ふっと瞳が開いた。
気配を伺うと、俺とあかねと…あかねにとり憑いてしまった幽霊…それから郁さんから紹介してもらった少年と…ちぐはぐな顔ぶれが、あかねの部屋に集って、雑魚寝していた。
勿論、あかね以外の奴らは、俺も含めて、床に寝ている。狭いとこ床だから、布団は一つしか敷けねー。俺と、死神少年とは、背中あわせで眠っていた。
その上で幽霊が、プカプカ浮いている…そんな、滑稽な構図だ。
あかねのベッドの上には、黒い物体。そう、死神少年の契約黒猫だ。六文とか言う名前のこいつは、人顔をしていたが、猫そのものにもなるという、俺にとってはやっかいな生き物だった。
何で、こんな連中と、あかねの部屋に雑魚寝しているかは、少々説明が長くなる。
あれから、一時間もしないうちに、郁さんが呼んでくれた「死神」と称する少年が現れた。死神というだけあって、霊道を通って来たという。
あかねには、全く見えていないようで、奴が現れても、無反応だった。
見慣れぬ真っ赤な髪の毛。背格好や年頃は俺たちと同じくらい、若い。
「えっと、私がお世話になっている魂子さんというベテラン死神さんのお孫さんの…。」
「六道りんねです。」
そいつはそう名乗った。
「りんね君、羽織取ったら?あかねちゃんには見えてないみたいだし。」
郁さんが笑う。
「羽織?」
そう言えば、こいつ、変な羽織を着ている。
羽織に手をかけた時、俺は黒い塊を見つけてしまったのだ。
「ひっ!」
思わず、一歩、後ずさる。
「どーしたの?」
あかねが耳元で囁いた。
「ね…猫が居る…。」
既に涙目になった俺は、黒猫をさす指が震えていたと思う。
猫の方はあかねにも見えているようで、
「あら可愛い、猫ちゃん。」
とか言いながら、すっと猫を己の腕の中に引き寄せて抱っこした。
…それは、猫が苦手な俺に対する嫌みか?…
ぐっと堪えながら、あかねの様子をおどおどしながら、見詰める。
何で猫がここに居るんだ?
「あら…もしかして、乱馬君、猫が苦手なの?これは、死神の契約黒猫よ。」
郁さんが笑った。そして、徐にあかねから猫をひっつかむと、俺の目と鼻の先に晒して見せる。
いや…俺、猫嫌いだから…。
「うわあああっ!や…やめてくださいっ!」
また、大声を出して、後ろに飛び退く。
「僕…怖がられているみたいですね…。ちょっと嬉しいです…。」
黒猫はいきなり人語を喋った。ってことは化け猫か?
りんねは腕を組んで、クスッと俺を見て笑いやがった。
と、猫はニュッと人顔になった。小学生のガキくれーの顔になる。
「あらあら…こっちも可愛いじゃない。」
あかねが驚きながら、笑った。
「どーも…。僕、六文と言います。よろしく。」
そいつは頭をボリボリ掻きながら、照れている。オスだな…。
「六文ちゃんね。あたし、天道あかねよ。あかねで良いわ。」
あかねは化け猫と、和気あいあいとした会話を交わす。その横で、郁さんは俺を見て返しながら笑った。
「意外ねえ…。乱馬君みたいに、男気溢れた奴でも、苦手なものがあるんだー。」
「仕方ねえーでしょ?苦手なもんは苦手なんだからっ!」
思わず、怒鳴っちまった俺。
りんねとかいう死神少年は、羽織を脱ぎながら、あかねへと問いかけた。
「で?とり憑いたのはそちらの方ですね?」
「あ…本当に、死神さんが居たんだ…。」
あかねはハッとしてりんねを見詰める。
「ちょっと、いけてるかも…。」
そんな言葉をごそごそっと口ごもった。
いけてる?…イケメンなのか?…こいつ…。
少し複雑な表情で、まざまざとりんねと見詰めた。
「で…早速ですが…郁さん、今回の報酬は…。」
いきなり報酬の話を振ってきやがった…。しっかりとしている奴だぜ。
しかも、揉み手だ。ヒヒ親父か?こいつ…。
「えっと、この子のアルバイト代一日分…。」
郁さんが俺を指差しながら答えた。
「具体的にお願いします。」
「自給八百円で八時間労働だから…六千四百円だけど…。」
「それで手を打ちましょう!」
