◇幽顕鬼話


第一話 異変〜蠢く者たち



一、

「あーっ!かったるいぜ!たくうっ!!」
 まだ夏日が残る九月始め。手うちわをしながら乱馬は汗を薙ぎ払った。
「何言ってるの、悪いのは、宿題を全然自分でやらなかったあんたでしょう?いつも人に頼るからそうなるのよ。」
 あかねは傍を歩きながら隣を歩く彼を見た。
「でも、俺だけってことはねーだろ?おめえのノート写したからってよう!特別課題をおしつけやがって!」
「真面目に夏休みの宿題をやらないあんたが悪いの!性根入れてやらないと、卒業できないわよ。」
「ちぇっ!卒業ねえ!」
「あんただけ留年したいの?」
「わかったよ、やればいいんだろ、やれば!!」
「そうよ。あたしだって、とばっちり喰らったんだからね。」
 高校三年生の秋口。そろそろ受験だの就職だの周りはかしましくなり始めている。勿論、この二人も例外ではない。
 一応乱馬は天道家の跡取りとして、あかねの許婚という立場は持っている。が、高校を卒業してから先のことはまだぼんやりとしか描いていない。道場を継ぐにしても、もっと修行をしたいと思っているし、進学するならそろそろ勉学の方も身を入れないと、三流、いや四流大学すら合否が危うい。
 夏休みの宿題を真面目にやらなかった角で、今日はこってりと搾られたと言うわけだ。ノートを提供したあかねも同罪ということで、職員室に呼び出された。
「はあ・・・世の中に数学も英語も国語もなくなっちまえば楽なのによう。」
「そんなことばっかり言ってないで、とっとと帰るのっ!言っとくけど、シャンプーや小太刀が言い寄ってきても今日はきっぱりと断わんなさいよっ!!」
 乱馬は相変らずの生活を続けている。呪泉郷の呪いも解けていない。シャンプーや右京、小太刀といった面々に追いまわされる日々もそのままだ。あかねとの仲も進展したとも言えない。だが、それなりに平穏無事な生活は続いてはいる。

「にしても暑いぜっ!!」

 と、その時だった、地面がいきなりぐらついた。傍の電柱から伸びる電線がゆさゆさと揺れた。
「じ、地震っ?」
 揺れは結構大きいようだ。外で体感できるくらいの揺れだと、震度三以上はあるだろう。
「あぶねえっ!!」
 たまたま歩いていた場所が悪かった。
「きゃあっ!!」
 傍らのブロックのボロ塀があろうことかあかねの方に倒れかかってきたのだ。前から歪んでいた空家の古いブロック塀だ。
 唐突のことだったので、あかねは避ける術を知らない。
「下敷きになる!」と目の前が砂煙で覆われたと思うと、ふわっと身体が浮き上がっていた。
 予想した衝撃は来なかった。

「ふう…。間に合ったぜ。」
 ふと視線を上げれば、安堵したような顔が見えた。どうやら、乱馬が咄嗟にあかねを抱きかかえて、横へと飛んだらしい。あかねたちが立っていたあたりに、ブロックの塊が容赦なく倒れ掛かっていた。あれの下敷きになっていたら。思わずぞっとする。
「あ、ありがとう…。」
 
「いやあ、さすがですな。乱馬くん。」
「許婚は自分で守るってか。」
 後ろから大介とひろしが冷やかしに入った。
「あかね、良かったわね。乱馬くんが守ってくれて。」
「いいなあ…。あたしもそんな彼氏が欲しいわあっ!」
 ゆかとさゆりも一緒になって笑っている。
「て、てめーらっ!笑い事じゃねーだろがっ!」
 あかねを助けた乱馬の顔が真っ赤になっている。遅れると大怪我をしかねない場面だったから、彼の声は更に大きくなる。
「おーおー、笑い事じゃねえって言う割にはよう、いつまであかねをしっかりと抱いてるんだ?」
「役得だなあ・・・。」
 意地悪い笑い声が飛ぶ。

