◇あとがき◇

 るみプチ直前の十月に入った頃、ポッと頭に浮かんだ妄想を、約ひと月頭の中で展開を広げて、一気に書いたのが、この作品です。
 珍しく、手が早く動きました。病を得てからこちら、なかなか集中しないと、文字作品が書けなくなってしまったのでありますが、滞ることなく、一気に書き進められました…といいたかったのですが、第九話で暗礁に乗り上げました。
 実は、九話「十八」の元になったのは、十年以上前に、大学ノートに書き殴っていた、漫画のネームでした。
 あかねを助けた乱馬が、転落して、そのまま、意識不明になり、死神に憑かれる話です。死神は乱馬の夢の中で、右京や珊璞や小太刀になって、乱馬に死の世界の食べ物を食べさそうとするのですが、あかねが現れては阻止をするという話。「記紀神話」の「よもつへぐい」が元になっております。いわゆる、伊邪那岐が伊邪那美を迎えに黄泉国に行く話であります。
 日本には「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、元々、同じ火で煮炊きした食べ物を食べるということは、運命共同体を共にするという意味あいがあったそうです。その昔、記紀神話が編まれた頃よりずっと以前は、同じ釜の飯を食わない者は、他国の者として扱われたそうです。
 古代人にとって、他所から来る者は、畏怖の対象であったらしく、「客人(まろうど)」として認められた場合だけ、同じ火で煮炊きした食事を供されたとか。余所者は敵…というのが、だいたいの見方だったようで、記紀神話の伊邪那岐の黄泉行の話は、それをなぞったものだという説もあります。
 伊邪那美も黄泉の国の火で炊かれた食事をとったので、結果的に姿形が変わってしまい、戻って来られなくなったのであります。
 つまり、その記紀神話に引っ掛けて、死神は乱馬に黄泉の国の食べ物を与えて、そのまま奪ってしまおうとするのですが、それを、夢の中であかねが必死で阻止して、何とかやりこめるという話です。
 で、助けてもらった乱馬は、あかねにその優柔不断さを叱責されます。どこか他人行儀なあかねに、乱馬の方が反発して、色々暴言を投げあっているうちに、己に意見してくる夢の中のあかねが、実はあかねではないことに気付くんです。
 その正体は、あかねの母。彼女が、あかねの姿を借りて乱馬を助けていたということだったのです。やがて、彼女によって、現世へ戻っていって、病床で目覚め、数日間眠り続けて居たことを知り、それにずっと付き添っていたあかねを見て、きゅんきゅんくる…というストーリーでありました。
 死神といっても、境界のRINNEが連載される前に作った話なので、りんねとはリンクしていません。
 その話を使おうと、プロットが浮かんだときに、最初から決めていたので、それを描写しかかったのですが…。めちゃくちゃ苦労しました。
 で、もっとも苦労したのが、最終話でして…。
 実は、十八から先は、何度もごっそり書き換えました。
 最初は和尊も夢の中に入れて、いろいろ、ぐだぐだ、説明させていたのですが、くどい!くどくなりすぎて、テーマが薄れる…ということに途中で気が付いて、その部分はごっそり、削り落としました。

 ここでちゃんと、暴露しておきますと、和尊の右目(両目)の角膜は、あかねたちの母からの移植ということを前提に書いています。
 
 彼女は和尊を通して、娘たちを見ていた…とう描写を、最初の原稿ではしっかり描いていたのですが、改稿で、その部分もバッサリ取り除きました。
 結果、「多分」「おそらく」という感じで、あかねの母が和尊のドナーであったことは、有耶無耶にしました。ただ、乱馬は感づいたというニュアンスは出したつもりです。
 今はこの世に居ないあかねの母に対して、乱馬もいろいろ感じ入ったという描写をもっと描きたかったのですが、それも辞めにしました。
 かすみを動かしていたのも、最初の設定では、あかねの母だったのですが…和尊に変更しました。これも、すっ飛ばすことになって、ちょっと残念です。(その片鱗は残してありますが…。)

 果たして、最終的に書き終えた内容で良かったのか、失敗だったのか…。まだ、迷っています。
 九話、十話を書き連ねながら、もっと、表現力が欲しいと切に思った次第であります。
 で、思うがままに書き連ねて行ったら、ラストがああいう風になりました。最初は、情緒のある求愛を書こうと思っていたのですが、18歳に二人には荷が重いかな…と思って。
 人から人へと命と想いを繋ぐ…というテーマで、ここから展開させて、和尊とからめた大学生になった二人の続編を、いつか書きたいと思っています。

 長丁場、お付き合いありがとうございました。

一之瀬けいこ
2016年12月7日

 

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