イラスト/秋日子さま
■初詣、願い事■ クリスマスが通り過ぎると、日本中が「年始」を迎える準備に入る。俄か似非キリスト教風味のクリスマス飾りは、街角から追い遣られ、すっかり「新年ムード」へと転じる。 新年ほど「日本」を感じさせる季節は他にはないだろう。 もっとも、今に残っている「新年」は、江戸期以降に成立したものが殆どであろうが、それでも、なんとも言えぬ懐かしき空気が、日本中を包み込むのである。 特に、天道家のような旧家になると、それなり、積み重ねられてきた「家としての伝統」が新年になると、ひょっこりと顔をもたげてくる。 玄関先の注連縄、門松に始まり、家の中には「鏡餅」が飾られる。それも、年末に庭で家族総出でついた御餅を使っているから念が入りだ。最近は小餅がたくさん入った鏡餅型のお飾り餅が主流を占める中、自家製の餅を飾る事自体が珍しかろう。が、延々と昔からやってきたことなので、この家では当たり前になっている。 天道家の正月、かすみが作るお雑煮から始まる。かつおで出汁を取ったすまし仕立てのお雑煮である。具は青菜類に鶏肉、仄かに散らせた柚子が香るシンプルなものだ。中に入る餅は網の上で焼いた角餅。こんがりと焼き目がついて、食欲をそそる。 今年もかすみが中心になり、大晦日からおせち料理作りが行われていた。 しかも、乱馬の母のどかも天道家の住人と化していたため、彼女も一緒に手伝ったため、いつもの年よりも、正月の食卓が華やいでいる。 天道家と早乙女家の折衷のような豪華なおせち料理の数々。 その片隅に、もう一人。あかねが頑張っていた。 「何で、あかねが頑張ってるのよ。」 こそっとのれんを覗き込みながら、なびきが父、早雲に尋ねる。 「いやあ…あかねもそろそろおせち料理を作る修行をせねばならんだろ?のどかさんが気を利かせてくれたんだよ。」 「そんな、迷惑な…。」 「大丈夫じゃ。あかね君の作った物は全て乱馬に食べさせる手筈になっとる。そんなに心配せんでもよいぞ!」 横から、玄馬も頭を乗り出してきて、三人で元旦の朝からひそひそ話をしている。 「で?乱馬君は?」 見当たらない、乱馬を牽制するかのように、なびきが尋ねる。 「一年の計は元旦にありってな、珍しく早起きしてロードワークに行っているよ。」 早雲の答えになびきはすかさず言った。 「まさか、あかねの料理を察して逃げたなんてこと…。」 「それはないと思うよ。朝ご飯までに帰ってこないとお年玉はあげないって言ってあるから。」 早雲が苦笑いする。 「なるほど、そういう手があったわね。」 「あ、噂をすれば帰って来たぞ!玄関先で物音がした。」 「お父さんたち、もうちょっとでお雑煮できますからね。先に茶の間で待っててくださいな。」 人の気配をたくさん後ろ側に察知したかすみが、にっこりと微笑みかける。真っ白なエプロンが眩しい。 あかねが作った異物以外は、おせちは重箱にキチンと納められていて、茶の間のテーブルの上に広げられていた。旧家らしく、本格的な四段重箱だ。その脇には、重箱に入りきらなかった料理やあかねが作った物が、別皿に盛ってある。 中央にはお屠蘇の準備も抜かりは無い。 ロードワークで汗を流してきた乱馬も、運動着からいつものチャイナ服に着替えて現れる。 「皆、揃ったようだね。さてと、旧年中はお世話になった。本年も、どうかよろしくお願いするよ。」 早雲は天道家に住まう面々を前に、家長らしく挨拶をすると、屠蘇を取った。 順番にお屠蘇を盃に注いで、新年の挨拶を交わしながら飲む。これもまた、新しい年を始める上での、天道家の作法だった。 早雲が一番なのはこの家の家長だからで、次に、玄馬、のどか、かすみ、なびきと年の順に盃は受けつがれる。 「うげ…。何度飲んでも屠蘇ってのは、薬臭くて不味いや。」 乱馬がボソッと言い放つ。胃がきゅうっとなったように感じる。 彼の次はあかねだ。あかねは乱馬から盃を貰いながらそれに答える。 