りんねは、ぐわしっと俺の両手を握ってみせる。
物凄い力がこもってやがった。全身全霊、嬉しいようだ。
「りんね様…それだけあったら、贅沢できますね。」
「うん…夢のような金額だ。それに、こいつを成仏できたら、死神組合からも報酬が払われるから、一石二鳥だぞ。」
こそこそと話す奴らの背中に、ぱあああっと後光が差しているようにも見えた。
何だあ?こいつら…。六千円ほどの報酬で、そんなにテンションあがるかあ?普通。
「丁度良いわ…ついでに、この人たちを成仏させてくれるかな?りんね君。」
郁さんは部屋の隅っこに固まっている、幽霊たちを指差した。
「おれがやっちゃっても良いんですか?」
パアッと奴の顔が明るくなった。
「もちろんよ…。死神のあなたの仕事でしょ?」
「じゃ、遠慮なく…。皆さん、よろしいですか?」
幽霊たちは、コクンと頷いた。元々、大人しい奴らばかりなので、じっとりんねを見詰めている。
「行きますよ…。」
羽織をはおると、さっとどこからともなく、大鎌を取り出して来た。
…死神の鎌か?…
と、りんねは力いっぱい、その大鎌を振り下ろす。
ぱああっと光がまたたいて、その場に居た三十人ほどの幽霊たちが、一斉にキラキラと輝きながら、空へと同化して消えて行く。何だかこっちまで、祓われたような気分になる。
「すげえ…。」
あかねは周りの幽霊が見えていないから、キョトンとしてやがったが、思わず唸っちまった。
「えっと、三十四人。ということで、死神組合に報告しておいてください。一人、百円で三千四百円か…。やったぞっ!」
と、俺の前にも関らず、せこい台詞と共に、ガッツポーズを決めて見せる。
…かなり、金には細かい奴だな…。顔に似合わず…。
つい、そんなことを思っちまった。
「なあ、その死神の大鎌で、こいつにとり憑いた霊も、さくっと成仏させたらよいんじゃねーのかな?」
俺は間髪いれずに提案した。
「いえ、そう言う訳にもいかないですね。」
「何で?」
「今し方、成仏させたのは、単なる浮遊霊でしたが、その人は明らかにとり憑いちゃってますから…。簡単にはいきません。手順を踏んで除霊しないと、大いなる禍が振ってきますが…。それでもよろしいですか?」
ちょっと脅し気味に迫って来やがった。
ぶんぶんぶんと俺は首を横に振った。
「じゃ、お任せということで、よろしいですね?」
「仕方ねーか…。」
ふうっと溜息を吐き出した。
…と言う訳で、黒猫がくっついて来たのは不本意だったが、そのままりんねと六文とかいう黒猫を、あかねと一緒に、天道家へと連れて帰った訳だ。
天道家は、元からぶっ飛んでいる面々ばかりなので、不可思議なりんねという少年と、人語を喋る黒猫を連れて帰って来ても、左程、驚きには包まれなかった。
砕けているというよりは、俺たち呪泉郷の被害者のせいで、大概のことでは驚かなくなっているようだった。
「りんね君と六文ちゃんも、一緒にご飯食べるかしら?」
かすみさんに至っては、そんな優しい言葉を投げかける。
「ご…ご飯が食べられるんですか?良かったですね、りんね様。」
「ああ…夢のような仕事だ。」
どういう生活をしている奴らなのかは知らねえが、かすみさんの手料理に、浸りながら涙ぐむ二人を見ていて、複雑な想いに駆られた。俺も親父と天道家に転がり込む前は、飢えに悩まされたこともあったしなあ…。
俺たちは武道家だから、野山に入れば、それなりに野生動物や魚や木の実で飢えをしのげたが…。こいつ、鍛えている感じでもねーし…。第一、筋肉が薄い。
何だか身につまされた。
「りんね君は歳いくつ?」
「十六歳です。」
…俺たちは高二だから、一つ下か…。
「どこに住んでるの?」
「三界高校の廃校舎です。」
…?廃校舎?…
「おれ、自活して、高校へ通いながら、現世で生活しているんです。」
とぽつりと身の上を話した。
「自活?ご両親は?」
「とんでもない、クソ親父が一人居ますが、あいつの世話にだけはなりたくないんで…。」
