雪化粧

 吐き出す息が闇に溶ける。寒い夕方。
 日もとっぷりと暮れて街灯が目に眩しい。
 あかねは困った表情で繁華街で立ち止まっていた。
 傍らには一人の男の子。学生服の上にコートを羽織り、あかねに話し掛けてくる。
 あかねはほとほと困り果てて、どうしたものかと頭を巡らせて行く。

 ことの次第はこうだ。

 いつものようにあかねは乱馬と一緒に家路に就こうとしていた。
 六時間目が終わると、所用のない日は真っ直ぐに家へと向かう。今日もその筈だった。
 別に示し合わせている訳ではないが、同じ家へと辿るクラスメイトの乱馬とは、一緒に帰宅することが多かった。帰る場所が一緒なのだ。当然だろう。
 今日も、いつもの如く、別に一緒という訳ではなかったが、同じように校門を出た。
 と、現れたのは乱馬を巡る美少女三人。
 シャンプーと右京と小太刀である。
 彼女たちは毎日ではないにせよ、時々示し合わせたように下校時に校門で乱馬を待ち構える。今日は雪でも降りそうなどんよりと曇った寒い午後だ。乱馬を引っ張ってどこかへしけ込もうかと思っているのだろうか?
 口火を切ったのはシャンプー。
「乱馬っ!待ってたね。今日は猫飯店特製のラーメンの試食するね。だから、家に帰る前にあたしと店に来るよろし。」
 毎度のように自転車に乗って現れる。するとたまたま後ろを歩いていた右京が敵愾心を燃やし始めた。
「何言うとる。乱ちゃんは今日はラーメンなんて食べとうないねん!なあ…。そや、特製ミックスやき焼いたるさかい、家においでえな…。」
 そこへ今日は小太刀まで参入してきた。
「乱馬さまは、今日は九能家でお汁粉を召し上がりになるご予定ですのよ。」
 ときた。
 三人娘は我先にと乱馬を巡って火花を散らし始める。
 当の乱馬はというと、誰の言葉にも反応しないで、まあまあまあといった拍子でとりなし始める。
 あかねにとっては毎度の面白くない光景が展開されるのである。
「俺はラーメンもお好み焼きも汁粉も食いたかねえよ…。」
 そう言いながらちらっとあかねを顧みる。
「そんなこと言わないね。新しいメニューの試食ね。決して悪いことじゃないね…。行くねっ!乱馬っ!!」
 シャンプーが猫なで声で右腕に纏わりつく。
「思いっきり迷惑そうな顔してるやんけ…。乱ちゃんは、放課後はうちの店で食べていくって決めてるんや。なあ…。」
 左からは右京が。
「まあ、ずうずうしいっ!乱馬様は私とご一緒するのですわよ…。」
 小太刀などは正面から抱きつかんと睨みつける。

「まあまあ…。もてもてで羨ましいわね…。乱馬。先帰るわよ!」
 あかねはぷいっと乱馬の傍を通り抜ける。
 心中穏やかではない。
(たく…。嫌ならはっきり意思表示すればいいじゃないっ!乱馬のバカッ!)
 そう心で繰り返す。
「おいっ!ちょっと待てっ!」
 乱馬はあかねに向かって何か言おうとしたが、三人娘に遮られた形になった。
「どうぞごゆっくりっ!!」
 あかねの鼻息も荒い。そう言い切るとつんと先に立って歩き出した。
 今日はシャンプーも右京も小太刀もしつこく、いつもより執拗に乱馬に纏わり就いていた。乱馬は彼女達に囲まれながら、静かに悲鳴をあげていたのだが、相変らずのこの優柔不断男は、それをガンと薙ぎ払うまで強くはなれないようであった。
 