「あ゛っ!」「え゛っ!」

 二人して真っ赤に熟れた顔。指摘されてやっと手放すあかねの肩。乱馬の手の関節がぎしっとしなった音が聞こえた。
「はいはい、ご馳走様っ!いいわねえ、お暑いことで。まだまだ二人の仲は真夏なのね!」
 ゆかが笑い転げた。
「そんなんじゃねえやーっ!!」
 この不器用男は、こういう「からかい」が一番の苦手のようだ。ついつい、大人気なく怒鳴り散らしてしまう。だが、友人たちはその反応を楽しむようにからかい続ける。悪循環だ。

「それにしても、この頃、地震が多いわよねえ…。今月に入って何度目かしら。」
 ゆかが不安げな顔をした。
「そう言えばそうね。最近、広範囲の地震が多いってニュースでも取り上げられてたわね。」
「地殻変動期に入っているのかしら。ちょっとおっかないと思わない?」
 少女たちは不安げに囁く。
「そういえば、かすみお姉ちゃんも、備えあれば憂いなしって、この間の防災記念日には、非常持ち出し用袋なんか作っていろいろと突っ込んでたわね。」
 あかねも会話が乱馬と己のことから離れたのを幸いに、会話に加わる。
 男子たちはまだ乱馬をからかっているようであったが。

 そんな様子を影から見送る妖しい影があった。
「ふふふ、早乙女君。あかねさんの傍に居られるのは、もう少しだけだ。せいぜい今のうちに、楽しんでおきたまえ。気の毒だが…。」
 手に妖しげな本を持った少年。そう、乱馬とあかねのクラスメイト五寸釘だった。
 五寸釘はブツブツと独りごちながら笑っていた。
「僕の黒呪術が満願を迎えたら、君は僕よりも弱くなるんだよ。そしたら、あかねさんを君の呪縛から解き放ってあげられるんだ。鬼神の力を得て、僕が強くなって、早乙女君、きみをメッチャメチャのぎったぎたのぼっこぼこの、けちょんけちょん…ハアハア…にのしてしまえるんだよぅ…。楽しみだ。クークククククク。」

「おい、五寸釘。」
「さ、早乙女君。」
「何一人でこんなところでにやけてやがる。」
 乱馬は五寸釘を見下ろしている。
「あ、いや、べ、別にぼ、僕はきみをメッチャメチャのぎったぎたのけちょんけちょんにしようなんてこと…。」
「あん?」
「さ、さいならーっ!!」
 五寸釘は後ずさりながらそう言い置くと、一目散に駆けて行ってしまった。
「あ、お、おいっ!何か落としたぜっ!」
 乱馬は彼を呼び止めようとしたが、そんなことはお構いなしに五寸釘は四つ角を曲がって行ってしまった。
「たく。変な奴。」
 乱馬は彼が落とした妖しげな護符のようなものを握り締めたまま見送った。
「ま、いいか。明日に学校で返してやれば。」
 そう言うと、乱馬は護符をズボンのポケットにくしゃっと入れた。


