◇『生き残り』を掛けて・・・
ayaさま作


○用語説明
《SDT》・・・撃墜チームShoot Down Teamの略称。敵機、母艦を撃墜する。
《AL》・・・All Leaderの略称。各チームに一名ずつ存在し、それぞれのチームの総合的なリーダー。
       《SDT》の《AL》は主に、母艦を撃墜する役目に就いている。チームは、撃墜、整備、防衛、オペレーター、医療の五つ存在。
《エース》・・・《SDT》で幾つもある班の中に一名ずつ存在。《AL》と共に敵母艦を撃墜。
《口》・・・敵母艦の大砲部分に当たる所。幾種類にも存在する敵母艦に共通してある弱点。



“敵機発見。全クルーは戦闘配備に就け。繰り返す・・・―――”
 けたたましい警報音と共に、緊張した声が艦内に響き渡った。各々が私用の手を止め、すぐさま決められた配置へと散って行く。
 とある格納庫。其処に、数十名のクルーが集まっていた。
「準備は万端だ!生き残るのだぞ!」
『おう!!』
 激励の言葉と共に、それぞれの愛機に乗り込む。そして、広大な宇宙空間へ勢い良く飛び出して言った。
 宇宙空間へ飛び出すと、一機の戦闘機を先頭に母艦の盾になる様に配置に就いた。
「全機に告ぐ。フォーメーションBで行くぞ。各班リーダーは指揮を怠るな。」
“了解!”
 指示を出したのは、まだ十代であろうおさげを結った少年だった。そして、応じた複数の声もまた若い。
「攻撃・・・開始!」
 合図と共に、多数の戦闘機が一斉に前方に見える巨大な戦艦に向かっていった。敵艦もまた、時同じくにして多種多勢の機体を繰り出してきた。
 しかし、機体はとても人が乗れる大きさではない。大体、1mくらいだろうか。数は、2倍以上。キューブのような形をしている。
「・・・何時に無く派手だな。機械のくせに・・・。」
 おさげの少年は、淡々と悪態を吐きながらも快調に敵を打ち落としていく。
「母艦を落とす。《エース》は俺に続け。」
“了解。”
 おさげの少年の戦闘機は、味方の機を数機引き連れ敵の母艦へと迫った。敵の母艦は、魚のエイの様な形をしており、少年の母艦よりも遥かに大きかった。
“おい!何処をたたくつもりだ?!”
 味方の戦闘機の内一機から、通信が入った。
「何時もの様に《口》をたたく。打ち落とされるな。」
“はっ!其の台詞、其のまんまお返しするぜ!”
「・・・行くぞ。」
 《口》は、敵母艦の大砲部分にあたる。弱点ではあるのだが、敵の砲撃によって、逆に打ち落とされる危険性が非常に高い。よって、並みの腕では絶対にこなす事は出来ない。
 少年と味方の戦闘機は、一気に母艦に迫り、《口》に向かって一斉射撃を開始した。数秒後、母艦は内部から火を吹き、果てには木っ端微塵になってしまった。それと同時
に、今迄動き回っていた敵機キューブは、其の動きをピタリと止め、動かなくなった。
「・・・全機ラバーに帰艦。」
 指示と共に、全機機体を反転させ、母艦ラバーへと戻っていった。





「リーダー。また、生き残りましたね。」
 おさげの少年が、ラバーへ戻ると直にクルーの一人がやって来た。
「・・・ああ。」
 素っ気無く、そう答えた。
 紹介が遅れてしまったが、彼の名は早乙女乱馬という。彼は、《SDT》の《AL》を務める、凄腕の持ち主だ。
「まったく。何でお前が《AL》なんだよ。」
「・・・良牙・・・。」
 《SDT》A班の《エース》の響良牙。其のテクは一、二を争うほどである。乱馬をライバル視している。が、方向音痴なのが玉に瑕だ。
「お前の指示で動くのは、納得いかない。」
「・・・しっかり動いてるが・・・。」
 乱馬は常に表情は変えず、淡々と言葉を返した。
「っな///!ちがっ・・・あれは、俺も同じ事を・・・って何処へ行く!?」
 乱馬は良牙の話には耳を傾けず、格納庫を出ようとしていた。
「御頭のとこ・・・。」
 振り返りもせずに出て行ってしまった。
「・・・っくそ!」
 良牙は入り口を睨み付け、格納庫の奥へと消えた。こんな事は、日常茶飯事だった。