 あかねにしては業を煮やしたくなるくらいイラ立つ光景だった。
 いつものこととはいえ、ムシャクシャする。
 そんな苛立った空気を引き摺りながら己だけ帰ろうと校門の角を出ると、後ろから声を掛けられた。
「ねえ、あかねっ!暇?」
 振り返ると、あずみと桃子だった。
「ええ…。別に取り立てて用事はないけど…。」
 あかねはまだ三人と格闘を続ける後方の乱馬を見やりながら答えた。
「じゃあさあ、この前のお礼させて。」
 二人はにこにこしながらあかねに話し出した。
「お礼?」
「そうよ…。この前の練習試合のお礼よ。」
 あずみがにこっと笑った。
 そう、この前の土曜日の放課後、あかねは頼まれてバレー部のピンチヒッターとして、練習試合に借り出された。毎年、恒例化しているバレー部の交換試合であった。運動神経抜群な彼女は特に決めた部活はしていなかったものの、時たま、応援として借り出されることがあったのである。たまたまその日はバレー部のエースアタッカーの桃子が足に怪我を負っていて、顧問じきじきに頼まれたのである。一年に一度の交歓試合に無様な試合は出来ないとの憂慮からであった。
「ああ…。あれね。で、桃子、足の具合はどうなのよ?」
 あかねはじっと桃子を見詰めた。
「うん…。おかげさまで来週から練習に復帰していいって。本当に助かったわ。あかね。」
 エースアタッカーらしく上背のある桃子が笑った。
「今日は?練習ないの?」
 あかねが問うと、
「うん、顧問の上原先生が出張でしょ?副顧問のひな子先生も今日は所用があるらしくって、今日は部活ができないのよ。」
 昨今のクラブは、顧問がきちんと立ち会わないとできないことになっていた。いろいろ不都合が生じるのを避ける措置だろう。
「ふうん…。そうなんだ。」
「そう…。それでね…。この前試合した西光学園のバレー部の子たちに頼まれて、今日、一緒に寄らないかって、さっき携帯で誘われたのよ。」
 桃子があかねに言った。
「へえ…。他校の生徒とも親しいんだ、桃子たち。」
 あかねは感心しながら声をかけた。
「まあね…。でさ、是非あかねもって言われたもんだから。どお?乱馬くんも忙しいみたいだし…。」
「関係ないわよ…。乱馬なんか…。」
 あかねはわざと視線を反らせた。まだ三人と格闘していた。
「じゃ、一緒に来て。みんな喜ぶわ。」
 ということで話がまとまったのである。


 ところがだ、これがまた厄介事だった。
 一緒に連れられて行ってみると、あかねの予想とは大きくかけ離れていた。
 通学途中の高校生の身分なので、せいぜい、出入りは「ファーストフード」のハンバーガーショップといった場所ではあった。が、しかし、よく見ると、風林館高校側は女の子たち、で、相手方はというと見事に全員男子なのであった。
「ちょっと…。桃子。これって…。」
 あかねは桃子とあずみに連れられるまま問い掛けた。そう、西光学園の生徒には違いないが、なんだか交流会というには合コンといった方がいいような雰囲気なのであった。
「あかねーっ!待ってたわよ。」
 先に来ていたバレー部のレギュラーたちがにこやかに迎えてくれた。
「ごめん、あかね。どうしてもこの前活躍していたショートカットの女の子連れてきて欲しいってみんなにせがまれちゃって…。」
 最初から確信犯だったに違いない。やられたと思った。
「たく…。こんなの苦手なんだけどな…。」
 あかねは桃子とあずみを振り返りながら溜息を吐いた。
「いいじゃないの。たまには、許婚のことも忘れて。だってほら、さっきの乱馬君さあ、あかねのことなんか眼中になかったでしょ?」
「そうよ…。たまにはあかねの方からもヤキモチやかせるのもいいんじゃないの?それに、何も彼らとお付き合いしなさいなんて言ってないんだから。適当に楽しい時間を過ごせればそれでいいじゃん。」
「そうそう、硬いことい言いっこなしよ。」
 と諭しにかかられる。あかねも友人たちのごり押しには叶わなかった。
 乱馬のことを引き合いに出されると、それもそうねと思ってしまう。さっきの乱馬の体たらくにまだ腹を立てている自分がそこに居たのだった。

