◇別れ・・・そして始まり・・・  その2
ayaさま作



此処は,とある山奥。其処には,多い茂る木々の枝を足場にもの凄いスピードで移動する少年の姿があった。
乱馬だ。
乱馬が天道家を出て3日。この3日間,乱馬は殆ど休まずに移動していた。余計なことを考えてしまうから。
(そろそろ海が見えるはずだ・・・。・・・おっ,ビンゴ・・・!)
乱馬の目前には青々とした海が広がっていた。
(前みたいに,泳いでいくしかないよな・・・。命の保証はないけど・・・。完全な男に戻りてぇし)
乱馬は中国を目指していた。呪泉郷の呪いから解放されるべく。
(・・・行くか・・・)
乱馬は海に飛び込んだ。
>

(乱馬が出て行ってからもう一週間・・・今頃,何処で何してるのかな・・・)
「行って来ます・・・」
「大丈夫なの?何も食べなくて・・・」
「・・・いらないの・・・」
あかねは,家を出た。
この一週間,特に変わったことが無く静かだった。乱馬に熱愛している三人娘も音沙汰がない
まるで,乱馬が来る前のようだ。。
あかねには,町全体が静かに感じてならなかった。
“あかね・・・”
「!!」
あかねは慌てて振り返った・・・しかし,其処には誰もいなかった。
(今,乱馬の声が・・・。・・・馬鹿ね・・・そんなことある分けないのに・・・)
あかねの目には涙が溜まっていた。


−数日後−

「我々は此処を出ることにしたよ,天道君」
それは,皆が集まる朝食の時のことだった。
「な,何を急に言い出すんだね,早乙女君!」
「・・・乱馬とあかねちゃんとの・・・許嫁が解消された今・・・私達が此処にとどまる理由は・・・なくなりました」
そう言ったのどかはどことなく元気がなかった。
「今まで,散々天道君達には迷惑を掛けてきた。これ以上の迷惑を掛けることは出来ん」
「で,でも・・・何処に・・?」
「・・・前に,私が住んでいた所がまだ空いてるそうなので,其処に・・・」
「・・・・・・」
玄馬とのどかは姿勢を正し,頭を下げた。
「長い間,色々と世話になった。この恩は決して忘れはせん!!」
「・・・何時・・・此処を・・・?」
「明日にも出ようと思っている・・・。」
「・・・そうか・・・寂しくなるなぁ・・・」
そして翌日,早乙女夫婦は天道家を出た。


「あかね,ホントに只の喧嘩なの?」
「乱馬君,もう二週間も学校に来てないのよ?」
「・・・お願い・・・聞かないで・・・」
「・・・あ・・・御免・・・」
「・・・いいの・・・,気にしないで・・・」
あかねはそのまま立ち上がり,屋上へ行った。
(二週間・・・。前の生活に戻ったはずなのに・・・乱馬達が来る前の生活に・・・!)
あかねは崩れ落ち,涙を零した。
(・・・何処に行っちゃったの・・・?・・・乱馬・・・!)


「・・・ご馳走様・・・」
「あかね・・・ちゃんと食べないと,倒れてしまうわよ・・・」
「・・・」
乱馬が消息を絶ってから三週間経っていた。あかねは食べ物を殆ど口にしてはいない。なんとか,茶碗の半分を食べるくらい。体重は減り,窶れ,顔色も悪い。口数も減った。眼も虚ろだ。
「あかね・・・!」
「いってきます・・・」
「あかね・・・!!」
あかねは,重い足取りで学校に向かっていた。考えることはいなくなってしまった乱馬のことだけ。その他のことは考えられなくなっていた。
「あかね?ちょっと大丈夫なの?最近変よ?お昼は何も食べないし・・・」
「それに,こんなに痩せて・・・!何があったの?」
周りの友達があかねの身を案じて話しかけてきたが,そんなことはあかねの耳にも入っていなかった。
「ねぇ,あか・・・え!?ちょっ・・・!あかね!?」
ガターン
あかねが椅子と一緒に倒れてきた。
「あかね!?あかね!!しっかりして!!」
(ら・・・ん・・・・・・ま・・・・・・)


「・・・」
目を覚ましたあかねが見た光景は,見慣れた自分の部屋だった。
「・・・あかね・・・目を覚ましたのね・・・」
視線の先には,長女かすみがいた。
「あかねが倒れたって電話が掛かってきて吃驚したのよ。お医者様がね,極度の精神的疲労と,栄養失調の所為だろうって,暫くは絶対安静だって・・・」
「・・・」
あかねは小さく口を開いたまま話そうとしない。
「・・・何か食べる?」
あかねは小さく首を横に振った。
「そう・・・,また少し寝るといいわ・・・。何かあったら呼んでちょうだいね・・・」
「・・・」
パタン・・・
かすみは,そう言い残すと部屋を出た。
あかねは,ボーっと天井を見つめ,そして一筋の涙を流した・・・。
(らん・・・・・・ま・・・)


「かすみ,あかねは・・・?」
「起きたわ・・・。でも,話そうとしないの」
「まさか,こんな事になるなんてなぁ・・・思いもしなかったよ・・・」
「このままじゃ,あかねは・・・」
「うん,何とかしなければならないね・・・」