「副長・・・。」
 乱馬がブリッジへ行くと、其処にはオペレーターと副長の小乃東風が居た。
「やぁ、乱馬くん。お疲れ様。」
 爽やかな笑みを浮かべながら振り向いた。。
「どうも。・・・御頭は?」
「もう、部屋にお戻りになられたよ。何か用かい?」
「いえ、大した用では・・・。」
「?そう。・・・あ、そうだ。後で、《AL》だけ招集掛けるから、其のつもりでね。」
「・・・何か問題でも?」
 乱馬は首を傾げて聞き返した。
「いや、問題とかそういう事ではないんだよ。・・・ちょっとしたお知らせ。」
 東風はウインクをして、笑って見せた。其の笑みには、何か裏があるようで気に掛かったが、乱馬は一礼をしてブリッジから出た。
 乱馬は、通路を行き自室へと戻った。照明は点けず、其の侭奥へと歩み、ベッドに腰掛けた。私物は少なく、必要最低限の物しか置いていない。ベッドの隣には備え付けの
小さな棚が有り、其の上に写真立が伏せてあった。
 乱馬は其れを一瞥すると、直に窓の外を見た。窓の外には果てしない宇宙空間が広がっており、孤独感を感じさせられる。
 暫し其の状態で居ると、東風の声が艦内に響き渡った。
“各チームの《AL》は直ちに会議室へ。繰り返す・・・各チームの《AL》は直ちに会議室へ。”
 乱馬はゆっくりと立ち上がり、部屋を出た。





 机を叩く音と共に、乱馬の荒々しい声が会議室に響いた。
「俺は認めない。絶対に・・・!」
「・・・そう言うと思ったよ。しかし、此れはもう決定事項なんだ。」
 乱馬を宥める様に東風が説得するが、乱馬は聞く耳など持ち合わせては居なかった。
「何故決定する前に、俺達に話して下さらなかったんですか・・・?」
 居合わせていた一人の《AL》が、問いかけた。
「御頭の意思だよ。」
「・・・。」
 乱馬はある人物に目をやった。其処には一人の老人が座っていた。とても小柄で、100cm越えないのではないだろうか。
「でも・・・其れでも俺は認めない。此の艦に女を乗せるなんて・・・!」
 乱馬は、小さな老人・・・否、ラバーの御頭である八宝斎を、臆す事無く睨み付けて言い放った。
「だからじゃよ。今迄知らせんかったのは・・・。」
 先刻まで煙草を燻らせていた八宝斎が口を開いた。皆、八宝斎の意図が掴めず怪訝な顔をしていた。
「だって、先にゆうてしもうたら乱馬の様に反対する奴も少なからず出てくるじゃろ?男ばっかりのこのむさ苦しい艦にも、華が必要じゃとおもってな♪かわいこちゃんを一
杯選んだんじゃぁ♪」
 皆、呆れて物も言えなかった。そして忘れていた。八宝斎が無類の女好きだと言う事を・・・。
「・・・そんなくだらない理由で女を連れ込む気か・・・!此の艦の今の状況がどんなに危険か、知らない訳でもないだろ・・・!」
 もはや御頭としては見ていない。今迄口数が少なかった乱馬だが、今の発言で頭に血が上ったらしく、自我を失っている。周りの《AL》も、先程までは女を乗せても良い
かも知れないと、冷静さの欠けた考えていたが、乱馬の今の言葉で自分達が置かれている立場を思い出し、考えを変え始めた。
「確かに・・・、おら達は女などに現(うつつ)を抜かしている場合ではないのう・・・。」
 最初に同意したのはムースという、整備チームの《AL》だ。
「僕達は追われている身。女が入ってきては、皆の士気が低下する恐れがある。」
 彼は久能。防衛チームの《AL》だ。
「大丈夫じゃ。女の子達は、炊事の方に回ってもらうことになっておる。」
 八宝斎のこの言葉に、乱馬以外の《AL》が反応した。何せ、今迄の彼等の食事は班交代制で作る事になっており、、其の殆どがまともな料理ではなかった。食べ物といえ
る代物は、此の艦に乗って以来口にしていない。
「・・・女も良いかもしれん。」
 一番初めに同意したはずのムースがそんな事を言い出した。
「・・・うむ。炊事なら、足手纏いにはならんだろう。」
 続いて久能。そして、その他の《AL》もうんうんと頷いている。
「・・・多数決でいうと・・・決まりじゃな。」
 八宝斎は嬉しそうに乱馬を見た。乱馬は他の《AL》を睨み付け、荒々しく出て行った。去り際に、
「俺は何があっても認めない。」
 そんな言葉を残して・・・。
「・・・ふぅ・・・。あ奴はまだ気を病んでいるのか・・・。」
 八宝斎のこの言葉に、皆一言も交わさず、乱馬の出て行った入り口を見つめた。





