◇『生き残り』を賭けて・・・ 其之四
ayaさま作
○用語説明
《MTT》・・・医療チームMedical Treatment Teamの略。
乱馬の合図と共に、一斉に戦闘機が散って言った。
フォーメーションα・・・今組まれているフォーメーションの中でも、一番危険なフォーメーション。今まで一度たりとも実行されずにいた。
今あるフォーメーションの全ては、敵のあらゆる状態を想定して作られている。
其の中でもαは、敵が何も仕掛けてこない、停滞している状態を予想して、奇襲攻撃を仕掛ける為の作戦なのだ。
αの各機の動きはこうだ。
先ず、A〜F班の6つの班が3班ずつに左右に別れ、星を包む大気圏外に出る。敵の側面に向かって一斉射撃を繰り出す。その間、《AL》と《エース》は、味方が仕損じ
た敵キューブの撃墜に当たる。
敵の戦闘力が落ちた頃、6つの班は各々の機体を反転させ、後退。相手を錯乱させるのだ。其れと同時に《AL》が単独で正面から敵機母艦に向けて飛び出すのだ。
この時、《エース》は後には続かない。残った迫り来る敵キューブを完全に撃退するためだ。
《AL》は、気付かれぬようキューブを避けつつ、母艦に迫る。たった一機で、巨大な敵の母艦を撃退するため・・・。
大気圏を抜け、肉眼に敵の姿を確認する事が出来た。
乱馬の表情は、何時もと変わりはなかった。感情をあまり表に出さず、悟らせない、何時もの表情。
“・・・乱馬!仕留めて来いよ!”
直前になって、味方のクルーから通信が入った。精一杯の激励だった。
そして、もう一本。
“・・・生きて、還って来いよ・・・!”
良牙だった。長い付き合いだ。声を間違える筈がない。
幼い頃から、共に遊び、学び、励まし、競った。ライバルであり、親友だった。成長するにつれ、いがみ合いは増えたが、信頼はそれ以上に深かった。
お互いが素直な性格を持ち合わせていない為、気持ちをはっきりと伝える事は此れまでなかった。
そんな良牙からの一本の通信。乱馬は表情に出さないものの、正直嬉しかった。
(・・・御免な・・・。)
しかし、乱馬は声には出さずに謝った。
クルー全員が直ぐには思い出せなかったフォーメーションα。何故乱馬が直ぐに思い出せたのか。理由は、《AL》だからというだけではなかった。
自分が、唯一この忌々しく感じる命を落とす事の出来る場所かもしれないという考えを持っていた為だった。
此れまでの乱馬の行動を思い出す限りでは、乱馬には生きようとする意志がまるでなかった。過去の辛い出来事が、乱馬をそうさせていた。
乱馬は、操縦桿を握り直し、前を見据えた。
「今の状況は如何なっておる。」
ようやく、八宝斎達がラバーに辿り着いた。クルー達の表情に、安堵の色が見えた。
戻ってくるや否や、八宝斎はスクリーンを見つめた。
其処には、《SDT》の戦闘機が映っており、其の戦闘機の周りには未だに襲ってくるキューブの姿が数十機確認された。しかし、其のキューブが全滅するのも、もはや時
間の問題。ことごとく、撃ち落されていった。
「乱馬君は?」
東風は、スクリーンから目を離し、オペレータークルーに問いかけた。
「敵機母艦と交戦中です。」
問いかけられたクルーは、手元のコンソールを叩きながら答えた。
「状況は?」
