◇天使と人間の恋 第四部
ayaさま作


 あかねはどうにか家に辿り着いた。歩いてきた道など覚えていない。
 力なく歩いて、玄関の中へ入っていく。
 すると奥から、パタパタとスリッパの音を立てて歩いてくるものがいた。
「あかね?早かったのね。もう少し、遅いと思っていたけど・・・。」
 廊下の奥からひょっこり顔を出す。かすみだ。
「あら?乱馬君は?」
 一緒に出た筈の乱馬が居ない事に気が付き、聞いてきた。
 しかし、あかねは何も答えない。
 かすみは、あかねの尋常でない様子に気が付き、
「・・・何か・・・あったの?」
と、問う。
 よく見ると、あかねの身体が微かに震えている。
「あかね・・・?」
「・・・っかすみお姉ちゃぁーん!!」
 あかねは、かすみにしがみつきわぁっと泣き出してしまった。
「あかね・・・。」




「・・・入りなさい・・・。」
 導かれたのは、神秘的な部屋だった。とても広く、美しい・・・。どこかのお城のような内装だった。
 初めて踏み入れる聖域。初めてお目に掛かる・・・大界神・・・。
 乱馬は、白い服に身を包み、羽を出していた。乱馬、本来の姿。
 天界神に率いられ、大界神の前まで来た。
 乱馬は膝まづく。
「よく・・・無事で帰ってきた・・・。」
  大界神は語り始めた。
「・・・と、言っても・・・強制的だったな・・・。すまないと思っている。」
  大界神は暗い表情を浮かべた。
「しかし、掟は掟・・・何億年も昔から定められている事。・・・もう少し早く対処していれば・・・この様な事も無かったのだが・・・。」
 話は続く。
「お前には、辛い思いをさせる・・・。しかし、お前には有望な未来がある。
 ・・・辛いのは最初のうちだけだ。耐えてくれ・・・すまない・・・こうでもしなければ、お前は掟に背き続けるだろう。
 掟に背き続ければ、お前は・・・消滅する事になる・・・。」
 乱馬はこの話を腸(はらわた)が煮えくり返る思いで聞いていた。
「しかし、掟に背いたものには其れなりの処罰を与えねばならん・・・。」
 今まで、隅の方で話を聞いていた天界神が動いた。乱馬の近くにより、立たせる。
 これまで、終始口を噤んでいた乱馬が口を開いた。
「・・・俺は・・・あいつと・・・少しでも・・・長く・・・一緒に、居れさえすれば・・・消滅しても・・・構わなかった・・・!」
「乱馬よ・・・大界神様に向かってなんと言う口のききよう・・・!」
「天界神よ・・・構わぬ・・・。」
 天界神と乱馬は、大界神のいる部屋を出た。
 そして、乱馬が連れて行かれたところはとある部屋だった。乱馬達天使が普段生活する空間より隔離されている。 だが、植物も、太陽の陽もあたる。
 部屋は,天井と,正面がガラス張りになっているからだ。しかし,外からは結界の力で中を伺うことは出来ない。
「お前は此処で、その気持ちが冷めるまで過ごす事になります。逃げ出す事は出来ません。
・・・結界が張ってあります・・・。」
 乱馬を奥へ歩かせると、天界神はその部屋から出た。乱馬は地に座り、壁に凭(もた)れ掛かった。






 天道家では、暗い空気が流れていた。
 帰ってきてから,部屋に閉じ籠もり泣き続けるあかね。誰もが聞き出せずにいた。
   “何があったのか・・・?”
 聞けるわけがない。先程からずっと声を掛けているのだが,応答がないのだ。 
 部屋の中。あかねはベッドに俯せになって泣いていた。
 

 どうしてこんな事になってしまったのか・・・。
  自分達の恋の何処がいけないのか・・・。
  何故許されない・・・。
  種族が違うから?


