◇別れ・・・そして始まり  その1
ayaさま作


・・・最初は些細な喧嘩だった。
最近,シャンプーや右京,小太刀が異常にモーションをかけてくる。乱馬は曖昧な態度で逃げ回るのみ・・・。あかねはストレスの溜まる一方だった。
ある日,溜めるに溜めたストレスが爆発した。
今,天道家には乱馬はいない。天道家4人はもとより,早乙女夫婦がいる(+八宝斎)。
乱馬が天道家を出て既に一週間が経とうとしていた。

−数日前−
「乱馬の馬鹿ー!!」
「なっ・・・お,俺が何したっていうんだよ!」
「毎回毎回シャンプーなんかと抱き合って!!」
「抱き合ってねぇ!!抱きつかれるんだ!!」
「同じじゃない!!このっ優柔不断男!!だから,いつまで経ってもシャンプーや右京,小太刀に付け回されるんじゃない!!」
「俺だって迷惑だよ!!何時も何時も鬱陶しい!だけど,傷付けられねぇだろ?!」
「だから万年優柔不断なのよ!!傷付けること怖がってちゃ状況は変わらないじゃない!!」
「優柔不断,優柔不断って何度もうるせぇ!!寸胴!!」
「何ですって!?大体ねぇ,何時も逃げ回るだけだからあの3人も付けあがるんじゃない!!少し突き放すような態度取ったって罰は当たらないわよ!!」
「〜・・・!!っもう少しましなヤキモチの焼き方は出来ないのかよ!!」
「ち,違うわよ!!自惚れないでよね!?」
「大体なぁ,どうしてお前に俺の身の回りのこと指摘されなきゃなんないんだよ!!」
「!!っ・・・」
パァンッ
あかねの平手打ちが乱馬の頬に炸裂した。
「・・・っ何で俺がぶたれなきゃなんないんだよ!!!」
「・・・あっ・・・あ,あんたみたいな男が・・・あたしの許嫁だなんて・・・虫唾が走るわ!!」
「何でっ・・・そこまで言われなきゃなんないんだよ・・・!!!」
「大体っ許嫁なんてあたしは最初から嫌だったんだから!!」
「・・・そぉかよ・・・じゃあ!今すぐにでも許嫁を解消して出てってやるよ!!」
乱馬はその場から立ち去ってしまった。
あかねは乱馬をぶった手を黙って見つめていた・・・。

その日の夜,乱馬は夕食の席には来なかった。あかねの尋常でない雰囲気に二人の間に何かあったと誰もが悟ったが,いつものことだと思いそのときは聞こうとはしなかった。
・・・全員が寝静まる深夜,乱馬は旅用のリュックを背負い両手には大きめのダンボール。
静かに階段を下りて,居間へ行った。
静かだった・・・。時計の動く音しか聞こえない・・・。
乱馬はリュックから綺麗に折り畳まれた紙を取り出し,テーブルの上に置いた。
「・・・」
(・・・もう,此処には戻らない・・・)
乱馬は音をたてずに玄関を出ると,何時もゴミを出すところにダンボールをおいた。
そして西へ駆けだした。その背中はどこか淋しげだった。

朝,かすみは一番に起きる。朝食の用意をするため。
「確か,今日はゴミ出しの日ね」
かすみはゴミ袋を重そうに持って,ゴミ収集場へ持っていった。
(あら?何かしら,このダンボール・・・)
かすみは不思議そうに見ていると,ダンボールから赤い布がはみ出ていた。
(これ・・・)
かすみは,悪いと思いながらもダンボールを開けてみた。
「!!これは・・・!」
かすみはダンボールを抱え家の中へ入り,居間へ行った。まだ誰も起きてきていない・・・。
ダンボールの中身をもっと詳しく確認しようとテーブル上に置いたとき,一枚の折り畳まれた紙を見つけた。
「何かしら・・・」
かすみは,開いて中を読んだ。
「え・・・!?」
かすみは急いで2階へ上がり真っ先に早乙女一家が使っている部屋へ向かった。
「あら,かすみちゃん,どうしたの?」
「ら,乱馬君が・・・!」
「乱馬ならもう起きているんじゃないかしら?」
「そ,それが・・・!」