「お母さんは?」
「居ません。会ったこともありません。」
なびきが代表して質問し、りんねが答えて行く。そんな身上調査が続く、食卓。
「りんね君とか言ったね…。いろいろ複雑な事情がありそうだねー。遠慮は要らんよ、どんどん食べなさい。」
「ありがとうございます!」
横で聞き流した情報をまとめてみると、りんねは、人間と死神のクオーターで、人間界で普通高校に通いながら死神の仕事もこなして、自活しているらしい。
で、とんでもねークソ親父が作った、自分名義の死神界の借金を返すために、苦労しているそうな…。
出来の悪い…クソ親父に悩まされている…っつーのは、俺と同じだな…。
ま、俺の親父は借金までは作ってねーみてーだが…。作っていても、オフクロが何とかしているか、早雲おじさんが助けてくれてるのかもしんねーが…。少なくとも、己の借金を息子に背負わせるようなことは、今はしてねー。…つーことは、チャランポランのパンダ親父でも、こいつの父親よりはマシかな…。ドングリの背比べかもしんねーけど…。
で、横に侍っている黒猫は、死神がコンビを組む契約黒猫だそうで…。
子猫と化け猫の間を、自由自在に操れるみてーで、ちゃんと茶碗と箸を持って、ご飯を食べてやがる…。
言葉使いも丁寧で、礼儀正しいから、天道家の面々からは、印象が良いみてーだ。
でも、所詮は、猫だから、俺は、あんまり関りたくねえ…。
夕飯が終わって、りんねは自分の仕事に早速とりかかった。
あかねにとり憑いた幽霊に向かって、いくつか話しかける。情報収集のつもりだろう。
「えっと、あなたのお名前は?」
『忘れた…。』
ぷいっと無愛想に言葉を投げつける幽霊。けっこう横柄な奴だった。
「どこでとり憑いたんですか?」
『彼女に聞いてくれ!』
とあかねに振る。
「どこでとり憑かれたかわかります?」
「さあ…あたしには幽霊さんが見えないから…。」
と困惑げだ。見えもしなければ、声も聞こえていないだろう。
「大方、プールなんじゃねーのか?海パン一丁だし。」
「海パン一丁なの?」
「ああ…紺色のスクール水着だな…。で、頭には黄色いプール帽子を被っている、一般的な学生スイマーってところかな。」
俺は、幽霊を眺めながら、懇切丁寧に説明してやる。
『なあ…今日はもう良いだろ?俺、疲れてんだ…。そろそろ眠りてー。』
投げやりな言葉を吐き付ける幽霊。
「まだ、お風呂に入ってないんだけど…。泳いだから、ちゃんと入っておきたいし…。」
困惑げにあかねの顔が揺れた。
その言葉に、いきなり瞳を輝かせた、幽霊。
『おっ!一緒に入れるのかっ!』
一瞬、ときめきやがった。
なっ!
当然だ。相手が幽霊だろうと何だろうと、あかねと風呂だなんて、許せる訳が無え!
「てめー、冗談も休み休み言えよ…。」
ぐっと身を乗り出して、怒鳴りつける。
「このまま入るのは不味いですね。えっと、これを使いますか。」
そう言ってりんねが差し出したのは、目隠しだった。
「これは?」
「見えない幕です。」
「見えない幕?」
「これをすると、視界が遮られます。」
「そんなもん、手で取っちまったら、元も子もねーだろが…。」
と俺が言っている矢先に、りんねは素早く、幽霊にそいつを装着しやがった。結構、手が早い。
『こんなもの…。』
ぐぬぬ…と言いながら、取ろうと足掻く幽霊。だが、どう足掻いてもはがせないようだった。
「これは特殊加工がしてあります…。えっと、追加料金、三百円いただきます。」
「あん?」
「死神の決まりで、実経費は発生の都度、支払っていただくことになっています。」
…案外、ちゃっかりしているというか…。なびきみてーな野郎かも…。
「じゃあ、それはあたしが払うわ。あたしのために使って貰うんだし。」
「こっちとしましては、どっちの支払いでもかまいませんが…。きちんと払っていただけるのなら…。」
…手を揉むな!手を!おまえは悪徳商人かっ!
