◆輝く星の下
ayaさま作


ふと顔を上げると、頭上には満天の星が輝いていた。
 驚きの余り、感嘆の声も漏らす事が出来ず、只々見つめるだけ。
(・・・東京でもこんなに沢山の星を見る事が出来るんだなぁ・・・。)
 今まで、胸に痞えていた物が取れていく様だ。
(・・・見せてやりたい・・・。)
 そう思うと、直ぐに身体が行動に移った。





『輝く星の下・・・』





 あかねと喧嘩した。
 些細な事での喧嘩。
 あの日も・・・――――


 俺たちは、その日も極当たり前のように二人並んで下校していた。他愛のない会話・・・けど、楽しかった。胸が・・・身体
全体が温かくて、心地よかった。この時間が何時までも続けば・・・そう思っていたんだ。
 だが、そんな時に限って余計な邪魔が入る。御決まりだよな・・・。
「乱馬〜vv!」
「乱ちゃ〜んv!」
「乱馬様ぁ!!」
 後方から、俺の名を呼ぶ何時もの声・・・。あかねの表情が変わったのがはっきりと分かった。
「でぇ!!」
 あからさまに嫌な顔をしたのに、あいつ等全然気にも留めてなくて、遠慮無しにこっちに向かって・・・否、突進して来た。
 勿論かわした。
「乱馬、これから私とデートするよろし。」
「何ゆうてんねん!・・・乱ちゃん、うちとあそぼ?」
「まぁ!図々しいですわ!・・・乱馬様、私とお茶でも・・・。」
 なんて、勝手事口々に言ってる。
(冗談じゃねぇ!俺はあかねと帰りてぇのに!!)
 そんなこと思ってたら、あかねの事が気になった。しかし、あかねは居なかった。居たのは、随分と離れたところ。関係無いと言わんばかりに、スタスタと歩いていくあかねの後姿が見えた。
「あ・・・あかね!」
 思わず叫んでた。だが、聞こえていないのか、はたまた無視を決め込んでいるのかは分からなかったが、明らかにあかねの機嫌が悪いのが分かった。
(最悪・・・!)
 声には出さなかったが、大声で叫びたい気分だ。
 俺のそんな様子に気が付かない3人娘は、俺にぴったりと身体を寄せ今も尚、自分達の好き勝手な事を言ってる。
(五月蝿い・・・。)
 そう思わずには居られなかった。実際、そうなのだから・・・。
 此の侭では埒があかない。
(撒くか・・・。)
 そう思ったら即行動!!俺は勢い良く走り出した。
 例の三人は、いきなりの事で呆然としていた様だが、状況を把握すると直ぐに俺を追ってきた。
(・・・ついて来れる訳ねぇだろ・・・。)
 鍛え方が違う。
 俺は少し後ろに目をやると、十メートル程後ろから三人が追いかけてくる。俺は、直に前を向きスピードを上げた。
 三人の姿が段々と小さくなっていき、最終的には見えなくなった。其れを確認した俺は、進行方向を変え、急いで家に戻った。



 玄関の戸を勢い良く開けた俺は、お袋に迎えられた。
「お帰りなさい。」
「た・・・ただいま・・・。」
「直に御飯よ。鞄置いてらっしゃい。」
「ああ。」
 俺は短く答えると、あかねの事を気に掛けながら2階に上がった。
(・・・居間に居るんだろうな・・・。)
 あかねの部屋の前で立ち止まり、そんな事を考えた。が、直に自分の部屋に入り、鞄を放り投げると、また部屋を出た。
 丁度其の時だった。
「―――・・・あ・・・。」
 あかねの部屋のドアが開き、中からあかねが出てきた。
 俺は動けず、声を出す事すらかなわなかった。何せ、あかねと目が合った瞬間、周りの温度は氷点下まで下がり、
空気を凍らせた。凍ったのは空気だけではない・・・俺も凍った。あかねの眼が・・・かなり・・・冷たい・・・。背筋がゾッとする程。
 あかねは俺を一瞥すると、其の侭階段を下りていった。
(・・・・・・こ・・・怖ぇ・・・。)
 俺は暫く其処から動けなかった。
 強張った身体を何とか動かし、居間に行った頃には既に食事の準備は整い、各々が指定の場所に座っていた。
「乱馬、早くしなさい。みんな待ってたのよ。」
「あ・・・ああ。」
 お袋に促されて、とり合えずあかねの隣に座った。・・・俺の指定席。
 しかし、俺が座ったとたん俺たちの周りだけ急激に気温が下がったのが分かった。今夜の食事は・・・まともに喉を通りそうに無い・・・。



