◆満月の下で
ayaさま作


 ある夜,あたしはふと,目を覚ました。
 時刻は・・・午前2時。
 もう一度眠ろうと瞳を閉じたけど,どうも眠れない。
 すっかり目が覚めちゃったみたい。
 このままベッドの中にいようかと考えたけど,やっぱり止めた。
 あたしは,部屋を出て台所へ向かった。喉が渇いたから・・・
 コップ一杯の水を飲み干すと,窓の外に眼を遣った。
 雲一つ無い,綺麗な星空。
 あたしは堪らず外に出た。
 音をたてないように,玄関の戸を開ける。
 すると,足下に家の形からして考えられない不思議な影が出来ていた。
 あたしは,顔を上げてみてみた。
 誰か居るみたい。
 近くに有った梯子を持って来て屋根に掛けた。
 慎重に登る。落ちないように。
 覗き見るようにして屋根の上を見ると,其処には乱馬が居た。
 月明かりに照らされた乱馬の横顔はとても格好良くて・・・・・・綺麗だった・・・
 一瞬見とれてしまった。あたし,今顔赤くないかな・・・
 乱馬は,あたしのことに気が付いてないみたい。
 ずっと,正面を見たまま。
 何をしてるのか気になって,
「何してるの・・・?」
 聞いてみた。
 そうしたら,
「・・・満月・・・」
 驚きもしないで,すっごく短く答えたの。しかも,あたしの方を見ようともしないで。
 ちょっとムッと来たけど耐えて,乱馬が見てる方を見た。
・・・大きな満月・・・
 あたしは言葉を失った。
 今まで,気が付かなかったのが不思議なくらい,大きく,輝いていた。
「・・・綺麗・・・」
 独り言みたいに口にした。
 そしたら乱馬が,
「・・・だろ?・・・目が離せないんだ・・・」
目を細めて言ったの。
 あたしは,乱馬の隣に腰を掛けた。
「何時から見てたの?」
って聞いたら,
「わかんねぇ・・・」
だって。
 分らなくなるくらい長く?分らなくなるくらい見入ってた?
 どっちかな・・・
「今何時?」
 乱馬がいきなり聞いてきた。
「ん〜・・・2時過ぎた頃」
 あたしが目を覚ましたのが,2時だったから・・・
「んじゃ,30分くらい見てた」
「さ,30分も見てたの?」
 よくもまぁ・・・飽きもせず・・・
「飽きないんだ・・・」
「ふ〜ん」
 そう言って,あたしも月に眼を遣った。
 ・・・乱馬が飽きずに30分も見れてたことが肯ける・・・ホントに綺麗だもの・・・
 太陽の光を正面から浴びている月は,何時もとは違う橙色。
 17年間生きてきたなかで,満月なんて何度も見てきたけど,今夜の満月が特別綺麗に見えるのは,隣にいる乱馬の所為?
・・・あたしは,そっと乱馬に寄り添った。
 乱馬は何も言ってこない・・・
 今気付いた・・・。
 座ってても,乱馬の肩があたしの目の高さにあるって事。
・・・乱馬,慎重伸びたもんね・・・
 一年前と比べて、身長伸びたし、顔付きも変わった・・・凛々しく、落ち着きも出てきた。前とは比べ物にならないくらい強くもなった。
 乱馬の魅力が増えた所為で、シャンプーや右京、小太刀以外にも女の子達が乱馬に言い寄ってくる・・・。
 靴箱には、大量の手紙。耐えることがないの。
 前に見せてもらったら、同じ娘から何通もきてた。
 一年前まではそんな事なかったのに・・・
 急に,乱馬が気になったから,見てみたら・・・顔が紅い・・・
 満月だから,月明かりではっきりと分かる。
「・・・っぷ・・・」
 そんな乱馬がちょっと可愛く見えて,吹き出しちゃった。
「な,何だよっ////」
 クスクス笑うあたしを見て乱馬が言った。
 さっきより顔が紅くなってる。
 益々笑いが止まらなくなった。
 顔が紅いよって言ったら,き・・・今日は暑いからなっ////・・・だって。
 暑いって言えるほど,気温は高くないのに・・・
 下手な言い訳。
 もう止まらない。笑いが・・・。乱馬が可愛くて,可笑しくて。
 そしたら,乱馬ったら顔を浮腫ませて向こう向いちゃった。
 子供ね・・・
 そんな乱馬が愛らしくて,あたしは,乱馬の身体に腕を回したの。
 乱馬も,あたしを見て・・・笑ってくれた・・・
 とっても優しい笑顔・・・
 どんな高価な物よりも,輝いて見えた。
 乱馬が,格好良くて堪らない衝動にかられた。
 胸が高鳴る。
 この男(ひと)さえ居てくれれば,他には何も要らない。
 家も,お金も,洋服も・・・
 本当にそう思った。
 あたしは,顔が火照るのを感じて,乱馬の逞しい胸に顔を押しつけた。
 そして,
「・・・今日は暑いわ・・・身体中が火照ってしょうがないの・・・」
って言ったら,乱馬もあたしの肩を抱いてくれて,
「・・・俺もだよ・・・」
って言ってくれた。
 顔を上げると,乱馬の顔が直ぐ近くにあった。
 あたしは,乱馬の顔が近付いてくるのが分かって,自然と瞳を閉じた・・・
 次の瞬間唇に甘い感触・・・
 胸の高鳴りが,一段と増したみたい。
 乱馬に聞こえてしまうんじゃないかってくらい。
 ほんの数秒のことが,凄く長く感じた。
 全てがスローモーションのように・・・
 あたし達は,唇を一度離し,もう一度口づけた・・・
 今度は,熱く,深い・・・キス・・・
 何時の間にか,あたしは乱馬の首と頭に腕を回していた。
 乱馬も,あたしを抱き締める腕に力が籠もってる。
 あたしには,其れが嬉しかった。



 満月の下で,あたしと乱馬は再度,互いの気持ちを確かめ合った・・・








作者さまのコメント

今日は、ayaです。再びです。
私、満月大好きなんですよねぇ。
だから、書いてみたかったんです。
月って、裏側が見えないじゃないですか、
其れがちょっと悲しいんですよねぇ・・・。
月と乱馬×あかねの描写も書いてみたかったんです。



 月と文学は切っても切り離せない関係にあります。
 古来から月を愛でる風習がある日本では、月を巡る言葉の語彙(ごい)も豊富です。
 空にぽっかり浮く月を見上げながら乱あ妄想するのが大好きな私も、良く月の描写を使います。題名にも良く使われます。
 月の裏側を見るためには飛ばなきゃならないんですね。でも見えないこそ、風情があるのかもしれませんが。
(一之瀬けいこ)




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