◇風の記憶  〜聖女の悲嘆〜

珈琲屋さんさま作


序章  風渡るもの


「ルーク!また遊びに来たよー。今日もお話聞かせてー。」
 勢いよく開かれたドアから聞こえてきたのはこの町に住むレイドと言う少年の声だ。
 かなり大きな声だったのでこの部屋に宿をとっているルークに聞こえなかったはずはないのだが、レイドが待ってもいっこうに返事は返ってこない。
「あれ〜、ルークいないの?お出かけしてるのかな。」
 もしレイドが言うように出かけているのなら用心の悪いことだ。
 レイドは勝手にあちこち探し回ってようやくルークを見つけたとき、ルークはベッドで寝ていた。
ルークを起こすべくレイドはベッドに静かに近づく。そして、
 
   ワァーーッ!!!

「うわっ!?、なに?なに?地底人の襲来?」
 レイドの声で起きたのはルークではなく布団に隠れて見えてなかった妖精のシロップだ。
 シロップは慌てて起きると混乱したように辺りを飛んでいたがレイドの姿を見つけるとすべてを察した。
「もう!レイドッたらもっと穏やかな起こし方出来ないの?ショック死したらどーするのよ。バカ!」
「うぅ、ごめんよ〜。僕、はやくルークやシロップのお話聞きたくてさ〜。」
 シロップにおこられたレイドが今にも泣きそうな表情になっているのをみて、シロップは慌ててなだめる。
「ああ、ごめん。泣かないでレイドは強い子なんだから。すぐにルーク起こしてあげるから。」
「うん!」
 すぐに機嫌のなおったレイドを見ながら、ルークを起こすために声をかける。
 体のサイズが小さいシロップはルークの耳に顔を持って行くと呼びかける。
「マスター、起きてください。レイドが待ってますよ。」
「ンン、あ〜もう朝ですか?」
 レイドが叫んでも起きなかったルークはシロップが耳元で囁いただけで簡単に起きた。
「もうお昼だよ〜、ルーク。今日もお話聞かせてくれるって言ったじゃん。」
「おや、レイド。おはよう。子供は朝が早いですね。」
「だから、もうお昼ですってば。マスターったらまだ寝ぼけてるんですか?」
 シロップのつっこみは的確だった。
 ルークは身支度を整えると愛用の竪琴を持って椅子に座る。
「今日はお姉さんはいないんですか?」
「うん、姉ちゃん用事があるって。」
 レイドには8歳も年の離れた姉がいて、町でも仲の良い姉弟だと評判だった。
「そうですか、残念ですね。じゃあ、今日はなんの話にしますか?」
「勇者の話がいい!!」
 もう、10歳になるレイドが入り浸ってしまうほどルークの話は魅力的だった。
「分かりました。シロップ準備は出来ましたか?」
「あ!あった!あった!準備オッケー!」
 さっきまで必死で自分のフルートを探していたシロップは疲れも見せることなく飛び回る。
「「それでは物語のはじまりはじまり〜」」
 シロップの陽気なフルートの演奏で物語は始まった。


 赤い夕日が宿屋の窓から射し込んでいた。
 ルークはシロップには内緒で買った少し高級な紅茶を飲みながら、遊び疲れて眠ってしまった二人の寝顔を見て微笑んでいる。
「平和ですね。」
 竪琴の手入れをしながら自分がこれまで見てきた世界を思い浮かべる。
 神族と魔族が争っていた世界、混沌の海に呑み込まれた世界、精霊の世界、多くの世界を見てきた彼にとってこの世界が一番心地よく感じた。
「ずいぶんとこの世界が気に入ってるようだね。」
 ルーク以外は寝てしまっているはずの部屋から男の声がする。
 しかし、ルークは特に驚くことなく声に答える。
「ああ、とても好きですよ。ここの人はとても親切なんです、この前だって、果物屋のおばさんがりんごをたくさんくれたんですよ。」
「フーン、ちゃんとお礼は言った?そうよかった。」
 姿の無いものと話すルークは、はたから見ればただの変人だ。
「どうせならちゃんと顔を見せてください、このままだと僕が変人みたいだそうです。」
「いいよ。」
 声の主が返事をするとルークの影が突如盛り上がり人の形を作ると瞬く間に完全な人になる。
「こんばんは、いつ見てもおぞましい現れ方ですね。あなたの名前が泣きますよ、アブデル。」
 アブデルと呼ばれた青年は別段気を悪くした感じもなくおしゃべりを楽しんでいる。
「たしか、どこかの世界の最高位の天使か何かの名前だったかな?名前なんて気にしないよ。」
「ところで、今日はなんのようです?」
「別に、顔を見たくなっただけさ、ほんとはもう少しおしゃべりを楽しもうと思ったんだけどお客さんが来たみたいだから、帰るね。」
「ああ、また来てください。そのときはお茶でも出すよ。」
「たのしみにしてるよ。」
 言い終わるのがさきだったか分からないほどにアブデルは赤く染まった大気に染み込むように消えてしまった。
 それとほぼ同時に、

