◇天使と人間の恋 第二部

ayaさま作


 次の日,乱馬は縁側で文字通り,羽を伸ばしていた・・・。
 隣には,あかねがいる。
「はぁ〜・・・ずっと入れっぱなし言うのも疲れるなぁ・・・」
「・・・綺麗ねぇ・・・」
 そっと触れる。
「ホント・・・初めて見たわ・・・・・・これもぎ取って売ったらどの位になるかしら・・・」
・・・・・・・・・
「な,なびきお姉ちゃん止めなさいよ・・・そう言う冗談・・・」
 あかねの隣で,乱馬は蒼白になり固まっていた・・・。
 無理もない・・・。
 なびきならやりかねない・・・。
「・・・見なさいよっ乱馬固まっちゃったじゃない!」
「あははっ御免御免,冗談よ!幾ら何でも,そんなことまではしないわよ」
「もうっ」
 しかし,乱馬は何時までも固まり続けた。
 余程のショックを受けたのだろう・・・。
(お・・・恐ろしい・・・)
 なびきの前では,二度と羽を広げないと,密かに心に誓う乱馬だった。




「ねぇ,乱馬買い物に行かない?」
 あかねからの誘いだった。
「買い物?」
「そう。乱馬,ずっとその服でしょ?偶には,別の服も着てみたら?あたしが見立ててあげる」
 暫し,思考した後乱馬が出した答えは,YES。
 早速,隣町のデパートに行くために,駅へと向かった。
 駅のホームで待っているとき,乱馬は向かいのホームに停まっている電車を見てあかねに聞いた。
「あれ何?」
「電車って言うの。車よりも速いわよ。あたし達も,これから来る電車に乗るの」
 乱馬は,ふ〜ん,とだけ答えて電車の来る方向を見た。
 何処か,そわそわしている。
 好奇心旺盛の子供のように。
 そんな乱馬を見たあかねは,微笑ましく笑った。
 只,心配事が一つ。
(・・・電車の中ではしゃいだりとかしないわよね・・・)
 と,言うことだけ。
 そう長くしない内に電車が到着した。
 直ぐさま乗り込み,空いている座席に座る。
 ドアが閉まると,電車は発車した。
 みるみる加速していく。
「・・・成程・・・速いな・・・」
 乱馬は窓の外を見て,独り言のように呟いた。
 あかねが想像していたようなことは起こりそうもない。
 やはり,850歳だけあって時と場をわきまえている。
 あかねは,ほっと胸を撫で下ろした。




 隣町までは,長く掛らない。
 10分ほどで着く。
 デパートも駅からは其程遠くはない。
 歩いて,10分か15分そこらで着くところにある。
 乱馬は其の間も,色々な物に興味を示した。
「うは〜・・・でっけぇ〜・・・」
 高々と聳え立つデパートを見上げて声を漏らした。
 10階建ての大型デパートだ。
 此処で,簡単にデパートの中を説明しよう。
 まず1階は,食品売り場。
 2階は,文房具・化粧品等小物類。あと,本屋もある。
 3階は,婦人服売り場が主。
 4階は,紳士服。
 5階は,家具などを売っている。
 6階は,おもちゃ売り場だ。大きめのゲームセンターがある。
 7階は,飲食店。
 8,9,10階と屋上は駐車場・・・と,このような造りになっている。
 乱馬とあかねは早速4階・紳士服売り場に向かった。
「・・・それにしても,人が多いな・・・」
 見渡す限り,人人人・・・
何処かで,子供の泣く声も聞こえる。
「そりゃぁね,この時期は,買い物客が多いのよ」
 年末だからだ。
 不意に,乱馬があかねに手を差し伸べた。
「その・・・は,はぐれたら・・・困るから・・・////」
「・・・うん,有りがと////」
 お互い,出会って未だ3日だが,それなりに意識している。
 何処か照れくさかった。
 乱馬には,初めての経験だった・・・。
「あのさ・・・」
「何?」
「大量の視線を感じる・・・」
「乱馬も?」
「・・・人が沢山居るからかな・・・」
「きっとそうよ」
だが違った。
 間違いなく,人々の視線は乱馬とあかねに注がれていた。
 容姿端麗の二人である。
 美男美女のカップルともなれば振り向かない者は居ないだろう。