 数日後、ラバーはとある星に立ち寄った。星の80%は水が占めているという、水の惑星である。此処で、食糧を調達すると共に、新たにラバーのクルーとなる女達を回収
する事になっているのだ。女達は、母星である地球から小型宇宙船でこの星まで来ていた。
「ようこそ。ラバーへ。クルー全員、君達を心から歓迎するよ。」
 東風は、女達の前に立って、歓迎の言葉を述べた。
「早速、自己紹介をしてもらおうか。」
 女達は、如何見てもまだ十代らしかった。そして、美少女ばかりだ。男クルー達は口々に、
「御頭好みだな・・・。」
 と、囁いていた。
「私、シャンプーというある。よろしくね。」
 紫がかった長い髪で、話し方から中国人っぽかった。
「うちは、右京や。よろしゅうな。」
 こちらは茶色の長い髪で、大阪人のようだ。話し方からして。
「ホホホホ。私は、久能小太刀。宜しくお願いしますわ。」
 お嬢様らしい。長い黒髪を左横に束ねている。
「小太刀?!」
 男クルーの後方から、驚きの声が上がった。大勢のクルーを掻き分け、前に出てきたのは久能たてわきだった。
「お久しぶりですわ。お兄様。」
『お兄様ぁ!?』
 男クルーは、信じられないというように大声で叫んだ。
「な、何故此処に・・・?」
「何故って・・・、居るものは居るのです。」
 ある意味正当な答えを返して来た。
「いや・・・だから・・・―――」
「さ、次いこうか。」
 東風は、久能の言葉を遮り次へと促した。
「天道かすみです。宜しくお願いします。」
 礼儀良く頭を下げてきた其の人は、おそらく女クルーの中では一番年上だろう。おっとりとした笑みが印象的だ。
「天道なびきよ。言っとくけど、お金以外に興味は無いから。」
 この一言で、誰もが言葉を失ったのは言うまでも無い。金にしか興味がないのに何故来た・・!と、皆が心の中で突っ込んだ。
「あ、あたしは天道あかねです。よ、宜しくお願いします。」
 頬をほんのり赤く染めながら自己紹介してきたのは、ショートカットの可愛らしい少女だった。男クルーは、情けなくも全員鼻の下を伸ばしていた。
「天道・・・君達三人は姉妹かい?」
「ええ。そうです。」
 東風の問いに、かすみが答えた。因みに、かすみが長女、なびきが次女、あかねが三女である。
「えっと・・・、計六名だね。では、君達にもう一度確認しておきたい事がある。此の艦の今の状況は聞かされているね?」
「あ・・・追われてるって・・・。」
 あかねが答えた。
「うん。何時何時(いつなんどき)敵が現れるか分からない、常に危険な状態なんだ。それは分かっているね?」
 六人の少女は同時に頷いた。
「覚悟の上ね!」
「うち等は其のつもりできたんやで。」
「当たり前です。でなければ、こんな所に居ませんもの。」
「お食事と手当てくらいしか、お役に立てることはありませんが・・・。」
「何の為に此処まで来たと思っているの?」
「役に立てる事があったら何でも言って下さい!」
 各々が自分の意思を述べた。其の瞳に、不安の影は見られなかった。
「頼もしい子達だ。改めて歓迎させてもらうよ。」
 東風は微笑んで言った。
「では、取りあえず各チームの役割と《AL》だけでも紹介しておこうか。《AL》は前へ。」
 東風は、十数名の《AL》とチームの役割を順番に紹介していった。
「―――・・・次は《SDT》・・・あれ?乱馬君は?」
 その場に乱馬の姿は無かった。そして、誰も居場所を知らなかった。
「まったく・・・。しょうがない子だね。・・・すまないね、《SDT》の《AL》が来てないみたいだ。取りあえず、紹介だけしておくね。《AL》は早乙女乱馬という子
なんだ。おさげを結っているから直分かると思うよ。役割は、敵の撃墜だ。一番きつく、辛い役目なんだ。戦死する者も少なくない・・・。じゃ・・・次は・・・―――」
 乱馬の名前と特徴、役割を告げると、東風は紹介を続けた。