コンッ、コンッ

 控えめなノックが部屋に響く。
「どうぞ、入ってきてください。」
「お邪魔します、ルークさん。」
 入ってきたのはレイドの姉のケイトだ。
「ごめんなさい、いつもレイドが押しかけちゃって。」
「いいんですよ、僕達もにぎやかなほうが楽しいですよ。」
 二人で仲良く寝ているレイドとシロップを見つめて微笑むルークの姿はとても優し気だった。
 その笑顔があまりにもきれいだったのでケイトは見とれてしまった。
「僕の顔に何かついてますか?」
「えっ、いえ、別に。それにしても良く寝ちゃってますね。」
 自分が見つめてしまっていたことに気づいたケイトは慌てて視線をはずす。
「僕がおぶりましょうか?」
「いいですよ。そんな悪いです。」
 弟が家に押しかけた上におんぶまでさせるようなことは出来ない。
 寝てしまっているレイドをおんぶするとケイトは出ていこうとする。
「ケイトさん、今日の夜ここに来ませんか?とっておきの話があるんです。」
「はい。」
 ルークの誘いに頬を朱に染ながらケイトはレイドをおぶって部屋を出ていった。
「さて、竪琴の手入れでもしましょうか。」
 窓の外は少しずつ夜の支配を強めていった。


コン、コンッ

 夕方と同じように控えめなノックが部屋に響く。
「ケイトが来たみたいだよ。」
 シロップがルークの肩に止まりながら耳元で囁く。
「どうぞ。」
「お邪魔します。」
 静かに戸をあけるとケイトは軽く挨拶をすませ、ルークの横に座る。
「今日はどんな話を聞かせてくれるんですか?」
「そうですね。今日はこことは違う世界のお話をしましょう。」
「違う世界?」
 ケイトは信じられないといった表情でルークを見返す。
「そうです、違う世界です。僕は『風を渡るもの』多くの世界を知ることができるんです。」
「素敵ですね。私もいつかあなたとそんな旅がしたいです。」
 夜は女性に力を与える。普段ならこんなこと言えないだろうが夜の女王は彼女の見方のようだ。
「今宵は私の話で我慢してください。それではこことは違う世界が奏でる詩の世界をごゆるりとお楽しみください。」
 シロップのフルートとルークの竪琴が奏でる曲はこことは違うというどこかの世界を慈しむような響きを持っていた。





第1章 希望に集う者達


  死を恐れぬものよ、汝の心に在るは武神の御魂と闘いへの渇望なり。
  しかし、儚げなれど優しき光と迎合するとき、汝の心に芽生えるは優しさと死への恐れなり。
  いかなる恐怖に苛まれようとも、汝忘れるなかれ、汝の隣には優しき微笑があることを――。


 眼下を見渡せば、紅い鎧の歩兵が敗走している。それを追撃する白銀の鎧の歩兵。戦いは終始、白銀の鎧を着込んだ共和国軍の優勢が続いていた。
 ガルマフォード皇国領鉱山都市ニーヅの北西200キロに位置するこの平原で戦闘が始まったのは約一時間前、共和国軍の奇襲から始まった。
 まず、魔道士達がニーヅ周辺の皇国軍通信施設を強襲。狼狽した皇国軍が奇襲に対応しようと立ちあがったところに、
 南と西から、共和国軍でも悪名高い第十三重歩兵団および第十三魔道騎士団が同時侵攻した。
 もともと国境守備兵しか配備されていなかった上に、通信網の寸断で指揮系統が麻痺している皇国軍国境守備団に勝ち目は無かった。