 人々の視線を気にしつつも,やっとの事で目的の場所に辿り着いた。
 此処は比較的人が少ない。
 男性は,体格が激しく変化しないため,買い換える必要がないのだ。
 流行なども余り気にしない。
「此処は,人が少なくて良かったな」
「ええ,そうね。さ,服を見ましょう」
 あかねは,乱馬を促した。
 今も尚,手は繋がったままだ。
「やっぱり,動きやすい服が良い?」
「ああ,そうだな」
「う〜ん・・・それじゃ,やっぱり・・・これかな?」
 あかねが手にしたのはジーンズだった。
 暗い青の。
「・・・もう少し明るいの無いか・・・?」
「え?有るわよ」
「暗いのは・・・余り着用しないんだ」
「そうなんだ」
(流石は天使・・・)
 あかねは心の中で納得した。
 直ぐに,明るい色と取り替えた。
「サイズは?ちょっと着てみて」
「ああ」
 乱馬を試着室に入れる。
 数分後・・・。
「着てみたぞ」
「見せて」
 中から出てきた乱馬をみて,
「結構似合ってるじゃない」
 驚いた。
 しかし,上の服と合っていないのか,違和感がある。
「サイズも良いみたいね。少し余裕があった方がいいわ。丈は足りてる?長かったり,短かったりしない?」
「ああ」
「じゃぁ,下は其れで決まりね。脱いで」
「分かった」
 上の服は,あっさりと決まった。
 乱馬の希望で,真っ白なトレーナーと言うことで。
 支払いを済ませた乱馬とあかねはひとまず,7階・飲食店へ向かう。
 丁度,お昼時である。
 乱馬は食べ物を口にしないし,あかねも余り食べないので,軽食店に入った。
 此処も,人は多くなかった。
 二人,向かい合って席に座る。
「何か頼む?」
「フルーツジュース無いか?」
「ん〜・・・オレンジとリンゴ・・・」
「んじゃ,オレンジ」
「あたしは,サンドイッチにしよ・・・すみませ〜ん」
 店員に声を掛ける。
「お決まりですか?」
「はい。えっと・・・サンドイッチと紅茶と・・・・あと,100%のオレンジジュース有ります?」
 100%・・・あかねなりの気遣いだった。
 濃度が低い物には,化学薬品などが入っているからである。
 身体のつくりが違う乱馬には毒だろうと思ったのだ。
「はい,有ります」
「じゃぁそれを」
「以上ですか?」
「はい」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
 そう言って,店員は去っていった。
「・・・乱馬は,お腹空いたりとかないの?」
「ある程度の時間,日に当たるか,植物から生気を貰うかすれば生きていられる。
『腹が空く』なんて事はまず無いな。有り得ない。何処に居てでも陽は必ず昇る。緑が耐えることもないからな」
「何だか羨ましいわ」
「何で?」
「だって,あたし達は嫌でもお腹がすくのよ。ご飯の時じゃなくても。空腹を満たすために物を食べれば,ぶくぶく太っていっちゃうのよねぇ・・・」
「・・・っぷ・・・くっくっくっくっく・・・」
「あっ笑ったわね!?結構悩んでるんだから!!」
「・・・だってよ〜・・・っくっくっくっく・・・」
 乱馬の目には涙が浮かんでいる。
 笑いのツボにはまったようだ。
「もう・・・気にしてるのよ」
「わ・・・悪かった・・・で・・・でも・・・あかねはそんなに太ってないぜ」
 未だ笑いつつも話す。
「そ・・・そうかな・・・」
(ちょっと嬉しいかも・・・)
「今度はさ・・・あかねのこと話してくれよ」
「え?」
「だって,3日前からずっと俺のことばかり話してるから」
「そうね・・・わかったわ・・・・・・」
 その後,話は大いに盛り上がった。
 話している間に,注文の品が来たが,話が途絶えることはなかった。




 帰り道,乱馬は,
「悪かったな・・・色々と金使わせちまって・・・」
 あかねに言った。
「ううん・・・気にしないで。あたしが誘ったんだもの・・・」
「有難う・・・」
 満面の笑みで伝えた。
 あかねは思わず赤面し,下を向いた。
「ど・・・どう・・・致しまして////」
(や,やだ・・・何眼ぇ逸らしてんのよ,あたし!へ,変に思われたらどうしよう////)
 あかねは,家に帰り着くまで,ずっと緊張していた。




