イラスト/Yumimiさま
■ボスと一緒に 中編 五 帰国一日目は、結局、寝て過ごした。 時差ぼけで、身体がまだ、日本という国の時間に馴染んでいなかったことも勿論あったが、今夜の「祭」に備えて、休養も兼ねて、たっぷりと睡眠をとったって訳。 元々時差ぼけで、日本とはほぼ対極の生活を余儀なくされていたので、昼間は良く寝られた。俺が寝ている間、あの馬鹿犬も神妙にしていた。あかねが疲れた俺の身体を気遣ってくれたようで、ボスと俺を引き離しておいてくれたようだ。 なびきの進言もあって、昼間は一歩も家から出なかった。俺が帰宅したってことを、相手に知られるのが不味いからだ。 こうなったら、今夜、襲ってくる奴を一網打尽にして、徹底的に痛めつけてやらねーと俺の溜飲も下がらねえっ! 「昼間、こんなに寝ちゃってさあ、今夜、ちゃんと眠れるの?乱馬ったらあっ。」 夕刻、あかねが苦笑いしながら、俺を揺すり起してくれたほど、良く眠っていた。 「別に、夜は寝なくても良いんだぜえ…。」 ちらっと、あかねを見上げながら、意味深に言葉を継ぐ。 「あのねえ…。あんたは良くっても、あたしがそれじゃあ困るの。」 何か勘違いしたようで、あかねが真っ赤になって、ぼそっと言った。 「何が困るんだよう…。」 ちこっと猫なで声を張り上げながら、手を差し伸べようとすると、ウウウと足元で唸り声が聞こえた。 ちぇっ!また、馬鹿お邪魔犬、おまえかよ。 たくう…。新婚家庭に勝手に上がり込みやがってぇっ!てめーが居なきゃ、直ぐにでもあかねを押し倒して、熱い唇を宛がうところなんだぜ! そんな、俺の下心を機敏に察知してか、馬鹿犬は俺を睨みつけてやがる。 馴れ馴れしく、ご主人様に触れるな! 燃える瞳は、そんな言葉を投げつけてきやがる。 いちいち俺に突っかかって、癇(かん)に障(さわ)る奴だ。 「ちったあ、俺の留守中に、料理の腕、上げたかあ?」 「まあね…。暇な時は、かすみお姉ちゃんのところへ出向いて、いろいろ教えてもらってるんだあ。」 「そっかあ…。かすみさんに教えてもらってるのかあ…。」 目の前に並べられた皿を覗き込みながら、にっと笑う。あかねの料理の腕は、確実に進歩してきている。茶色一転等の皿の中身も、春の花のように、仄かに色づき始めているのだ。まだ、若干、コゲ色が目立つが…。 かすみさんは俺たちよりも一足早く、東風先生と結婚して、接骨院を手伝いながら暮らしている。 「本当はね、母屋でお父さんたちと一緒に食事しようと思ったんだけど…。皆、今日はそれぞれ都合が悪いんだってさ。ほら、あんたの帰国、二日ほど早くなったじゃない?だから、揃っての夕飯は明日からなんだ…。ごめんね…。」 「別に、良いよ。二人の時間も大切にしてえもんな…。」 ふっと微笑み返すと、また、足元で「ウー。」だ。この、馬鹿犬。夫婦の会話に割って入るなっつーのっ! 母屋の住人たちが、俺やあかねと食事を共にしたくない理由は薄々わかっていた。 そろそろ、天道家の回りに、下心バリバリの腹に一物持った連中が集結し始めて、窺い始めていることだろう。そんな中、俺が帰宅していることがばれたら、一網打尽どころじゃなくなっちまう。 推察するに、俺の帰宅を相手に知らしめないように、それなりに気を遣っていてくれるに違いねえ。ま、もっとも、なびき辺りは、ゴタゴタに巻き込まれるのが嫌なだけかもしれねえが…。 母屋は灯が消えていた。 親父もオフクロも早雲義父さんもなびきも、揃って外出しているようだ。 おそらく、かすみさんの家あたりに行っているんだろう。 とにかくだ、俺とあかねの仲に割って入ろうとしている連中は、絶対に野放しできねえ!目に物見せてやろうじゃねえか、と俺自身も気合が入りまくっているから、他の家族たちの気遣いはありがたかった。 今夜浸入してくる奴らめ、二度と、俺たちに手出しできねーほど、叩きのめしてやるぜ! 「ちょっと乱馬、何、いきり立ってるのよ?」 