「ま、いいか…。」

 あかねは観念したように、ファーストフードの店内に入って、高校生達がたむろする中へと進んで硬いシートへ腰を下ろした。

 場の雰囲気は、なんとなく合コン。共に相手を物色するような視線のやり取りがあった。こんな場に引っ張り出されるのは不本意ではあったが、人当たりの良い、お人好しのあかねは、適当に彼らと話を合わせていた。勿論、あかねには男漁りの意識もなければ、別段、その場がどうだろうと己は関せずに居るつもりだった。
 わいわいやっているうちはそれでよかったのだが…。
 トイレへ立つと言っては一人減り、二人減り。そう、適当にカップルが出来上がると、表に消えていったようなのである。
 あかねはそんなやり取りのことが全く年頭にさえなかったので、いい時間までそこへちょこんと座っていた。
 気がつくと、最初に誘ってきた桃子とあずみの他数名の風林館女子とと数人の相手校の男子がちらほらと残っているだけだった。
「ぼちぼちお開きにしましょうか…。」
 部長のあずみが言った。
(やっと解放される。)
 あかねは内心ほっとした。
 正直辟易していた。
 相手方の男の子たちといえば、女の子を物色しているような視線を投げてくる。会話だってわざとらしい。あかねの目の前に座った奴が、これまたイヤミなほどキザったらしく、根掘り葉掘りいろんなことを聞いてくるのだ。誕生日はとか、どんな食べ物が好きかだとか、運動が出来る男子は好きかとか…。
 適当に会話を合わせて、あかねは場を凌いではいたが、さっさと家に帰りたいとずっと時計ばかりを見詰めていた。
 隣にいたあずみは、こそっと耳打ちしてきた。
「あたしさあ…。彼にちょっと誘われたから悪いけどここで抜けるわ。」
 見ればにこにこと一人の男子があずみを見ていた。
「あ、そう・・。あたしはかまわないよ。」
 あかねはぽそっと吐き出した。別に彼女に意見する義理立てもないし、本人がそれでよければ口出しする気もなかった。
「実はあたしもなんだ…。」
 桃子が顔を赤らめた。
 見渡すと、見事なくらい、意気投合したにわカップルが並んでいた。
(ひょっとして、これって、本当は最初っから「合コン」のつもりだったのかしら?)
 鈍いあかねでも、やっと場の雰囲気を飲み込んだ。でも、やっと解放されてほっとした。
 と、
「ねえ…。君はどうするの?」
 前に座っていたキザ男があかねににこっと笑いかけてきた。聞いたような気もしたが、覚える気すらなかったので名前などは知らない。
「家に帰ります…。」
 あかねはきっぱりと答えたつもりだった。だが心なしか小声だった。
「じゃあ、送ってゆくよ…。」
 と返事がきた。
「別にいいです…。」
 あかねは丁重にお断り申し上げたが、相手はしつこかった。この手の男はかなり手強い。
「いいよ…。遠慮しなくても。もうこんなに辺りは暗くなってるし…。それに…。」
 キザ男は前髪を書き上げながら続けた。
「君のこと、気に入っちゃった。だからさ…。付き合ってくれない?」
「はあ?」
 あかねはぽかんと彼を見返した。
「いいだろ?絶対、後悔なんかさせないからさ…。」
「あの…あたしには…。」
 あかねはやんわりと断ろうと言葉を継ごうとするのだが、この男、何を勘違いしているのか、あかねも己を気に入っていると思い込んでしまっていたらしい。
「さっきの店でもさ…僕たち気があってたじゃん。」
 ときた。彼はすっかり舞い上がっている様子だった。
(ちょっと・・冗談じゃないわっ!)
 あかねは苦笑した。断ろうとするのだが、舞い上がった男は一人で勢い良く話し続ける。
「あの…。あたし…いいですから。」
 あかねは断ったつもりでも「要りませんの「いい」と「了解」の「いい」と聞きたがえてしまったらしい。
「じゃあ、決まり。ほら・・送ってゆくよ。あかねさん。」
 とにこり。
 ほとほとあかねは困り果てた。一人でも友人がその場に残っていたら、何か口添えしてくれたのであろうが、その場にはあかねとキザ男しか存在していなかった。
 立ち向かってくる男なら薙ぎ倒すこともできようが、こういった勘違い男ほど扱い辛いものはなかった。
「一人で帰れますから…。」
 あかねがそう切り出そうとしても、彼はにこにこと取り付く島も与えてくれない。それどころか
「鞄、持ってあげようか?」
 などと方向違いの言葉が飛び始める。
「い、いいです。自分で持ちます。」
 あかねは慌てて断った。が、この男、かなりしつこかった。
「良いよ・・甘えてくれて。男は甘えられると嬉しいものなのさ。」
 などと鳥肌が立ちそうなことを口走る。
 あかねは困惑を極めていた。どうにもこうにもならない…。どうしようかと頭を巡らせ始めていたときに、背後で声がしたのである。