「まだ分かりませんが・・・たとえ、敵の戦闘力が落ちているとは言えども、やはり圧倒的に不利かと・・・。」
「何とかしなければ・・・。今此処で彼を死なすわけにはいかない。」
敵の機体が大分大きくなってきた。完全に敵機母艦との一騎打ち。もう、後には引けない。
乱馬は操縦桿を左に倒し、敵の左側面に回った。それに合わせて、敵も《口》・・・すなわち、主砲を乱馬が乗る戦闘機に向けてきた。ラバーの戦闘力の中心が乱馬である
事を敵は知っていた為、乱馬を消す事を優先させたのだ。しかし、此れで星が敵の主砲の餌食になる事は避けられた。乱馬が心置きなく戦える。主砲の餌食にならなければの
話だが。
乱馬は、機体を安定させると一気に《口》に攻撃を浴びせかけた。
しかし、巨大な敵の母艦に対して、こちらは一人乗りの戦闘機一機。大した効果は得られない。敵も黙ってはいない。怯む事無く、攻撃を仕掛けてくる。其れを避けながら、
尚且つ敵にダメージを負わせなければならない。長期戦は明らかに乱馬が不利だ。早めに終わらせなければならないのだが、そう簡単にはいかなかった。
両者は攻防を幾度となく繰り返し、一歩も引こうとはしなかった。
戦闘は、当然の如く長期戦に突入してしまった。
流石の乱馬にも疲れが見え始め、其の事がじわじわと乱馬を追い詰めていった。
気がつけば、戦闘機を包んでいるシールドがあるにもかかわらず、外装は傷だらけで、不調な部分も出てきた。
思いつく限りの様々な方法で、何とか攻撃を仕掛け、防いできたが、そろそろ限界だった。機体も、乱馬自身も。
乱馬の脳裏には、最終手段が既に見え隠れし始めていた。
自爆=B
敵の《口》に、己の戦闘機を巨大なミサイルの如く突っ込み、相手諸共・・・。
此れこそが、フォーメーションαが危険である一番の理由だった。下手をすれば、確実に一人死人が出る。東風が言った、特に《AL》に死人が出る≠ニいう事は、こう
言う事だったのだ。
他に、危険性の少ないフォーメーションはなかったのかと思う方も居るだろう。
答えは、NO。ないのだ。
其の前に、敵が攻撃を仕掛けてこないという状況が先ずないと言っていい。
敵が仕掛けてこないという事は、明らかに何かを企んでいる。だからこそ、奇襲を掛ける必要があるのだ。例えどんなに危険であろうとも・・・。何もしないまま、みすみ
す殺されてしまうのでは死んでも死にきれない。乱馬が言ったように、やられる前にやる≠フだ。
彼等はある誓いを立てていた。
どんな事をしてでも、生き残る。どんな事があっても、前進する≠ニ。
数あるフォーメーションは、其の誓いの基生まれた。生き残るために、我等が母星地球を護るために。
(・・・俺には、この方法しか残されていない。)
乱馬は、攻撃をかわしながら思った。
(誓い・・・果たせそうにもない。)
そう思うや否や、乱馬は敵と向かい合った。
「直ちに発進させるのじゃ!乱馬の護衛に向かうぞい!!」
八宝斎は、ブリッジ後方の自分の特等席に座り、命令を出した。
「《SDT》は武器と燃料の補給が済み次第、乱馬機の護衛に回れ!」
続けて東風が命令した。
一刻を争う事態、緊迫した空気が辺りを包み込んだ。
(乱馬君・・・まだ・・・まだ、早まらないでくれ・・・!)
東風は、握り拳に力を入れた。
(乱馬・・・お願い、死なないで・・・!)