そんな俺を見て、あかねが不思議そうに問いかけてきた。 「あ、ははは…。いや、別に…。わっはっは。」 ウウウと穿った瞳が、もう一対、俺を見て低い唸り声を張り上げてくる。 鈍チンのあかねには、一切気付かれる事なく、夜が更けゆく。 「今夜は母屋に人影もないから、静かだわあ…。」 などと、あかねは俺の脇でのん気な事を言っている。 「あかね、食後の茶、淹(い)れてくれよ。緑茶が良いなあ…。」 と所望する。 「そうね…。珍しく、こっちがすすめても晩酌しなかったからねえ…乱馬。お茶で咽喉を潤すわけね。」 あったりめえだ!戦いを前に、シラフで居なくてどうすんだよ。 あ、言っとくが、俺、成人してから、それなり、酒が飲めるようになっている。さすがに試合前になると一滴たりとも飲まねえが、普段は晩酌付きだ。ビール、発泡酒、日本酒、ワイン、ウィスキー、バーボン、焼酎、泡盛、チュウハイ、何でもござれだ。 で、あかねが出してきた湯のみに、すかさず「睡眠薬」。馬鹿犬も気付かぬ速さで、あかねの湯飲みに、そっとぶち込んだ。 それって、夫婦でも犯罪じゃねえかって?…厳密に言えば、そういうことになっちまうんだろうが…。 でも、今夜の修羅場、できたら、あかねに見せたかねえもんな。 こいつも相当、短気だし、凶暴だから、被害も最小限に食い止めてえし…。平和裏のうちに終結させてえもんな。夫としての気遣いだ。 薬は東風先生に予めなびきが頼んでおいた、ちゃんとした処方薬だ。 案の定、ソファにもたれて、直ぐにあかねが、寝息をたてはじめた。すうすう、と心地良さそうな寝息だ。俺の方へと、頭を垂れて来た。 「ウウウ。」 あかねの異変を察知した、犬っころが、低い声で唸る。 「シッ!ご主人様、寝入っちまったんだから…。起すなよ。」 と俺は、人間に言うように、たしなめた。 「ウウウ…。」 まだ、低い声で唸ってきやがる。 「てめえが思うような「不埒な行為」は今夜はしねえーよ。」 俺はそう言いながら、あかねを抱き上げた。いわゆる「お姫様だっこ」という奴だ。 「ん…。こいつ、結構、プロポーション良いんだよなあ…。」 ゴクンと生唾を飲み込む。あかねの細っこい腰の括(くび)れとふくよかなお尻の弾力が、程よく俺の「男心」を刺激してくる。格闘技でそれなり鍛え込んであるから、あかねのプロポーションには無駄がない。いや、事実、あかねは精神面肉体面全部ひっくるめて、名実共に俺の最高のパートナーなんだ。俺の頑強な肉体を、難無く受け入れてくれる女性の器は、そうそこらに転がってる訳じゃねえと思う…。多少激しくしても、こいつは大丈夫なんだ…。あはは…。 このままベッドに運んで押し倒したいという、下半身辺りから突き上げてくる衝動を、必死で堪えた。 つうか、馬鹿犬が俺の下心に警戒心バリバリだった。ずっと、俺のズボンの裾ごしにふくらはぎ辺りに噛み付いていたので、理性を失わずにすんだ…というのが正解かも。この馬鹿犬が噛み付いてくれなかったら、理性なんか、ぶっ飛んでいたかもしれねえ…。 だって、考えてもみろよ。ずっと家を空けていたんだぜ。その、俺だって、ウップン、欲求が溜まりまくってるじゃねえか…。 「たく…。おめえはあ…。」 強く噛み付いて来る犬っころを恨めしく眺めながら、俺はあかねを寝室へと運び入れた。 それから、おもむろにクローゼットを開いて、そこへとあかねを押し込む。とはいえ、勿論、丁寧に扱った。 あかねは、微動だにしねえで、クローゼットの隅っこに落ち着いた。それから、冷えないように、掛け布団をしっかりとかぶせる。下に予めふかふかな毛布も敷いていた。 何しやがるという瞳で、俺の行動の一部始終を、犬っころが見ていたが、俺は、奴に言ってやった。 「おめーにしてみりゃ、不可思議な行動かもしんねーけどよ…。おめーのご主人様、今夜はベッドの上じゃあ危険極まりねえんだ。わかるか?」 