創作ノート もとい言い訳
 


この「ふわり」という作品は実は今を去ること二十数年前に作ったプロットから描き起こしました。
 勿論、非らんまのオリジナルストーリーでした。
 主人公の「茜」も、彼女が憑依したあかねも乱馬も元作では全く違う名前でした。

 簡単にプロットを紹介しておきます。
 病死した少女がひょんなことから天使に見い出されて「一週間」だけ誰かに憑依してやり残したことをに取り組めるチャンスを貰います。幼少時から病弱だった少女は、同じ年恰好の少女に憑依しました。勿論見ず知らずです。
 憑依した少女には幼馴染の少年が居り、何かと喧嘩を繰り返すちょうど乱馬とあかねのような関係を続けていました。
 お互いに好きだと言い出せずに空回りするそんな関係です。
 少年と少女はテニス部に所属しており、大会に向けて練習を重ねる日々。その中に様々な友人関係が織り成され、少女に想いを寄せる者、また少年に想いを寄せる者。喧嘩しながらもコンビネーションは抜群のこの片割に憑依したものだからさあ大変。元より運動などしたことのない彼女は悪戦苦闘。
 ドタバタに巻き込まれながらもなんとか試合の当日に。二人は困難を乗り越えてなんとか決勝戦に臨みます。
 結果は、準優勝。辛くも敗退でした。
 でも、憑依した少女は努力することの大切さを学びます。
 夕暮れの帰り道、二人はイルミネーションの美しい山の上の体育館から肩を並べて帰ります。
 そして、期限の一週間が・・・。天使は彼女を迎えに舞い降ります。
 互いに好きと言い出せない二人は、憑依した少女の力で、最後には気持ちを確認することができました。
 去り際に「人間にまた生まれ変わりたいか?」と問われて「出来ることならあたしももう一度人間に生まれて普通に生きて恋をしたい。」と断言します。
 そして無に帰った彼女は憑依した少年と少女の未来へ飛び、彼らの子供として生まれ変わって物語は幕を閉じます。


 私が高校生だった当時は花形スポーツと言えば「テニス」でした。そんなもので、二人はテニス部という設定だったのです。
 小説用かコミック用に考えていたのか、記憶が定かではありませんが(多分、コミック?)、長らく忘れていたプロットです。
 勿論、書き留めたノートの片鱗も現存していませんので、記憶を辿りながら「乱×あ」に新たに作り直しました。
 
 ラストはかなり悩みました。元作では憑依した少女は二人の子供になるというものでしたが、払拭することに決めたからです。
 死神銀次郎のキャラクターは殆ど元作に近く描いたつもりです。
 ひょうきんさを残す天使として描いていたのを、今回は「死神」として描きなおしました。
 
 また、もう一つ補足しておきますと、この作品を思いついた当時、私は「入院」しておりました。
 乱馬たちと同じ十六歳のとき、私は声帯の難病(?)にかかり、高校時代は四回も手術を受け、病院を出たり入ったりとかなり精神的に重い青春時代を過ごしました。
 命に別状があるような病気では全くなかったのですが、成長期の病気で、放置すると声が出なくなると言われて手術を受けました。
 一度目は咽喉を切っています。それも局部麻酔で・・・。声を出しながら手術を受けるのです。思い出すのも苦痛な経験でした。
 二度目からは全身麻酔の意識有りというこれまたかなりもの凄い手術でした。
 当然、術後は「沈黙療法」。早い話、筆談を強いられていました。
 正確に言えば、喋りたいけど喋れない。しかも声が出ない。本当に再び音として声が出るのか否か・・・。
 「喋れない」。箸が転げただけでも笑い出す多感な時代にあって、それくらい苦しいものはありません。
 母や父と筆談でなければ語れない己が情けなく、人知れず、病院の一室で涙したこともあります。
 かなり遠方へ入院していましたので友人もほんの一握りしか見舞ってもらえず、孤独でした。
 今のいい加減な性分は、多分、この頃に構築された自己防衛の結果なのかもしれません。そう思うこともしばしばあります。
 ずっと子供の頃から描いていた「将来の仕事」の夢は高校時代のときに潰えました。
 また、私は歌をまともに歌うことができません。思うところに声がはまらないからです。所謂、後天的音痴です。勿論カラオケもしたことがありません。
 お会いしたことがある方はご存知でしょうが、かなり個性的な声をしています。度を越えたハスキーボイスです。初対面の方には必ず「風邪をお召しですか?」と言われます。大声も出せません。


 私が文字媒体にこだわるのは、この経験が成せる技かもしれません。
 幸い遺伝的な病気ではないので子供たちは至って普通の声をしています。旦那の声もいいです・・・結婚するなら声がいい人と決めていましたから。


 恋に悩み、将来に悩み、そして声に悩み・・・。多感な時代の日記類を読み返すと、今でも心がズンときます。
 幸い、声を失わずにこれたことは感謝しております。
 
 
 そういう事情があり、かなり屈折した内容の小説ですが・・・。久々にあの頃の自分を重ねながら書かせていただきました。

 そういう裏を文脈から読み取っていただければ本望です。



(c)Copyright 2000-2005 Ichinose Keiko All rights reserved.
全ての画像、文献の無断転出転載は禁止いたします。