◇別れ・・・そして始まり・・・ その3
ayaさま作


 乱馬はとある場所に来ていた。
 小高い丘の一郭,見晴らしがよく,乱馬しか知らない。乱馬は髪を切っていた。良牙と同じくらいに。


(此処に来るのも久しぶりだな・・・。・・・あのときから約一ヶ月・・・か。・・・あんまり長居すると,思いを断ち切れなくなるな・・・。もう,行こう)
 乱馬は立ち上がり,山の中へ入っていった。まだ昼間だというのに,山の中は暗かった。
(とりあえず,南下するか)
 乱馬は南へ歩を進めた。
ガサッガサガサガサッ・・・ザッ
「なっ・・・!!」
「乱馬!」
「シャンプー!」
 激しく草木が擦れ合う音と共にシャンプーが姿を現した。
「なんでっ・・・!」
「ヒュィ〜〜〜〜〜!!」
「!!」
シャンプーは指笛を鳴らした。
「シャンプー!!見つけただか!?」
「げ!!」
「乱馬ー!!」
 シャンプーの指笛を聞きつけ,良牙とムースが現れた。
「!」
「乱馬,あかねが乱馬の帰りを待てるね!」
「・・・」
「乱馬,あかねさんに会ってやれ・・・」
「・・・」
「あかねはおぬしの所為で倒れたのじゃぞ!」
「なっ!たおれっ・・・!」
「そうじゃ!」
「・・・」
「乱馬・・・」
「・・・俺は・・・二度と戻らないって決めたんだ・・・!」
「何をそんなくだらないことに拘っているんだ貴様は!!一目だけでもあってやれ!!」
 良牙は,乱馬の胸座を掴んでいった。
「彼奴は,俺と許嫁なんて事考えると虫唾が走るって言ったんだ!!」
「言葉の誤ってもんがあるだろうが!」
 良牙は手を離し,言った。
「会ってやれ!あかねさんのためにも・・・!あのままじゃ,あかねさんが死んでしまう!!そうなったら乱馬,貴様の所為だぞ!!!」
「・・・・・・」
「乱馬!」
「俺は・・・俺はあかねには会えない・・・」
「会ってやれ!!」
「・・・駄目だ・・・」
「何故だ!?言ってみろ!」
「会ってどうなる!?またよりを戻せて言うのか?!考えてみろ!お前だって好きでもない奴と一緒になんかなりたくないだろ?!」
「乱馬,お前はあかねさんのことどう思っているんだ」
「・・・たい・・・。守ってやりたいって思ってたさ!!」
「なら何で会わない!!其処まで思っていて何でっ」
「・・・俺があかねと会って,彼奴が元気になるとでも・・・?・・・俺じゃ駄目だよ・・・元気になるわけがねぇ・・・」
「馬鹿野郎!!だったらっこんな風にお前を捜しに来てねぇよ!!いつもはあかねさんの敵側にいるはずのシャンプーでさえも来ているんだぞ!!」
「・・・私,一応あかねをライバルとして認めてるね。だからこそ,心配ね!」
「乱馬・・・あかねさんは泣いていたぞ・・・。お前に会いたい・・・謝りたいと言っていたぞ・・・!」
「・・・俺が勝手に出ていったんだ・・・謝られる理由は・・・ない・・・」
「・・・・・・乱馬,お前が其処まで意地をはるんなら・・・」
ポキポキ・・・
 良牙が指を鳴らした。
「な,何する気だよ・・・」
「半殺しにしてでも連れて行く・・・!」
「おらも参加するだ!!」
「ちょ,ちょっと待てよ!!」
「問答無用!!」
 良牙とムースが一斉に乱馬に向かって行った。乱馬は腰を低く構え,二人の間に素早く走り込んだ。
「な゛・・・」
「に゛ぃ・・・?」
ドサドサッ
 二人は地面に伏した。乱馬は二人の間に飛び込んだときに二人の腹部に5発ずつパンチをくらわせていたのだ。一秒にも満たない一瞬の間に二人合わせて10発拳を繰り出していた。
(な,何て早さね・・・!)
「だからちょっと待てって言ったのに・・・」
「ぐっ・・・乱馬・・・!貴様何時の間にそんな・・・!」
「俺は中国に渡って,中国の強者達と戦ってきた。お前ら以上の奴等が大勢居たよ。そのおかげで随分と鍛えられた。もう、前までの俺じゃねぇ・・・」
「くそっ・・・」
「・・・お前らが・・・其処まで・・・いうんなら,一緒に行ってやってもいい・・・」
「なっ・・・!」
「本当あるか?!乱馬!!」
「いっとくけど・・・会うだけだからな・・・」