−一週間後−

「・・・今日も・・・天気がいいあるな・・・」
シャンプーが,店から出てきた。しかし,その表情には活気がない。
コツン・・・
「ん?何あるか,これは」
シャンプーの足下には小さめの瓶が3本置いてあった。
「“娘溺泉”“男溺泉”?!」
手に取った瓶には確かに“娘溺泉”“男溺泉”と書かれていた。
男溺泉と書かれた瓶が2本,片方には“良牙”と書かれていた。
「ひ,曾ばあちゃん!!」
「なんじゃい,シャンプー,そんなに慌てて・・・」
「これが,表に置いてあたある!!」
シャンプーはテーブルの上に瓶を置いた。
「こ,これは・・・!呪泉郷の水か!?」
「みたいある・・・」
「しかし,何故このようなものが・・・」
「・・・乱馬・・・。こんなことするの,乱馬しかいないある・・・!」
「・・・婿殿は呪泉郷へ行ったのか・・・。だとすれば,教えてやった方がええかもしれんな・・・」
「・・・あかねにか・・・?」
「倒れたと聞いたんでな・・・」
「・・・」


「あかね,Pちゃんが帰ってきたわよ・・・」
あかねは視線を向け,また天井に戻した。
「ぷぎ〜?」
「・・・だ・・かせ・・・て・・・」
あかねが掠れた声で言った。
「ええ・・・」
かすみは,Pちゃん(良牙)をあかねの顔のすぐ横に座らせると,静かに部屋を出た。
「ぷぎ〜・・・」
「・・・お・・・いで・・・」
あかねはゆっくりとPちゃんの身体に手を回した。
「あの・・・ね,ら・・・んま・・・が,で・・・てい・・・たの・・・」
あかねは,泣きながら話した。
「あ・・・たし・・の,くだ・・・ら・・・ない・・・や・・・き・・・もち・・・で・・・ケ・・・ンカ・・・してっ・・・」
あかねは,あのときのことを悔やんでいた。ずっと後悔していた。
「・・・・・・ったい・・・・・!ら・・・んま・・・・・・に,あ・・・・い・・た・・・・・・い・・・・・!」
今まで,ずっと溜め込んでいた気持ちを吐き出して気が抜けたのか,声を出して泣いた。
バタンッ
「あかね?!どうしたの?」
かすみ達が,あかねの泣き声を聞いて駆けつけた。
「あかね?」
「・・・・んでも・・・・・い」
「・・・・おいで,Pちゃん。今はそっとしておいてあげましょう・・・」
「ぷぎぃ〜・・・(あかねさん・・・)」
かすみ達は,居間に下りてきた。居間には,シャンプーとコロンが上がり込んでいた。
「あら?猫飯店の・・・」
「声を掛けたが,返事がなかったのでな,勝手にあがらせてもらったんじゃ」
「今日は,出前は頼んでは・・・」
「いやいや,今日はちと別の用でな・・・」
「何か?」
「これを・・・見て欲しいね・・・」
シャンプーは,持ってきたバッグの中から3本の瓶を出した。
「これは・・・?」
「瓶に貼ってある紙を見てみぃ」
「・・・・・・これは,呪泉郷の・・・!!」
早雲は驚きの声をあげた。
「そうじゃ・・・」
「一体・・・何時こんなものを・・・?」
「儂たちではない。・・・シャンプーが,婿殿ではないかと言い出すんでな・・・」
「乱馬君が?!」
「確信しているわけではないのだが,こんな事をする者はどう考えても婿殿しか・・・」
「じゃあ,まだ近くにいる可能性は・・・!」
「いや,わからん・・・何時置かれたかも知れん。其れに,見つけてからも時間が経っている。」
「・・・」
かすみは,瓶の一つを手にとって立ち上がった。
「かすみ?」
「あかねに教えてあげるの・・・」
かすみは,あかねの部屋へ行った。
「あかね・・・これ,見て」
「・・・?」
あかねは瓶を見て目を大きく見開いた。
「こ・・・・れ・・・・」
「そう,呪泉郷の水だって・・・。シャンプーちゃん達が持ってきてね,乱馬君じゃないかって言ってるの・・・」
あかねはそれを聞くと,体を起こし,瓶を手に取った。
「らん・・・ま・・・!!」
あかねの顔は,既に涙でくしゃくしゃになっている。
「・・・まだ・・・近くに・・・」
「分からないわ。もう時間が経ちすぎているから・・・」
「あ・・・たし,・・・がす・・・」
「え?」
「乱馬・・・を,さが・・・す」
「駄目よ,あかね,安静にしてなくちゃ・・・!」
「いや・・・!こんな・・・話聞いたら・・・じっとしてられな・・・い・・・!!」
「あかね・・・」
「あかね!!」
「?」
「・・・乱馬捜す,私に・・・任せるね・・・」
いつもは,邪魔する側に廻るシャンプーも,今回はあかねに協力した。
「シャ・・・ンプー・・・?」
「私・・・そんなあかね,見てられないね・・・。何日掛かても必ず見つけるある!」
「あかねさん!!俺も加勢します!」
元に戻った良牙が部屋に入ってきた。
「良・・・牙・・・君」
「シャンプー!おらもいることを忘れるなぁ!!」
「ムース!お前何時来たか!」
「今だ!」
「あ・・・・りが・・・と・・・」
「そうと決またら早く行くね」
『おう!!』
シャンプー,ムース,良牙は一斉に駆けだした。


  乱馬が消息を絶って・・・約一ヶ月


つづく




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