俺の言葉に、犬っころは首を傾げてやがる。 「おめーも、番犬なら、さっきから、我が家の庭先から漂ってくる、タダならねえ気配に気付いてるだろう?」 俺は、背後を親指で示しながら、犬っころを諭した。 と、犬っころは耳とシッポをピンと立てやがった。どうやら、俺同様、奴らの気配を察したのだろう。 「あの連中の狙いは、あかねさ。」 俺はクローゼットを閉めながら、犬っころに言い聞かせた。 「今夜は、おめえにも存分に働いてもらわなくっちゃあ、なんねえようだ。おめえも、ご主人様を傷物にはしたくねえだろ?」 「オン。」 わかったのか、諦めたのか、犬っころは、一声鋭く鳴いた。 「ま、不本意かもしれねえけど、今夜は共同戦線張ろうぜ。おめえは、侵入者に噛み付き放題噛み付きまくれっ。俺はここであかねのふりをして、潜んでおく。おめえを突破してくるのは、恐らく、一筋縄じゃいかねえ、大物の八宝斎のジジイ一人だと思うがな…。」 そういうと、俺は、ベッドへと潜り込む。俺とあかねの愛のダブルベッドへだ。 勿論、頭からすっぽりと蒲団を被った。できるだけ、身を屈めて、小さく見せかける。男の体臭を消すべく、予め、なびきが手渡してくれた「芳香作用のあるお香」をたいた。 女体変化していた昔なら、水をひっかぶって、女体になるところだろうが、今はあの「ふざけた体質」は過去の思い出と成り下がっている。 幸い、部屋は薄暗い。殺気を隠す術も、今の俺には充分ある。息を殺して、寝入った振りをする。 仄かな、お香の柔らかい香が、妖しげに俺たちの寝室を包みはじめた頃、侵入者たちは、一斉に動き始めた。 六、 ボスはピンと耳を立てると、ウウウと低い唸り声を張り上げ、寝室のドアから外へ出て行ったようだ。 俺は、じっと息を潜めて、あかねのふりをしてベッドへと横たわる。目を閉じて、敵の気配を察知する。 一人、二人、三人…。ざっと全部で十五人くれえか…。 たく、懲りねえ連中だな。 案の定、馬鹿犬との小競り合いが始まったようだ。 「わああっ!何だ?この犬っころっ!」 「犬飼ってるなんて情報、なかったぜえっ!」 男どもの悲鳴がそこここから響き渡ってくる。初めて浸入する奴にはきついだろう。 こりゃあ、かなりのやり手だな。 小さい犬だが、その分、すばしっこい。番犬に適した素質を元々持ってる、強い犬のようだ。 バタバタ、ドタドタと、階下から大きな音が響いて来る。 はあ…。明日の朝目覚めたら、あかねの奴、怒りまくるだろうなあ…。 相手は畜生と見境の無い男性連中。家の中が荒れ放題になるのは、自明の理。 ほら、また、グラスの割れる音が響いてきたぜ…。 溜息すら飲み込んで、じっと息を潜める。 ものの、二十分ほどで、階下は静寂に紛れる。 どうやら、殆どの連中は、ボスが撃退したらしい。 が、まだ、強敵が残っている。 倒れた連中の中に、当然、ジジイの気配はない。 一世紀を悠に越える程、時を経た「妖怪」みてえなジジイだ。階下で倒れている連中のように、一筋縄じゃいくまい。 窓の外、瓦屋根の上に、すうっと奴の気配が立った。 来やがったか! 俺は、殺気をますます内側にグッと押し殺す。 ここまで来て、俺の気配を察知されたらおしまいだ。八宝斎ジジイに鉄槌を下すどころか、クローゼットで寝ているあかねが危ねえ。 息と気配をぐっと押し殺す。 八宝斎のただならぬ気配を察知したのだろう。次の瞬間、物凄い勢いで、ボスが階段を駆け上がってきた。 「ワンワンワン!ワワン!」 何度も八宝斎とはやりあっているから、ボスも警戒心をむき出しにして飛びかかる。 八宝斎はまだ、窓の外だ。 ぼんやりと影が浮かんでいるだけ。 奴がガラス戸に手をかけて浸入して来ようものなら、真っ先に噛み付いて撃退してやる…。そんな、ボスの心の声が伝わってくるかのような、緊張感が部屋中に充満する。 だが、だてに長年を無駄に生き抜いてきた八宝斎ではなかった。