「おおっ・・・!乱馬君っ・・・,よく来てくれた!!」
「・・・お久しぶりです・・・」
「さあ,あかねに・・・」
「・・・」
 乱馬は玄関に荷物を下ろし,2階のあかねの部屋に向かった。
カチャ・・・
「・・・・・・!」
 乱馬の目に飛び込んできた物は,ぐったりと横たわるあかねの姿だった・・・。
「だ・・・れ・・・?」
「・・・」
 あかねはゆっくり体を起こし,顔を上げた。
「!!」
 乱馬は俯いたままあかねと目を合わせようとしない。
「ら,らん・・・・・・ま・・・!!」
「・・・」
「・・・っ乱馬ぁーーー!!!」
 あかねは,走って乱馬のところに行き抱きついた。
「・・・な・・・・」
「ごめんっ・・・な・・・さいっ,ごめんなっ・・・さ・・・・」
 あかねは“御免なさい”を連呼した。
 乱馬は,どうしていいのか分からなかった。ただ立ち尽くすしかなかった。
「・・・お・・・俺は,お前に一目だけでも会えって言われて・・・。」
「・・・っく・・・ひっく・・・」
「俺は・・・会いに来ただけだから・・・」
 乱馬はあかねを自分の身体から離そうとした。
 だが、あかねはしっかりと乱馬に抱きついていて、離れようとしない。
「そんな事・・・言わないで・・・」
「俺は・・・ここに居る訳にはいかないんだ・・・っ」
「お願い・・・傍に居て・・・」
「あかね・・・」
「あんな言葉,本当は心にもないことなの!!ついっ・・・口走って・・・!!あの後・・・凄く後悔してっ・・・まさか・・・出て行っちゃうなんてっ・・・」
「俺に・・・どうしろって言うんだよ・・・っ」
「帰ってきて・・・お願いだから・・・!」
「・・・嫌われたと・・・思った・・・此処には居られないと思った・・・。だから・・・俺は・・・」
「・・・っ違うっ・・・嫌ってなんかっ・・・・ないっ」
「・・・」
「嫌ってなんか・・・」
「・・・・・・あかねが・・・俺のことどう思っているのか・・・知りたい・・・」
 暫しの間。そして・・・、
「・・・・・・・き・・・。好きよ・・・貴方以外なんて考えられない・・・」
 其れを聞いた乱馬は一瞬戸惑ったものの,あかねを強く抱き締めた。
「・・・この思い,終わりにしようと決めたんだ・・・!今だって,会うだけのつもりだった。・・・思いを捨てるために髪も切って・・・でも,無理だった・・・!あかねっ・・・好きだ・・・!愛してる・・・」
「ら,乱馬ぁ!!」


“よりを戻そう・・・。親同士が決めた許嫁じゃなくて,俺たちの意志で・・・。一から・・・始めよう・・・。”
“おねがいっ・・・乱馬離さないで・・・!ずっと一緒にいて・・・・”






ayaさまより
長く掛かってしまいましたが、いよいよ完結です。
ご愛読有難うございました。
これからも、少しずつ投稿させてください。
宜しくお願いします。



 こちらは、ayaさまの呪泉洞処女投稿作品です。当時まだ中学生だったayaさまですが、拙さの中にもしっかりと言葉を選んで書こうとされているのが伝わってきました。
 文章を書き進めるうちに、投稿を重ねるうちに投稿者の成長が伺える…。そんなことを感じ取るのも、投稿サイト運営の醍醐味の一つでもあります。

 トレードマークのおさげ髪を切った乱馬。髪を切るには、色々な思いがあったのでしょう。
 はじめの一歩から次の一歩へ。そんな新たなスタートラインに立つ、乱馬とあかねの情景が浮かんできます。
(一之瀬けいこ)





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