「あかねっ!!」

 振り向くと彼が其処に立っていた。
「乱馬…。」
 あかねはぼんやりと彼を見返した。
 渡りに船と言いたかったが、気まずい思いが同時に心を駆け抜けていった。何故体よく彼がここに居るのか。どうして声を掛けてきたのか。理由を聞くのが怖い気がした。第一、こんなやさ男と一緒に居ること自体、問題なのだ。
「誰?きみのお兄さん?」
 キザ男がそう乱馬に向かって聞いた。
 だが、乱馬はそんな男のことなど眼中にないらしく、無視してきつく言い放つ。
「帰るぞっ!」
 と。
 あかねの心臓がドキンと大きく唸った。一言だったが乱馬の口調は厳しい。
「藪から棒に…。何ですか?君は…。」
 無視されたことに腹を立てたのか、キザ男が乱馬を咎めた。
「俺はこいつの許婚だ。連れて帰るのに何か文句あるかっ?」
 乱馬はじっと見据えた目で睨みつけた。鷹のような鋭い目。思わず視線を外したくなる激しい光。キザ男のかなう相手ではない。
「早く来いっ!」
 と乱暴に言葉を投げると、乱馬は、ポケットに手を突っ込んだまま、肩を怒らせて先に立って歩き出した。
「う、うん。ごめんなさい。あたし、これで失礼しますっ!」
 あかねはそれだけを吐き出してぺこりと頭を下げると、慌てて乱馬の後を追った。
 キザ男とはそれっきり。


 先に立って歩き出した乱馬は一言も発せずに黙々と歩いていた。
 あかねは彼の一歩後ろを一所懸命にくっついて歩いた。
 彼の背中は「馬鹿っ!」と言葉を投げている。そんな気がした。
 ゆらゆら揺れるおさげまで自分を責めているようなそんな気がした。
 何もなかったし、大事にも至らなかった。浮ついた心はなかったが、付け入られたことは確かだ。あそこで乱馬が乱入しなければ或いはピンチだったのかもしれない。
 ぼんやりとそんなことを考えた。
 あかねは乱馬の後を黙って歩いた。
(怒ってるよね…。乱馬。)
 あかねは彼の背中にそんな疑問を投げかけていた。激しくはないが静かな怒りが伝わってくる。
『何やってるんだっ!俺に散々優柔不断だって言うクセにおめえだって、優柔不断じゃねえかっ!!』
 そんな非難めいた言葉が彼の口から吐き出されれば少しは気が休まるというのに。乱馬は一言も発しない。発してくれないのだ。
 あかねも少し後ろめたい気持ちがあったので、何も言い訳もできずにずっと黙りこくっていた。
 無言の重い時間が二人の上を通り過ぎてゆく。
 どうすればこの重苦しい空間が打破できるのか、あかねにはわからなかった。
 ただ、黙って後ろを歩くしか術がなかった。
 ずっと考え込んで歩いていたものだから、少しずつあかねの足が彼から遅れ始めた。乱馬はあかねのことなどお構いなしに己の歩幅でどんどんと先へ行く。と、ぼんやりと歩き、二人の距離に気がついてはついあかねは小走りになる。その繰り返しだ。
 ただ歩くだけのあかねに北風が身にしみるような寒さを連れてくる。
 だんだん情けなくなってきた。溜まらなく不安になった。乱馬より遥かに優柔不断な浅はかな己を呪った。

