◆心のままに・・・
朝霧小兎さま作


3月だというのにまだ、寒い日が続く。
朝起きると、外には雪が積もっていた。
空も、どんよりとのしかかるように曇っている。

「『受け取れっ!』・・・じゃきついしなぁ。う〜ん・・・。どうすっかなぁ。」

乱馬は自分の部屋でなにやら首を傾げ悩んでいた。

「乱馬!起きてるの!?」

あかねが勢い良く部屋の戸を開け入ってきた。
乱馬は不意の出来事に驚き手に持ってい物を慌てて近くの引き出しへと隠した。

「?乱馬、今何か隠した?」
「えっ!?い、いや、何も・・・・。」

あかねの鋭い質問にぎこちなく答える乱馬。

「ふぅ〜ん・・・。なら、別に良いけど。早く、朝食食べてね。」
「お・・おぅ。」

あかねは半ば納得のいかない様子でその場を立ち去った。
残った乱馬はそっと隠した物を取りだし、自分の懐へと納めた。

−−二人が学校へ着くと、あかねの友人2人が乱馬に話しかけた。

「ねぇねぇ、乱馬君。今日はホワイトデーでしょ?あかねに何かあげるんでしょうね?」

半ば強引に聞いている。
乱馬はどちらとも付かないような返事をして二人から離れた。
あかねは自分の席から3人の様子をうかがっている。
乱馬があかねの隣の席へ座ると、彼女はすかさず質問した。

「ねぇ、何話してたの?」
「別にぃ・・・。天気のこととか・・・・。」
「・・・っそ。」

あかねはそのまま話を続けずに席を離れていった。
その後ろ姿を追う乱馬。そっと、自分の懐に右手をおいている。

『いつ渡せば・・・』

昼頃、とうとう雪が降り出した。
放課後になる頃には、少々吹雪いている。
乱馬もあかねもお互い傘は持っていない。昇降口の前でたたずむ二人

「あ〜ぁ・・・。お姉ちゃんの言うこと聞いておけば良かったなぁ。」

吹雪く空を見上げながらつぶやくあかね。
乱馬はその横顔を見て改めて彼女のことを可愛いと思った。

「あかね。そこで待ってろ!」
「へ!?乱馬・・・!?ちょっと・・・。」

あかねの返事するのも聞かず雪の降る中に飛び出していった乱馬。
目的は唯一つ・・・。傘を取りに行く。
一人昇降口に残されたあかねは寒さに震えつつも乱馬の帰りを待っていた。

『もぅ・・・。何なのよいきなり・・・。』

暫くして、雪がやみかけた頃乱馬は傘を片手に帰ってきた。

「乱馬!」

あかねは思わず名を呼んだ。

「あかね・・・。これ。」

寒さの所為か、走ってきたためか乱馬の頬は赤くなっている。
乱馬は傘を一本あかねに差し出した。

「有り難う・・・乱馬。でもね・・・。」

あかねは乱馬の肩越しに空を指ささした。
さっきまで降っていた雪がやんでいるのだ。乱馬はその場に崩れ落ちた。
あかねはしゃがみ込み乱馬の顔を覗き込み微笑んで言った。

「嬉しいよ。乱馬・・・。本当に。」

その言葉に慰められたのか乱馬は立ち上がり懐から有る物を取りだした。

「あ・・・あのさ、あかね。」
「何?乱馬。」

乱馬は両手にしっかりと持たれているそれをあかねに差し出した。

「これ・・・その。ホワイトデーの・・・・。」

あかねは何も言わずにそれを受け取り言った。

「ねぇ・・・開けても良い?」

乱馬は下を向いてうなずくだけである。指はもじもじとさせている。
あかねはその箱を開け中身を取り出し、見つめた。
中に入っていた物は、白い小さな花の形をしたイヤリングである。

「可愛いぃ・・・。」

あかねはうっとりとした顔でそれを見つめている。

「ねっ、ねっ・・・似合うかな?」

あかねは早速そのイヤリングをつけて乱馬に見せた。
乱馬は彼女のその姿に何も言うことが出来なかった。
その代わりに出てきたのが謝罪の言葉であった。

「ごめんな・・・。あかね。俺の小遣いじゃ良いモン買ってやれなくて・・・。」
「良いよ。乱馬。嬉しいモン・・・。」

あかねは素直に喜んでいる。
その様子を見ているとより一層「もっと高価な物を・・・」と乱馬は考えてしまったが、
あかねはその思いを見透かしているかのように言った。

「どんなに粗末な物でも・・・心がこもっているだけで嬉しいの。
 乱馬・・・・有り難う。」

再び雪が降り出した。
二人は乱馬の持ってきた傘の中に寄り添いながら帰っていった。





リクエストしてしまったホワイトデーの風景。お応えしてくださいました。(多謝!)
こちらも情景が目に浮かびます。
やっぱりこの二人の織り成す世界、優しさに満ち溢れたのが良く似合います。ちょっと照れた乱馬くんと、それを見上げるあかねちゃん。
ホワイトデーはこうあって欲しいものです。
(一之瀬けいこ)




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