 其の頃乱馬は、シュミレーションルームに来ていた。カプセルの中で、実際の戦闘に近い状態で訓練する事が出来るのだ。
 カプセルの蓋が開き、乱馬が出てきた。長い時間中に入っていたのだろう、大量の汗を掻き、其の表情には多少の疲労が伺える。
 乱馬は傍に置いておいたタオルを手に取ると、汗を拭い、シュミレーションルームを跡にした。 乱馬は真っ直ぐに自室へ戻り、備え付けのシャワールームで汗を流し、
ベッドに横たわった。
「・・・はぁ・・・。」
 乱馬は溜息を一つ吐くと、其の侭目を閉じた。しかし、直に叩き起こされる事になる。誰かが部屋の入り口を叩いたのだ。
「・・・ったく・・・。」
 乱馬は渋々起き上がり、入り口に向かった。入り口のロックを外すと、直ぐに入り口は開いた。目の前に現れたのは良牙だった。
「・・・何・・・。」
 顔を顰め、いかにも不機嫌な様子で出迎えた。
「広場に来い。」
 乱馬は益々不機嫌になり、
「・・・俺、寝たいんだけど。」
 と、声のトーンを低くして答えた。
「副長が呼んでる・・・と、言ってもか?」
 乱馬は舌打ちして、
「・・・分かったよ・・・。」
 其れだけ答えた。良牙は、其の事を確認すると、一足先に広場に行ってしまった。乱馬は再び溜息を吐くと、重い足取りで広場へ向かった。
 広場はブリッジ下方にあり、とても宇宙船の中とは思えぬほど、緑溢れる所だった。一言で例えるならば、公園。今は、新しいクルーの歓迎パーティー会場と化している。
 乱馬は東風を見つけ、
「副長、何か御用ですか?」
 無表情で用件を聞いた。一刻も早くこんな所から抜け出したいとでも言うように。
「まぁまぁ、乱馬君。そう、怒らずに。ね?」
 乱馬は三度目の溜息を吐いて、
「で?何ですか?」
 幾分落ち着いたように話した。
「うん。一応、新しいクルー達に君の顔を知ってもらおうと・・・―――」
「お断りします。」
 東風の言葉を最後まで聞かず、乱馬は踵を返してその場を去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って乱馬君!」
 東風は慌てて乱馬を引き止めに入った。
「・・・いずれ何らかの機会に顔を合わせる事になるんですから・・・今じゃなくたって良いでしょう?・・・俺、疲れてるんで。」
 それだけ言うと、乱馬は会場を跡にした。
「・・・う〜ん・・・困った子だねぇ・・・。」
 東風は苦笑して言った。其の時、
「副長さん、如何かしたんですか?」
 女クルーの一人、あかねが東風の傍に歩み寄ってきた。
「う・・・ん、君達に乱馬君を紹介しようと思ったんだけど、逃げられてしまってね。」
 東風は、乱馬が去っていった方向を見つめていた。
「其の・・・乱馬って人は、人間嫌いなんですか?」
「いや、人間嫌いって程ではないんだけど、接触するのを余り好まないんだ。・・・昔は・・・そうではなかったんだけど・・・。」
 東風は僅かに暗い面持ちで話した。
「過去に何か・・・?」
「うん・・・。でもこの事は、余り軽々しく話せる内容ではないんだよ・・・。すまないね、すっかり陰気くさくなってしまって・・・。パーティー、存分に楽しんでね。」
 東風はあかねに笑いかけた。
「あ・・・はい・・・。」
 東風は、ブリッジへ上がっていった。あかねは其れを見届けると、姉達のもとへ戻っていったが、何故、乱馬の事が気に掛かって仕方がなかった。





