a hot day!
ayaさま作



「う゛あ゛〜・・・暑いぃ〜・・・。」
 天道家の居間、乱馬は汗だらけで大の字になりへばっていた。隣では、あかねがテーブルに肘をつき同じく汗を滴らせていた。
「あかねぇ・・・今何月・・・?」
 呆けた訳ではない。
「・・・何馬鹿な事聞いてんのよ・・・。6月に決まってんでしょ・・・。」
 あかねは、抑揚のない声で答えた。
「・・・こんなに暑かったっけ・・・?」
「・・・もう何も聞かないで・・・。答える気ないの・・・。」
 実は、一時間ほど前から乱馬とあかねによる問答が繰り返されていた。先程の会話も三度目になる。余りの暑さに少々記憶がぶっ飛んでいるようだ。・・・というより、考える力が低下していると言えよう。
 今、天道家には乱馬とあかね以外誰も居ない。みんな出かけてしまったのだ。
 二人にとっては、逃す事の出来ない良いチャンスなのだが、今はそんな余裕が何処にもない。その証拠に、何処かの喫茶店でも行って涼もう等という考えは頭の隅にも浮かばない。
 今更ながら断っておくが、二人の今の学年は高2。あかねは何の問題はなかったが、乱馬は死ぬ気で勉強し、何とか進級できた。
 サフランとの戦いの後、二人の関係は少しは進展した。少し・・・ほんの少しだが、喧嘩の数が減った(知人曰く)。
 とまぁ、だから二人にとっては『二人っきり』という、恵まれた環境に居るわけだが、先ほども述べたように、二人にはそんな事に気付く余裕がない。今は兎に角、この蒸し暑さを如何にかしてもらいたいだけ。
「・・・暑い・・・。」
 乱馬は、もう幾度となく口にした単語を再び呟いた。
「あのねぇ・・・さっきから五月蝿いのよ・・・。呟いたところで、この暑さが如何にかなるってわけじゃないでしょ・・・。」
 あかねは、先程から溜まりに溜まっている苛々を乱馬にぶつけ始めた。
「・・・じゃぁ、お前如何にかしてくれよ・・・。」
「・・・・・・如何にか出来るなら・・・とっくの昔に如何にかしてるわよ・・・!」
「・・・・・・あ・・・―――。」
「ストップ!!」
 あかねの鋭い言葉が乱馬の言葉を遮った。
「・・・んだよ・・・。」
「もう、暑いなんて言葉聞きたくない。言ったりしたら外にほっぽり出すわよ・・・!」
「・・・冗談・・・死んじまう・・・。」
 そして、二人の間に会話は生まれなくなった。刻々と過ぎる時間の中、気温は上昇していく。二人は限界に来ていた。
「あかね・・・!」
 乱馬は名を呼ぶと、勢い良く立ち上がった。
「・・・・・・何・・・?」






「ああ・・・涼しい・・・。」
 あかねはうっとりと呟いた。
「最初からこうしてればよかったな・・・。」
 あかねの言葉に同意するかのように乱馬も呟いた。
 二人は今、商店街の一角にある喫茶店に来ていた。結局、二人は暑苦しい家から逃げる事にしたのだ。
「何かたのむか?」
「そうね、喉渇いたし・・・。」
 意見が一致した事を確認すると、二人はドリンクを頼んだ。二人ともアイス・コーヒー。
「・・・にしても、何で居間にクーラーがなくてあかね達の部屋に・・・――っあ!」
「っ!・・・な、何よ・・・!急に大きな声出さないでよ!」
「お前達の部屋にクーラーあるじゃねぇか!!」
 乱馬は身を乗り出してあかねに言った。
「故障中、って言わなかったかしら?」
「・・・へ・・・?」
 思わず間の抜けた声を出す乱馬。
「・・・聞いてなかったのね・・・。」
「・・・聞いてねぇよぉ・・・。」
 乱馬は力無く項垂れた。
「故障してなかったら、今迄あんな風にへばってる事無かったわよ。」
 あかねは、淡々と答える。
 そんなあかねを乱馬は恨めしく睨んだ。
「・・・何で故障すんだよ・・・。」
「しょうがないじゃない。形ある物は壊れるものよ。」
「・・・妙なところで理屈をこねるな・・・。」
 あかねの(ある意味)正論な回答に乱馬は其れしか言う事が出来なかった。
 其れからというもの、二人で他愛の無い会話をしながら時間をつぶした。傍から見れば仲の良いカップルにしか見えていない事に、二人が気付く事は無かった。
 まぁ、其れだけお互いに会話に夢中になっていただけで・・・。
「ところで、何時まで居るつもり?」
 陽が傾いてきた頃、あかねが何の前触れもなく尋ねてきた。
「んあ?・・・今何時・・・?」
 そう言って、乱馬は店内を見渡した。
「・・・4時か。・・・そろそろ戻るか?」
「そうね、誰か帰って来てるかも知れないし。」
 二人は同時に席を立ち、店を出た。
 気温も幾分か下がっており、丁度良い位になっていた。
「・・・さっきよりは・・・マシか・・・?」
 疑問形。
 幾ら気温が下がったとは言え、店内の方が遥かに涼しく・・・其れは当然の事なのだが。
「・・・まぁ、さっきよりはね・・・。」
「・・・早く帰ろうぜ。」
 乱馬は、まだ微かに身体に残る心地良い冷感を手放すまいとあかねを急かした。
「はいはい・・・。」
 あかねは、幼さを見せる乱馬を少し微笑ましく思いながら、先を行く乱馬の背中を眺めながら歩いた。
 蒸し暑い6月の一日・・・。






作者さまのコメント

 お久しぶりです。ayaです。
 高校生活にも慣れてきて、自分の時間を次第に作れるようになったので、暇な時間で
 書き上げたお粗末な作品ですが、久々に投稿してみました。

 六月。まだ夏の入口で暑いと言っていたら、真夏はどうするんでしょうか?それまでにはあかねちゃんの部屋のエアコンが直るかなあ。
 蒸し暑さだけで言うと、真夏よりも梅雨時の方が、ジメジメ大変かもしれません。但し、関西人の私から見れば、関東の梅雨の暑さなんて、序の口かも。
 京都の梅雨なんて、それは…。地獄です。
 まあ、別の意味でも、二人の夏は暑そうではありますが…。
(一之瀬けいこ)



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