「おいおい、もっと気合入れて戦えよ。この戦況を覆すのはかなり骨が折れるぜ。」
 乱馬は皇国軍の醜態にため息を漏らすことしか出来なかった。彼の今回の任務は共和国軍を撤退に追い込むことだ。
「まあ、そう言うな、乱馬。彼らとて自分の命が惜しいのだ。貴様とて死は恐ろしかろう?」
 いきり立つ乱馬をなだめるのは父の玄馬の仕事のうちのひとつだった。だが今回は息子をなだめるどころか更にいきり立たせる結果になってしまった。
「けっ、死ぬことなんざ恐くねぇ!」
「ふん、強がりを言いおって!」
「・・ッ!んだと、てめぇ!」
「親子喧嘩はそのへんにしとけって。はやくしねぇと戦況はますます不利になっちまうぜ。」
 眼下で行われている戦闘と反比例してヒートアップする兆しを見せている親子喧嘩の仲裁に入ったのは一人のワーウルフだった。
 彼の名前はゲイル、戦火に故郷を追われ一族を率いてこの部隊に入隊した若長であり前線での最高責任者である。
「分かったよ、ゲイルさん、俺の方は準備できてるから。いつでも出陣できるよ。」
 乱馬はゲイルのことを尊敬していた。元来、戦闘能力の高いワーウルフだが、ゲイルは強さだけでなく武人としての心を持ち合わせていた。
「よし!刹那、でくのぼう供の準備は出来たか?」
「はい、すべてのロック解除。システム ALLGREEN!いつでも出陣できます。」
 慣れた手つきで魔導機具を扱う少女は結城刹那この部隊の誘導を一挙に引き受けるオペレーターだ。
「ようし!野郎ども、作戦はいつも通りだが俺達は頭がわりぃから、もっかい刹那に説明してもらうからな。よく聞け!!」
ワーウルフは知能的に人より劣っているわけではないが、頭が悪いと一般的に言われているのは彼らの血の気の多さが原因だろう。
 ゲイルの皮肉混じりの叫びに他のワーウルフたちがいっせいに笑い出す。
「それでは今回の作戦の説明に入ります。この鉱山都市を落とされると皇国と共和国のミリタリーバランスが大きく共和国側に傾いて・・・」
「んなことはいいから、早く作戦のこと言ってくれよ。」
 戦略や政治に対してとんちんかんな乱馬(やワーウルフの皆様方とでくのぼう供)は頭から煙を出している。
「・・・分かりました。それでは、作戦内容に移ります。まず、玄馬殿率いる魔道部隊による一斉攻撃の後、乱馬殿とゲイル殿率いるワーウルフ突撃兵がいっきに敵戦列を蹂躙した後、
 アブデル博士が造った自動化歩兵と突撃兵の皆様方で各個撃破に移っていただきます。敵が撤退を始めましたら、ある程度追撃して作戦領域を離脱してください。そこでアブデル博士が皆様の回収をしてくださいます。」
 刹那は説明し終わると軽く敬礼し後ろに下がる。
「ヨッシャ―ッ!!行くぜ!野郎供!!いいか!一人も死ぬんじゃねぇぞッッ!!」

 オオーッッ!!!

 部隊全員が一気に咆哮を上げる中、乱馬は玄馬に引きとめられた。
「乱馬!」
「なんだよ、親父?」
「死ぬんじゃないぞ。」
「けっ、こんなとこで死ぬほど弱くねぇよ。親父こそ魔力の使いすぎでぶったおれんなよ。」
「ふん、相変わらず、口の減らん息子だ。」
「よし、行け。一人でも多く敵を倒して来い。」
その一言を残すと玄馬は部下と供に広範囲支援用爆裂魔法『ムスペルヘイム』の呪文を唱える。
「よう、親父とは仲直りできたか?じゃ、俺達も行くぜ。」
「ええ、はい。」
「そっか、死ぬなよ。おまえはもっと強くなれるからな。絶対死ぬんじゃね―ぞ。」
ゲイルは全身あふれんばかりの闘気で満ち溢れていたがその瞳だけは遠い過去を見ているように乱馬には見えた。
「皆さん、出陣準備に入ってください。支援魔法が完成しました。」
「ぅてーッ!!」
玄馬の号令とともに無数の煉獄の槍が敵陣に向け放たれるのと同時にゲイルと乱馬が率いる突撃部隊も地響きを起てながら猛進し血に染まった草原を更に紅く染めた。