「で?何でおまえも風呂場へ行くんだ?」
俺はりんねへと問いかける。
「いや、万が一こいつが悪さをしたら大変ですから…。」
「おめー、まさか、あかねの入浴を覗こうだなんて…。」
「いえ、これも仕事の一貫ですから。」
ちょっと顔が赤くなってねーかと拳を作りかけたら、
「乱馬、あんたも何でついてくるのよっ!」
ポカッとあかねにやられた。
「だから、俺はおめーの…。」…と言いかけて、黙った。考えてみたら、俺も、入浴に付き合う訳にはいかねーか…。
いくら変身できるとはいえ、湯を使ったら、男のまんまだもんな…。一緒に入浴だなんて…いくらなんでも早すぎるか…。
「だったら、僕が、あかねさまとご一緒しますよ。」
にゅっと現れたのは、黒猫だ。
「ひっ!」
まだこいつに慣れない俺は、後ずさる。否、猫だから絶対に慣れないかも…。
「六文ちゃんに守って貰えるなら、大歓迎よ。一緒に、お風呂に入りましょう…。」
…わたっ!こいつは…。小動物には警戒心が全くねーんだから…。
「それが得策かな…。六文、頼んだぞ。」
りんねはそういうと、脱衣所から離れた。
「ほら、乱馬さんも一緒に…。」
と奴に引っ張って行かれた。
まあ、そんなすったもんだがあった後、俺たちは仲良く(?)あかねの部屋に就寝した訳だ。
勿論、就寝にあたっても、ひと悶着あった。
「え?りんね君も一緒に寝るの?」
あかねがキョトンとりんねを見やった。
「ええ…。」
「あたし…男の子と眠るのはちょっと…。」
「嫌がられても、あなたの傍には、うら若き幽霊さんがご一緒ですが…。」
あかねには見えてねーが、確かに、あかねに取り憑いた幽霊も一緒だ。
「何かあった時、俺が傍に居ないと、対処できませが…。」
この野郎…。幽霊を餌に、あかねを怖がらせて、一緒に眠るつもりなのか?…茶をしばきならが、横でムッとなる俺。
「あかね様。この幽霊が取り憑いている間は、りんねさまが傍に居た方が良いですよ。」
六文もそう言って、戸惑うあかねを説得にかかる。
「でも…。」
「だったら、俺もおめーの部屋で一緒に寝る…。」
トンと湯のみを置いて、言葉を投げつけた。
えっという表情を浮かべたのは、幽霊とりんね、それから六文だ。
「ちょっと、乱馬っ!」
あかねが焦った声をあげた。
「君も一緒に寝るんですか?」
りんねが不思議そうに俺を見返して来た。
「一応、依頼者は俺だからな…。」
ぼそぼそっとりんねの耳元で囁いた。
しばらく奴は考えていたが、
「一人より、複数で監視していた方が良いですね。わかりました。乱馬さんもご一緒しましょう。」
「ちょっと!あんたたち!どういうつもりでっ!」
あかねが目をヒンむきかけたが、
「海パン一丁の幽霊男子が一緒に居るんだぜ?」
あかねに向かって、指差して言ってやったら、グッとなって、言い返せない。
「わかったわよっ!でも、あたしの部屋はそんなに広くないからねっ!乱馬とりんね君は下に布団を敷いて、窮屈だけど、好いわね?」
「ああ、かまわねー。」
「僕もどんな環境下でも寝られますから。…布団があるだけでも有難いですし。」
「それから…。」
そう言ってあかねは、ガシッと六文を抱きあげやがった。
「六文ちゃんはあたしのベッドで寝かせるから。」
「あん?」
突然何言いだしやがる?…みたいな瞳を、俺とりんねがあかねへ傾けると、
「乱馬も六文君も男だし…あたしは、六文ちゃんに守って貰うわ。背後に変な幽霊も居るっていうし…。」
「あのなあ…。その黒猫も、オスだぞっ!」
「あんたたちより、マシよっ!」
がばっと俺の目と鼻の先に、六文を押しだして来やがった。
六文も慣れた物で、幼児顔から子猫顔へと変化しやがる。
「ひっ!」
慌てて、俺は、りんねの後ろ側へと隠れる。奴の目が少し、笑いを含みやがったが、そんなことは、一切無視だ。