二、

「畜生っ!早乙女の奴っ!!」

 一目散に駆けた五寸釘は、幾分か町の中を走り回ると、引き込まれるように、一軒の店へと入って行った。表の看板には「古道具、鬼宝堂」と古びた文字。
「ち、ちわーっ!」
 息せき切らずにその店へ駆け込んだ。店の中は薄暗く、いろいろな古い調度品が、所狭しと並べられている。
「あら、五寸釘君、いらっしゃい。今日も来たのね。」
 奥から店とは不釣合いな綺麗な若い女性が微笑みながら彼を出迎えた。
「あ、は、はい、今日も来ちゃいましたーっ!!」
 五寸釘は紅潮した顔を見せながら彼女に言った。
「熱心ね…。」
 女性はそう言うと、奥から何やら古ぼけた箱を持って来た。心得ていると言わんばかりの様子だった。
「えっと、今日は。」
 女性は五寸釘に話し掛けた。
「七回目ですっ!!」
 五寸釘は間髪居れずにそう答えた。
「あら、じゃあ、もうすぐ…。」
「はいっ!満願ですっ!」
 彼は嬉しそうに叫んだ。
「そう、満願なの。」
 女性は一瞬にやりと笑ったように見えた。だが、すぐさま、すました顔になり、五寸釘に言った。
「よく続いたわねえ…。あなたみたいな若い子が鬼呪術(おにじゅじゅつ)に興味があるなんて。」
「いいえ、これもあかねさんのためです、彼女のためなら、どんなことだってできますよ。」
 五寸釘はふふんと笑った。
「あかねさんねえ…。可愛い子なのかしら。」
 女性はにこっと微笑みながら五寸釘を促した。
「ええ、もうそれはそれは。学園中のアイドル的女の子ですから。あかねさんは。ほら、ここに写真がありますよ。」
 五寸釘はざっと並べて見せた。
 そこにはあかねの写真がずらっと十枚くらいあった。
「あら、本当、可愛い子ね。今の高校生には珍しいくらい清純そう。でも、彼女の横にはいつも、チャイナ服のおさげの少年が居るのね。」
「ああ、こいつね。こいつは極悪非道な女たらしなんです。そのくせ、あかねさんの許婚に居座ってやがるんです!こいつをメッチャメチャのぎったぎたのぼっこぼこの、けちょんけちょんにのしてやるのが、僕の使命なんですっ!」
「ふうん。…彼って強いの?」
 こくんと五寸釘はうな垂れた。
「腹が立つほど腕っ節がいいんです。でも、絶対、僕は呪文を唱え通して、鬼神の神通力を手に入れるんです。そして、こいつをメッチャメチャのぎったぎたのぼっこぼこの、けちょんけちょんにのしてやるんだ。」
 五寸釘はぎゅうっと手を握り締めた。いささか興奮している。
「なるほど。恋の恨みつらみね。ま、いいわ。」
 女性は持っていた箱を開いた。
「七回目の呪札よ。満願まであと二回ね。それから八回目、最後の札も渡しておくわ。」
「え?先に八回目も売ってくださるんですか?」
 五寸釘の目がきらめいた。
「ええ。ちょっとね、来週は店を閉めようかと思って。」
 女性は札の枚数を手で数えながら答えた。
「閉店ですか?」
「ううん、閉店じゃなくって、夏休みを貰おうかと思ってね。」
「今頃ですか?」
「まあね。この夏は休みそびれちゃったから。まあ、こんな閑古鳥が鳴いているような骨董屋に足繁く通ってくれるのは五寸釘君くらいのものだしね。ちょっと、仕入れも兼ねて京都にでも遊びに行って来ようかなあなんて思ってるのよ。」
「京都ですか。いいな。僕も一度行って見たいなあ。」
「あかねさんって言ったっけ。彼女と一緒に旅行でもすればいいじゃないの。満願がかなったらね。」
「そ、そうですね。あ、あかねさんと旅行かあ。悪くないな…。」
 五寸釘はあらぬ妄想へと入ってしまったようだ。にへらあっと顔が緩んでいる。
「その前に、しっかりと満願かなえてね、はいっ!あと二回分の呪札。今回は五千円でいいわ。」
「あ、は、はいっ!」
 五寸釘はごそごそと財布を持って、五千円のピン札を前に出した。
「赤い方が七回目で、青い方が八回目ね。今夜七回目をやったら、三日置いて、八回目をやるといいわ。三日後は丁度満月だから、神通力を得るにも良い満願日になること、請け合いよ。」
 女性は妖しげに微笑んだ。
「いつも親切にしてくださってありがとうございます。朱実(あけみ)お姉さん!」
 五寸釘は差し出された呪札を大事そうに懐へと仕舞い込んだ。
「いえいえ。あなたが熱心だからよ。満願日が無事に迎えられるといいわね。無事に満願が達成されて願い事が叶ったら、あかねちゃんって言ったっけ。彼女もここへ連れていらっしゃいな。」
「は、はいっ!満願を迎えて、絶対に早乙女乱馬をやっつけてやるんだっ!!」
 五寸釘は燃えていた。
「ホント、あなたに出会えて良かったわ。ところで、その呪法は、いつものように、月読神社の裏の林でやりなさいね。」
 妖しげに光る女性の目。五寸釘はごくんと唾を飲み込んだ。暫し、蛇に睨まれたように、じっとその瞳に見入ってしまった。
「はい、いつものように、月読神社の裏林で。」
 無意識にそう口走っていた。
「じゃあ、またね。グッドラック!!」