そしてまた、あかねも神に祈る思いでスクリーンを見つめた。
敵の《口》の中心に、光の粒子が集まり始めた。撃ってくる合図。
乱馬は、ゆっくりと瞳を閉じ、ほんの数秒間其の侭でいた。そして、瞳を開いた次の瞬間、乱馬は敵機母艦に向かって行った。
同時に、敵も光の束をたった一機の戦闘機に向かって放った。
乱馬は其れを寸前でかわすと、体勢を立て直し、一気に射撃を繰り出した。
乱馬が敵に向かっていく姿は、ラバーのスクリーンでも確認できた。
その場に居た全員がスクリーンに釘付けになり、息を呑んだ。
其の時だった。目の前が白い閃光に包まれたのは・・・。
「ら・・・乱馬ぁー!!」
光がおさまった後に残ったのは、敵機母艦のものと思われる、バラバラになった残骸ばかりだった。
「あ・・・。」
只呆然と、其の光景を見つけることだけしか出来なかった。
「・・・乱馬を探すんじゃ!急げ!!」
逸早くその場の状況に対応したのは八宝斎だった。
「は、はい!」
オペレータークルー達は、慌しくコンソールを叩き始めた。
しかし、スクリーンを見る限り、乱馬の戦闘機を確認する事は出来なかった。
あの東風でさえも、諦め顔になってきている。
「う・・・そ・・・」
あかねは、小刻みに震えていた。蒼い顔をし、目を見開いて。
言い知れぬ不安と、最悪の事態がクルーの頭の中を過ぎった。
もう彼是、十分近く経っただろうか。未だに、乱馬を見つけることが出来ずにいた。
殆どのクルーが、諦めかけた時、大きなノイズがブリッジに響き渡った。
“・・・ガガッ・・・ザ―――ちら・・・・・・ガガガ・・・せよ”
ノイズの途切れ途切れに、人の言葉の様なものを殆どのクルーが聞き取った。全員が、ほぼ同時に顔を上げた。淡い期待を抱いて・・・。
“・・・ちら・・・ザ――――――・・・応答・・・・・・よ”
「!?救助信号をキャッチしました!!ラバーの識別信号です!!」
オペレーターが、喜びを含んだ声を上げた。
「直ぐに救助に向かう!救助班と《MTT》は準備に取り掛かれ!!」
東風は、素早く指示を出し、スクリーンを凝視した。
そう長くしない内に、スクリーンにはある物が映りこんだ。
其れは、一機の戦闘機。紛れもない乱馬のものだ。方翼を失い、外装は隙間なく傷付き、へこみ、頼りなく宇宙空間に漂っていた。
一刻も早い、乱馬の安全確保が必要だった。
乱馬機は救助班の手際の良い作業で、ラバーの格納庫に納まった。
格納庫には、クルー全員が集まっており、様子を伺っていた。
《MTT》の《AL》は、緊急事態の時、外部からハッチを開けるボタンを押した。
プシュー・・・という音を立て、ゆっくりとハッチが開いた。中の状態を見た《MTT》の《AL》とクルーは、言葉を失くした。
コックピットには、生命維持装置を申し訳程度につけ、全身から血をだくだくと流している乱馬がいた。意識は既になく、虫の息だった。
状況を直ぐに把握した《AL》の行動は早かった。クルー達に的確な指示を出し、乱馬に衝撃を与えぬよう、慎重にコックピットから出し、担架に乗せ、急いで医療室へ運ぶ。
《AT》や、乱馬本人の手によって、毎日欠かさずに整備されていた乱馬の戦闘機のコックピットは、持ち主の鮮血で赤く染まっていた。
「容体は・・・?」
「はい。心拍数・脈拍・呼吸、共に低下しています。其れと胸に・・・それも、心臓のちょっと手前まで、機体の破片が刺さっていて危険な状態です。今、リーダーが其れを
取り除くための手術を行っています。其の他にも、頭部・腕・腹部に裂傷、全身の所々に重軽度の火傷・切り傷を負っています。」
乱馬の身を案じて、駆けつけた東風を、一人の《MTT》クルーが出迎えた。クルーは、東風の問いに正確に答え、取り合えず乱馬が命を繋いでいる事を告げた。