「おいしく飲むもんでもないでしょうから、それで良いんじゃないの?」 「ほら、乱馬君からあかねは盃を貰いなさいよ。」 そう言って、なびきが笑う。 「何であたしはお父さんじゃなくて乱馬についでもらわなきゃなんないのよ。」 「何言ってんの。あんたたちは許婚同士だから、あかねはお父さんからじゃなくて、乱馬君からついでもらってら良いの。」 「んなわけないでしょうが!正月から、からかわないでよ!」 「いや、乱馬君に注いでもらいなさい。」 早雲はさらりと言ってのける。 「じ、冗談じゃねえ。何であかねに俺が…。」 ブーイングの連続だ。 「黙って言うとおりになさい!」 のどかの刀がきらりと光る。 「わ、わかったから、オフクロ!その物騒な刀はしまってくれ!ほら、あかね、仕方ねえからついでやる!」 「仕方ないからついでもらったげるわよ!」 新年早々、この調子だ。 「どう?未来の旦那様から受ける盃は?気が引き締まった感じがするでしょう?」 なびきがくすっと笑いながら耳打ちした。 「いい加減にしてよ!お姉ちゃん。」 あかねは不機嫌そのもの。正月でなければ、ガッタンとやりそうであるが、さすがに新年早々、派手にやらかすわけにはいかず、あかねもぐっと我慢した。 「屠蘇も終わったし、さて、ご飯としようか。」 「天道君、待ってました!」 何と言っても新年だ。朝から堂々とお酒も飲める。父親たち二人は、早速、かすみが持って来た熱燗へと手が伸びる。 「先に、お雑煮を召し上がってくださいね。」 と、かすみは制するのも忘れない。 天道家の新年は、お屠蘇とお雑煮で始まるのである。 「昔はいろいろ、細かい家々の決まりごとがあったよねえ…。天道君。」 おせちのお重を目の前に、玄馬が目をきらめかせながら口火を切った。 「おせち料理だって、松の内の間は煮炊きしないようにって、物凄い量作ったものだけどね。だんだん、作る家すら少なくなってる相じゃないか。」 「ウチは相変わらず、物凄い量作ってるけどね…。」 なびきが口を挟んだ。 「何の…。料理の一つ一つにも意味があって、それを必ずってのがあったろう?それに、地域地域でそれぞれ、シキタリも微妙に違っていたりして。」 「餅一つだって、関西じゃあ、丸もちしか雑煮には使わんそうじゃないか。」 「へええ…。そうなの。」 雑煮を前に、正月のウンチクを並べ立てる、父親たちの会話を、興味深くあかねは聞き入る。 「関西方面じゃあ雑煮もすまし汁じゃなくて味噌仕立てなんだぜ。ウっちゃんが言ってた。」 「へええ…。そうなんだ。良く知ってるわね、乱馬。」 右京の名前が乱馬の口からこぼれた物だから、ちょっとあかねがムッとした表情を浮かべる。 「ああ、何でも、中に入れる具も、雑煮大根、金時人参、ごぼう、里芋なんかを、丸い形にしか切らねえそうだ。新年早々角たてちゃいけねえんだってよ。」 「良く知ってるわねえ…。さては…。あんた。今朝、初ロードワークに出たとき、ウっちゃんちでご馳走になったんじゃあ?」 乱馬の肩がピクンと動く。しまったと言わんばかりに、顔が引きつっていた。 あかねの瞳がギラリと光る。 「あんたさあ…。もしかして、ロードワークにかこつけて、右京とかシャンプーとかに、お雑煮を食べさせてもらってきたんじゃあ…。」 ゴゴゴゴゴと音をたてながら、あかねが乱馬をじろっと睨む。手には乱馬のために注いできた、あかね特製のお雑煮が収まっている。 「あは…。あはは。ウっちゃんちの前を通りかかったら、ふるまってくれてよう…。だから、俺、もう腹いっぱいでよう…。おめえの作ったお雑煮はその…。」 冷や汗をだらだら流しながら、乱馬があかねを見上げた。 浮気がばれて言い訳をする旦那の如き、修羅場だ。 「もしかしてさあ…。あんた、最初からあたしの作ったお雑煮を牽制するつもりで、右京の家に上がり込んでたんじゃあ…。ついでに、お好み焼きも初食べしてきたんでしょう?」 でんどろどろとあかねの顔が巨顔化し始める。 