 五寸釘はぎしぎしときしむ引き戸を勢い良く開けると、表へと飛び出していった。スキップしながら軽やかに帰ってゆく。

 そのさまを見送りながら女性はふふっと妖しげな笑みを浮かべた。


三、

「奴か、鬼呪術を好む少年というのは。」
 背後で声がした。銀髪の青年がすっくとそこに立っていた。額には青い鉢巻のようなものを巻いている。切れ長の目は鋭く、何か力を秘めているようなそんな一癖もありそうな青年だった。着ているのも、青っぽい色で統一された着物のような変わった服装だった。一時代前の中国の宮廷で着られていたようなそんな井手達とでもいうべきだろうか。
 何よりも、こめかみの上あたりには、白い数センチほどの角があった。それが如実に、彼が人間ではないことを指し示している。
「青龍。帰ってたの。」
 女性はふっと微笑みかけた。と、一瞬に光に包まれて、彼女の井手達も日本のTシャツとGパンというラフなものから、彼と同じような服装へと変わった。ただし彼女の服は赤っぽい色であった。
 彼女にもまた、こめかみあたりに角が現れる。
「白虎も連れて来たぜ。」
 青龍はにっと笑った。
「久しぶりだな、朱雀。」
 後ろから覗いたのは剃髪した青年だった。着物は白と黄色を基調とした衣服だった。やはり、彼にも角があった。
「白虎っ!昔と全然変わってないわね。」
 女性は彼に抱きついた。
「ああ、四百年ぶりくらいになるかな。」
 白虎と言われた青年は、女性の身体を嬉しそうに抱き上げながらそう言った。
「元気そうね…。」
「おかげさまでな。まだ息を吹き返したばかりだから、力はまだそうは出ないけどな。まあ、追々すぐに戻るだろうさ。」
 白虎はにんまりとほくそえんだ。
「ふうん、あんたは何処に封印されていたの?」
 朱雀は訊いた。
「俺は、遠く筑紫の国の山奥だ。ま、さっきの少年の鬼呪術の法力のおかげで自力で復活できたって訳だがな。ふふふ。」
「そうね…。彼のおかげで私たちは、長い眠りから目覚めさせてもらえたようなものだものね。」
 じゃれあうように二つの影が重なる。
「後は玄武だけだ。次の七回目の黒呪術でその魂は復活する。」
 二人を制するように青龍が静かに言った。
「でも、玄武は肉体が滅んでいるのでしょう?大丈夫かしら?」
 朱雀が心配そうに顔を差し上げた。
「大丈夫だ。わたりはつけてある。」
 にっと青龍は笑った。
「それより、肝心な結界だが。」
「ふふふ、こっちは首尾も上々よ。鬼呪術を覚えている少年が万事支障なくやってくれるわ。満願を迎えて全ての力が戻った後は、来週の彼岸の中日に、人柱を立てて・・・。」
「そうか、やっと悲願が叶うというものか。」
「ええ、幽界への扉が開くわ。長い道だった。これでやっと、あたしたちも幽界へ帰れるって訳よ。」
 朱雀は遠い目を向けた。
「それだけじゃないだろ?ただ帰るだけなら簡単なことだ。こんなに苦労はすまい。」
 白虎は言った。
「そりゃあそうよ。私たちを封印してこちらへ閉じ込めた人間どもに復讐っていうのも悪くはないわ。」
「はなっからそうするつもりのクセに。」
「あたりまえよっ!!」
 