 ガルマフォード皇国とウィルミナ―ド共和国、この二国間の戦争が勃発してからすでに十年の月日が経った。
 近隣諸国を巻き込み拡大しつづける戦禍によって多くの血が流され、世界を紅に染め上げた。
 戦禍から逃れるべく中立の立場をとった国もあった。その筆頭とも言えるのが商業国家エルラーン、この国は公言的には一切の武力を持たないと定めている。
 しかし、多くの国は脅えていた、もしどちらかがこの戦争に勝てば更なる富を求めて中立国家までもが征服されるのではないかとそれは商業国家エルラーンとて同じだった。
 戦略魔方陣の使用禁止条約が結ばれてからの戦いは原始的なものだと言えた。
 鳩は必殺の一撃となる爪や嘴を持たぬが故に戦いの後の姿は凄惨なものになると言うがこの戦いがどうして違うといえよう。
 なぜ憎しみ合うのか、なぜ戦わねばならぬのか、人々はそんなことを考える暇さえ与えられず、戦禍に巻き込まれ、悲しみの剣を振るいてまた新たな悲しみをうむ。
 もはや、悲しみの連鎖を断ち切ることは出来ないのか、人々は絶望の中に幽かな光を見て日々を過ごしていくのだった。

「鉱山都市ニーヅ陥落阻止には成功いたしました。共和国軍を同名軍前線基地まで撤退させることが出来ました。」
 いささか抑揚を欠いた声とともに薄闇に浮かび上がった草原は多くの兵士の亡骸と吐息された軍需物資の山だ。
「わが部隊の被害状況は自動化歩兵、大破3、中破12、小破20およびワーウルフ突撃部隊の戦士には東風衛生官率いる医師団のおかげで死者はおりません。
 しかし、負傷者の数は重傷者五人、中軽傷者十五人となっております。死者が出なかったのは幸いですが、わが部隊もかなりの痛手を被ったと言えるでしょう。」
「しかし、今回の作戦にはこの被害に見合うだけの価値があったと思うが鎮君、君の意見を聞かせてほしい。」
 鍛えぬかれた鋼にも似た声と同時に草原を映していたホログラムは消え、闇はにわかに光に満ちた。
 商業国家エルラーン首都ホーリィ、総理官邸内、特別執務室。
 窓の無い部屋に居るのはたった二人の男だった。内閣総理大臣、関谷夏樹と内閣官房長官、関谷鎮。
 商業国家エルラーンを護る国家のツートップだ。
「今回の戦闘によって我が部隊は確かにかなりの痛手を負った。しかし、このまま我々が引き下がれば経済地盤が弱ってきている皇国はいっきに共和国軍に攻め込まれる恐れがある。そうなれば勢いづいた共和国は中立国家まで一気に攻め落としに来るだろう。そんな事態だけは避けねばならん。」
 そう言って思慮深く目を細めたのは関谷夏樹だ。
 総理大臣に就任してからかなりの高支持率を保ち続けているのは彼の政治的手腕が八割あとの二割はその容姿の端麗さにあるだろう。
 40を過ぎてもその衰えぬ精気が満ち溢れた瞳はスーツよりも軍服の方が似合うだろう。
「このまま部隊を運営していくべきと私は考えるが?」
「お待ちください、総理。」
 烈しくはないが確かな意志のこもった言葉をさえぎったのはやはり抑陽を欠いた声だった
「確かに総理の意見は正しい、ですが問題はそれだけではないのです。実は我が特殊部隊の存在が公になりそうなのです。これまでなんとか隠蔽してきましたが、そろそろ情報操作にも限界があります。」
 総理に反問したのは生真面目に服を着せたような男だ。年のころは20代半ばといったところだろう、モノクルのしたの表情はどこか幸薄げな印象を持たせた。
 確かに中立国家として一切の武装を解除したことになっているエルラーンにとって特殊部隊の存在が公になることは国家を崩壊させることになり兼ねない。
 もし、存在が公になろうものなら、皇国、共和国が競って糾弾し武力侵攻に踏み切るだろう。そうなれば、エルラーンは血の海へと姿を変えるだろう。
「仕方ない、部隊には休暇を与える。早乙女親子、結城刹那、小野東風、ゲイル以外の戦士たちは存分に休ませてやれ。」
「それがよろしいかと。それから天道親子をこちらに招いてあります。これから、いっしょに行動することになるでしょうから彼らと合わせておきましょう。」
「そうだな。ファーストコンタクトは大切なものだ。私も立ち合おう。」
「それでは30分後に大広間の方においでください。私はそれまで天道親子に事情を説明しておきます。」
 そう言って、部屋を出ていこうとする鎮を夏樹が止めた。
「鎮君、もし、君が遙のことを忘れたいと言うのなら、無理に付き合う必要は無いんだよ。君は君の道を行きなさい。」
 夏樹の瞳は遠い過去にいる愛娘を見ていた。
「私は決めたんです、あの時、遙の亡骸の前で彼女が望んだ平和な世界を創ると。これは私の意志です。」
 決意を確かめるように言う鎮の瞳も多くの想い出の中の彼女を見ていたのかもしれない。
「それでは30分後に。」
 今度こそ特別執務室を後にしながらテロリストに殺された婚約者を想う。
 選ぶことなく向けられていた優しい微笑み、誰にも負けない正義感と使命感を背負った彼女は主戦派勢力によって殺された。
「僕は君が好きだったこの国をこの地の人を守ってみせる。」
 決意を新たに天道親子が待つ広間に向け足を速めた。


