ホワイトデーのお返し
「あのよう・・・。その何だ、き、今日はホワイトデーのお返しの日だろ?」 口ごもりながら切り出すシャイな少年。 「だ、だからさ、こ、これ。」 そう言って差し出す小さな小箱。 照れているのか、表情も動作も言葉も、必要以上に硬い。上目がちに瞳も空を泳いでいる。 「ありがとう。嬉しい。」 差し出された小箱をそっと受け取る少女。 彼よりも彼女の方が少しだけ長けていたようだ。 真っ直ぐにはにかむ少年を見詰め返す瞳。 ほんのりとピンク色に染まった頬が可愛らしい。 「開けていい?」 少女ははにかんだ笑顔を向けると、小さく訊いてきた。」 「ああ。」 一言だけ切り返す少年。その言葉に、少女は包みを開こうと手を伸ばす。 「ち、ちょっと待て。」 慌てて少年が言葉をかけた。えっと動きを止めた少女に少年は言った。 「俺がやる。おまえ、ドジだから、その…。」 少女はかうすっと笑って包みをもう一度少年に戻す。 |
少年が緊張しながら開いてくれたのは、小さな箱。 紺のブロンズの宝石箱。そこから出てきたのはシルバーの指輪。 「ちゃんと俺の甲斐性で買った奴だから、その、安物だけど・・・。」 こくんと頷く。 値段なんて問題じゃない。気持ちが嬉しかった。 「ほら…。つけてやっから・・・手袋外せ。」 真っ赤な顔が言った。 「うん…。」 少女は手袋をそっと外した。 差し出された手にそっと添える。 「お、おい…。」 「なに?」 「て、手が違うぞ。」 「え?」 「だからあっ!右手じゃねえっつーのっ!」 「乱馬?」 「あんなあ、許婚からの指輪なんだぜ…。出す手が違ってる!」 紅潮させながら少年は言った。それから、真っ赤に熟れた顔を俯かせる。 |
指輪を左手の薬指に付けたところで、ほおっとおきな溜息。 緊張してなかなか指に通らなかった彼。本当に不器用。 北風が二人の上を吹き抜ける。寒の戻り。 少女は少年の首に、マフラーをさしかけた。 「一緒に…。ね。」 にっこりと微笑む。 陽だまりが天上から降りてきた。二人を包むように。 公園の小さなベンチの上、背中を合わせて腰掛ける二人がいた。 まだ向き合うほど器用ではない。並ぶことも照れくさい。でも、背中合わせなら。 「ねえ、乱馬。」 少女が問いかけた。 「何だ?」 「もうすぐ、桜咲くかな…。」 「そうだな…。まだつぼみは固いけど。」 このぬくもりは離さない。 あかねはそっと指輪の上から、手袋を付けた。 暖かな春はもうすぐそこに。 |
イラスト・凛子さま
文章・一之瀬けいこ
(c)2003 Jyusendo