 翌朝、珍しく食堂が賑わっていた。乱馬は、何故かと考えたが、直ぐに思い当たる節が見つかり大きく溜息を吐いた。
 食堂に入ると、其処には予想通りの光景が広がっていた。男クルー全員が、目に涙を溜めて食べ物を頬張っているのだ。口々に、
「美味ぇ!」
「久々の日本食だぁ・・!」
「まともな食い物だぁ・・・!」
 などと言いながら。
(大げさな・・・。)
 先ずそんな事を思う乱馬だった。
「あ!リーダー!!お早う御座いまぁす!」
 乱馬に気付いた《SDT》のクルーが、それはもう大きな声で律儀に挨拶をしてきた。小柄な体格で、元気に満ち溢れている。乱馬を見る其の瞳には尊敬の色が伺えた。
「あ・・・ああ、お早う・・・。」
 いきなりの事で、少したじろいでしまった。
「リーダーの分、取っておきましたよ。」
 そう言って、炊き立ての御飯と味噌汁、焼き魚が載ったトレーを差し出してきた。
「・・・有難う。」
 乱馬は其れを受け取り、席に着く。
「お前な、もう少し愛想良くできねぇのか?」
 偶々乱馬の席の前に座っていた良牙にそう言われてムッとした乱馬は・・・と言っても、顔には出さないのだが、
「・・・五月蝿い。」
 の一言だけ言うと、黙々と食事を始めた。
「・・・こんにゃろぉ・・・。」
 良牙は顔を引き攣らせて言い放った。
「良牙、相手にされてねぇなぁ。」
 そう言って、ゲラゲラ周りで他のクルー達が笑った。
 一方、厨房では、
「なぁなぁ、あそこ賑やかやなぁ。」
 そんな会話が生まれていた。
「何あるか?」
「あら?あの方は・・・?」
 厨房に居る全員が全員、賑やかなある一点を見ていると、小太刀が誰かを見つけたようだ。皆そちらに目を向ける。其処には、乱馬が居た。
「昨日、紹介の時に居なかった人かしらねぇ。」
「ん〜?・・・何ていう奴だったかしら?」
『・・・さぁ?』
 皆、首を傾げた。当然と言えば当然だろう。此れまで接触がまるっきりなかったのだから。
「・・・乱馬・・・。」
 静かにそう呟いたのはあかねだった。
「早乙女・・・乱馬よ。」
「・・・あかね、あんた良く覚えてたわね。」
 なびきが感心して言った。
 人の名前と言うものは、早々覚えられるものではない。ましてや、顔も知らない人物の名前など覚えるのは困難だ。余程記憶力の良い者でなければ、無理といっても過言で
はないだろう。
「ん・・・珍しい名前だからかな?それに、ほら、おさげ結ってるし・・・。」
 東風の言っていた事を思い出し、付け加えた。
「あら、ホントだわ。」
 かすみも其れに応じる。
「にしても・・・無愛想なやっちゃなぁ。」
 改めて乱馬を見て右京が言った。
「確かに。素は良い線いってますのに。」
「あれでは、良い顔も台無しね。」
 口々に自分の意見を言っている。言い放題だ・・・。
「何か・・・事情があるのよ・・・。」
 あかねは昨晩の東風の言葉を思い出していた。
「何やあかねちゃん。何か知っとるみたいやなぁ。」
「え?!ち・・・違うわよ!只漠然と思っただけ・・・!」
 あかねは動揺を抑えるかのように、皿洗いを始めた。・・・洗っているのだが・・・、其の度に割れているような・・・。
「あかねちゃん、其れ十枚目よ。」
 かすみがあかねに指摘する。おっとりしてはいるが、しっかり数を数えているところがなんとも・・・。
「あぅ・・・。」
「あかねの不器用さは、国宝級ね。」
 そう、あかねは不器用なのだ・・・途轍もなく。家が格闘の道場を営んでいる為、幼き頃より鍛え上げられた腕力に、生まれながらの不器用さが上乗せされているので、野
菜を切らせれば、大きさはバラバラ、まな板はボロボロ。力の加減を間違えると、悲惨な事になってしまうのだ。では何故そんな子が、ラバーの炊事係になったのかと言う事
は、この際置いておこう。
「う・・・五月蝿いわね!」
 厨房に楽しいそうな笑い声が広がった。