「ま、まさか…。んな訳ねーだろ?」 「ウソつけーっ!だったら、その歯の間の青海苔は何だーっ!」 「あかねちゃん、新年早々、角なんかたてたら…。」 かすみがやんわりと、なだめた。 「大丈夫!角はたてないわ。丸よ、丸!それも、鏡餅仕立ての!」 「ぐえっ!」 次の瞬間、乱馬の額に丸いタンコブが二つ浮かんだ。ご丁寧に、鏡餅のように二重になっているタンコブだ。力任せに、乱馬の脳天をバコンとやったのである。 新年早々、山の神の手荒い襲撃にあい、乱馬は沈んだ。 「馬鹿!!」 あかねはパンパンと手を鳴らしながら、無駄になった雑煮を台所へと下げていく。 「結局、あかねの雑煮は誰も食べないのか。」 「お父さん、食べる?」 ブンブンと早雲は首をふる。 「何で新年早々、こんな目にあわなきゃ、いけねーんだよ!」 恨めしそうに乱馬があかねの後姿を見送りながら、ぐったりと文句をたれる。 「仕方ないんじゃないの?あかね、朝から頑張ってたからねえ…。それを、コレのところで先に食べて来たっつうたら、誰だって怒るわよねえ。」 なびきが乱馬の目の先で小指を立てて見せた。 「だーから、俺は無実でい!たまたま、通りがかりに、関西風のお雑煮を食わせてもらっただけでい!たく、無駄になったと思うんだったら、作った本人が食えば良いだろうに…。あいつ、自分じゃ食わないのは何でだよ!」 「本当、乱馬とあかねちゃんは仲良しさんねえ…。」 のどかがほんのりと笑った。 「これの、どこが、仲良しさんに見えるってんだよ…。」 母親の言に、こそっと吐き出す乱馬。 「喧嘩するほど、仲が良いってね…。今年も一年中、楽しくあかねとやったんさい。」 「ま、気を取り直して、初詣なんかどうかね?」 満腹になったところで、早雲が切り出す。 純粋な日本人の正月をまい進する天道家。まずは、家族揃っての初詣が、新年最初のお出かけとなるのも頷ける。 「せっかくだから、晴れ着を着せてあげましょうか?」 のどかが横から声をかける。 「晴れ着ですかあ?」 あかねの目がぱああっと輝く。 なかなか、着物は着る機会が無い。自分で着付けできるほど器用では無いので、着せてもらえるというのなら、願ったりかなったりだ。 「ええ、こういう機会でもないと、お着物、着ることもないでしょう?女の子はやっぱり、着物でお参りしなきゃ。乱馬もあかねちゃんの着物姿、見たいでしょうし。」 ちらっと見やる息子の方。 「べ、別に、あかねの着物姿なんざ…。見たくもねえけどよ…。」 ぼそぼそっと歯切れの悪い返答が返って来る。 「あたしだって、乱馬になんか、見てもらわなくても良いわよーだ!」 あかねは思い切り乱馬に向かってアカンベエをする。 「ほらほら、一緒に、支度しましょうね。なびきちゃんもどう?」 「あ、あたしは良いです。面倒だし…。乱馬君が目移りしてもいけないし。」 「な、何だよ!その目移りつうのは!」 ムッとなった乱馬が食って掛かる。 「ホント、年を一つ重ねても、進歩がないんだから、あんたは。」 ケラケラと笑いながら、なびきも自室へと上がっていった。 ☆☆☆ 「いつまで待たせるんだよ!」 正月番組を見ながら、茶の間でブツクサ。 「ま、良いから。女子供の支度は時間がかかると、昔から相場は決まっておる!」 玄馬が脇から乱馬を制する。 「親父は?どうすんでい!早雲おじさんは紋付袴、着て行くようだぜ。」 ちらっと別方向へと見やった。 「いや、わしは別に…。」 「神様の前、そんな、オンボロ道着で出かけるのか?不釣合いだぜ。みんな、おめかししてるのによ。」 「ワシの場合、こうするのじゃ!」 傍にあったバケツを手に取ると、玄馬はばっさと頭から水をかぶってみせた。みるみる、変身する。物の数秒でジャイアントパンダが姿を現した。 『これで行くんだよー!』 アポポと言いながら、おどけてみせるおちゃらけパンダ。 「だああ…。てめえも全然進歩がねえな。」 肩をカックリと落として、乱馬は溜息を吐き出した。 