 早乙女親子、結城刹那、小野東風、ゲイルは緊急召集を受け、総理官邸の3階と5階の間に作られた異空間会議室に集められていた。
「いってー、なんの騒ぎだよ。緊急召集なんて。」
 乱馬は待たされているという苛立ちからかなり機嫌が悪い。
「なんでも、新入りが入ると同時に俺たちに新しい任務が下されるらしい。玄馬さん何か知りませんか?」
「し、知らんよ。わしは何も知らん。」
 ゲイルに話を振られて、なぜか声がすこし上ずっている玄馬に疑念の眼差しが向けられる。
「親父なにか隠してんじゃねーだろうな。」
 乱馬が、ズイッと迫る。
「知らんというとろうに、今度新しく来る娘とおまえが許婚なんてこと、わしは知らん!」
「「なっ!!」」
 驚きのあまり固まる乱馬達。
「あっ!?言っちゃった。」
 いち早く硬直から立ち直った乱馬は玄馬に組みかかる。
「言っちゃった、じゃねーだろうが!?こら!どういうこった。」
「許婚ってたら、婚約者のことだろ。おめでたいことじゃねーか。よかったなぁ!乱馬。ハーッハッハ!!」
「乱馬殿も所帯持ちになるんですか。可愛い人だといいですね。」
「やあ、乱馬君死ねませんね。」
 乱馬がキレてる中、周りの人間はやたらと盛り上げる。