・・・居間は静まりかえっていた。
早雲が手紙を読んでいる・・・。
手紙にはこう書かれていた・・・
『長い間,御迷惑を掛けておきながらこのような勝手な申し出をすることをお許しください。
許嫁の話,無かったことにして下さい。天道家を出て,修行の旅に出ます。もう二度と戻りません。大変お世話になりました。          乱馬』
「・・・」
「・・・あかね・・・」
「・・・あんな奴居なくなって清々してるわ・・・!どうせ,暫く経てば戻ってくるわよ・・・!あたし,学校いってくるっ」
「あ,あかね!!」
かすみを止めようとしたが,あかねは走って家を出た。

この日から,乱馬は暫く消息を絶つことになる・・・。


(・・・どうせ,すぐに帰ってくる・・・。大丈夫よ・・・)
あかねは沈んだ気持ちで学校へ行った。
(・・・でも・・・,ぶったのは拙かったかな・・・)

ガラッ
「あ,あかね,お早う」
「・・・あ・・・お早う・・・」
「?何か元気がないみたいだけど・・・」
「え?気のせいよ・・・」
「ねぇ,乱馬君は?」
「え・・・。さ,さぁ」
「まーた,喧嘩でもしたんでしょ?」
「う゛・・・」
「懲りないはねぇ」
「ほ,ほっといてよ・・・!」
あかねは,席に着きため息をついた。
暫くして,予鈴が鳴り先生が入ってきた。
「天道,ちょっといいか?」
「はい?」
SHR(ショートホームルーム)が終わると,先生はあかねを呼んだ。
「何でしょう?」
「いや,早乙女のことなんだが・・・」
「・・・何か・・・?」
「何か,あったんじゃないか・・・?」
「え・・・?あ・・・いえ・・・」
「いや・・・な,今日朝学校に来たら机の上にこれが置いてあってな・・・」
取り出したのは一枚の封筒。其処には“退学届”と書かれていた。
「!こ・・・れ・・・」
「先生も信じられんでな・・・。まだ校長にも他の先生達にも見せておらんのだ・・・」
「・・・」
ダッ
あかねは急に走り出した。
「おいっ!天道!?」

ガラッ
「あら・・・あかね?学校は?」
「それよりっこれぇ!!」
あかねは,先生から渡された封筒を出迎えたかすみに見せた。
「何?・・・退学届?」
「乱馬が置いていったらしいの・・・!」
「え?!・・・とりあえず,あかねは学校に戻りなさい・・・。その格好だと,鞄置いてきたんでしょう?」
「・・・はい・・・」
あかねは,かすみに言われたとおり学校へ戻った。
(・・・まさか乱馬,あの置き手紙に書いてたとおりもう二度と戻らない気じゃ・・・)
あかねは学校についても,ずっとそのことを考えていた。
昼休み,あかねは帰る用意をしていた。
「あれ?あかね帰るの?」
「・・・うん・・・。ちょっと・・・」
「・・・乱馬君今日来なかったけど,そんなに酷い喧嘩したの?」
「・・・」
「仲直り・・・出来そう?」
「・・・」
「・・・あかね?」
「あたし,もう行かなくちゃ。また明日ね」
「え?あ,あかね?」
あかねは教室を出ると走って家に帰った。
「ただいま!」
「あかね?学校・・・」
「早退してきた・・・」
「・・・あれ,お父さん達に見せたから」
「うん・・・」
あかねとかすみは居間へ行った。
「ただいま」
「おかえり,あかね・・・」
「封筒の中身は?」
「学年,組,出席番号,名前が書かれた紙が一枚だけ。理由などは書かれていないよ」
「・・・そう・・・」
「何処に・・・行っちゃったのかしらね,乱馬は・・・」
のどかの目は潤んでいた。
「おばさま・・・」

夕食時,雰囲気は暗かった。
誰か一人でも欠けるとこうなのか・・・だが,理由はそれだけではなかった。
「ごちそうさま・・・」
「あかね?もういいの?」
「・・・食欲無いの・・・」
出された半分も食べてはいなかった。
あかねは,力なさげに立ち上がると,居間を出た。
「何だかんだ言っても,一番ショックを受けているのはあかねよね・・・」
なびきが独り言のように呟いた。

あかねは,ベッドに俯せになって顔を伏せていた。
(あんな奴居なくたって,平気よ・・・。・・・平気なんだから・・・)


つづく



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