後になって、良牙や八宝斎、女クルー、その他大勢のクルーが集まってきて医療室の前は一時騒然となったが、東風が乱馬は無事な事を告げると、一先ず安心したのか、ぞ
ろぞろと各自引き返していった。
しかし、其れでも残っていたのは良牙や女クルーといった、当たり前のメンバーだった。
乱馬が無事な事を知っても、只一人だけ安心していない者がいた。
あかねだ。
医療室前の通路に腰を下ろし、膝を抱えて蹲っていた。
そんなあかねの隣に、誰か腰を下ろした。あかねの姉である、かすみだった。
かすみは、あかねの背中に手を当てた。あかねは一度身体を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。
「・・・かすみお姉ちゃん・・・。」
顔を上げたあかねの瞳は、心持ち潤んでいるようにも見えた。
かすみは何も言わず、優しく微笑んだ。
「・・・・・・有難う・・・。」
かすみの気持ちを汲み取ったのか、あかねはそう呟いて微笑んだ。
(・・・大丈夫・・・。乱馬は死なない。)
そう、自分に言い聞かせながらあかねは医療室の入り口を見つめた。
其の時、医療室の入り口が開き、クルーが慌てて飛び出してきた。
「ふ、副長!!」
「如何した!」
「出血が酷過ぎて、血液の在庫がもうないんです!」
「何だって・・・?!」
「乱馬と同じ血液型の奴から採血しないと・・・。」
「俺が乱馬と同じ血液型だ。」
クルーが、乱馬と同じ血液型の者を探しに行こうとした時に名乗りを上げたのは良牙だった。
「ライバルがいなくちゃ、張り合いねぇからな。」
素直でない言葉を吐きながら、良牙は前に出た。
「よし。でも、一人じゃ足りない。せめて二・三人欲しい。」
クルーが乱馬の血液型を言うと、あかねが急に立ち上がった。
「あたしの血も・・・使って。」
「え・・・。」
「あたしも・・・乱馬と同じ血液型です。」
幸い、乱馬は一命を取り止めた。
今では、ベッドに横になり、深い眠りについていた。
この事を聞いたクルー達は大いに沸き上がり、心の底から喜んだ。
しかし、助かったとは言え、今は絶対安静。見舞いといっても、医療室の窓越しにしか、乱馬を伺う事は出来なかった。其れでも、乱馬が無事な姿を一目見ようと、人が絶
えず医療室の前に群がっていた。
クルー全員が寝静まる頃、医療室の前に一つの人影が現れた。通路の非常灯で、其の顔が薄っすらと浮かび上がる。
紛れもなくあかねだった。
あかねは窓にそっと触れ、乱馬を覗き見た。あかねの瞳には、頭や腕、顔などに包帯やガーゼを施されてはいるが、規則正しく呼吸をしている乱馬の姿が映った。
(良かった・・・。もう大丈夫なんだよね。)
沈んだ面持ちが、少し和らいだように見えた。
それから暫く、あかねは其処から動かず、じっと乱馬を見ていた。
「・・・少し、眠ったら如何じゃ?」
「えっ!?」
あかねは、いきなり声を掛けられたことに驚き、慌てて声のした方を見た。
暗闇から姿を現したのは八宝斎だった。
「あ・・・御頭さん。」
「心配なのは分かるが、あんまり無理をしてはいかんぞ?」
今回、八宝斎の異常なまでのガールハントを見せ付けられた為、あかねは戸惑い、逃げ腰になっていた。
「ほっほっほ。案ずる事はない。わしとて、時と場くらいは選んどるつもりじゃて。」
「あ・・・すみません。」
あかねは頬を赤く染め、俯いた。
「・・・最近、乱馬と一緒におるところを良く見かけるのじゃが。」
「え?」
「いやいや、乱馬が特定の人間と一緒にいるのは、珍しいからのう。」
「彼を見ていれば分かります。」
「うむ。あ奴は一人を好むからのう。・・・昔は、そうではなかったが。」
「副長さんも、同じ事を・・・。」
「ん。昔は、今と正反対の子じゃった。良く話し、良く笑い、良く悪戯もした。極々、普通の子じゃった。」