「仲良くやってるようだな。」
 突如響いた声に皆一瞬固まったが声の主を確認すると一斉に敬礼する。
「はっ、チームワークは最高であります。総理っ!?」
「うむ。君達も先の戦闘ご苦労だった。早速だが本題に入る。君達に新しい仲間が増えることになった。
 今度、入隊するのは玄馬殿とは旧知の仲だと言うことだそうだ。鎮君、入ってもらいなさい。」
 夏樹が呼ぶと部屋の中に三人の女性と一人のおっさんを連れた鎮が入ってきた。
「紹介しよう、次の任務から我が部隊に入隊することになった天道親子です。それぞれ自己紹介してください。」
 鎮に促されおっさんから自己紹介を始める。
「これから、お世話になります。天道早雲です。右から・・・」
「長女のかすみです。衛生官としてこちらに配備されることになりました。よろしくお願いします。
「次女のなびきよ。事務官としてこれから頑張るからよろしく。なんでも経費で落とせると思ったら大間違いよ。」
「末女のあかねです。私は・・・」
 あかねが説明しようとすると夏樹から声がかかる。
「彼女についてはこれからの任務と絡めて後で説明しよう。それでは今度はこちらの番だな。私や鎮君のことはもう分かっているな。ではゲイル君から。」
「俺の名前はゲイル!今は人間の姿をしているがこう見えてもワーウルフだ。よろしく頼むぜ。」
 人間の時のゲイルは獣化中の姿とは違い漢臭い感じはするが美青年と言っていい雰囲気だ。
「私の名前は刹那です。オペレーターを務めています。」
「衛生官の小野東風です。よろしく、かすみさん。」
「こちらこそよろしくお願いします。東風先生。」
「早乙女玄馬です。天道君とは魔道学校からの仲で久しぶりに会えてうれしいよ。そしてこいつが・・・」
 玄馬が紹介するより早く、乱馬が自分から名乗る。
「乱馬、早乙女乱馬です。よろしくお願いします。」
 名乗った瞬間、あかねと視線があう。もしかして・・・
「お父さん、私じゃないと駄目?お姉ちゃん達でもいいんじゃないの?」
 じゃあ、やっぱり・・・
「乱馬、おまえの婚約者のあかね君だ。可愛い子じゃないか。この幸せ者が。」
「乱馬、可愛い子で良かったじゃないか!」
「乱馬殿、可愛いお嫁さんができて幸せですね。」
「乱馬君良かったねぇ。」
「あかね、見ての通りの好青年だ。父さん、嘘言ってなかっただろ?」
「あかね、仲良くしなさいね。あんまり乱暴すると嫌われちゃうわよ。」
「あかね〜、かっこいい旦那様ができて羨ましいわ。まっ、頑張ってね。」
 口々に勝手なことを言うみんなによって二人の怒りのボルテージは最高潮に達した。
「「うるさいっ!!」」
 見事にはもった二人の大音響の怒鳴り声に広間は騒然としたが、
「息もぴったりなようだな。」
「総理、ご祝儀いくら包みましょうか?」
 国家を支えるツートップが二人をおちょくっていた。
「俺は結婚なんてするつもりはねーからな。」
「私だって、お断りよ。」
 結局二人のファーストコンタクトはどちらかと言えば失敗になるだろう。
「遊びはここまでにしてくれ、これからの部隊運営について重要な話がある。鎮君。」
「ここからの話は真剣に聞いてください。」
 乱馬を始め、皆が真剣な顔になる。
「それでは説明を始めます。・・・」
「おやおや、僕のことを忘れないでほしいなぁ。」
 部屋に突如響き渡った声に天道親子は驚く。
「な、なに奴。」
 早雲は咄嗟に構えながら攻撃呪文を唱えるが鎮によって制止される。
「早雲さん、お待ちを。アブデル博士、姿をお見せください。」
「分かったよ。君の影を貸してもらうよ。」
 あかねたちには会話の意味がまったくわからないがすぐにそのおぞましい影の変化を見て悲鳴を上げることになる。
 鎮の影が突然意志を持ったかのように蠢き出すと盛りあがりながら人の形を作っていく。
 そして、それは瞬く間に皺だらけの白衣を着た軽薄さを隠そうともしない若者へと姿を変えた。
「やあ、君達が新入りさんだね。よろしく。」
 あかねは震えながら
「あなたはなんなの、魔道士?」
「彼の名前はアブデル。異界から来た『管理者』だ。この部隊は彼からもたらされた技術によって成り立っていると言っても過言ではない。
 自動化歩兵を見ただろう、あれは彼の技術によって戦場でできた死体を歩兵として活用しているものだ。」
 夏樹総理の説明に驚きのあまり忘れていた鎮の説明を思い出す。
「詳しいことは彼に直接聞いてください。これからの部隊運営についてですが、ここに集まった諸君以外には休暇を与えます。
 これからの部隊運営は主に戦闘から探索活動へと移行することになりました。」
「これから君達には多くの遺跡を探索してこの世界の『管理者』を探してもらう。そこであかね君の力が必要になる。」
「私の力ですか?」
「接触テレパス――人が休眠状態の『管理者』とコンタクトを取る唯一の方法、それを君のような子猫ちゃんが持ってるとは僕も驚きだねぇ。」
 あまりのも話が飛んでいて夏樹と鎮とアブデル以外の人間の頭の上には?マークが無数に浮かんでいる。
「つまり、あかねさんの能力を使って遺跡に引き篭ってる奴を叩き起してこの世界が平和になるように頼み込むと言うことです。分かりましたか?」
 鎮の説明によってなんとか理解したようだ。
「でも、どうして『管理者』が遺跡に眠っていると分かるの?」
「それは、遺跡というものがほんらいそういうために造られていたからだよ。太古の人は神託といった形で『管理者』からの助言を聞いていたんだよ。」
「なるほど。」
 なびきの質問はアブデルによって簡単に説明された。
「それでは部隊説明に入ります。まず、探索部隊に天道あかね、早乙女乱馬、ゲイル、結城刹那。国家防衛部隊として早乙女玄馬殿、天道早雲殿。
 天道なびきは私と共に作戦本部の指揮ならびにデスクワークを従事してもらいます。
 東風先生は天道かすみと共に現在の負傷者がある程度落ち着いたところで探索部隊に合流してもらいます。以上です。なにか質問は?」
 乱馬が挙手する。
「アブデルは行かないのか?おまえだって『管理者』なんだろ?」
「やだよ。めんどくさい、それに僕は他の『管理者』達に嫌われているからね。」
 おそらく本当の理由は前者だろう。
「それでは他に質問は無いな。出発は10日後だ、今のうちにゆっくり休んでおけ。以上解散。」
そして皆それぞれの思いを胸に会議室から出て行く。
 こうして刻の歯車は動き出した。その歯車を止めれるものはいない。たとえ、それが神であろうとも。