 案の定食欲は出なかった。隣に座るやつの事がそりゃぁもう、気になって気になって・・・其れどころではなかった。こんな思いをするくらいなら、何時もみたく不満を思いっきりぶつけられた方がまだマシってもんだぜ。
 食事が済んで、俺は部屋でウジウジしていたがそんな自分が情けなくなってきて、居ても立っても居られなくなったんで、決心してあかねの部屋のドアをノックした。
「はい・・・?」
 中から返事が聞こえた。この時の声は至って普通だった・・・。
「あの・・・俺、だけど・・・。」
 ・・・なんか・・・瞬時に空気が変わった・・・。
「何。」
(うわっ淡々としてるよ・・・。)
 あからさまに声のトーンが違う。俺はドアを開けずに話し掛けた。
「あの・・・さ、お前・・・機嫌悪・・・くない?」
「何で。」
(ああ・・・気まずい・・・。っていうか、あからさまに機嫌悪ぃじゃねぇか・・・!)
 俺は心の中で涙した。
「いや・・・只、何となく・・・。」
「今勉強してるの。邪魔しないで。」
「・・・やっぱ・・・昼間の事か・・・?」
 仲直りしに来たのに、勉強を理由に有耶無耶にされたくなかったから、構わず話を続けたんだけど・・・また・・・気温が下がったような・・・。
「・・・五月蝿いわね・・・邪魔しないでって言ったはずよ!」
 怒りがピークになったのか、怒鳴り始めた・・・。
(ヤバイかもしれない・・・。否、無茶苦茶ヤバイ・・・。)
「・・・せめて、起こってる理由ぐらい教えろよ!」
(あ・・・。)
 俺としたことが・・・つい、でかい声出しちまったんだよなぁ・・・。
 其の時、目の前のドアが勢い良く開いた。
「五月蝿い!!あんたに関係ないでしょ!!」
 もの凄い形相のあかねが中から出てきて、俺に怒鳴った。家中に響き渡ったよなぁ・・・。
「お・・・俺が何したって言うんだよ!!お前の其の態度・・・こっちまで腹立たしくなるんだよ!!不満があるなら言えよな!胸糞悪い!!」
 俺・・・結構血の気多いからなぁ・・・。結局頭に血が上って・・・言っちまった・・・。其の事があかねをさらに怒らせたらしく・・・。
「いい加減にして!!!もう二度とあたしに話しかけないで!!!」
 其の侭、思いっきりドアが閉められた。
(・・・やっちまった・・・。)
 後の祭り。後悔の嵐。自業自得。・・・仲直りならず・・・。仲直りするどころか、余計酷くなっちまった・・・。