「お待たせしちゃったわね。」 のどかの声に、ハッとして振り向く。と、そこには着物を着たあかねが立っていた。 (げ…。かわいい…。) 不覚にも、一目見ただけで、そう思ってしまった。 普段見つけぬあかねの着物姿。緋色をベースにした新年らしい華やかな振袖。これが、また、良く似合っている。 頭飾りもそれらしく、また、ほんのりとのどかが施した化粧が絶妙だった。 みるみる、ポッと乱馬の頬が染まる。 「きゃあ、何だかんだっつうても、顔真っ赤にしちゃって!純情なんだからあ、乱馬君てば。」 なびきが横から、うりうりとはやし立てた。 「う、うっせえっ!やっぱ、あかねは着物が似合うと思っただけでい!あ…。」 ポロリとこぼれた本音。だが、このまま、引き下がらないのが、この天邪鬼男の悪いところ。つい、要らぬことまで付け加えてしまう。 「やっぱ、アレだな。馬子にも衣装っつうか、寸胴体型には着物が一番だぜ。わっはっは。」 ズドン。メラメラ。 「あ、あかねちゃん。ダメよ!せっかくのお着物が崩れちゃうわ。」 横からかすみが止めたが、足蹴りは止まらなかった。 「寸胴で悪かったわね!」 あかねの足袋の下で、乱馬が沈んだ。 「ホント、馬鹿ね…あんた。」 なびきがじっと乱馬を見据えた。 「うるせー!」 着付けの主が上手だったことも手伝って、あかねの激しい動きにも、着物はびくともしなかった。普段から着物を着慣れているのどかの着付けだ。そんじょそこらの美容室の着付けプロよりも腕前は良いかもしれない。 かすみも着付け教室に通っていたので、一通りこなすが、彼女が着せてくれるよりも、ずっとしっくりと来る感じがした。何よりも、締め付けられている割には、苦しくない。 武道を嗜んでいるため、元々姿勢は良いほうだから、そういうことも手伝って、特に着物が重たいとも思わなかった。 ただ、はき慣れない草履を履いているということも手伝って、かなり歩く姿はぎこちない。 だんだんに、天道家の皆から遅れ始める。 「乱馬。あかねちゃんの面倒はあなたがきちんと見てあげなさいな。」 先を行く乱馬に、のどかが気を利かせて声をかけた。 「あん?」 乱馬はキョトンと振り返る。と、あかねは随分、遅れて歩いている。それもひょこたん、ひょこたんと今にも転びそうな感じだ。 「何で俺が…。」 「あなたはあかねちゃんの許婚でしょう?共に歩くのは当たり前です。それとも、母の言うことがきけませんか?」 「だああ、わかった!面倒見ればいいんだろ?」 背中の刀袋に手が伸びたのを見て、慌てて、乱馬が母の言を聞き入れた。 「べ、別に気を遣ってくれなくっても良いわよ…。」 遅れて来たあかねが、乱馬にぼそっと吐きつける。 どうやら、まだ、今朝の事を根に持っている感じがうかがえる。 「別に、気を遣ってやってるわけじゃねえよ。オフクロがおまえと来いって言うからよ!俺だって、まだ、刀のサビになりたかねーし!」 ぼそぼそっと歯切れ悪く、あかねに切り出す。 どうも、乱馬はあかねの可愛らしい着物姿にあてられてしまったようだ。それが証拠に、変な力が入り、間接がそこらじゅうで「ぎしっ、ぎしっ!」と悲鳴をあげているようだ。 己の身まで固まっていきそうな気がした。 神社に近づくにつれて、人の波も増え始める。のろのろと地面を踏みしめるように歩く、あかねなど、行列を成す人から見れば「迷惑な存在」だったろう。追い抜く人影が、危なっかしい。 肩をドンと押されて、案の定、つんのめりかけた。 「おっと。」 あかねの肩へ、思わず手が伸び、支えた。何とか転ばずにすんだ。のどかが、あかねと共に歩けと言った意味が、今更ながら理解できる。 (こいつ、このまま、人並みへ置き去りにしたら、どうなるかわかったもんじゃねえな…。この不器用娘。) 何のかんのと言ったところで、乱馬はとても「心配性」なのである。いや、そこへ「あかねの事に関して」という形容がつくのであるが。 