 その後,二人の距離は確実に近くなっていった。
 二人で買い物に行ったり,映画を見に行ったり,二人っきりで夜空を眺めたりもした。
 家族のみんなも,そんな二人を温かく見守ってきた。
 父,早雲も,乱馬を息子に欲しいと思うようになってきている。
 しかし・・・楽しい時間は・・・長くは続かなかった・・・。




 あかねは,乱馬が借りている部屋に来ていた。
 最近,乱馬に勉強を教えてもらうことが習慣になってきている。
 外は,大雨だった。
 風は囂々と唸りをたて,遠くの方では雷が鳴っている。
「すげぇな・・・」
「天界は雨は降るの?」
「ああ・・・けど,此処まで酷くない」
「・・・確かに・・・今日は荒れてるわねぇ・・・」
「何か,良くないことが起きそうだよな・・・」
「変なこと言わないでよ」
 その時だった。
 突然閃光が走る。
 と,同時に,
 ゴロゴロゴロ・・・ドゴォー・・・ン!!!
「うわっ」
「きゃ!!」
 雷が落ちた・・・。
 しかも,そんなに遠くではない。
 雷が落ちたと同時に,家中の電気が消えた。
 おそらく,此処等一帯の家々は停電しただろう。
 暗闇の中,あかねは思わず乱馬に抱きついていた。
 暫し無言・・・。
 あかねは,
(は,離れなくちゃ・・・)
 と,思うものの,身体が乱馬から離れようとしない。
 衣服越しに伝わる乱馬の体温,胸の奥から聞こえる鼓動があかねをそうさせていた。
 乱馬もまた,この状況は嫌ではなかった。
 寧ろ,嬉しいくらいだ。
 抱き締めたいとも考えた。
 だが,身体が言うことを聞かない。
 二人とも,凝固したままだった。
「・・・・・・あ・・・あの・・・大丈夫・・・?」
 話しかけたのは,乱馬の方だった。
「う・・・うん・・・ちょっと吃驚しただけ・・・」
 やはり,身体は離れようとしない。
 頭の何処かで其れを拒否している。
 どの位経っただろう・・・。
 10分?20分?
 実際は,そんなに長くはないのだろうが,二人には長く感じてならなかった。
 部屋に明かりが点(とも)る・・・。
 停電が終った。
 直ぐに,乱馬とあかねの眼が合った。
『ご,御免・・・!!』
 二人同時に離れる。
 沈黙・・・。
 ・・・・・・
 先に動いたのはあかねだった。
「えっと・・・あの・・・べ,勉強・・・教えてくれて・・・有難う・・・。
 その・・・あ,あたし・・・部屋に・・・戻るから・・・////」
 そう言うと,参考書とペンケースを持ってパタパタと出て言ってしまった。




 あかねは,部屋に入ってドアを閉めると,暫く,その場に立っていた。
 顔は紅潮している。
 胸を激しく打ち付ける鼓動も鳴りやまない。
(ど・・・どうしよう・・・あたし・・・あたし・・・・・・!)


      ア ノ ヒ ト ノ コ ト ヲ ・ ・ ・ 

    ス キ ニ ナ ッ テ シ マ ッ タ ・ ・ ・


 時,同じくにして乱馬もまた顔を紅く染めていた。
 暗闇の中,抱き締めたいと思った。
 嘘ではない。
 今も尚鳴りやまぬ,この波打つ鼓動の激しさが何よりの証拠。
(・・・やべぇ・・・俺・・・マジで・・・////)


     オ レ ハ ア イ ツ ノ コ ト ・ ・ ・ 

      ア イ シ テ シ マ ッ タ ・ ・ ・


 この日・・・
 二人は眠れぬ夜を過ごした・・・。




「天界神・・・」
 大界神が、天界神を呼ぶ。
「お呼びで・・・」
 天界神は頭を下げる。
「分かっているな・・・?」
「はい・・・もう、時間の問題です・・・」
 天界神は、暗い表情を浮かべ、続けた。
「あの子には、天界の掟を教えてあります。忘れてはいないはずです」
「・・・やはり、降ろすべきではなかった・・・」
「準備を致しましょうか・・・」
「未だ・・・様子を・・・」
「・・・御意」



つづく



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