あかねは、黙って話を聞いていた。
「ある事件・・・出来事が、あ奴を変えたよ。」
「出来事・・・?」
「・・・其れは、わしが話す権利はない。あまりにも惨過ぎるのでな・・・。」
「・・・あ・・・。」
「・・・最近、乱馬の気≠ェ変わった。」
「気=E・・ですか?」
「そうじゃ。乱馬の気≠ヘ、冷たく冷え切りぎすぎすしておったのじゃが、何処か和らいできたというか、何と言うか・・・。」
「其れは、乱馬が変わってきたって事ですか?」
「まぁ、簡単に言えばのう。」
八宝斎は、其処まで話すと、あかねに向き直った。
「あかねちゃん。」
「はい?」
「君は、何故乱馬に構う?」
八宝斎は何時になく真剣に話した。
「・・・・・・乱馬の、笑顔が見たいと思ったからです。」
「ふむ・・・。」
「御頭?」
「あかねちゃん。今のあやつは、情緒不安定じゃ。だからこそ、乱馬を・・・優しく包み込んではくれぬか?」
「え・・・?」
八宝斎は、あかねの返事を聞かず、踵を返して暗闇へと姿を消した。
(如何いう・・・意味だろう。)
あかねは、立ち尽くすしか出来なかった。
翌朝、乱馬は目を覚ました。
(俺、如何したんだっけ・・・。)
瞬時に、自分が置かれている状況を把握する事は出来なかったが、身体を動かそうとした時、全身に電気が走ったような痛みを覚え、段々と寝惚けていた意識と共に記憶も
浮上してきた。
(確か俺、敵の母艦に突進したはず・・・。)
目覚めたばかりの脳では、あの爆発で何故助かったのかなどと言う疑問に答えを出すのは無理に等しかった。
仕方がなく、乱馬は身体を起こそうとしたのだが、身体中の鋭い痛みと多少の違和感で上手く起こす事は困難だった。
漸く、上半身を起こすと、初めて自分が医療室にいることを理解した。
何となく部屋全体を見渡し、入り口の直ぐ傍にある窓を見た時、何かを見つけた。
不審に思った乱馬は、良く目を凝らし其れを凝視した。
(・・・人・・・か?)
乱馬は、其の場に行こうとするのだが、あれ程の重傷を負ったのだ。そう易々と身体が動く筈もなく。仕方がなく、其処を黙って見ていると、其の人らしきものが微かに動
いたようにも見えた。
(・・・人だ。)
乱馬がそう確信した時、其れは何故か慌しく動き、立ち上がった。明らかに、男とは思えない小柄な体格、何処か頼りない細い身体の持ち主は謂わずと知れたあかねだった。
八宝斎が去った後も尚、あかねは医療室の前にいたのだ。が、何時の間にか其の場で眠り込んでいたらしい。
(・・・な、何であいつが・・・。)
乱馬は信じられないという顔をした。そしてあかねもまた、驚きを露にしている。
あかねは、起き上がっている乱馬を眼にして、慌てて副長に知らせに言った。
そんなあかねの様子を一部始終見ていた乱馬は、
「・・・何やってんだ・・・あいつ。」
と、呟かざるにはいられなかった。
数分後、副長と《MTT》の《AL》が騒々しくも医療室に駆け込んできた。勿論、知らせに行ったあかねも一緒だ。
「乱馬君!」
「副長・・・。」
「起きて、大丈夫なのかい・・・?」
「ええ。身体中痛いですけど・・・。」
東風の問いに、乱馬は正直に答えた。
「乱馬、ちょっと良いか?」
《MTT》の《AL》が前に出て、乱馬の脇に立った。
「ああ。」
乱馬が返事を返すと、《AL》は乱馬の身体を診察し始めた。
「・・・もう大丈夫のようだな。順調に回復していく筈だ。細かい所は、また後で検査をしよう。良いな?」
「分かったよ。」
「暫くは戦闘には参加しない事。勝手に参加しようものなら、二度と戦闘には参加させないし、《AL》の任からも下りてもらう。いいね。」
「・・・はい。」
東風は、乱馬の今の性格を理解した上で、今後の事を見越して乱馬に条件をつけてきた。
