◆失われた記憶
早乙女亜乱(華緒梨)さま作


あかねが記憶を無くしてから一週間がたった。
あかねはまだ、病室に居る。
ベットの上で空を眺めていた。
真っ青な・・・すっきりしている空を。
涙の青色をしている空だ。
俺は兎のまま、あかねの横に居る。P助も一緒だ。
コンコンッ
病室のドアがなった。
「・・・はあい」
あかねは1テンポ遅れて返事をした。
「あかねちゃん?」
「あ・・・かすみおねえさん」
かすみさんだった。
あかねの言葉づかいが違う。
「おねえちゃん」が、記憶を失ってから、「おねえさん」になった。
それに少し違和感を感じている、俺だった。
「お昼持ってきたの。よかったら食べて?サンドイッチよ」
かすみはニコニコしながら言った。
「うん、ありがとう」
もうそんな時間か・・・。
空を眺めていると、時間を忘れちまうぜ・・・。
「調子はどう?学校行く気にはなったかしら」
「お医者さんは、「常識的な記憶はあるから、学校に行っても大丈夫だよ」って言ってくださったの。だから、一日も早く私の友達に会ってみたいなって思って。出来れば、明日から行きたい」
あかねはサンドイッチを食べながら言った。
それを羨ましそうに見ていると、あかねが俺とP助に、ちょっとずつくれた。
そして、「もっとほしかったら、また言ってね」と言ってくれた。
「そう・・・明日からね。わかったわ、あかねちゃんの好きにしなさい。なびきちゃんと一緒に学校へ行ってくださいね」
かすみはニッコリと微笑んだ。
その顔は、悲しみを堪えている様に見えたのは、俺だけだろうか。

さて、学校へ行く日の初日。
俺は、こそっとあかねの鞄に忍び込んだ。
さすがにあかねだ。鈍さの日本一・・・世界一。
ぜんっぜん気づいていない。
「「いってきます」」
なびきと声をそろえて、あかねが言った。
「あかね、学校に行く道、覚えて無いの?」
「・・・すみません、接骨院に行く道なら、覚えたのですが・・・」
俺は、あかねが兎の俺を初めて見つけた時の事を思い出した。
あかねは笑っていた。
なびきと気軽に話していた。
俺を見つけて、喜んでいた。
それから一週間も半日もたたないうちに、あかねは記憶を無くした。
俺の顔は、悲しみに包まれた。
そんな事を考えている内に、風林館高校ヘ到着。
生憎、校長はハワイに遊びに行っているらしい。
そう、あの厄介な校長が居ないのだ。ラッキ〜♪
「あかね、あんた、自分の教室わかる?」
「・・・すみません、わからないんです・・・」
少々否定気味に、あかねは言った。
「・・・はいはい、じゃ、一緒に行きましょ」
なびきはあきれ気味にあかねの手を引っ張った。
「天道あかね〜〜〜〜〜っっっ!!!」
九能だ・・・!!
「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!!」
バンッ!!!
物凄い音がしたと思ったら、痛かった。
そう、あかねは九能の頭を鞄で殴っていたのだ。
九能は倒れている。俺の目は回っていた。
「あかね・・・あんた、相変わらずね・・・」
なびきは少々呆れ気味だった。
「「あかねっ!」」
2人の声が後ろから聞こえた。
「?」
あかねは振り替える。
「ゆかちゃん、さゆりちゃん」
なびきが言った。
「紹介するわね。あんたの友達の、ゆかちゃんとさゆりちゃん」
「あんた、記憶無くしちゃったって、ホント!?」
ゆかとさゆりが涙を目にいっぱい溜めて言った。
「はじめまして、ゆかさん、さゆりさん」
あかねはにこっと話し掛けた。
「ゆかさん・・・?」
「さゆりさん・・・?」
「「あかね〜っ!!」」
ゆかとさゆりは泣き出した。
2人で抱き合いながら泣いていた。
「あの・・・どうしたんですか?」
「あかね〜、あんた、あたしたちの事、呼び捨てにしてたじゃない!」
「敬語なんか使って無かったじゃない!!」
「遠慮は無用って言ってたじゃない!」
「忘れちゃったの!?思い出してよっ!!」
2人はパニック状態だった。
そしてあかねもパニック状態だった。
「な、なびきおねえさん・・・私はどうすれば・・・」
「ゆかちゃん、さゆりちゃん。・・・あかねもね、好きで記憶を無くしたんじゃないの。だから、余りあかねを刺激しないで・・・ね?」
なびきはいつもと違った言い方で言った。
「なびきさん・・・わかりました」
「なるべく、私たちもあかねの記憶を戻せるように、努力はしますから」
ゆかとさゆりに少しだけ笑みが戻った。
「さー、あかね!」
「教室に行くわよ!」
「・・・はいっ!!」
さっきのパニック状態も収まり、一件落着と言うところだった。
そして九能は、相変わらず倒れたままだった。

教室────────。
「これが校長先生。変な人でしょ?それで、これがうちらの担任の・・・」
ゆかとさゆりがあかねに先生の事をいろいろ説明していた。
それをあかねは、面白そうに聞いている。
「おっす、あかねちゃん!」
後ろから声がして、あかねは振り替える。
うっちゃんだ。
「はじめまして、あかねって言います」
あかねは手を差し伸べた。
その手を軽く握る。
「ほな、はじめまして。うち、九遠寺右京っちゅうんや。よろしゅうな」
うっちゃんは、あかねの記憶喪失をしってんのかな。
当たり前のように、手を握った。
「で、あかねちゃん、なんでウチの事忘れてん?」
・・・がくっ・・・。
やっぱ知らなかったんだな・・・。
「あれ?」
あかねが、鞄が動いたのに気づいた。
あっちゃー・・・。
「あら、大和」
あかねは俺を出して、にっこりと微笑んだ。
「駄目じゃない、ついてきちゃ」
俺は少し赤くなった。
「その兎、あかねの?」
「ええ、大和って言うんです。大きいの大に、平和の和」
「は〜ん・・・。大和ね」
うっちゃんは感心したように、俺をしげしげと見つめた。
「そうだ、あかね」
「え?」
「乱馬くんの事、覚えてるでしょ?」
ゆかの突然の質問に、あかねは少し戸惑っている。
・・・そっか、記憶喪失になってから、誰も俺の事なんて話して無いよな・・・。
「乱馬・・・誰ですか?」
「あんたの許婚よ。・・・やっぱり、覚えて無いのね」
冷や汗がたらりと落ちた。
「乱馬くん。本名、早乙女乱馬。あんたの許婚で、よく喧嘩してたわよ、あんたと。それで、モテたしね。
よくヤキモチ焼いてたわ。それでさ、あかねったら乱馬くんの事、蹴り飛ばしてるの・・・覚えて無い?」
「・・・・・・」
「あかね?」
ガタッ・・・ドサッ
「きゃーーー!!!」
「あかねえ!!」
あかねが・・・倒れた。
「いやあ!死んじゃうの、あかね!!」
その場はパニックとなった。
その後、あかねは東風先生のところに運ばれた。
そして俺は、ある決心をしていた。



つづく


作者さまのコメント〜ナカガキ

中編(後)です。(汗
ホントに4編もやっちゃう事になりつつあります。(滝汗
あかね、倒れ過ぎですね。(汗汗
では、次をお楽しみください。



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