ずる賢さ、腹黒さは、階下で倒れている若造たちの比ではない。 それを思い知る事になろうとは。 八宝斎は、ガラス戸に手をかけたが、直ぐには入って来なかった。 そう、奴は手に持っていた「何か」を、部屋の中に投げ入れたのだ。 コロンとそいつがカーペットの上を鈍く転がる音がした。と共に、ボスの目と鼻の先でボンッと破裂する。八宝大華輪とは違う、別の弾け玉だった。 もくもくと上がる煙。 や、やべえっ!これは!痺れ薬? 咄嗟に俺は敷布団に顔を伏せた。 できるだけ、漂ってくる空気を肺に入れないようにだ。 次の瞬間、ドサッと鈍い音がした。 案の定、煙玉をまともに食らったボスは、もんどりうって、床に倒れこんだようだ。 「ふっふっふ…。即効性の痺れ玉はどうじゃ?犬畜生め。」 煙の向こう側から八宝斎のジジイがぬううっと現われたようだ。 「これはなあ…。犬専用の痺れ薬じゃから、人間様には無効なのじゃ。」 な、何て邪悪な奴なんだ。 ボスを予め煙玉で黙らせておいて、あかねに襲い掛かろうって寸法らしい。 「ぐふふふふ。これで、あかねちゃんはワシの物。それ、五寸釘とやら。」 「は、はい…。」 「カメラの準備は良いかなあ…。ぐふふ。」 「ちょっと待っててください。今、スタンバイしますから。」 どうやら、五寸釘とつるんでいるようだ。この助平ジジイ、あかねとの接吻シーンを五寸釘に撮影させて、それを根拠に勝利宣言しようという魂胆らしい。 こんな下衆ジジイに、あかねを襲わせるなんて…。怒りを通り越して、プッツン切れた。 俺が何をしたかって? 聴くもおぞましいことかもしれねえ。 今思うと、それは、八宝斎ジジイの精気を根こそぎ奪っちまおうと、咄嗟に考え出した妙案だっだ。 「早くせんかい!」 「そんなこと言われても…。こう暗くっちゃ…。手元が良く見えませんよ…。」 五寸釘が弱々しい声で囁く。こいつとしても、あかねの唇がこのジジイに奪われる瞬間をカメラに収めるのは「不本意な事」に違いあるまいに。何、こんなジジイの使いっぱやってるんだか。 だが、俺は、堪忍押さえ込んで、蒲団の中、次に来る瞬間をじっと待った。 そうだ。最大限に活かしきるために、じっと我慢して、ジジイを引き付けたのだ。 「準備は整いました…。」 五寸釘は、小さく合図した。 「ふっふっふ、これであかねちゃんはワシのものじゃあっ!あっかねちゃーん!」 ガバッと八宝斎が蒲団をめくり上げたのと、俺が起き上がり際にぐっとジジイの鼻先にブツをなすりつけたのは、同時だった。 俺が手にしていたもの…それは、生脱ぎしたところの俺のトランクスだった。まだ、脱いだばかりなので俺の人肌の温もりが残っているナマモノだ。 「ぐえええええっ!」 ジジイが白目を剥いた。 その瞬間、パッとフィラッシュがたかれる。五寸釘がシャッターを切ったのだ。 「お、男の臭い…。ぐえええええっ!」 「ほれほれ…ジジイ、夜を忍んで俺のところへわざわざ来てくれたんだ。もっと味わえ!うりうりうりっ!」 俺はジジイの襟ぐりを放さぬように右手でぐっと掴み、左手を前に突き出して、ジジイにトランクスをなすりつけた。 ヒクヒクとジジイの身体が揺れた。そして、首からがっくりとうな垂れ、口から泡を吹きながら、沈んだ。 五寸釘がカメラ操作に手間取っている間に、ごそごそっと布団の中で、男気溢れる「トランクス」をさっと脱いだのだ。そして、そいつをぎゅっと手に握り締め、ジジイが蒲団を剥いだ瞬間、そいつをジジイ目掛けて差し出したのだ。 女は大好きだが、男の、それも脱ぎたてのトランクスを目の前に翳されおまけに、思い切り嗅がされたのだ。ジジイが無事で居られるわけはねえ。 勿論、下半身は素っ裸だ。あ、こら、想像すんなよ!頭が腐れるぜ。 「ど、どうして…。早乙女君が…ここに。」 カメラを持ったまま、五寸釘も突っ立ってやがる。 「ここは、俺ん家だ。俺が居たところで不思議じゃあるまい?えええ?五寸釘ぃ。」 