つづく




作者さまより

いや〜、書き出しちゃいました。珈琲屋さんの新メニュー・パラレル作品!!
いかがでしたでしょうか?今回はほとんど説明的な文章になっていてうだうだと長ったらしくなりましたが次回からはもっとすっきりした文章になります。
いや〜(君は話の書き出しに「いや〜」が多いな。)吟遊詩人の語りから始まる雰囲気一度やってみたかったんですよ。
(ちょっとだけ、シャイニング・ティアーズというゲームの雰囲気を出してみました。)
実はこの作品、僕がオリジナル小説として妄想していたものの書きれず断念したものをパラレルとして復活させたものなのです。
だから以上にオリキャラが多くて大変困ったちゃんな状況にあります。しかし彼らをまとめていくのがまた楽しいんですよ。
かなりの暴れ馬ですが個性あふれるキャラクター達と楽しんで良い作品にしたいです。
【このあと、右京とシャンプーもちゃんと出てきますのでファンの方は期待してくださいませ。】


そこでこの場を借りて登場人物説明と僕が独断と偏見で決めたキャラにあてる声優さんを勝手に決めさせていただきます。
(もし、そんなイメージじゃないと言う方は無視してください。)

早乙女乱馬・・・この作品の主人公。性格は原作と同じ。戦闘能力はきわめて高し。あかねの許婚。
【山口勝平様】
天道あかね・・・この作品のヒロイン。性格は原作と同じ。接触テレパスを使えるこの作品の鍵。
【日高のり子様】 魔法と格闘術が得意だが実戦に出るのは初めて。乱馬の許婚。

ゲイル・・・・・ワーウルフの若長。戦禍によって故郷を追われ一族率いてエルラーンに亡命。豪快だが少し頭が悪い。
【岩田光央様】  ワーウルフのなかでも強さはピカイチ。乱馬の頼れる兄貴的存在。

結城刹那・・・・人間のオペレーター。戦争孤児。状況判断、情報分析に優れる。現場の頭脳的存在。うわさ好き。      
【豊口めぐみ様】

関谷夏樹・・・・商業国家エルラーンの総理大臣。反戦デモ中、主戦派勢力に娘の遙を殺される。
【小杉十郎太様】

関谷鎮・・・・・商業国家エルラーンの官房長官。関谷遙とは結婚を誓ったが入籍直後、主戦派勢力に遙を殺される。
【緑川光様】

アブデル・・・・異界の『管理者』。なぜかエルラーンに協力している。
【浪川大輔様】

ルーク・・・・・『風を渡るもの』。なぞの吟遊詩人。
【石田彰様】

シロップ・・・・ルークといっしょにいる可愛い妖精。フルートを吹く。
【林原めぐみ様】

これらはあくまで参考です。イメージが違うという方は好きな声を当ててくださいませ。



殆どの声優さんの声が脳内で響かせることのできる私っていったい(汗…やっぱ、変かな。
石田彰さんのルークなんか、キャラの顔まで浮かんできそうで。
小杉さんの関谷夏樹はごついオヤジキャラなんでしょうね…。

パラレル世界の乱馬とあかね。
語られていく物語に重い馳せながら…。
(一之瀬けいこ)


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