 時間的にして、大体昼頃。各々がのんびりと過ごしていた時、警報音が鳴り響いた。クルーは瞬時に目の色を変えた。
“敵機発見。各クルーは戦闘配備に就け。繰り返す、敵機発見。各クルーは戦闘配備に就け。”
 あっという間に、艦内は騒動しくなった。
 女クルー達は、当然全く未経験の事。戦闘の時、どのように行動するかなどまだ聞かされていない為、取りあえずブリッジへ向かった。
「敵機母艦、距離にして約五千!」
 オペレーターの一人が状況を告げる。
「シールドを張れ!敵に備えろ!」
 何時もは温厚な東風も、この時ばかりは別人だ。的確な指示を次々と言い渡していく。
「副長さん!」
「やぁ。・・・ちょっと揺れるから、何処かに掴まってて。」
 東風は再び、目の前のスクリーンに目を戻した。今は宇宙空間しか映っていない。
“副長。”
 音声と共に、スクリーン一杯に乱馬の映像が映し出された。
“《SDT》、出ます・・・。”
「ああ。無理はするな!」
“了解。”
 映像が宇宙空間へ戻された直後、数十機の戦闘機が一機の戦闘機を筆頭に雪崩出てきた。
「・・・あの、一番前の戦闘機に乗っているのが乱馬君だよ。」
 東風は、六名の女クルーに話しかけた。
「あれがかいな。」
「そうだよ。・・・一番・・・危険なポジションなんだ。」
「距離ニ千!敵の姿確認!」
 東風がスクリーンを見ると、其処には敵の姿があった。今回は、巨大なピーマンの形をしている。最も出現率の高い機種だ。
「あれが・・・《刈り取り》・・・。」
 あかねが呟くと同時に、戦闘機が一斉に敵に迫って行った。





「・・・フォーメーションA。各班リーダーは指揮を怠るな。」
“了解。”
「全機・・・攻撃開始!」
 乱馬の合図と共に戦闘機が飛び出す。敵母艦も、キューブを無数に繰り出してきた。そして、何時もの様に乱馬はある程度の敵を落とすと、《エース》を引き攣れ《口》を
叩く。何時もなら其処で終わりだった。
「副長!!」
 オペレーターが、額に汗を浮かべ叫んだ。
「何だ!」
「敵の母艦がもう一機、接近しています。距離三千!既に乱馬機の近くまで迫ってきています!!」
「何だって!?」
「磁気を帯びた近くの惑星に隠れていたらしく、発見が遅れました・・・!」
 敵も、今の今まで闇雲に攻めてきていた訳ではない。ラバーの戦力を把握し、対策を練ってきた。毎回毎回、ラバーを攻める毎に・・・。味方をデータ収集の為に切り捨て
てでもだ。何故其処までする必要がある?何故其処までして軍事力を欲するのか?一体何処の星から送り込まれている?疑問を上げれば限がない。全てが謎に包まれていた。
 そして、今のラバーにとっての最大の課題は・・・生き残る事・・・。こんな所で大事な戦力を失うわけにはいかない。
「・・・乱馬君・・・!」
 東風は只々、スクリーンごしで外の状況を見守る事しかできなかった。
「くそっ!二機で来ていたとは・・・!全機後退!!体勢を立て直す・・・急げ!」
 敵の母艦は乱馬達の目の前まで来ていた。乱馬は直ぐに後退命令を出し、自分も少し後退した後、なんと、その場に留まってしまったのだ。
 敵母艦の《口》に光が集まるのが見えた。
 このままでは、確実に打ち落とされてしまう。しかし、乱馬は一向に動こうとはしなかった。
「撃ってくるぞ!避けろ!!」
“乱馬・・・お前が早く逃げろ・・・!!”
 丁度其の時だった。光が束と成り、ラバーに向かって放たれたのは・・・。光はラバーに直撃し、シールドを砕いた。多少のダメージは受けたものの、何とか無事のようだ。
「・・・っく・・・!」
 ギリギリまで引き付けて、瞬時に避けた筈だったが、右翼にダメージを受けてしまった。衝撃で、ビリビリと圧力が掛かって来る。
“・・・ら・・・・・・ま・・・ぶ・・・じ・・・・・・は・・・く・・・―――”
 良牙からの通信が入るが、ダメージの所為でノイズが入る。上手く聞き取れない。
 乱馬は右腕から血を滴らせてもなお、操縦桿を離そうとはしなかった。
「・・・よし・・・!」
 乱馬は其の侭、敵の《口》に迫った。
「乱馬!!」
 良牙もまた、敵に向かっていった。
 二機同時に、《口》に向かって一斉射撃をする。敵は所々で爆破を起こし、最終的には大爆発して宇宙の塵となった。
 二機は反転して、ラバーに戻っていった。言葉も交わさず。



つづく



作者さまより

前に投稿した『天使と人間の恋』に続く、パラレル長編小説第2弾です。
実は、ずっと書きたかった話なんです。でも、長編なので時間が取れなかった所為も
あって書けずに居たんですけど、この夏休みを利用して書こうと決意しました。
密かに、シリーズ化しようと思ってます。それは、まだまだ先の話ですけど。
(作者さまのコメント)



Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.