 其の日から、俺達は一言も話さなくなった。周りの奴等は何時もの事とばかりに平然とした顔してやがった。
しかし、俺達の間に出来た亀裂は広く、深かった・・・。
 今日で五日目。流石に俺も滅入って来た。家の中じゃ息苦しいから、気分転換に外に出たんだ・・・。
そしてある場所を見つけた。
 何も考えてなかったから、何時の間にか神社の前まで来てたんだ。何となく裏手の方に回って見た。案の定、草木が多い茂っていた。だけど、何かありそうな気がして徐に歩を進めた。直に目の前が開けた。思わず息を呑んでしまった。町が宝石を散りばめられた様に光り輝いていた上に、空もまた、満天の星に埋め尽くされていた。一応、此処は東京。こんな沢山の星、見ようと思って見れるもんじゃない。
 なのに、そんな事覆すぐらいの星が頭上で輝いていた。
 見せてやりたいと思った・・・。俺は、気付いたら走り出していた。全速力で走った。一分一秒でも早くあいつを連れ出して見せてやりたかった。
 家に着くと、俺は玄関には向かわず、直接あかねの部屋の窓に行った。カーテンは閉まっているが電気は点いている。良かった・・・。部屋に居る・・・。
 とり合えず其の事にほっとすると、俺は躊躇いがちに窓を叩いた。お袋たちに気付かれないくらいに。少ししてから、カーテンが開かれた。
 窓の外に居る俺を見て吃驚したのか大きな瞳を更に大きくしてた。そして、直に見険しい表情に戻すと窓を開けてくれた。良かった・・・。
其の侭カーテン閉められちまうんじゃないかと思った。
「・・・何よ・・・。」
 この間よりは随分熱は冷めているみたいだったが、それでも何処か刺々しかった。それが嬉しいと思っちまう俺って変なんだろうか・・・?
 そんな事を考えながら、俺は口を開いた。
「あのさ・・・今、暇か?」
 先ず聞いたのがこれ。
「・・・別に・・・用事は無いけど・・・。」
 そう返って来た。俺は心の中でガッツポーズした。
「それじゃぁ・・・さ、これから外出らんない?靴置いてるか?」
 逸る気持ちを抑えて、聞いた。
「出ても良いけど・・・靴置いてないわよ・・・。玄関から出るから・・・。」
 そう言って踵を返そうとするあかねの腕を掴み、横抱きにして勢い良くジャンプした。いきなりの事で戸惑っていたあかねは状況を把握すると、
「ちょっ・・・いきなり何すんのよ!!」
 何て事言ってきた。
「ん・・・こうでもしないとな・・・。」
「・・・何でよ・・・。」
 中途半端に区切った俺の言葉の先を聞いてきた。
「親父達につけられるから。」
 あかねはこれに納得したらしく、何も言って来なかった。
 あっという間に目的地に着いた。あかねは着いたとたん、辺りをきょときょとと見渡し始めた。
「何・・・此処。」
 当然の言葉だろうな。
「ん・・・俺もついさっき見つけた所。」
「・・・凄い・・・。」
 そう言って、町を眺めてた。
「あかね、上。」
 下ばっか見てるもんだから、俺は上も見るように促した。
「・・・え・・・うわぁ〜・・・。」
 予想通りの反応♪
「凄いだろ?俺も吃驚したんだ。」
「凄い・・・こんな沢山の星・・・。」
「・・・あかねに見せたくて・・・。」
「え・・・?!」
「へ・・・?」
 お・・・俺、何か変なこと言ったか?あれ?俺、あかねに見せたく・・・―――
「あ・・・ああ///!!」
 ヤバイ!ヤバイ!!俺、今すっげぇ恥ずかしい事言った!言っちまったぁ!!何言ってんだ俺ぇ///!!!
「・・・乱馬・・・。」
 あかねの顔見れねぇよ///。如何しよう・・・///。
「・・・・・・乱馬・・・。」
「は・・・はいっ」
 あ〜・・・俺もう駄目じゃん・・・。くそ・・・笑われてる・・・。
「・・・乱馬・・・御免ね・・・。」
 はい??
「・・・は・・・?」
「・・・この間ね・・・乱馬と一緒に帰っている時・・・ホントに楽しかったの・・・。なのに・・・邪魔が入って・・・。それで、頭にきちゃった♪」
 やっぱり・・・あれか・・・。
「それで、そんな事で腹を立ててる自分に腹が立って・・・歯止めがきかなくなっちゃって・・・。」
 つまり・・・八つ当たり・・・?
「御免ね、乱馬。」
「い・・・いや・・・。俺も・・・言い過ぎた・・・。」
 そう言って、顔を上げたら、あかねが微笑んでた・・・。こう、ふんわりと・・・。・・・如何しよう・・・無茶苦茶可愛い・・・///。
 俺は、また下を向いてしまった・・・。
 何か・・・クスクスと笑い声が・・・聞こえるんですけど・・・。
「有難う・・・乱馬。」
「・・・え・・・?」
 あかねの言葉の意図が分からなくて、聞き返して決まった。
「此処に連れて来てくれて有難う。この景色見たら、何だかすっきりしちゃった。言いたい事言えた所為もあるんだけど。」
 俺は・・・―――
「仲直りが出来てよかった♪」
 あかねと・・・―――
「帰ろう?お父さん達に怪しまれちゃう。」
「・・・ん・・・。」
 出会えて良かった・・・―――
 


 俺は、この星空の下・・・あかねと言う一人の人間が隣に在る幸せを噛み締めた・・・。






作者さまより

今回の作品、乱馬視点は初めての試みなんです。あかね視点が多かったので偶には・・・と、思いまして。
乱×あなのですが、やはり喧嘩してます。
お決まりのパターンですけど、喧嘩して仲直りして仲が良くなるって言うの好きなんですよね。
今度は別の趣旨の物を描いてみようと考えてます。
(メール文より抜粋)


 喧嘩ばかりの黄金パターン。
 でも、これこそ、乱馬とあかねの原点なのだと私は思っています。
 乱馬があかねを観察しながらアタフタとしているのが微笑ましくって。
 星を見上げる余裕もなく、過ぎる都会の生活。たまには夜空を見上げてみようかなあ・・・新しい事が発見できるかも?
 (一之瀬けいこ)


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