人が増えて来た頃、乱馬はあかねの手を握り締めていた。どうも、このまま歩いていると「あかねを見失ってしまうのではないか。」という不安にかられたのだ。 「ほれ、離れるといけねえから!」 そう言い訳をしながら、あかねの手を握る。しなやかで柔らかい手だった。 「うん…。ありがと。」 あかねも素直に乱馬の好意に従った。このまま、一人で放り出されると、拝殿まで辿り着ける自信もなかったから、乱馬の思いがけない積極性が、少しだけ頼もしく感じた。 あかね赤い着物。己はいつもの赤いチャイナ服。見ようによっては、赤色同士のペアルックだ。そんなことに思いを寄せると、カアアッと頭へと血が上り出す。端から見れば、きっと、顔も服と同じように、真っ赤に紅潮しているに違いない。 繋がった手まで、真っ赤に染まったような気がする。 (俺って、案外純情なんだな…。) 気付くと、二人、拝殿前の鳥居をくぐっていた。 「手、洗わないの?」 あかねが怪訝な顔を向けると 「あ、ああ…。女になるのはちょっとな…。」 「じゃあ、真似事だけでもしたら?」 「そ、そうだな…。」 ひしゃくを持って手を洗う真似だけして、また、列へと加わる。一段、一段、階段を登りつめる。 神社というところは、別に信仰心が無くても「厳かな気持ち」にさせてくれるから不思議だった。回りを常緑の木々に囲まれているせいもあるかもしれないが、人が多くても、それなり、聖なる雰囲気が漂っていた。 心ばかりの小銭をお賽銭箱へ入れ、一礼して拍手(かしわで)を打つ。 ちらっと、薄目を開けて横を見ると、並んであかねが拝んでいる。 ドッキンと心臓が一つ鳴ったような気がした。 (あ、あかねと二人、今年も楽しくやれますように…。) 神殿を前に、咄嗟に、そう願っていた。 願い事や煩悩は数あれど、やっぱりそれに尽きる。ささやかな願いだが、一番、大きな願いでもある。 別に、恋人になれなくても良い、喧嘩をたくさんしても良い。とにかく、二人、このまま楽しく過ごしたい。 今の乱馬の思いの丈であった。 後ろから来る人に押されながら、そそくさと拝殿から降りると、帰りの道順へと就く。 緊張感が一気にほぐれたような開放的な気分だ。 「ねえ、乱馬は何を願ったの?」 屈託無く、あかねが尋ねてきた。 「べ、別に…。おまえに教えるほど、たいしたことじゃねえよ!」 動揺しながら答えた。当たり前だ。本当に願った事を、あかねの前で堂々と公表できるほど、長けてはいなかった。 「お、おめえはどうなんだ?」 「ナイショ。」 くすっと悪戯な瞳が笑った。 「ちぇっ!すかしてらあ!」 「お互い様よ。」 神社の石段を降りながら、再び繋いだ手。ほんのりと柔らかな手のぬくもりが、ほんわかと心へと広がっていく。 新年のささやかな願い。 家内安全、無病息災、学問成就、願い事は多々あれど、きっと、来年の初詣でも、同じ事を願っているに違いない。 「今年もあかねと二人、楽しくやれますように…。」 来年も、再来年も、ずっと、先まで…。 完 2006年1月14日 |
初詣の絵ですから、やっぱり初詣で書き飛ばしたかったのですが…。 結局、妄想して浮かんだ天道家のお正月がテーマになってしまいました。 頂いたイラスト、乱馬君の顔のほんのり赤いのがとってもかわいくって…。 きっと彼ならこんなことを手を合わせながら思ったに違いない…という妄想作品です。 皆さんのお家のお雑煮はどんなのですか? 我が家は関西風、白味噌したてで具材は雑煮大根、金時人参、里芋、ごぼう、 そして煮た丸もちです。 実家は関西でも母は中国地方なので「おすまし・煮丸餅」でした。 京都、大阪はこんな感じのお家が多いのではないでしょうか? 関東圏に住んでいたときは「角餅を焼く」という雑煮にびっくりしました。 「雑煮は丸いもんしか入れたらあかん!」というのが関西の常識でありました。 「何?角餅を焼く?正月から角立ててええん?」いやはや、ところ変われば…。 |