乱馬は、今迄散々無茶をしてきた所為も有って、この条件に大人しく従うしかなかった。
「さてと。僕はもう戻るよ。ゆっくり休むと良い。」
「有難う御座います。」
東風は、其れを聞くと医療室から出て行った。
「・・・副長はゆっくり・・・と言ったが、今日はゆっくり休めそうもないぞ、お前。」
《AL》の言葉の意味が分からず、乱馬は首を傾げた。
「今日の医療室は、大勢のクルーで大賑わいだ。」
「・・・成る程。」
乱馬は呟くと同時に溜息を吐いた。
「じゃぁ、俺は色々とやることがあるんで、ちょっと席を外す。何かあったら呼んでくれ。」
「分かった。」
《AL》は、其れだけ伝えると、医療室の奥へ入っていった。
乱馬が寝ている部屋の中で、事実上乱馬とあかねは二人っきりになった。
お互いに言葉を掛ける事無く、暫し沈黙が続いた。が、始めの口を開いたのは乱馬だった。
「・・・あかねは、何であんなとこに居たんだ・・・?」
「え?」
「・・・何で通路に居たんだって聞いてる。」
「あ、えっと・・・その・・・夜中に、様子見に来て・・・そのまま・・・寝ちゃったみたい・・・。」
あかねは、恥ずかしさから顔を真っ赤に染めて呟くように話した。
「・・・あんなところで寝れるのか・・・?」
「・・・寝れる・・・のかなぁ?」
あかねは、目を泳がせて苦笑いを浮かべた。
「・・・何だよ・・・其れ。」
「多分、眠たかったのよ。」
「其れなら部屋に帰って寝ろよ。」
「う・・・。」
乱馬にそう言われ、あかねは今度はしゅんとした。
(百面相のオンパレードだな・・・。)
乱馬は、そう思わずにはいられなかった。
検査は受けた乱馬は回復を待つだけだと言われた。
地球の医療技術は遥かに進んでおり、どんなに重傷でもたった数日で治す事が出来るのだ。
知らせを受けたクルー達は、ホッと一息を吐いた。
其の日の内に面会謝絶は解かれ、乱馬の無事な姿を一目見ようと、医療室には絶えず人が押しかけていた。
されど、乱馬は一応怪我人である。見かねた東風は、人の出入りを制限した。
この時東風は、改めて乱馬が多くの者から信頼を得ている事を実感するのだった。
時間帯にして明け方頃だろう。乱馬はふと、目を覚ました。
(何か・・・身体が重いな。・・・身体が鈍ってんのか?)
身体に違和感を覚えた乱馬は、ゆっくりと身体を起こした。
「・・・なっ・・・。」
真っ先に乱馬の目に飛び込んできたのは、乱馬の脇でベッドに突っ伏くしてすやすやと寝息を立てているあかねの姿だった。
(・・・・・・またかよ・・・。)
乱馬は額に手をやり、溜息を吐いた。
(・・・どおりで重い筈だ・・・。大体なんでこんなとこで寝てるんだ?・・・っていうか何でこんな時間に此処に居るんだよ・・・。)
乱馬はあかねの意図が分からず、只々頭を抱えるだけだった。
暫く悩んだ挙句、乱馬は他人の事は幾ら考えても無駄という結論に至り、其処で考えるのは止めにした。
乱馬は、あかねが眠る姿を見つめ、隣のベッドの毛布を取ると、あかねに掛けてやった。そして乱馬も布団の中に潜り込み、眠りについた。
朝起きたあかねが、傍で眠る乱馬と毛布を交互に見つめ、頭上に?を大量に浮かべた事は言うまでもないだろう。
つづく
作者さまより
夏休みが終わりを告げ、慌しく2学期が始まってしまいました。
再び環境が変化を見せ始める中、話の方にも変化が・・・と、自分では思ってたりもしたり。
中盤か、それを過ぎた頃か。それは自分でも分かりません(オイオイ・・。)
何しろ、私には計画性というものがなくて・・・。
それで良いのか?と自分で突っ込むことも多々あるほど。
こんな私ですので、話の方ものんびりと書き連ねていく事になると思います。
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