 同じ考えが頭の中を巡っていた。
 涙は止まらない。
 彼が間際に言った言葉が思い出される。


『・・・っあかね,俺がさっき言った事に嘘偽りはないから・・・!!』

『あかね・・・俺はお前だけだから・・・!』

『絶対・・・会いに来るから・・・!迎えに行くから・・・!だから・・・待・・・・・・』


 彼が最後に言った言葉・・・上手く聞き取れなかったが,あかねには何となく分かった。
 彼はこう言った。
『待っててくれ。』
と。
 そして,
『愛してる・・・。』
(・・・乱馬・・・あたしもよ・・・。あたしも・・・貴方のこと,愛してる・・・。)
  今のあかねには,この事だけが,心の支えだった。


明後日から,学校が始まる・・・。




 あかねは,その日夕食の席に来た。
 皆何も聞かなかった。普段通りに接した。あかねは,そんな家族の優しさに泣けてきた。
  暖かい・・・。
 そんな時かすみが,
「あかね・・・辛くなって,どうしようもないときは,私達に相談しなさい・・・。何時でも乗ってあげるから・・・。」
 微笑んであかねに語った。あかねは再び涙を流した・・・。しかし,悲しみの涙ではない。
 嬉し涙。
「・・・・ありが・・・・と・・・。」
 小さく言った。
 そしてあかねは,昼間遭ったことを静かに語り出した。皆も黙って耳を傾けた。


・ ・ ・ ・ ・ ・


「・・・そんなことが・・・。」
 早雲は話が終って,そう呟いた。
「あたし・・・何が何だか・・・・・・分からなくなって・・・。」
 俯いたまま涙を流す・・・。
「・・・あかね・・・乱馬君は,待っててくれって言ったんでしょ?」
 かすみが話す。
「多分・・・。」
「だったら,待っててあげなさい・・・。信じていれば,きっとまた会えるから・・・ね・・・?」
「・・・・・・うん・・・。」
 かすみの優しい声は,あかねの胸に響いた。そして,待とうと思った。自分の最愛の人を・・・。
 何時の日か会えると信じて。
 その日・・・あかねは浅い眠りにつく。




 時は過ぎる・・・。彼等の思いに反して・・・。
 あかねの学校は始まり,何時もの生活に戻った。しかし,あかねは笑わなかった。友達と話していても,笑うことが出来なかった。常に,悲しみに溢れた表情のまま。
 何があったのかと問われたこともあった。が,あかねは気にするなと告げ,話さなかった。
 想いが深いばかりに,その苦しみも深い・・・。時は,情けを掛けることなく過ぎていき,
 乱馬が天界に戻って,
 ・・・2週間・・・






 あかねは,机に向かって,夜空に輝く満天の星を眺めていた。




  ドウシテワタシハテンシデハナイノ?
  ドウシテアナタハニンゲンデハナイノ?


  どうして種族の違いで
  別れなければならないの?


  ワタシガテンシダッタラヨカッタノニ・・・
  アナタガニンゲンダッタラヨカッタノニ・・・


  出来るものなら
  貴方の翼をもって


  ムカエニキテホシイ
  ワタシハアナタノモトヘイクコトハデキナイカラ・・・




 あかねの頬を涙が伝う・・・。






 乱馬は,ガラスの傍に立ち,夜空を見上げていた。




  ナゼオレハテンシニウマレテシマッタノカ
  ナゼキミハニンゲンニウマレテシマッタノカ


  何故種族の違いがある?
  何故別れなければならない?


  デキルモノナラ
  コノツバサデキミヲムカエニイキタイ


  この白き翼を羽ばたかせ
  君の笑顔を見るために


  キミノモトヘ
  マイオリタイ・・・




 乱馬は夜空の星を切なそうに見た。




 二人は,再び会えることを願った。
 何時の日か共に笑い合うことを夢見た。
 そして,種族の違いを憎んだ。
 何故同じ種族に生まれることが出来なかったのかと問う。
 出来るものならば,あの楽しかった頃に戻りたいとも思った。
 ただただ,願うことしか出来ぬこの身を恨んだ・・・。


  貴方に                                君に
                 ア イ タ イ
             ヒ ト メ ダ ケ デ モ イ イ

  貴方に                                君を 
  いだかれたい             いだきたい
             フ レ ル ダ ケ デ モ イ イ
       シュ ゾ ク ノ チ ガ イ ナ ン テ カ ン ケ イ ナ イ
 
  貴方と                                君と
               イ ッ ショ ニ イ タ イ
          ホ カ ニ ハ ナ ニ モ イ ラ ナ イ カ ラ
                 
                  ダ カ ラ
  私達の                                俺達の
                   コ イ ヲ
            ユ ル シ テ ク ダ サ イ ・ ・ ・





 離れていても,想いは同じ。
 短い時期の中で,二人の絆は確実に育っていた。




つづく




Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.