指を鳴らしながら、俺は五寸釘を見上げる。 「だって、帰国は明日だって…。」 「へっ!てめえらみたいな不埒者が居るからよう…。予定早めて帰って来たんだ。文句あっか?」 ドカッ、バキッ、ドスン! この後、浸入してきた連中がどうなったかは、想像に任せるさ。 二度と、俺の平穏な家庭へ乱入なんかできねえくらい、ボコボコにしてやったことは、言うまでも無い。 煙玉から正気を取り戻した「ボス」も、ズタボロになるまで、ジジイや五寸釘に襲い掛かってたってことも、追記しておくぜ。 こうして「天道あかね激ラブ協会」たらいう、ふざけた組織は俺の手によって解体、解散を余儀なくされた。勿論、裏で手を引いていた「九能小太刀」も地団駄踏んで悔しがったようだがな。 あ、あかねは勿論、何事があったかも知らず、ずっと眠り続けていた。 「変ねえ…。ガラスの器やコップがいくつか無くなってる気がするんだけど…。」 散らかした侵入者にすっかり片付けさせたリビングで、あかねは、翌朝、小首を傾げる。やっぱ、こいつの鈍さは国宝級だ。 「もしかして…。乱馬とボス…。二人でやりあってたのかしら?」 などと、見当違いなことを問いかけてくる。 「あははは…。まさか、なあ。ボス。」 「オオン!」 ボスと俺は、神妙にあかねの前で笑ってみせる。 「へええ…。あんたたち、いつの間に、仲良しになったの?」 「いや、別に、仲良くなったわけじゃねえけど…。」 「アオン。」 「ま、いいわ…。朝ご飯作るわね。」 ともかく、こうして、俺とあかねのスイートホームは守られた。 で、ボスがその後どうなったかだが…。 結局、前の飼い主の新居でのペット飼育の折り合いがつかず、そのまま、俺ん家で番犬として飼われることになった。俺も相変わらず、世界中を飛び回る身の上。また、どんな連中があかねを狙って来るとも限らねえし…。番犬には持って来いの賢い犬だったから、俺も折れる形で、渋々、ボスを我が家で飼う事を承諾したわけだ。犬が居れば猫も寄ってこないわよ…というあかねの殺し文句にノックダウンされた形だ。 あ、だが、飼うに当たって、俺なりにも、一つだけ条件を出した。 それは、ボスの寝床を俺たちの部屋とは離す事だ。 だってよ…。ベッドインするのに奴が居たら邪魔で仕方ねえだろうが。いつまでも、子ども作らないわけにもいかねえし…。子ども作る前には、その、前段階も必要になってくるしよ…。ボスと寝屋を共にしていたら、その、ほら、無産別格闘流の後継者作りの邪魔になるじゃんか。 最初は抵抗しやがったが、今じゃ、リビングの隅っこが奴の棲家になっている。 共同戦線張って、あかねを守ったてこともあったのだけれど、ボスも、前ほど俺に立て付かなくなった。だが、相変わらず、俺があかねに甘えようとすると、横から物凄い勢いで割り込んできやがる。俺も仲間に入れろと言わんばかりにだ。 で、時々、小競り合いが起こる。 「もう…。家には甘えん坊が二人も居て、大変だわ。」 あかねは俺とボスに囲まれて、笑う。 「なあ、甘えん坊をもう一人…そろそろ増やさねーか?」 あかねの耳元で甘く囁いてみた。 「乱馬ったらあっ!」 あかねの顔がみるみる真っ赤に熟れた。たく、本当にわかりやすい性格だぜ。 「さて、休もうぜ…。こら、ボス!今夜はぜえったい、邪魔すんなよ!」 そう言って、あかねを抱き上げる。 「アオン!」 わかったのか、わからないのか、シッポを振りながら、ボスがそんな声を張り上げた。 「だから、寝室までくっついて来るなっつうの!室内犬やめて外犬にするぜ、馬鹿犬!」 「アオーン!」 夜毎、そんなボスとの葛藤が続いているのも、幸せの証…なのかもしれねえけどな…。 完 (2006年4月28日) |
何つう作品だ(汗 当初はボスを撤収させるつもりだったのに、しっかり早乙女乱馬家に居ついてしまいました…。 また、別の未来像が見えてきてしまったような…。 いつか続編書くかも…。 |