りません!!」
と言ってあかねに断わられた。
九能は気にせず、高笑いをしながら自分の教室に向かった。
乱馬は呆然としていた。
「何なんだあの人は・・・。」




あとがき

どうも、のほほんです。
のたこけようやく三弾目です。
かなり時間がかかってしまいました。
意外と小説って書きにくく扱いづらいですね。
・・・言い訳ですね、はい。
すみませんこんな作者で・・・。
では、気分を取り直して。
今回は風林館高校を舞台にしました。
何だか微妙なところで終わっていますが、次でようやく重要部分に入ろうと思っています。
もしかしたらさらに次になってしまうかも知れませんが、気にせず笑って許して下さい。
作者は真面目な乱馬君とあかねちゃんを精一杯書こうと思っていますんでこれからもよろしくお願いします。
あと、こんなに長く時間がかかってすみませんでした。

お忙しい中ありがとうございます!
待ってたんですよ・・・ずっと(笑・・・待っていて良かった!
嬉しいなあ・・・続き読めて(るんるん
こちらこそお待ちしています!!

(c)2003 Jyusendo