「後は、人柱だけだな。」
 青龍は腕組みをしながら白虎と朱雀を見比べた。じゃれるのはいい加減にしろと言いたげな口調だった。

「大丈夫。この土地に、居る。」
 白虎は懸念を吹き飛ばすように言った。
「この土地にか。」
「ああ、ここへ来る前に、俺は呪泉郷へ行って、目ぼしい落呪泉者の当りをつけてきてやったさ、ほれっ!」
 どさっと投げ出された一冊の帳面。「呪泉郷落泉者記録帳」にはそう書かれていた。
「よく手に入ったわねえ。」
「なあに、呪泉郷のガイドとやらを締め上げたらあっさりと出しやがった。」
 白虎は愉快そうに笑った。
 朱雀は感心しながらぱらぱらっとめくり出す。
「あら?」
 と彼女は目を止めた。
「どうした?」
「ほらここに「早乙女乱馬」って名前があるでしょう?」
 墨書きされた名前を指差しながら朱雀が続けた。
「思い当たるのか?」
「あの五寸釘とかいう鬼呪術の少年がね、早乙女乱馬を倒すために鬼神を呼び出すんだってね言ってたのよ。そうか。彼が狙っていたのが落呪泉者だったなんて。ふふ、世の中って狭いわね。ほら。」
 朱雀はびっとぺらっとした紙を前に投げた。写真だった。
「さっき、あの子からくすねた一枚よ。どんな奴を倒したいのか興味があったから抜き取ったの。役に立ちそうね。」
 五寸釘が先ほどあかねの写真と言って見せたうちの一枚らしい。乱馬とあかねが写りこんでいる。
「さすがに鼻が利くんだな。朱雀は。」
「ふふ、女を甘く見ちゃダメよ。」
「早乙女乱馬か。白虎、こいつの周辺を調べてみるか。もしかしたら、俺たちが探している極上の人柱を見つけることができるかもしれないぜ。」
「ああ、そうだな。呪泉郷の呪いにかかった奴は、何故か運命の糸に操られるように群れ集まってくるというからな。きっとこの辺りにわんさかと落泉者が居るだろう。人柱にできる呪泉に落ちた娘がな。」
 白虎は写真を懐へ仕舞い込んだ。
「じゃあ、あたしは、玄武の復活を拝みに出かけるわ。最初からそのつもりだったし…。」
 朱雀はすっと光を集めた。元のTシャツとGパンという衣服へと転じた。頭にあった角は隠される。それから、表の暖簾を外すと中へ取り入れた。店じまいの準備だ。
「袋小路一族には気をつけろ。まだ、生き残りが居やがる筈だ。」
 白虎は言った。
「怖いのは袋小路一族じゃなくて、布都(ふつ)の御魂(みたま)がこもった刀でしょ。人間なんて、怖くはないわ。私たち鬼の一族にはね。」
 朱雀の言葉に青龍は反応した。
「そうだな。でも、準備は周到にな。同じ鉄は二度とは踏まぬ。袋小路一族も布都の御魂も一緒に闇に葬ってやる。この世界と共にな。」
「俺も朱雀と同行するか。袋小路一族の末裔にも会っておきたいしな。」
 青龍がにんまりと笑った。美青年の彼が笑うと、ぞくっとするほどの妖艶さが漂う。
「さて、御託はこのくらいにして、行くか。」
 白虎がすっくと立ち上がった。
「集合場所と時間は?」
「三日後の満月満願の日。鬼呪術が行われる月読神社。」
 朱雀はにっと笑った。
「準備しておくことがたくさんあるな。そろそろ出かけるか。白虎は人柱の物色の方を頼むぜ。」
 青龍が促した。
「任せておけ・・・。」
 
「では、三日後。」

 さあっと風が吹いた。と、三人の妖(あやかし)たちは姿を消した。



つづく




ちょこっと解説 その1
 ターゲットは「PURE HERAT」(にーぼーさま旧サイト・現在は閉鎖)

 長編の投稿小説になりました・・・それもかなりの。
 色々悩んだ末、結局四方からキャラの名前を頂くに至りました。(安直)
 実は最初は記紀神話から拾ってくる筈だったんのです。この作品のために最初に組んだ記紀神話譚は別の作品に使いまわすことになっています。(2005年春現在途中で放り出し頓挫中)

 この作品には「袋小路一族」。私の創作「楊柳剣法帖」で作ったオリジナルキャラクターが登場します。
 乱馬たちと袋小路一族のかかわりについて、先にこちらに投稿させていただいた「楊柳剣法帖」をお読みいただくと、作品との繋がりわかって楽しめるかと思います。
 題名は「ゆうけんきわ」と読んで下さいませ。
 なお、「幽顕」は「古事記」の序文からの引用です。


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