 繁華街が途切れて、少し暗い場所であかねは耐え切れず、立ち止まって空を見上げた。
 ちらりと舞い落ちる白い塊が目に入った。
 雪だ。
 寒い筈だとあかねは思った。身も心も冷たい雪に凍えてゆく。
 ふと雪空を見上げて吐いた白い息。果てなく落ちる白い粉。
 と、涙がほろっと頬を伝った。慌ててそれを手で拭うと、先に角を曲がって見えなくなった乱馬を追った。
(一人にしないで…!)
 心が悲鳴を上げていた。
 彼の姿が角を曲がって見えなくなったとき、乱馬が遠くへ行ってしまう錯覚を覚えた。
 
 大急ぎで角を曲がると少し先で乱馬が立ち止まっていた。
 あかねの方へ背を向けて彼はそこへ佇んでいた。
 ポッケに手を突っ込んだ無愛想な背中が街灯の下であかねを待っていた。
 良かったという安堵感が心に広がった。
 あかねはその広い背中が懐かしく思えた。一瞬見失っただけなのに、もう永遠に会えないのかと思った刹那。
 乱馬の姿を認めてほっとした。
「乱馬…。」
 そう彼を呼ぼうと思ったとき、ふと彼は無言で左手を後ろへ差し出してきた。決してこちらを見ようとはしないで、ずっと背中を向けたままのぶっきらぼうな乱馬であった。
 ただ差し出された手は一度大きく揺れた。「早く来いっ!」と云わんばかりに。
 あかねが恐る恐る手を触れると、一瞬彼の身体が硬直したような気がした。がすぐさま乱馬はその手を柔らかく握り返してきた。

 暖かくて、大きくて、優しくて…。

 やはり、言葉はなかったが、それ以上に彼から伝わる想いがそこにはあった。確かに感じた。
『おまえは俺の許婚だ。忘れるな。俺はいつもおまえの傍に在る。黙って俺に付いて来ればいい…。』
 繋がる手から彼の心の声が聞こえてくるような気がした。
 どんな微笑よりも、どんな言葉よりも暖かい手の温もり。あかねも夢中で握り返した。何より乱馬の想いが嬉しかった。
 目に涙が溢れてきた。留まることを知らずに流れはじめる。
 固く繋がれた掌から広がる安堵。不器用な愛の形。
『この手は離さない…。何処までもついて行く。だから…。』
 あかねの目から落ちる輝く宝石を感じたのだろうか。
 掴んでいたあかねの手を、大事そうに彼は上着のポケットへと滑り込ませる。相変らず、ぶっきらぼうに前を向いて決してあかねを見ようとはせず、ただ、無言で進む。
 でも、暖かいポケットの中の手はしっかりとその絆を確かめるように繋がっていた。

 雪が本格的に降り始めた。音もなく地面へと舞い落ちる粉雪。やがて、二人は雪に包まれた。
 乱馬は黙って歩きながら繋がったあかねを家路に導く。続く道は積もり始めた雪に照らされてほんのりと明るい。うっすらと雪化粧されてゆく見慣れた道。
 雪明りを真っ直ぐに進みながら二人は想いを重ね合わせた。
 二人が通り過ぎた道には雪が静かに降り積もる。白い無垢な想いを積み上げるように。
 互いに少し優柔不断だった日の落ちた帰り道。
 やがて二人の歩いた跡を、白く塗りこめて降りてゆく深い夜の帳。




文章
一之瀬けいこ
イラスト
半官半民さま
2002年1月

フルサイズ


雪化粧の中を佇む乱馬とあかね。
 ちょっともめた後、不安になったあかね。そして彼女を待つ乱馬のふれあいを描きたかったのです。
 ポケットの中で繋がれた手のぬくもり…。昔の自分を思い出しながら…。


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