「と…とにかく、何でもよいから、俺もおめーの部屋で寝るからなっ!」
…とまあ、こんな経緯(いきさつ)があったわけだ。
りんねと一つの布団を分かち合いながら、互いの生温かさを感じながら、一晩、あかねの部屋で過ごした訳だが…。
まあ、救いと言えば、あかねの部屋にはエアコンがある。だから、まだ、マシってもんだ。
窮屈な一夜が明けて…。
「で?今日はこれから、どーするんだ?」
「このままではらちがあかないな…。」
うーんと考え込むりんね。
「ちょっと一筋縄ではいきそうにないし…。」
「あん?」
「邪悪な感じがあの霊からは漂ってくる…。ひょっとしたら、何かの意図を持って、あかねさんに憑依したことも考えられる。」
「どういう意味だ?」
「乱馬さんは、あの霊に心当たりは無いですか?」
「無えな…。初めて会った。」
「じゃあ、あかねさんはどうでしょう…。」
「あかねには見えねーんだろ?」
「この黄泉の羽織を裏返して着せれば、見ることができますが…。ちょっとそれも危険な気がするし…。」
イマイチ、こいつ(りんね)の言ってる意味もつかみきれねえ…。まあ、特殊な職業(?)の特殊な感や考え方がこいつにあるのかもしれねーが…。
「りんね様、今日は死神青年会があったんじゃあ。」
ひょいっと黒猫が言葉を挟んできた。
「あ…。いけない…。忘れていた。」
「出席しないと、試供品が貰えませんよ。」
「おい…。何だ?その死神青年会ってーのは…。」
ぐいっとりんねの袖を引っ張った。
「若い死神の寄り合いみたいなもんです。いろいろ情報交換もできるし…。死神グッズの試供品も貰えるし…一石二鳥の寄り合いです。」
と、力強く言いやがった。
「その試供品を貰うためだけに出席するんじゃねーよな?」
ギクッと肩が動いたぜ。
「まあまあまあ…乱馬さん。落ちついてください。」
「ひっ!」
また、黒猫が俺の前に割り込んできやがったから、後ろに一歩、後ずさる。
「今日は僕が留守番していますから…。心置きなく行ってきてくださいよ。」
「あかねさん。ちょっと俺はあの世へ戻って来ます。その間、六文を置いておきますから…。」
つつっとりんねはあかねの方へと歩みよって、言い含めた。
「ねえ、今日もプールへ行きたいんだけど…。」
「あ、プールはやめておいてください。あなたに取り憑いている幽霊は海パンですから…。プールは危険だ。俺が一緒に行ければ良いですが…。」
「やっぱ、そーよね…。」
ふうっと深いため息をあかねが吐き出した。
「できれば、今日は。家の敷地から出ないようにしていただけますか?」
「え?外出もダメなの?」
「はい…。俺が居ないと緊急時に対処できませんから…。さっき、結界を張っておきました。」
「随分、準備が良いなあ…。もしかして、最初っから、今日はその「死神青年会」とかいうのに、行くつもりじゃなかったんだろーな?ええ?」
俺がにじり寄ると、フッと横を向きながら、
「何のことでしょうか?」
とうそぶきやがった。こいつめっ!やっぱ、結構セコイぞ。
「ま、仕方ないわね。今日は大人しく家で、宿題でもやってるわ。乱馬、あんたはどうするの?」
「俺はバイトに行く。」
「ふーん…。」
「一日休むと、一日分、稼ぎが少なくなるしな…。それに、こいつらの報酬のこともあるし…。」
「え?報酬?」
「あ…いや、何でもねえ…。郁さんに来いって言われてたしよ…。ってことで、おめーは、家に居ろ。」
「何偉そうに、言ってるのよ。」
ま、そんなこんなで、あかねは六文と家に一日中居たし、俺は俺で、郁さんのところに行って、昨日みてーに、旗持って、一日中、街を練り歩いて居た訳で…。
で、結局、りんねの野郎は、その日は帰って来なかった。
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